いとしいとしと言う心
■槍の恋は勘違い故のものだと思っている弓の話。
■都々逸の「思い出すよじゃ惚れよがうすい~」というやつが凄く好きなので、それで何か書けないかと唸った結果こうなりました。タイトルは同じく好きな都々逸から。要は「恋」です。
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子供が年長者に対して抱く恋というものは、大抵が勘違いと思い込みの産物である。
勿論、勘違いなどではなく、本当に恋であることもあるだろう。けれどそんなのは稀なケースであって、ほとんどの場合は勘違いから来た恋であるに違いない。
ただの好意を恋と勘違いして、憧れによるときめきを恋慕によるときめきと思い込んで。
年上の者に向ける親しみというものは、同学年の友人達に向けるそれとは少々異なるものであることが多い。その違いを、友愛と恋慕の違いだと勘違いした結果が、子供が年長者に抱く恋心なのである。
少なくとも、アーチャーはそう考えている。
『アーチャーのことが好きだ。だから、オレと、付き合ってください』
だから八年前、小学校を卒業したばかりの十歳年下の少年がそうやって告白してきた時も、勘違い故のものだとアーチャーはきちんと了解していた。
隣の家に住む十歳年下の少年──ランサーとは彼が生まれた時からの付き合いである。一緒に遊びに出かけたり、忙しいランサーの両親の代わりに夕食を用意したりと、アーチャーはランサーとただのお隣さんでは収まらない関係を築いていた。
本当の家族ではないけれど、まるで家族のような近しい関係。そんな関係から生まれた好意を、幼い少年は恋だと勘違いしてしまったのだろう。
『君の気持ちは嬉しいが、私は君をそういう目で見たことはないんだ。悪いが君の想いには応えられないよ』
幼いから仕方ないとはいえ、何もこんなむくつけき男相手に恋をしているなどと勘違いしなくても良いものを。
そんなことを考えながらアーチャーが紡いだのは、よくある断り文句であった。
その想いは勘違いなのだと真実を告げなかったのは、たとえ勘違いから生まれた想いであったとしても、本人からすれば本気の想いだとわかっていたからである。本当の恋だと思っているものを勘違いだなどと否定されたら、そんなことはないと意地になって、ますますその想いに執着してしまうに違いない。
だから想いを否定せず、きちんと断りの言葉を告げる方が今後のランサーのためになるだろう。
そう考えた結果、アーチャーは勘違いを勘違いだと正さないまま、ランサーを振ったのである。
それが八年前の出来事だ。
八年も経てばそんな幼い頃の告白劇など、本人にとっては思い出したくもない黒歴史に、周りの大人達からすれば微笑ましい思い出の一つになっているのが普通だろう。
しかしアーチャーからすれば残念なことに、事はそれでは終わらなかったのである。
『なら、アーチャーを惚れさせてみせるから、待っててくれ!』
アーチャーの言葉に瞬時唇を噛み締めた少年は、まだ丸みの残る頬を赤く染め、そしてそれ以上に赤い炎のような瞳を燃え上がらせて、そう宣言したのである。
ランサーはアーチャーに告白をして、振られたのだ。だからアーチャーに対する恋はそれでおしまい。しばらくは引き摺るだろうし落ち込みもするだろうが、それでも時が経てば心の整理もついて落ち着くだろうし、新しい恋──今度こそ本当の恋にだって出会うだろう。
そんなアーチャーの考えを、ランサーは勢いよく蹴飛ばしていったのである。
告白をして振られた時に、ならばこれから惚れさせてみせる、などと奮起する者がどれ程いるものか。齢十二にしてそんな世の乙女達がときめきに打ち震えそうな台詞を吐いた少年は、その宣言通り、事あるごとにアーチャーに対して好きだと伝えてくるようになったのだ。
そしてそれは、八年経った今でも続いていた。
共に過ごしている時にふと、オレ、アーチャーのそういうとこが好きなんだ、だのと宣い、特に用事もないのに会いに来ることを呆れてみせれば、アーチャーのことが好きなんだから会いに来るのは当然だろ、と熱のこもった甘い声で笑う。親愛の好きではなく恋慕の好きなのだと改めて突き付けるように、なあもうオレに惚れてくれた?などと時に懇願するように、時に強引に迫るように口説いてくることもある。
