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出来損ないのお伽噺/Novel by カシワメカイ

出来損ないのお伽噺

5,755 character(s)11 mins

■唾つけた未来の花嫁(ただし男)を迎えに来る話。続かない続きました(novel/8879163)
■あんな迎えをよこしたのは「子供の憧れって言ったらこれだろ?」という兄貴の偏見です。書ききれなかったのでここに。
■表紙お借りしました(illust/51141453

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 お前のための馬車だ、と誘われた先にあったのはかぼちゃの馬車でした、なんてことは夢の中でもなかなか経験できないのではなかろうか。
 まあ、どこぞにある夢を現実にしたような国ならばなくはないかもしれない。小さなプリンセスが経験している可能性はゼロではないだろう。
 だがしかし、プリンセスでもないエミヤはかぼちゃの馬車に乗って空を飛んだ経験があるのだった。勿論幼少の頃の夢の話である。現実にかぼちゃの馬車はない。
 その夢の内容はこうだ。
 まず、何者かの声が俺の世界へ招待しよう、と囁いてくる。この時点ですでに現実ではない。ファンタジーだ。だがこれは夢なので話は容赦なく続く。
 どうやって? と幼いエミヤが問いかけると、まるでベールを剥がすかのように目の前にかぼちゃの馬車が現れる。この馬車はまあ、シンデレラあたりの挿絵に出てきそうなソレを思い浮かべていただけると概ね正しい。ただ馬車を引くのは馬ではなく白い犬だった。これでは馬車とはいえないのでは、と思うところだが、幼いエミヤは特に気にすることなくいそいそとかぼちゃに乗り込むのである。
 エミヤがきちんと座ると馬車――面倒なのでとりあえず馬車ということにしておく――はふんわりと地面から離れて滑るように空を進む。目的地は言わずもがな、城である。石垣に囲まれた堅牢な城ではなく、ファンタジーチックなそれだ。
 馬車は城の前にこれまたふんわりと着地する。そしてひとりでに開いたドアの先には美しい王子さまが立っているのだ。
 この美しさというのが男のエミヤでさえ見惚れてしまうほどで、それはもうとんでもない破壊力を持っている。それが嬉しそうに破顔すると威力は恐ろしく跳ね上がる。取られた手を振り払うなんぞできるはずもない。
 カチコチになった幼い子供の手を引いて王子さまが向かう先は城の中、大広間だ。そこにはいろいろな動物や、人間や、頭に耳が生えていたり、手足がふわふわだったり、尻尾が生えていたりする人など、いっぱい集まって笑っている。
 そこでエミヤは話したり、食べたり、とにかく楽しい時を過ごすのだ。ずっと一緒に暮らそう、と綺麗な王子さまに言われてうん、と笑って頷くくらいには。だが、やはり幼い子供。家が恋しくてすんすん泣いてしまうのである。困ってしまうのは王子さまだ。うん、と頷いてくれた子供が帰りたいと静かに泣くのだから。
 宥めても子供は帰りたいと子供らしくない押し殺した泣き方で訴える。王子さまは迷い、しかしやがて決心する。
 泣き続ける子供の前に跪き、優しく涙を拭ってからトクトクと走る小さな胸に手を当てて目を閉じる。そしてまっすぐとエミヤを見つめてこう言うのだ。
「幼いお前が成長したそのとき、俺はお前を嫁に貰おう。必ず迎えに行く。いいだろうか、俺の花嫁」


