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お伽噺は続く/Novel by カシワメカイ

お伽噺は続く

5,486 character(s)10 mins

■前作(novel/8746981)から続いてしまいました
■思うところがありつつも生活する二人と来客の話
■書きながらこの槍弓、初夜はじ(ryでは……? とか考えたり
■表紙お借りしました(illust/51141453

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 ペット可アパートに住み始めて五年。エミヤは先日、とうとう念願の犬との生活を手に入れた。
 彼は超大型犬なのだがドッグフードはこれっぽっちも食べないのでお財布に優しい子である。と見せかけて人間と同じご飯を三食もりもり食べるため結果としてまあ、優しくない。
 一度命あるものに関わったなら最後まで面倒を見るという責任は当たり前に持ち合わせているエミヤは考える。
 犬であり成人男性でもある存在ならば、もといた場所に送り返せば問題ないのではないか、と。目の前でいそいそとハンバーグにフォークを刺す男、自称王族次男坊のクー・フーリン・ランサーを見つめながら考えるのだった。
 ちなみにこの部屋での男の立ち位置はペットないしヒモである。いくら王家の者だと主張していようとも、この部屋でエミヤに養われている限り彼の立場が覆ることはない。愕然とした顔をされても事実は揺るがないのである。
 彼の中ではヒモとペットだとまだペットのほうがマシであると結論が出たらしく、ご飯の時以外は超大型犬の姿をとっている。それだけヒモ男の烙印を押されたこと衝撃的だったのだろう。まあそれはあくまで理由のひとつであると告げられているのだが。
 ランサーが住む世界では動物であることが一般的であるらしい。人間が人間の姿をしていることと同じくらい自然なことなのだそうだ。ちなみに彼がかぼちゃを引かせていたあの犬は使い魔で、現れたり消えたりできるので彼らとはまた存在が違うのだとか。そのあたりの詳しい話は割愛していたのでエミヤにもよくわからない。
 ともかく普段から動物の姿をとって生活している彼らが人間の姿をとるには魔力とやらを消費しなければならないそうで。これは見た目が動物に近づくほど消費魔力は少なくなっていく。普段のランサーのように完全に動物の姿だと消費はほぼゼロだ。つまり青い犬の姿はわかりやすく表現するなら省エネ仕様といったところか。
 さて、この男がそこまでしてエミヤの自宅に居座っている理由は花嫁騒動の顛末を説明したほうが早い。
 差し伸べられた手をぼうっとした頭で取ってしまったエミヤだったが、我に返ってから弾けるように手を放したのは想像のとおりである。
 幼少の契りを律儀に果たしに来たランサーがいくら一級品の容貌を持っていたとしても、さすがに安易に頷くことはできない。ましてやエミヤは妻サイドである――お前が言うなら突っ込まれる方になることを考えんでもないという言葉は黙殺した――。約束を守ることは素晴らしいがちんちくりんな子供の、それも本人が夢だと思い込んでいるようなモノなど守らなくてもいい、とお断りするのも無理はなかった。
 ところがどっこい、話はそう簡単に済むものではないらしい。なんとこの男、幼子の言うことを真に受け、婚約し、その契約をエミヤの心臓に刻み込んでいたのだ。なんてことをと詰め寄っても、他の輩に横取りされないように手を打っておいたのだと胸を張る始末。まだ学生だった頃、告白されるたびにズキズキと痛む心臓の理由を思わぬところで知ってしまったエミヤだった。
 ともかく、エミヤを花嫁にすることはこの男の中ではもう随分前から確定事項だった。極端な話、そこにエミヤの意思は関係ないのだそうで。だが己の半身とも言える伴侶と進んで険悪な関係になりたくないので、問答無用でさらうことはせずにこうして同意を得ようとしているとのことだった。
 有無を言わさず攫われなかったのは本当によかったのだが、それでもやはり花嫁は遠慮したい。だが彼は手を引くつもりは微塵もない。その結果がこの生活だ。
 嫌ならついていってもいいと思えるようになる日が来るまで共に暮せばいい、とのたまうヒモである。頭が痛い。
「ご馳走さん、今日もうまかったぜ。嫁御が料理上手で俺は幸せモンだ」
「お粗末さま、私は嫁御ではないのだがね」
 だがしかし、クー・フーリンの存在をすでに受け入れていることもまた事実だった。
 作った料理をとても美味しそうに食べてくれるし、仕事に疲れて帰ってくれば犬の姿だとはいえ玄関で出迎えてくれる。そして艶やかな長毛は手入れのしがいがあるし、ふかふかして深呼吸すると日頃のストレスが溶けて消える極上品だ。
 朝食を終えて皿をまとめ始めたランサーに片付けをお願いするとエミヤは洗面所へ。朝は飛ぶように過ぎていく。あまりゆっくりしている時間はない。
 以前はその中に食後の後片付けもねじ込んでいたのだが、それはランサーが請け負ってくれるようになった。ヒモ男をやっぱり気にしているのだろうか、と思わなくもなかったが、助かっているので素直に礼を言っている。
 歯を磨き、着替え、鞄を持って玄関に向かうとそこにはすでにヒモからペットになったランサーが行儀よくおすわりしていた。ぱたぱたと揺れる尻尾が言葉なくおねだりしている。目線を合わせ、両手で頭と身体を撫でてやるとちぎれんばかりに尻尾が激しく喜びを示した。
「では行ってくる。留守は任せたぞ」
 わん、とひとつ吠えたランサーの頭を名残惜しく感じつつひと撫ですると、今日も見送られながら家を出た。