大学生になってからはアーチャーの経営するカフェでアルバイトとして働くようになったが、月初めの勤務の時には必ず、アーチャーが好きだ。付き合ってくれ、と改まって告白までしてくる始末であった。
まろい輪郭を残していた天使のような少年は、高校生になる頃には男らしいうえに美しい精悍な青年へと成長していた。
そんな青年が、子供の頃からずっと、変わらぬ熱量で好きだと伝えてくるのである。
勘弁してほしい。
それがアーチャーの正直な気持ちであった。
ランサーの恋は勘違いからきた恋だ。けして本当の恋ではない。そう了解していてさえ、うっかり頷きそうになる程に、ランサーの声も視線も熱いのである。そしてそれが八年も続けられているのだ。
何故未だに勘違いだと気付かないんだ。
思わずそう嘆くのも両の手では足りない程には繰り返していた。そしてその度に、何度も好きだと口に出しているせいで自己暗示のようになってしまっているのだろう、とそんな結論に至ってアーチャーは頭を抱えてしまっていた。
今からでも、それは勘違いだと伝えるべきなのではないか。
そうも思うが、今更そんなことをしたら、面倒になって誤魔化そうとしているのだと受け止められかねないだろう。一度真正面から受け止めて断った以上、後からそんなことを言うのは酷く不誠実に感じるだろうし、それに憤って、尚のことこの想いは本物なのだ、と躍起になる可能性も高いに違いない。
事はもう、ランサー自身が勘違いに気付くか、第三者がその想いは勘違いだと指摘し、ランサーがそれに納得するかしなければ治まらない状態になっているのである。
だからアーチャーは勘弁してくれと内心頭を抱えながら、早く勘違いに気付いてくれと願うことしかできないでいた。
そんな勘違いが、ようやく終わるらしい。
つい先程聞いてしまった会話を頭の中で繰り返して、アーチャーはそっと息を吐き出した。
『じゃあ、ランサーは好きな人のことをどういう時に思い出すんだよ』
用事の帰りに寄った隣駅のコーヒーチェーン店。席を探している最中に通りかかった喫煙席と禁煙席を隔てるパーティション。その向こうから聞こえてきた馴染みのある名前に、アーチャーは思わず立ち止まってしまったのだ。
パーティションの向こうを見遣れば、すりガラス風のプラスティックのせいでぼやけているものの、特徴的な青い髪の頭が見えた。ランサーは青い髪に赤い瞳という稀有な色合いをしている。おかげでその存在が大変わかりやすいのだが、それは今回のようなぼやけた状態でも役立つらしい。そんな余所事を思いつつ、つい息を殺したところで、聞こえてきた声にアーチャーは固まってしまった。
『アーチャーを思い出す瞬間?そんなんねえよ』
一拍置いて、えぇ!?何それ!というランサーの友人達のものだろう声が響いた。
その声にようやく息を取り戻して、アーチャーは逃げるように店から出てきたところであった。
アーチャーを思い出す瞬間はない。
ランサーの言葉をもう一度頭の中で繰り返して、アーチャーははぁと重い息を吐いた。
店内で楽しむ予定だった新作ドリンクは一口も口を付けないまま、ずっと右手に握られている。ホットドリンクだったから良いものの、これがアイスドリンクであったら、その内氷が溶けだして味が薄くなってしまっていただろう。
何となく歩きたい気分になって、アーチャーは駅ではなく、家に直接向かうための路地へと足を進めることにした。たった一駅分の距離だ。ちょっとした散歩にちょうど良いだろう。
そうやって足を踏み出したところで、先程聞いた言葉をもう一度噛み締める。
ランサーには、アーチャーを思い出す瞬間など、ないのだ。
続けて、ランサーの言葉を聞いた周りの反応を思い出し、アーチャーはふ、と小さく笑ってしまった。
恋しい相手というものは、何かにつけて思い出してしまうものだろう。それを、ランサーは思い出さないと断言したのである。きっと今頃は周りの友人達に、それは恋ではないのではないか、勘違い故の想いなのではないか、と諭されていることだろう。