 大人になったエミヤに言わせれば、いくら夢見がちな頃だとはいえよくそんな夢を見ることができたなと思うところだ。しかも花嫁とはこれはいかに。花嫁になりたい願望があったのだろうか。今となってはわからない。
 だが残念ながら思っていても声を大にして言うことはできないのである。何しろ未だにこの夢を定期的に見てしまうので。
 かぼちゃの馬車というか屋根・壁付き犬ぞりもどきに乗って立派な城に連れられて、美しい王子さまとやらにプロポーズされるところで目が覚める。それは確定事項らしく、いくらエミヤが望んでも決して変わることのない物語である。
 今朝もその夢を見てしまったことを思い出し、エミヤは地面にめり込みそうなため息をひとつ。精肉店の店主からコロッケをおまけされていなかったら立ち止まってめり込んでいたかもしれない。精肉店のコロッケは偉大だ。そして美味しい。
 本日の夕食のおかずが思いがけず一品増えたことを強引に思い出して夢を頭から消し去ると、中身がみっしりと詰まったエコバッグを持ち直した。
 エミヤの自宅は商店街からさほど離れていない。少し歩いた先のアパートだ。さくさく歩いてアパートに戻ってくると二階に続く階段を上がり、廊下に出たところで踏み出しかけた足をピタリと止めた。
 エミヤの部屋は二階の一番奥、角部屋である。その扉の前に大きな青い犬がきちんとおすわりしていた。これがなかなか大きくてゴールデンレトリーバーよりも体格が良い。というかずっとでかい。ちなみにこのアパートはペット可なので犬を連れ込むこと自体は問題ない。が、首輪もリードもない大きな犬が共用の廊下にいることは問題しかない。
 どこの部屋の子だろうか。二階の住人は小型犬か、あるいは猫を飼っているので下の住人なのかもしれない。しかしこのアパートで一番大きい犬はエミヤの真下に住む紳士のボーダーコリーだったはずだ。つまりこのアパートには超大型犬どころか大型犬すらいない、はずなのだ。
 とりあえず大家さんに相談してみるか、と結論を出す。困ったことは相談するに限る。動物好きの優しい大家さんならばきっとどうにかしてくれる。そうとなれば一階に戻らなければ。
早速踵を返そうとしたエミヤだったが、ふいに件の犬がおすわりしたままこちらを向いたのでその場に釘付けられてしまった。
 赤い、宝石のような目がまっすぐとエミヤをとらえた。途端にすっくと立ち上がってすっ飛んでくる。あんなのに飛び掛かられたらひとたまりもないと身を強張らせたが、予想に反して犬はエミヤの前で失速して行儀よくおすわりした。
 犬がエミヤを見上げてくる。きらきらした目と背後でばっさばっさ床を掃く尻尾は褒めろと全力で伝えてくるようだ。その圧に耐えられずにおそるおそる頭に手を乗せてやると尻尾は更に激しく床を綺麗にした。
 何故なのかはわからないがとても懐かれている。猫には懐かれやすいが犬にはイマイチなのでぐりぐりと手に頭を擦り付けてくる仕草は速やかに心を掻っ攫っていく。
 もともとエミヤは目処が立ったら犬か猫か、どちらか飼おうと決めていて、それがこのペット可アパートに住んでいる理由だ。やたら懐くこの犬の存在に未来の予定がずるずると強引に手繰り寄せられる。
 落ち着け、落ち着けと言い聞かせ、とりあえず迷い犬の届け出を出すことを決める。こんな立派な犬が野良犬であるはずもないので大家さんに確認した後、然るべき場所に通報すべきだ。しかし届け出を出してから飼い主が名乗り上げるまでの間、面倒を見ることは吝かではない。というか少しだけこの犬と生活を送りたい。
 兎にも角にもすべては部屋で買ってきたものを整理してからだ。肉が悪くなる。
 エミヤが歩きだすと犬は後ろを静かについてきた。鍵を探すために立ち止まれば犬もその場でおすわりする。躾が行き届いたその様子はどこかで飼われていたと確信するにじゅうぶんだった。
「君はどんな家で飼われていた子なんだろうな」
 思わずこぼして頭をなでてやると犬はきょとんと首を傾げるばかりである。
 犬飼おう。
 こころに強く決めてエミヤは犬を自宅に招き入れた。


 結論から言うと迷い犬の届け出をすることはできなかった。
 エミヤが届け出をするために外出しようとすると、玄関に先回りした犬が通せんぼするのだ。犬の通せんぼなど大したことないと思うかもしれないが、この犬のサイズは超大型犬である。おまけにお世辞にも広いとは言えない玄関に居座られてしまうと外に出ることは不可能だった。
 そんなわけで散々玄関で攻防を繰り返した結果、先に音を上げたのはエミヤだ。
「わかった、私の負けだ。ほら、足を拭くからここへ」
 そして足の裏を綺麗にしてやると犬は上機嫌で部屋に戻っていき、カーペットに寝そべったのだった。
 ちなみにドッグフードを買いに行くための外出も同様に許してくれなかったので、犬の食事は茹でた鶏胸とくたくたにしたご飯、茹でたかぼちゃを与えておいた。栄養的にあまり良くなさそうなのだが数回なら大丈夫だろうという措置だ。玉ねぎなどの与えてはいけないものは入れていないので体調を崩したりはしないはずだ。多分。
 そして毛が長いので念のため汚れを落とすため風呂に入れ、ドライヤーで乾かし、床に毛布を敷いてやってさっさと消灯したわけなのだが。

 ぎし、とベッドが微かに軋み、揺れる。その気配がエミヤの意識を浮上させた。しかしまだ覚醒には遠く、微睡みに浸ったままだ。
 再び軋み、毛布がエミヤの身体を軽く押さえつける。まるで両端に重しがのせられたような。
 重し、と微睡みの中で単語がくるくる回る。それは唐突に四足を連想させた。四足といえば犬である。あの大きな犬がエミヤのベッドに上がってきたのだろうか。しかし躾が行き届いていたあの犬らしくない。が、あの犬以外ありえないわけで。
 ここまで考える頃にはエミヤの意識は水面から顔を出していた。とりあえずベッドから下ろして駄目だと教えなければ。
 まだ少し重い瞼を開ける。
 その瞬間、エミヤの脳はまだ夢にいるんだなと思い込んだ。
 四足の想像は間違いではなかった。だがエミヤを囲うようにそこにいたのは犬ではない。
 青髪赤目の男だった。
 一拍置いて、脳が現実だと判断を下す。
 判断を受けたエミヤの行動は間違いではないと声高に主張したい。何しろ男は全裸だったので。
 その美しい顔に自分でも驚く反応速度で拳を叩き込んでしまったエミヤに非はないのである。



