週刊エコノミスト Online サンデー毎日
新型コロナワクチン接種開始から5年。そして今、本格的な議論を始めよう。対談・大西隼×上島有加里
◇シリーズ 新型コロナワクチンとは何か、改めて問う
対談「ヒポクラテスの盲点」監督・大西隼×薬剤疫学/医薬品情報学・専門家 上島有加里
新型コロナワクチンの接種開始から今年2月で5年を迎えた。私たちはこのワクチンを、どこまで検証できたのだろうか。ドキュメンタリー映画「ヒポクラテスの盲点」の大西隼監督と、薬剤疫学の専門家・上島有加里氏との対談。未来の医療と社会のために「何が起き、何を学ぶべきだったか」を問い直す。
大西隼監督の「ヒポクラテスの盲点」は新型コロナワクチン後遺症について医師、後遺症患者や遺族、専門家などさまざまな立場からの意見やデータをもとにしたドキュメンタリー映画だ。上島有加里氏は薬剤疫学、医薬品情報学、臨床薬学分野の専門家であり、その立場から新型コロナワクチンについては早くから疑義を呈してきた。
大西 映画「ヒポクラテスの盲点」では、京都大名誉教授であり、「ワクチン問題研究会」代表の福島雅典先生、それから新型コロナワクチン後遺症患者の治療にあたられている北海道の藤沢明徳医師、兵庫・宝塚の児玉慎一郎医師を軸に取材を進めていました。でも、もう少し多様な角度からお話を聞きたいと考えていた時に、薬剤疫学の専門家の立場から問題提起されていた上島先生の存在を知ったんです。唯一アクセスできたMessengerで、取材をお願いできないかと連絡させていただきました。
上島 私はコロナワクチン接種に関してずっと慎重な発言をしていたので、匿名の知らない方から多くの誹謗(ひぼう)中傷のダイレクトメールが来ていたんです。だから、面識のない大西監督のメッセージも正直、怖くて。そのうえ〝映画?〟と。とりあえず軽くお返事はしたものの2カ月ほど放置していました(笑)。その後、藤沢先生や児玉先生とお会いした時に聞いたら、「きちんとした監督なのに、なんで不義理なことしてるの」と呆(あき)れられて。それでも最初は半信半疑でスタジオへ行きましたが、実際にお会いしたら、本当に真摯(しんし)に取材をされていた。その時は2時間ほどお話しさせていただきました。
大西 本当に感謝しています。限られた尺の映画には盛り込めなかった、重要なお話も多々ありました。
上島 上映の舞台挨拶(あいさつ)も、何度かご一緒しましたね。
大西 映画の公開は昨年の10月10日でしたが、これまで全国で累計70館上映、5万人近くが足を運んでくださった。正直、ここまで多くの方に届くとは思っていなかったので本当に驚いています。
上島 映画のポスターや予告編には、コロナワクチンについて「国が推奨した救世主のはずだった」とあります。でも私はこの映画こそが、コロナワクチンで健康被害に遭われた方やご遺族にとって心の救世主になったのではと思っています。
大西 被害を受けた方たちの「なかったことにしないでほしい」という思いを胸に刻んで、取材や編集に向き合うよう努めてきました。
◇安全性の議論は起きなかった
上島 私は被害を受けた方が予防接種救済制度に申請する際のサポートもさせていただいているんです。手続きに必要な書類を揃(そろ)えるだけでも大変な時間と労力がかかる。その時にみなさんが話すのは、ワクチン接種後に健康被害に遭った、あるいは家族が亡くなったと言っても周囲が信じてくれない、病院に行くとたらい回しにされて「嘘(うそ)つき」呼ばわりされるのがものすごくショックだ、と。
大西 去年の8月末に、薬害の被害に遭われた方が参加する薬害根絶デーがあると上島先生に教えていただいて、これは重要なテーマだと思い急遽(きゅうきょ)、取材に行きました。10月公開の映画に、その時点で新しい素材を入れ込むというのは映画としては異例です。少なくとも4カ月前には完成させて、宣伝に時間をかけるのが理想形だからです。多くの点で通常の映画製作とはまったく違う段取りで仕上げた作品で、その意味でも自分にとっては大変に勉強になりました。
