Good night baby.
2時間クオリティの槍弓(カルデア時空)
サマキャン話でちょこっと書いた匂いが落ち着く的な話。
カッコいい兄貴はいません。
カッコいい弓兵もいません。
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「つっかれたぁ〜!!エミヤ、今日の夕飯なぁに〜?」
「マスターか、周回お疲れ様。今日はA定食が和食で焼き魚定食、B定食が洋食でオムライスだよ」
オレンジ色の髪をふわふわと揺らしながら少女が入室してくる。
顔にガーゼを貼り手足には軽く包帯を巻いた姿は少々痛々しいが、少女の明るい声からは純粋な疲労のみ滲んでいたので野暮なことは聞かないでおく。
ぱあっと笑った彼女は大きな声で『オムライス!』と言うといそいそとお盆を持ち配膳の列についた。
「お疲れ様です、エミヤさん」
その後ろから彼女の後輩がひょっこりと顔を出して挨拶をした。
『私もオムライスで』と先輩よりも控えめに進言した彼女に『君もお疲れ』と労いつつ列を促す。
今日の洋食担当は自分だ。
基本的に得意とするのは和食だが、ここカルデアキッチンは料理のできるサーヴァントが当番制で持ち回っている。
今日の和食担当はキャットで、魚の焼けるいい匂いをさせながら『ウェルダン?それともレア?』と聞き、魚にウェルダンもレアもねえよ!と和食を選んだアジア出身のサーヴァント達にツッコまれている。
手早くオムライスの準備をしようと卵を割り、かき混ぜていると入口の開く音。
今日の周回メンバーは確か…
「おう、今日はなんだアーチャー」
「ああ、周回ご苦労ランサー。今日は魚かオムライスだよ」
映ったのは鮮やかな蒼。
ぐるぐると肩を回しながら入ってきたランサー、クーフーリンはエミヤを見てマスターと同じことを聞いてくる。
珍しく些か疲労しているのか、なんとなくピリついた空気が気になるが『じゃオムライス』と答えた彼をいつも通り列に促した。
すれ違い様、その赤い眼と視線が合う。
「っ!」
意図してかしていないのか、その緋は瞬間エミヤを射止め縛り付けた。
卵をかき混ぜる手が少し止まり、しかしすぐにクーフーリンは列に消えていった。
彼のその視線には覚えがある。
ぞわりと背筋を走った感触は、彼と相対した時に感じるものだ…それも戦闘時に。
一度ボウルを置いて左胸をゆるりと撫でる。
生前、彼が刺し貫いたこの心臓がちりりと疼いた気がした。
しかし悪い気分ではない。
「抜けきっていないのか」
戦闘から。
ぼそりと呟いてしかしすぐに落ち着くだろうと楽観したエミヤはオムライスの準備を再開した。
3人分のオムライスを手早く仕上げて彼らに提供した時は、彼の視線は元に戻っていたがどことなくピリッとした雰囲気は和らいではいなかった。
カルデアには沢山のサーヴァントがいる。
通常の聖杯戦争と違い、複数のサーヴァントと契約しているマスターはここカルデアに1人だけ。
当然魔力は節約しなければならない。
サーヴァントは夢を見ないが、ここカルデアではそれぞれに部屋が与えられ日中活動し、夜になると自室で睡眠をとり魔力を補給すると言う半受肉したような生活様式が一般的となっている。
朝食の下ごしらえを終え、自室にて日課の武器の整理を丁度終えたエミヤの耳はこつこつと廊下の足音を微かに拾った。
部屋の前で立ち止まった足音は少し逡巡するように時間を置いてからコンコンと控えめにノックをした。
気配でなんとなく訪問者を理解していたエミヤがどうぞ、と小さく返すとなんとも居心地悪そうに立ち尽くす槍兵が一人。
「…アーチャー」
「ランサー、…何か用かね」
頭をガシガシと掻きながら歯切れが悪そうにあーだのうーだの言いつつ彼は入室する。
いつもは単純に豪快に話す彼らしくなくエミヤは首を傾げた。
「あー…その、だな」
「何だね。君がそんな遠慮がちなど、気持ち悪いぞ」
ぐっ、と言葉に詰まったクーフーリンはそれでもはっきりせず唸りつつ時折ちくしょう、とかくそ、とか悪態を吐いている。
泳いでいた視線をしかし腹を括ったようにバッと顔を上げ、視線を目の前の男に向けた彼は。
「アーチャー、一緒に寝てくれ」
「……、は?」
思わず素っ頓狂な声で返答してしまった。
いやいや待て待て落ち着こう。
確かに彼と私は恋仲であり、ヤることもヤっている仲で…いやそう言う話ではなく。
とそこまで考えたエミヤは思わずポロリと溢してしまった。
「…そういう誘いかね?」
「ちっげえ!あ、いやそれでもオレは大歓迎だけどでも今日はちげえの!」
真っ向から否定されて若干の羞恥が襲ったが、しかしそれでは何だというのだろう。
まさか一人寝が寂しくなったというのか?ケルトの大英雄が??アイルランドの光の御子が???