ならば、八年も続いた勘違い故の恋は、今日ようやく終わるのだ。
良かったな、と安堵の息を吐く。これでようやく、ランサーは本当の恋に出会えるようになるのだろう。
ふと、店を出てからずっと俯きながら歩いていたことに気付いて、アーチャーは振り切るように顔を上げて空を仰いだ。ビルの合間から覗く晴れ渡った青空が妙に眩しくて、少しばかり目を細めてしまう。
ほら、やっぱり、勘違いではないか。
初めからわかっていたことだというのに、胸の内で吐き出した言葉がまるで拗ねているようで、アーチャーは思わず苦笑してしまった。
恋しい相手というのは、どうしたって頭に浮かべてしまうものだろう。例えば、相手の髪色と同じ色を目にした時にその姿を思い出したり、美しい景色を見た時に、一緒に見たいなと、その場にいない相手を想ってしまったり、何の脈絡もない時に、ふと、鮮烈な赤い瞳が柔らかく緩む笑みを思い出したり。
そんなふうに、恋しい相手のことは不意に思い出してしまうものなのだ。
今だって眩しい程の空の青に、アーチャーは青い髪の男のことを思い出してしまっていた。
そんな瞬間がないというのだから、あれだけ熱かった視線も、声も、やはり勘違いから来ていたものなのである。
最初からわかっていたことだし、早く勘違いが解ければ良いと考えていたことも本当だというのに、それでも改めて突き付けられた真実は鈍い痛みを伴っていて、アーチャーはもう一度苦笑を零してしまった。
残念ながらアーチャーは様々な感情を経験済みの大人であるので、己の抱いているこれが恋慕の意味での好意だということを、きちんと理解していた。子供の勘違いに付けこむ最低な人間になるつもりは微塵もないため、ランサーから告白される度、断りの言葉を告げてきたが、本当はアーチャーの方こそ、ランサーに想いを寄せているのだ。
自分に対して勘違い故の恋心を抱いている相手に、恋慕の想いを向けている。
言葉にすると大変とんでもないが、それに対してアーチャーはだって仕方がないだろう、と開き直っていた。
元々親愛の意味での好意を持っていた相手から、八年もの間、熱意を込めて口説かれてきたのである。もしかして本当に恋をしているのではないかと疑いたくなる程に、アーチャーに向けられる視線も声も熱かったのだ。そんなの、気付いたら心を奪われてしまっていても、仕方がないではないか。
木乃伊取りが木乃伊に、などと嗤ってみたいが、ランサーの恋は勘違い故の紛い物であるから、アーチャーはただただ一人相撲をとっているだけの道化師だ。
そっと息を吐く。
ランサーが勘違いに気付いたことは喜ばしい。強がりではなく心からそう思う。
けれどそれと同時に胸がつきりと痛んでしまうのも事実であった。
もう、あの熱を帯びた眼がアーチャーに向けられることはないのだ。
その事実を噛み締めてアーチャーは思わず口を歪めて笑ってしまった。本来であれば一度も向けられない筈のものなのだから、それを惜しく思ってしまうのは酷く傲慢なことだろう。けれど、あの熱がなければ、アーチャーがランサーに恋することはなかった筈なのだ。
最近はうっかりと頷いてしまいそうになるため、ランサーの月一回の告白はあまり直視しないようにしていたが、そのことを今更ながらに後悔してしまう。せめて先月の告白だけでもきちんと見ておくべきだったな、とそんな詮無いことが浮かんでゆるりと息を吐き出した。
あれが最後になるとわかっていれば、これでもかと目に焼き付けておいたものを。
路地には他に人の姿はない。そのことを確認してから、アーチャーは道端の小石をけん、と一つ蹴りつけてしまった。
+++
「アーチャーのことが好きだ。オレと恋人になってくれ」
月初めの営業日。カフェが閉店し、片付けまで終わった店内。
今までであればランサーから告白されるタイミングだったが、今日からはもうそんなことは起きない。そう油断しきっているところに告げられた言葉であった。