大西監督は東京大大学院で生命科学を研究し、理学博士を取得。アルツハイマー病などの神経疾患を細胞レベルや遺伝子レベルで解析していた。そこからテレビ番組や映画の企画・制作などを行う「テレビマンユニオン」に入ったという異例の経歴の持ち主だ。
大西 コロナワクチンの健康被害に関しては、私はじつは気づくのがかなり遅かったんです。それは事実として、正直に明かしておかなければいけないと思っています。
上島 新型コロナワクチンの接種が開始されてから、大手メディア報道はワクチンのメリットばかり強調していましたからね。
大西 はい。でも2023年春ごろから、健康被害を報じる兵庫のサンテレビや名古屋のCBCの番組をYouTubeで目にするようになった。その時に初めて、本当は何が起きているのか、このワクチンが科学的にどうだったのかを知らなければならないと強く感じて、取材を始めたのです。
今振り返ると、それまでの自分は思考停止に近い状態だったと思います。20年にパンデミックが起きると、社会が止まるのと同時に映画製作の多くが中止になりました。ロケもできないし、人にも会えない。カメラを向ける対象そのものが、社会から消えていく感覚だったんです。閉塞(へいそく)感が募っていた時に登場してきたのがコロナワクチンでした。
そのあと職域接種ができる可能性があると知り、私は会社の職域接種の推進も担当しました。すべて良かれと思ってやったことですが、ただ一方で、心にわずかな不安もあった。このワクチンを接種する必然性はあるのか。有効性や安全性はどの程度、確認されているのか。大学院時代の基礎もあるので「コロナワクチンによる発症予防の有効率は95%」という論文も読みましたが、その数字の裏まで読んで懐疑することはできませんでした。
上島 私は、ワクチンや治療薬が早く開発されればいいとは思っていました。ただコロナワクチンに関しては、開発から実用化までの期間が極めて短いことに疑問を抱いたんです。mRNA製剤の技術そのものの研究は約30年の歴史がありますが、実用化はされていなかった。それなのに感染症が確認されてから10カ月足らずで大規模接種に至ったというのは、従来のワクチン開発のプロセスと比較しても異例です。通常、ワクチンの安全性や有効性の検証には、流行状況下で一定期間の観察と評価が必要になります。それで「中長期に起こる副作用については未知。少なくとも一度立ち止まり、科学的根拠を冷静に確認するべきではないか」という趣旨の発信を始めたのです。国内には薬剤疫学や医薬品安全性評価を専門にする研究者がたくさんいるので当然、議論が巻き起こるだろうと考えていましたが、SNSやテレビ報道、大学教育の現場でも、安全性評価のプロセスを問う姿勢は見られませんでした。
◇何度も接種を見直す機会はあった
大西 たとえば以前の学友、先輩や後輩らと、この問題について議論したことはないんですか。
上島 私が所属していた研究室では、おもに医薬品のリスクとベネフィットのバランスを評価したり、副作用報告からのシグナル検出に関する研究をしていました。加えて、医薬品のリスク評価の重要性というのは、アカデミアでは基本的な共通理解です。でも普段は活発に意見交換をする人たちも、このことになると話をそらすような態度を見せた。その沈黙は非常に不可解でしたし、私はすごく孤立していました。
大西 コロナワクチンに関しては推進派、反対派という言葉が使われがちですが、そういった単純な二項対立ではなく、解像度の高い科学的な議論と、冷静な思考が必要だと思っています。でも、それがなかなか行われない。私が今回、映画製作をするにあたっては接種を推奨する立場だった厚生労働省やPMDA(医薬品医療機器総合機構)、各学会などにも取材依頼をしました。でも、どこも承諾してもらえなかった。理由として多かったのは「ワクチン接種にブレーキがかかることにつながる取材には答えを控えたい」「本業に集中したい」というものです。その中で、唯一出演に応じてくださったのが長崎大の森内浩幸先生でした。アメリカの新型コロナ対策を担当したアンソニー・ファウチ氏の研究室にも在籍していた方で、ご自分の意見を率直に語ってくださった。その態度には深く感謝したいですし、敬意を表したいです。