「で、貴様はよその世界の王家の次男坊で、私に会いにやってきたと」
 夜中。寝室には珍妙な光景があった。
 腕を組んでベッドに腰掛ける家主と腰にタオルを巻いて床に正座する推定王家の次男坊。そして王家の次男坊とやらの頭にはあの犬と全く同じ耳が鎮座していた。引っ張っても取れない、正真正銘生えている耳である。このような状態になった場合、飾りなのは人間の耳の方らしい。痛覚はあるものの、聴覚はないとのことだ。
「会いに来たっつーか、約束を果たしに来た。人間の時間感覚からすれば古い約束ってことになるのかね」
 エミヤから見れば他人の前に出るには心細い装備なのだが、この男は全く気にならないらしくエミヤの言葉にけろりと返事をする。まあよく考えてみれば犬なんて年中全裸のようなものだ。おかしくはないのかもしれない。
「約束? そもそも貴様に会った記憶すらないのだがね」
 そんなことよりもこの男の言った内容だ。エミヤはざっと記憶の引き出しを開け閉めしたが、この男の記憶など探し当てることはできなかった。風呂上がりに正座させられているような状態であるが、これだけ美人な男、一度会ったら忘れないだろう。ましてや約束したならば、すっぽかすようなことはしない自信もある。
 だが男はエミヤの答えがお気に召さなかったらしい。眉間にしわを寄せて睨んでくる。途端に威圧感が襲い掛かってくるが、エミヤはその鉄面皮の下にわきあがる感情を綺麗に隠した。恐れているなど冗談でも悟られたくない。
「ンだよ忘れちまったのか? まあお前がまだこんなチビだった頃だからしゃーねえのかもしれないけどよ。にしたって嫁にもらうって約束を綺麗さっぱり忘れるたぁ薄情な奴だ」
 しかしそんな感情も男の告げる言葉にぶっ飛んだ。
 ヨメ。ヨメとは嫁のことか。こんなどこから見ても男だという人間をつかまえて嫁とは。
「貴様、目かあるいは脳が腐り落ちているのではないか?」
「生憎俺のとこじゃあ男の嫁なんてのは珍しくもなんともないんでね。まあ初めて見たお前のことを女だと勘違いしたことは認めるがな。人の子の子供なんて裸に剥かなきゃ男女の差なんてわかんねーだろ?」
 エミヤのきつい言葉と眼差しは男にとっては癪なことに屁でもないらしい。エミヤには到底受け入れられない事実をのたまってカラカラ笑っている。
 しかし子供とこの男は言った。つまり約束をしたというのは子供の頃の話であるらしい。子供との約束を果たすために律儀に訪ねて来るとは呆れるばかりだ。
 だがそれよりも、それだけ言われてなおまだ記憶が蘇らないことの方が気がかりだった。嫁だなんだの話ならばおぼろげに覚えていてもおかしくはないのだけれども。なにしろ性別を間違えられているので。
「やはりそのような約束はした覚えはない。人違いではないのか?」
 それならそう考えるのが自然だ。褐色白髪の子供などごろごろいるとは思えないが世界は広い。きっとどこかでは珍しくないのかもしれない。
「いや、お前で間違いない。その心臓に刻んだ印、間違いなく俺がつけたものだ」
 しかし男はそれをきっぱりと否定した。印、と白い指がまっすぐとエミヤの胸を指差す。狙い定めるのは鼓動を刻む心臓。過たずにそこを指す。
 瞬間、エミヤの胸に熱が灯った。ドクン、と大きく跳ね、熱は更に上がる。思わずそこを強く押さえるが、その感覚は消えてくれない。
 目を見開いて固まるエミヤに男は困惑の表情を浮かべた。どうやらエミヤがしらばっくれていると思っていたらしい。
「本当に覚えていないのか? かぼちゃの馬車で迎えをやっただろう」
 かぼちゃの馬車。その単語を耳にした瞬間、エミヤの頭に昨夜見た夢が蘇った。
 犬が引くかぼちゃの車。
 星が綺麗な夜空。
 立派な城。
 迎えてくれた王子さま。

 そして思い出す。
 その王子さまは青い髪と白い肌、そして赤い目を持っていた。
 この男のように。

「王子、さま……?」
 震えた声が静寂に落ちる。その声を拾って、男は、王子さまはお日さまのように綺麗に笑った。
 そう、幼いエミヤが見惚れたあの笑みを浮かべ、彼は手を差し伸べたのだった。
 九割裸のままで。
「俺の花嫁、迎えに来たぜ」




 後のエミヤは言い訳する。
 いくら全裸でも手を取ってしまうほど美しいのが悪い、と。


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