一切構えていなかったせいで随分と久しぶりに直視してしまった熱を帯びた眼に、もう聞けない筈だった言葉に、アーチャーは息を止めてしまった。一拍遅れてドッと心臓が脈を打つ。
アーチャーの様子がいつもと違うことに気付いたのだろうランサーが、はたと目を瞬かせた。
「アーチャー?」
長いまつげがぱさりと揺れる様まで目に入って、アーチャーはぐ、と奥歯を噛み締めた。心臓がまだ煩くて、意識して息を深く吸い込む。
先日、ランサーは己の恋が勘違いだと気付いた筈なのである。それなのに、何故告白などしてきたのか。
ぐるりと目が回りそうになって、アーチャーは思わず言葉を零してしまった。
「君、その恋は勘違いだと、気付いたんじゃなかったのか」
「……は?」
アーチャーの言葉にぽかんと口を開けてランサーが固まった。
はたり、と瞬きを一つ。
そうしてからランサーは、は!?と先程とは違い叫ぶように声を上げた。
「ちょっと待てよ、なんだその勘違いってやつは!?」
「…そのままの意味だよランサー。君のその恋は勘違い故のものだと、ようやく気付いたんじゃないのかね」
アーチャーからは言うつもりのなかった真実だったが、口にしてしまったものは仕方ない、と開き直って言葉を続ける。
「ずっと、君自身が気付くのを待っていたが、君がずっと私に向けていた想いは勘違いから始まったものだ。そのことに、君はようやく気付いた筈だろう?」
そこまで言い切ってから、アーチャーは気持ちを落ち着かせるためにもゆっくりと息を吸い込んだ。
瞬時呆然とした後、ランサーは眦を吊り上げた。ぎらりと赤い瞳が光った気がして、アーチャーはぐ、と拳を握り締めた。身構えたところで、ぐわりとランサーが口を開いた。
「勘違いに気付くってなんだよ!ていうか、それじゃあお前、今までのオレの言葉、全部本気じゃないと思ってたのかよ!」
「本気だとは思っているさ。しかしその感情は勘違いから来ているものだと、私は言っているんだ」
「ふざけんなよ!勘違いなわけないだろ!こちとら初めて夢精した日からずっとアーチャーをオカズにヌいてんだぞ!大体、もしそうだとしても、ガキの頃ならともかく、二十歳近くなってまで勘違いしてるわけがないだろうが!」
「……は?」
ランサーの言葉が頭に届くと同時に、思わず間抜けな声が漏れた。
アーチャーをオカズに、ヌく。
オカズとは、何か。ヌく、とは。
理解できる筈なのに理解できない言葉たちに、アーチャーは目が回りそうになってしまった
ランサーの想いは勘違いから生まれたものである。そんな想いに、性欲などという生々しい欲まで含まれるなど、誰が想像するものか。少なくともアーチャーは、ランサーがそんな欲をアーチャーに対して抱いているなど、欠片も考えたことがなかったのである。
性欲まで含まれるそれは、本当に勘違いなのだろうか。
ぐるりと思考まで回りそうになって、アーチャーは慌てて頭を振った。
ランサーの恋は、勘違い故の恋なのだ。
「だが、君は私のことを思い出す瞬間がないと言い切っていただろう」
本当に恋しい相手なのであれば、不意に相手のことを思い出してしまうものだ。そんな瞬間が、ランサーにはない。
ならば今のランサーの言葉がどんなにそれらしく聞こえたところで、結局それは勘違いに違いないのである。
「は?なんでそれを?」
虚を突かれたように目を瞬かせたランサーに、アーチャーは少しばかり眉尻を下げてしまった。
「先日、隣駅のコーヒーショップで友人達と話していただろう?実は偶然私もあの店に居合わせていてね、盗み聞きをするつもりはなかったんだが、君の声が耳に入ってしまったんだ」
盗み聞きをするつもりは本当になかったから、その言葉以外は聞いていないよ。だが、勝手に聞いてしまって申し訳ない。
マナー違反だと眉を顰められても仕方のない行為だろうと謝罪も添える。そうしてからアーチャーは、ランサー、と口を開いた。
「ランサー、きっと君の友人達も指摘をしたと思うが、恋しい相手というものはそのつもりがなくとも思い出してしまうものなんだ。どうしたって頭を過ぎってしまうものなんだよ。それがないということは、君のその想いはやはり、勘違い故のものなのだよ」
私のことを思い出す瞬間はないのだろう?