上島 コロナワクチンについてはまだエビデンスがすべて揃っているとはいえない状況なので、絶対的な答えはない。だからこそ、今後の検証が何より大切です。
今年2月で新型コロナワクチン接種開始から5年が経(た)った。健康被害の進達受理件数は1万4728件。認定されたのは9421件、うち死亡一時金・葬祭料の認定数は1060件である(1月16日現在※1)。
上島 一つのワクチンの健康被害認定数としては、これは前代未聞の数字です。この数について話すと、必ず「国民8割が打って、接種回数が多かったからだ」という人がいますが、そうではありません。過去45年間のコロナワクチンを除くすべてのワクチンの接種回数の総数は約12億回です。一方、コロナワクチン接種回数は4億回強と見られています。その過去45年間すべてのワクチンと比較すると、コロナワクチンの健康被害は約2・7倍、死亡認定件数は約7倍にのぼるのです。これらの数字を医療従事者を含めて、ほとんどの国民が知りません。
従来のワクチンでは、重篤な有害事象が数例報告された段階で、一時的な接種見直しや調査が行われてきました。今回はそのような「立ち止まり」がまったく見られなかったのです。
大西 緊急事態下で特例承認による接種開始がやむを得なかったとしても、その後の過程で、立ち止まるべき局面があるとすれば、どこだったとお考えですか。
上島 何度もあったと思います。まず、21年2月に医療従事者への先行接種が始まった直後に死亡報告が上がっています。61歳女性、基礎疾患なし、くも膜下出血です。それから間もなく、26歳女性看護師の死亡報告が出ました。最初の死亡例は、高齢ともいえるのでワクチンではなく年齢や何らかの症状が影響していたとも考えられるかもしれませんが、2例目が報告された時に、ともに女性で死因が同じですから、直ちに全面停止ではなくても一時的に接種を見直し、因果関係評価を調べることは可能だったはずです。
その後、21年11月に重篤な心筋炎や心膜炎が多々報告された際も同様で、この時点で少なくとも若い方への接種奨励は中止すべきでした。それが行われなかったから、13歳の男の子が亡くなるという事態を招いてしまった可能性は否めません。また、同年12月から3回目接種が始まったにもかかわらず、その後に感染者数が増加した時もそうです。さらには、23年3月に42歳の女性が、続いて7月に14歳の女の子の症例が「予防接種後副反応疑い報告制度」において、死因が「ワクチンとの因果関係が否定できないと認められる」α(アルファ)判定結果になった時こそ、立ち止まる機会でした。
◇死亡との因果関係は「塩漬け」に
大西 多くの人が気になっているのは、コロナワクチンにそれでも一定の効果はあったのか、という点です。感染予防や重症化予防についてはどうでしょうか。
上島 私は感染予防効果はなかったと考えています。アメリカでデルタ株が流行した際に行われた研究では、ワクチン接種者と非接種者のウイルス排出量には大きな差がないという報告があります。
大西 国内では「VERSUS(バーサス)スタディー」など重症化予防には効果があった、とする研究もありますが。
上島 はい。日本でも海外でも重症化予防はあったという論文が出ています。でもそのほとんどがワクチン接種から1~2週間以内に発症したケースを除外しています。ワクチンを打ってから抗体ができるまで2週間ほどかかるので、効果を見るには、そこは除外すべきだという論理なのですが、感染をリスクと捉えるとワクチン接種直後からそのリスクは始まっています。バーサススタディーなどで採用されている医療機関を受診した人のみを対象とする研究方法だと、ワクチン接種側の成績が良くなるというバイアスがかかってしまう。ワクチン接種の直後から全員、統計に入れてもう一度解析をやり直すべきです。
大西 コロナ禍では、制度的な問題点も浮き彫りになりました。それについても多くの検証が必要です。
上島 その一つが、予防接種後副反応疑い報告に対する評価の仕方です。
