6話 同棲?
「散らかっててすまない」
正直、散らかってるとかいうレベルじゃない。
牢獄の方が、衛生面ではまだマシかもしれない。
女性の部屋に上がるのは、生まれて初めてだったのに、俺の期待を返せ……。
何故かはわからないが、何か大事なものを失った気がした。
「もしよかったら……掃除、手伝ってもいいか?」
「いや、異性に掃除してもらうのは少し恥ずかしいのだが…」
アグリアスはサラリと髪を耳にかけ、頬を赤らめた。
……その羞恥心、使う場所が少し違う気がする。
✡
夕方。
王都の城壁が夕焼けに染まる頃。
「ふぅ〜……
朝から晩までやって、丸一日かかったな」
ネコショウがゴミをモリモリ食べてくれた。
雑食万歳。
「うむ! 見違えたな!」
ぱぁっと顔が明るくなる。
アグリアスの笑顔が眩しい。
誰かの役に立てた、という実感が残った。
しかし、ここで終わるほど状況は甘くなかった。
気付くと、思った以上にアグリアスとの距離が近かった。
ドンッ!
足を取られた感触。
次の瞬間、アグリアスに押し倒されていた。
俺とアグリアスの蒼い瞳が重なり合う。
「お姉様!? 今の音は何ですか? 入りますよ!」
バァンッ!
扉が開き、カサンドラと目が合った。
一瞬の静寂。
そして──
「おっ、お姉様……
わたくしというものがありながら……
そのような、下賤な男と……!」
涙がぽろぽろ落ちていく。
どう見ても、最悪のタイミングだった。
「ま、待てカサンドラ! 違うんだ!
こ、こいつが……その……!」
「いやいやいや! 誤解しか生まれない言い方やめて!」
カサンドラは状況を一瞥し、何も言わずに扉を閉めた。
重たい沈黙だけが残った。
「カサンドラー!!」
アグリアスは追いかけるのは諦め、なぜか最後に俺を睨む。
「いや、俺のせいじゃないって」
「……まあよい。
それより……食材を買ってきた。一緒に食べよう」
この人なりに、空気を切り替えようとしているのが分かった。
「やった! 久々のまともな飯だ!」
アグリアスは鎧を外し、黒い服の袖をまくる。
そしてピンクの可愛いエプロンを装着。
……そのギャップは、反則だと思う。
「いくぞ、クラリウス!」
シュッ、と抜刀の音。
「えっ!? いやいや、料理に剣を使うの!?」
「当たり前だろう」
この世界では、それが“普通”なのか?
ネコショウの寝顔(口にゴミつけて満足げ)を眺めながら、料理を待つ。
いい匂いが漂ってくる。
……が、時々、
ガキィン! ギャリィッ!
明らかに剣が何か硬いものを切ってる音も混じる。
「待たせたな」
料理が並ぶ。
ローストビーフのサラダ、パン、スープ。
見た目だけは完璧。
先ほどの不穏な音と反して期待してしまう自分がいた。
「いただきます!」
恐る恐る頬張る。
……アグリアスは期待に満ちた瞳で、こちらを見つめている。
「ど、どうだろうか?」
──味が、しない。
驚くほど、何も味がしない。
白湯を、必死に噛んでいる気分だった。
香りはいい。食感もいい。
……なのに味だけどこかへ旅立っている。
正直に言えば、困った。
「口に合わなかった……のか?」
不安で今にも泣きそうな顔。
「大丈夫。美味しいよ」
笑顔で返す。
牢屋飯より美味しい。それは確実だ。
ここで本音を言う選択肢は、
最初から、なかった。
アグリアスの表情がほころぶ。
……悪くない、居場所かもしれない。
少なくとも、今までよりは。
だが、俺はまだ“居候”だ。
それを忘れちゃいけない。
少なくとも、今夜はここにいていい。
その後は二人で取り留めもない話をしながら食事をし、王都の夜はゆっくりと更けていった。
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