4話 無双?

「くっくっくっ……矮小な人間が」

巨大な黒猫の頭上で、魔族の女が嗤う。


三本の尻尾がしなる。

空気が裂けた――次の瞬間には、俺の頭上へ叩きつけられていた。


「うおっ!」

反射で手を前に出す。

……尻尾に当たった。


衝撃は確かにあった。

なのに、痛みだけが抜け落ちている。


「フニぁあん」


――……は?

突然、巨大な黒猫が文字通り猫撫声をあげた。

空気が、一気に変わった。


「なんじゃネコショウよ!? どうしたのだ!」


次の瞬間――黒猫が光に包まれ、縮んでいく。

現れたのは、尾が三本の愛らしい子猫。


「フニぁ~ん」

そして何故か俺に頬ずりを始めた。


……急に懐くな。

……可愛いからいいけど。


「貴様……ネコショウに何をした!」


「いや、俺も分からんって……」


「いったい何がどうなってるの…」


「分かりませんわ」 

「……ああ」

カサンドラもアグリアスも呆然としている。


魔族の女が子猫の前で屈む。

「にゃにゃにゃにゃににゃな」

「フニぁ~ん。にゃお~ん」

どうやら……猫語で会話しているらしい。


話が、完全に別次元へ滑っている。


「貴様ぁーーっ!」

いきなり魔族の女が真っ赤になって怒鳴った。

どうやら、理解したのは彼女だけらしい。


「ちょっと落ち着けって。何がどう――」

俺の言葉に魔族の女は頬を赤らめる。


「そ、そんな事……言えるわけがないだろうが……!」

視線が妙に泳いでいる。


「ちょっと待ってくれ、俺が何をしたっていうんだ。ちゃんと説明してくれ」


「きっ、貴様、まさか女である私にそんな事を言わせて、愉しもうというのか?

お前は何という変態なのだ」


後ろから冷たい刺すような視線。


そっと振り返ると――

「不埒者……」

「……ほんとですわね」

アグリアスとカサンドラは、

完全にゴミムシを見る目をしていた。


「おい……せっかく助けに入ったのにあんまりだろ」


「許さん!」

魔族の全身からドス黒いオーラが噴き出す。


「死ねぇっ!」

魔族の女の腕が槍のように伸び、俺の顔面へ突き刺さり――


……次の瞬間。


腕が、いつの間にか俺の口の中に入っていた。


……待て。


――なんで?


「もがっ!? もがががが!?」


しょっぱい。

……いや今それ確認してる場合じゃない。


「ぎゃああああああっ!?

貴様、私の腕を舐め回してっ……うう、き、気持ち悪い……」


「これって、俺のせいなのか?」


「ならば遠距離魔法で処すのみ!

獄炎球コロナオーブ!」

巨大な火球が生成される。


本気で殺しにきている。


「うおっ、危ない――」

爆炎が俺に直撃した——そう思った瞬間、火球は、触れる前に消えていた。


「……あれ?」


「ま、まさか……魔法を……果てさせるなんて……この変態……!」


「いやだから意味が分からん! 

魔法が果てるって何だよ!」


「この屈辱、必ず晴らす! 覚悟しておけ!」

魔族の女は涙目で叫び、煙のように消えた。

 

敵は撤退した。

理由は、分からないままだった。


「…………ふぅ。とりあえず、生きてるな」

勝ったというより、やり過ごしただけだ。


「フニぁ~ん」

子猫は俺の足にすり寄ってくる。


振り返ると、アグリアスもカサンドラも顔が引き攣っていた。


「……あ、ありがとう」


「助かりましたわ——あっ!」


次の瞬間、カサンドラが俺に飛びついた。

いや、正確には倒れ込んできた。


「ぶっ……!?」

ビキニアーマーの胸部の突起が俺の胸に刺さる。


痛い。普通に痛い。

……なんで毎回こうなるんだ。

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