 少し前なら帰宅時間が早かろうが遅かろうが思うところは何もなかったのに、今ではおやつの時間を過ぎたあたりから意識がちらちらと自宅に向かうようになってしまった。そして定時間近になれば時計の針の進みが遅く感じてしまう。やはりペットというのは偉大だ。
 定時までに本日の仕事を片付け、きっかりに職場を出たエミヤはいそいそと帰路につく。電車で二駅、そして駅を出てから歩いて十分、なのだが。
 チャッチャッチャッ。電車を降りて駅を出てから、一定の距離を保って音が追いかけてくる。エミヤが足を止めると音も止む。再び歩き出せば音も追いかけてくる。こんな妖怪がいたようないなかったような、と呑気に考えつつも、エミヤの足は自然と回り道を選んでいた。
 音を立てている正体は振り返らずともわかる。何しろここ最近でよく聞くようになった音で、ペットの方のランサーが歩いているときにたてるものと同じ。歩いているときに爪が地面と触れ合う音だ。つまり、ついてきているのは犬だった。それもおそらく二匹。
 音を聞きながらエミヤは途中見えてきたコンビニに入店する。少し時間を潰せば犬も諦めていなくなるだろう。お菓子のコーナーを眺めながらため息をつく。人懐こい犬だったがどこの子だろうか。最近は犬に縁があって少し困る。
 つまみコーナーでサラミと鮭とばを手に取り、ついでにカップアイスをふたつ。レジで精算し、店を出て数歩でエミヤは立ち止まってしまった。
 店の陰のところに犬が二匹伏せている。ちらり、とエミヤを見ると身を起こした。ついてきていたのはこの二匹だったらしい。片方が大型犬サイズ、もう片方は中型犬くらいか。
 赤い目が行かないのか、と言わんばかりにじっと見つめてくる。
「……この犬、ランサーそっくりだな……」
 宝石を思わせるその瞳はランサーのそれに酷似していた。毛色もよく見れば片方は明るい青、もう片方は暗くてはっきりしないがおそらく黒ではなく暗い青だ。
 他にどこが似ているのかと観察しているエミヤはランサーという言葉に二匹が反応したことに気づかなかった。
 一通り観察して満足したところで歩きだす。犬はやはり一定の距離を保ってついてきた。チャッチャッチャッと爪の音が静かな夜によく響く。立ち止まればやはり音もぴたりと止まった。
 いつまでも変わらず一定の距離を保つ犬にううむ、とエミヤは思案する。こうしている間にもランサーが待つアパートが見えてくる。もうこれ以上回り道はない。それにあまり遅くなるとランサーが心配して出てきてしまう。さすが異世界の犬というか、魔力を消費すればかなり遠くの匂いを拾うことができるし、さらに特定の匂いだけ、なんて芸当もできるらしい。一度コンビニの前で待機されたのはあまり思い出したくない。ともかく、そうとなれば選択肢はひとつ。ため息ひとつで素直にアパートの方へ足を向けた。
 幸いにもアパートの廊下では誰ともすれ違うことはなかった。そして通路が広くないせいか、音がだんだんと近づいてくる。その音はエミヤがドアの前に立つと隣でぴたりと止まった。なんとなく直視できず、居場所のわかる鍵を探すふりをしながら地面に視線をとばす。
 明るい青の大型犬と暗い青の中型犬はどちらも行儀よくおすわりして、じっとドアを見つめている。
 家に入る気だろうか。しかし突然独断で二匹の犬を家に入れるのは気が引ける。いくらヒモだろうがペットだろうが、ランサーは同居人である。きちんと話し合いできる以上、やはり双方納得してからどうにかしたい、のだが。
 と、唐突に目の前から解錠する音が響いた。え、と声を出す間もなくドアがひとりでに開く。
「エミヤ? 入ってこねえで何してんだ」
 ひょっこりと顔をだすのは一匹、もとい一人しかいない。おかえり、と笑う男の視線がふと下にずれ、そして凍りついた。
 一拍。ランサーに腕を捕らえられたエミヤは強い力で引き寄せられた。胸板に衝突し、片腕に囲われると同時にもう片方の手がドアを閉めにかかるが、白くがっしりとした手がそれを阻む。両手が塞がっているランサーの手ではない。ということは。
 阻まれてもなお力尽くでドアを閉めようとするランサーとこじ開けようとする白い手の間で力比べが続いたが、ぬっと現れたもう一本の腕が均衡を破った。ぐんと外側に持っていかれるドアから、ランサーは舌打ちとともに手を放す。
「よう、はるばる会いに来た弟に随分なゴアイサツだな」
 ここまでくれば、さすがにエミヤも状況を呑み込める。二匹の犬は目の前でドアに手をかけているたいそう見目の良い二人組であり、エミヤを抱き込んで苦虫を噛み潰したような顔をしている男の兄弟なのだ、と。
「誰も頼んじゃいねえだろ。帰れ」
「おいおい冷たいねぇ。はじめはお兄サマも来るっつってたんだぞ。それを宥めて置いてきた弟には優しくしておくもんだぜ」
 言葉がぽんぽんと飛び交うごとにランサーの拘束は強くなっていく。遅れて気づいて身を捩るがすでに抜け出すには困難になっていて、エミヤは早々に諦めてなんとか背後を見やる。
 が、次の瞬間、たった今生まれたばかりの諦念を全力でゴミ箱にブチ込むとランサーの鳩尾に肘を叩き込んだ。蛙が潰れたような声が聞こえてくるが、そんなのは知ったことではない。緩んだ拘束から脱出し、速やかに露出狂二名を自宅に引きずり込んだのだった。