「何考えてるか大体わかるけどよ…ちげえぞ、オレぁガキじゃねえ」
「そうか、ハグは必要かね?」
「信じてねえじゃねえか!!ちげえよ、昼間すげえ暴れたから」
そういえば今日はマスターが割と深傷を負っていた。
明るい声に誤魔化されていたが本日の周回はそこそこ苦戦を強いられたようだ。
夕飯が終わった後にチラリと聞いたが目の前のこの男は返り血を浴びながら修羅の如く暴れ回り、矢避けの加護を駆使して宝具をぶちかましたらしい。
何だそれはめちゃくちゃカッコいいじゃないかいいなぁ見たかったなぁなんてエミヤが心の中で小さくマスターに嫉妬したのはまた別の話だ。
「すごい活躍をしたようだったじゃないか」
「まあな。…で、だな」
褒められて悪い気はしないのか先程まで歪めていた表情が誇らしいものに一瞬変わった。
しかしすぐ僅かに眉根に皺を寄せた彼は『さっきの発言だが』と話を元に戻した。
「昂っちまって寝れねえんだ」
「ほう」
聞けば返り血をもろに浴びて血の臭いのべったりついた己にどうにも戦闘好きの血が騒いでしまったとのことだ。
ああ、それで。
先程の食堂でエミヤが射竦められたのは、彼が戦闘時の眼をしていたから。
しかし。
「それでどうして私の部屋に?」
「……」
彼がまた沈黙した。
寝るのは構わないが、エミヤとしては理由を知りたい…知らなくても解決することは可能だが。
恋人がなぜ自分を必要とするのかは勿論、知りたいじゃないか。
ランサー、と一言後押しすると言い淀んだ彼がやっぱり歯切れ悪く唸りながらようやく吐いた。
「…安心できる匂いがあれば、寝れるんじゃねえかなって」
「…、は」
また素っ頓狂な声をあげてしまった。
つまり、なんだ。
私の傍なら眠れるんじゃないかと思って、部屋を訪ねたと…安心できるんじゃないかと。
そこまで考えてエミヤは耐えられず息を吐いて笑った。
「っ、ふは」
「くそ…笑うなよ」
「だって君、くく…やっぱりハグが必要じゃないか」
ガキ扱いすんな、と言いつつもちょいちょいと手招きをすれば素直にこちらに歩いてくるクーフーリンを見てやっぱり子供じゃないかと思いながらベッドに招く。
戦闘衣を解いてラフな格好をしていたエミヤは彼にも着替えたまえ、と促した。
言われた通りに魔力で編んだ戦闘衣をラフなものに編み直し、クーフーリンはエミヤの隣に寝転んだ。
ふわりと香るのはカルデアの支給品のシャンプーとボディソープの匂い。
使っているものは同じはずなのに彼の匂いはやっぱり落ち着く。
ピリついていた神経が徐々に凪いでいき、周回で疲労した身体はなんとも呆気なく眠気を復活させた。
マジかよ…とあまりにも単純な己の身体に眼を瞬かせながらくつくつと笑うエミヤを見る。
「…ハグは必要かね?」
「あー…もうおれ、がきでもいいや」
腕を広げるとぼすりと飛び込んできた特大の子供の髪留めを丁寧に外してやると、さらりとした蒼い髪を梳く。
既にうつらうつらとし始めた彼の耳元で小さくおやすみ、と囁くと完全に赤い眼差しは見えなくなった。
自身もふわりと香る彼の匂いに眠気を感じ、人のことは言えないなと独りごちたエミヤもゆっくりと目蓋を下ろした。
それからというもの激しい戦闘後、彼がエミヤの部屋を訪れるのは日課となりつつあった。
時に昂りが直情的になり『そういうこと』に発展することもあったが、概ね疲労したクーフーリンはエミヤの胸の中でうつらうつらとするのが常である。
エミヤは無いはずの母性本能が疼くような心持ちで今日もクーフーリンを寝かしつけるのだ。
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- YellinkDecember 9, 2025