そう確かめるように繰り返せば、ぐぅとランサーが唸りの声を上げた。
八年も勘違いしていたのだ。そう簡単には勘違いなどと認めたくなかったのかもしれないな。
ふとそんな考えが浮かんで思わず苦笑しそうになったところで、ああ思い出さねえよ、とランサーが吐き出した。
「アーチャーのことを思い出す瞬間なんてねえ」
「ほら見ろ」
ふ、と僅かばかり呆れの色を込めながら、アーチャーは小さく笑ってみせた。しょうがないな、と隣の家の頼れる兄貴分として、ランサーが勘違いを受け入れた瞬間を受け止める。
その裏ではランサーに想いを寄せる心が、一度聞いた言葉であっても面と向かって言われると少々辛いな、と苦く笑っていた。
けれど、そんなアーチャーの感傷を、ランサーは次の瞬間には蹴飛ばしてみせたのである。
「思い出すわけがねえんだよ!いっつも気付いたらアーチャーのこと考えてんだ。常にお前が頭の中にいるような状態なんだぞ。忘れる時がないのに、思い出せるわけがないだろうが!」
は、と声にもならない声が零れた。
畜生、とランサーが続けて呻いたのを、アーチャーは呆然と見遣ってしまった。
「なんで思い出さないってだけで想いを疑われる羽目になるんだよ。つうか、手に入らないから躍起になっているだけだ、くらいは思われてるかもしんねぇとは覚悟してたけどな、そもそも本気だと思われてなかったってどういうことだよ!」
悔しそうな顔をしたランサーが、き、とアーチャーの目を見つめてきた。その赤が熱く燃えていて、その炎の熱さに息が止まりそうになる。
「アーチャー」
先程までとは違う落ち着いた声にアーチャーは思わず肩を揺らしてしまった。
落ち着いているのにその声も酷く熱くて、ますます息の仕方を忘れてしまいそうになる。
「今までも言ってきたし、これからだって何度も言うが、オレは本気でお前に、アーチャーに惚れてるんだよ。諦めるつもりは微塵もねえし、絶対にオレに惚れさせてみせるから、改めて覚悟しやがれ」
時が、止まったかと、思った。
呆然と立ち尽くして固まったままのアーチャーを数秒見つめた後、ランサーは照れ臭そうに、こほんと小さく咳払いを零した。
「とりあえず、今日は先に帰る。次会う時までに、オレの言葉をきっちり頭に叩き込んでおけよな!」
そうびしりとアーチャーを指差した後、ランサーは逃げるように店を飛び出していった。
一拍遅れて、扉に取り付けたドアベルがカランコロンと軽やかな音を立てて鳴る。
その音にようやくアーチャーの頭が動き始めた。
忘れないから、思い出さない。
忘れる瞬間がない程に、ずっと、相手のことを想ってしまう。
それは勘違いなんてもので収まるものでは、到底なくて。
勘違い故の恋なのだから、ランサーの想いを受け入れるわけにはいかない。
そんな頷かないための逃げ道が、ぐしゃりと潰れる音が響いた気がした。
ベッター(かな?)で拝見した時から好きなお話です!何回読んでも心臓がキュ〜ッと悶える素敵な恋模様をありがとうございます!