6話 同棲?

「散らかっててすまない」

正直、散らかってるとかいうレベルじゃない。

牢獄の方が、衛生面ではまだマシかもしれない。


女性の部屋に上がるのは、生まれて初めてだったのに、俺の期待を返せ……。

何故かはわからないが、何か大事なものを失った気がした。


「もしよかったら……掃除、手伝ってもいいか?」


「いや、異性に掃除してもらうのは少し恥ずかしいのだが…」

アグリアスはサラリと髪を耳にかけ、頬を赤らめた。

……その羞恥心、使う場所が少し違う気がする。



夕方。

王都の城壁が夕焼けに染まる頃。


「ふぅ〜……

朝から晩までやって、丸一日かかったな」

ネコショウがゴミをモリモリ食べてくれた。

雑食万歳。


「うむ! 見違えたな!」

ぱぁっと顔が明るくなる。


アグリアスの笑顔が眩しい。


誰かの役に立てた、という実感が残った。


しかし、ここで終わるほど状況は甘くなかった。

気付くと、思った以上にアグリアスとの距離が近かった。


ドンッ!

足を取られた感触。

次の瞬間、アグリアスに押し倒されていた。


俺とアグリアスの蒼い瞳が重なり合う。

「お姉様!? 今の音は何ですか? 入りますよ!」


バァンッ!

扉が開き、カサンドラと目が合った。


一瞬の静寂。


そして──

「おっ、お姉様……

わたくしというものがありながら……

そのような、下賤な男と……!」

涙がぽろぽろ落ちていく。

 

どう見ても、最悪のタイミングだった。


「ま、待てカサンドラ! 違うんだ!

こ、こいつが……その……!」


「いやいやいや! 誤解しか生まれない言い方やめて!」

カサンドラは状況を一瞥し、何も言わずに扉を閉めた。


重たい沈黙だけが残った。


「カサンドラー!!」


アグリアスは追いかけるのは諦め、なぜか最後に俺を睨む。


「いや、俺のせいじゃないって」


「……まあよい。

それより……食材を買ってきた。一緒に食べよう」


この人なりに、空気を切り替えようとしているのが分かった。


「やった! 久々のまともな飯だ!」


アグリアスは鎧を外し、黒い服の袖をまくる。

そしてピンクの可愛いエプロンを装着。

……そのギャップは、反則だと思う。


「いくぞ、クラリウス!」

シュッ、と抜刀の音。


「えっ!? いやいや、料理に剣を使うの!?」


「当たり前だろう」

この世界では、それが“普通”なのか?


ネコショウの寝顔(口にゴミつけて満足げ)を眺めながら、料理を待つ。


いい匂いが漂ってくる。

……が、時々、

ガキィン! ギャリィッ!

明らかに剣が何か硬いものを切ってる音も混じる。


「待たせたな」

料理が並ぶ。


ローストビーフのサラダ、パン、スープ。

見た目だけは完璧。


先ほどの不穏な音と反して期待してしまう自分がいた。


「いただきます!」

恐る恐る頬張る。


……アグリアスは期待に満ちた瞳で、こちらを見つめている。

「ど、どうだろうか?」


──味が、しない。

驚くほど、何も味がしない。

白湯を、必死に噛んでいる気分だった。

香りはいい。食感もいい。

……なのに味だけどこかへ旅立っている。


正直に言えば、困った。


「口に合わなかった……のか?」

不安で今にも泣きそうな顔。


「大丈夫。美味しいよ」

笑顔で返す。

牢屋飯より美味しい。それは確実だ。


ここで本音を言う選択肢は、

最初から、なかった。


アグリアスの表情がほころぶ。


……悪くない、居場所かもしれない。

少なくとも、今までよりは。


だが、俺はまだ“居候”だ。

それを忘れちゃいけない。

   

少なくとも、今夜はここにいていい。

その後は二人で取り留めもない話をしながら食事をし、王都の夜はゆっくりと更けていった。

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