健康被害救済制度は、健康被害に遭った人や遺族が国に申請するものだが、予防接種後副反応疑い報告は医師などが予防接種後に大きな副反応が出た時に国に報告する制度だ。
上島 副反応疑い報告制度における死亡報告は現在、約2300例に達しています。その評価は、α(ワクチン接種と因果関係あり)、β(ベータ)(因果関係なし)、γ(ガンマ)(情報不足等で評価不能)の3段階で、現在は全体の99%以上がこの評価不能のγになっています。しかしWHO(世界保健機構)の評価基準では、6段階評価にわけるべきと推奨しています。そのWHOの評価基準に照らし合わせると因果関係について「確実にある」「多分ある」「可能性がある」の評価の症例もαに分類されると考えられるので、それを採用すればγに入る数が少なくなります。
また本来であれば、評価不能とされたγの事例については追加調査を行ったうえで再評価するべきですが、それがほとんど行われていない。私はこれまで何度も厚生労働省の担当者と面談し、この塩漬け状態になっているγ評価の因果関係の解明は進んでいるのか、と尋ねていますが、コロナワクチンに関してはいつも「医学的、薬学的、総合的に判断して今のところ懸念はないと審議会の先生方は仰(おっしゃ)っています」と同じセリフを繰り返すばかりで、まったく進展がない。それを聞くと本当にやる気があるのかと、私などはついつい声を荒らげてしまいます。
大西 そういう状況だと判断や責任の主体、根拠やロジックもすべてブラックボックスのままになってしまいますね。
◇人選が重複して自浄作用が働かない
上島 大切なのは今後、同じような被害を生まないことです。そのために国ができることは他にもあります。各自治体は、住民の接種記録の台帳を保有しています。さらに各人のレセプト情報(※2)や入院歴、死亡情報の記録が保管されています。それらを解析すれば、年齢や性別や病歴などによりどのような人がワクチンで健康被害が起きやすいかもわかるのです。国主導でその体系的なデータ解析を行うべきです。
大西 そうすれば科学的検証もできるし、「自分は健康被害の起きるリスクが高いから接種をやめよう」などの判断もできる、と。
上島 はい。検証が進まない大きな理由には、厚労省の委員会の体制の問題もあります。ワクチンのガイドラインを作る委員会、副反応を評価する委員会、さらには予防接種救済制度の認定審議の委員会などがありますが、その人選が重複しているのです。自分が採用したワクチンに対して、副作用報告が上がった場合に冷静に判断できるかというと、懐疑的にならざるを得ません。つまり、自浄作用が働かない。今後は利益相反のない第三者による、より独立性の高い制度へと変えていく必要があります。
(本誌取材班)
◇おおにし・はやと
1980年生まれ。東京、NY、横浜で育つ。東京大大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。2008年テレビマンユニオンに参加。ディレクターとして手がけた作品に「欲望の資本主義」「地球タクシー」(共にNHKBS、ギャラクシー賞奨励賞受賞)、「世界ふしぎ発見!」(TBS系)など。プロデュース作に劇映画「プリテンダーズ」などがある。2025年10月、監督作の「ヒポクラテスの盲点」公開
◇かみじま・ゆかり
博士(臨床薬学)。1973年北海道生まれ。2000年、東京理科大大学院薬学研究科臨床薬学専攻修了。2003年千葉大大学院薬学研究科博士後期課程修了。専門は薬剤疫学/医薬品情報学。2018年まで東京大大学院医学系研究科薬剤疫学講座にて教務補佐員・研究員として、医薬品等の安全性監視、副作用報告からのシグナル検出に関する研究に従事。薬剤疫学領域における調査・研究の倫理審査委員を務める。2023年より東京理科大薬学部客員研究員
※1 第36回感染症・予防接種審査分科会新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査第一部会審議結果
※2 医療費を保険者へ請求するために作成する明細データで、患者の病名や医療機関を受診した際の診療内容などの記録が含まれる