「君達の世界の常識はそういうものだと理解しているが、生憎とここは服を着ないと通報されかねない世界でね。勝手に連行されるぶんには構わないがこちらまで巻き込まれては困る」
 腕を組んで仁王立ちするエミヤ。
 エミヤの背後のソファに大人しく収まるヒモの方のランサー。
 そして正座する犬耳男二人――片方は尻尾付きである――。
 正座する二人の容姿はランサーそっくりだった。片方は青みが明るく、もう片方はランサーよりも暗い青で顔と腹部に赤い入れ墨のような模様がある。違いらしい違いはそれくらいで、見た目はそっくりな兄弟だ。
 説教を中断させたエミヤをちらり、と暗色のほうが窺う。しかしおそるおそる口を開いたのはもう片方だった。
「そろそろ自己紹介に移っても……?」
 エミヤは思わず目を瞬かせた。そこでようやく自己紹介もセずに説教を浴びせていたことに気づく。いくら相手が露出狂でも同居人の弟である。謝罪とともに居住まいを正して名を告げようとするが、その前に声が割り込んできた。
「コイツのことはアーチャーと呼べ」
 出処はランサーである。
「ランサー」
「お前なあ、向こうの世界の奴にあっさりと真名教えようとしてんな。気づかないところでろくでもねえ契約結ばされるぞ」
「そうだぞ、何も知らん純粋なガキの心臓にマーキングとかな」
 むっすりとしたランサーとにやにやする片割れ、もといキャスター。そんなことよりもキャスターの一言が引っかかった。
「心臓にマーキング?」
 繰り返すと途端にランサーがふい、とそっぽを向く。キャスターの笑みはさらに深まった。
「将来嫁にもらうっていう約束、だろ? 相手は人間だ、真名さえつかんでいれば本人の同意なんざいらんだろうよ。人間の感覚なら……アー、婚姻届に勝手にサインして役所に提出するってとこか?」
 エミヤの脳裏に少し前まで夢だと思っていた記憶が蘇る。名前は、と訊かれてえみやと元気に答えた自分。その名前を噛み締めるように繰り返していた王子さま。
 今まで黙っていた方の片割れがため息をついた。
「……こういう契約は真名じゃないと効果がないと言ってもいい。迂闊だったな」
「そういやあんとき惚れた人間を迎えに行くから使い魔貸せって言われてよ。いやいや随分と立派に成長したもんだな!」
 つまり、真名の重要さを説いた本人が無知につけ込んだわけで。
「おいヒモ男」
 そろり、とソファを離れる青い犬を呼び止める。
 五分後、よく似た三人の男がフローリングに正座する光景が見られた。




Comments

  • わんわんお
    February 13, 2025
  • そー
    January 3, 2018
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