「よぉ、ダーリン。浮気か?」
「…そんなに尻が軽く見えるか、ハニー?」
小高い崖の上から現れ、いやぁ?と軽く返した槍兵クーフーリンは甘っちょろく呼んだ弓兵エミヤの横に降り立つと、事も無げにお前俺のこと大好きだもんなぁ?と槍を刺した目の前の獲物の返り血を浴びながら赤い目を細めて笑った。
たわけが、とこぼしたエミヤは掌に夫婦剣を投影しながら振り向き様に双剣を横に薙いだ。
ざくりと寸分違わず胴体を真っ二つにした後青い男越しに見えた獣の脳天目掛けて投影した細身の剣を飛ばす。
眉間に突き刺さったそれは致命傷たり得るもので、どずんと倒れ込む獣を見てひゅうと口笛を吹いたクーフーリンはくるりとその手の朱槍を回した。
カカ、とその足元に弓矢が突き刺さる。
「俺に飛び道具は無意味ーーだ、ぜェ!!!」
獣を盾にした兵士が草陰から弓を番えている。
それを見咎めるとひっと声を上げた兵士は断末魔を上げる暇もなくどすりと朱槍の餌食になった。
「うっし、こんなもんか」
「ああ…思いの外早かったな」
先程レイシフトした際に1人逸れてしまったエミヤは周囲の状況を把握するため森を彷徨い歩いていた。
パスが繋がってるマスターに生存している事くらいはわかるだろうが念話が出来るほどにこの場所でパスは安定していなかった。
仕方なく雑魚を倒しつつ森を歩いているといつの間にか雑魚に囲まれたようで多勢に無勢な状況。
この程度蹴散らすことは雑作もないが如何せん数が多かった。
元来魔力の貯蔵が多い方ではないエミヤは長期戦や消耗戦には向かない。
舌打ちをしながらも複数の剣を投影し、切先を獣たちに向け向かってくるエネミー達を蹴散らした。
距離を取った後にカラドボルグを投影、弓兵らしく中距離戦闘に努めざくりざくりと敵影を屠っていく。
だがやっぱり数が多い。
徐々に迫ってくるエネミーに再度"飛ぶ剣"を投影し自らの背後を取られぬよう360°の警戒体制を敷いた。
じわじわと削られていく魔力に長引いたら流石に不利だと思った矢先にーー先程の槍兵の声。
そこまで遠くは逸れていなかったようで一安心だ。
「おう、マスターが魔力が徐々に減ってるってんで戦闘してるってことは気づいたんだがパスで通話ができないってんで」
「ああ、ここはまだ少し安定していないな」
試しにもう一度マスターに念話を送ろうとするも失敗に終わる。
恐らく1番敏捷性の高い彼を捜索に向かわせたのだろう、マスターの所には後マンドリカルドと賢王が居たはずだ。
彼の口調から逸れたのはどうやら自分だけのようだし2人はレベルもカンストしている、マスターは心配無かろう。
エミヤはほうと一息つき胸を撫で下ろした。
「それで?」
「うん?」
移動しようとクーフーリンの隣に並んだエミヤを見つめる赤い目が先程のように細まって楽しそうに笑う。
背後から伸びてきた腕が腰を捉えて引き寄せられる。
少しだけ自分より低い彼の端正な顔が近付けられ赤い目が近づく。
「だぁいすきな俺にご褒美はねえの?ダーリン」
「ーー…ああ、格好良かったよハニー」
ちぅ、と頬に可愛らしく口付けてやると、御不満な様子の光の御子はそれだけ?と目で訴え唇を尖らせる。
その子供のような表情がなんともまあ可愛らしくてついそれこそ子供にするように額にもキスを落とした。
目に見えてぶすっとしたクーフーリンはじとりとエミヤを睨みつけてくる…やめてくれ、虐めたくなってしまう。
敢えて髪、瞼、鼻とキスを降らせればエミヤの口付けを甘んじて受け取るクーフーリンはしかしむぅっとした表情のままだ。
えみやぁ、と不満げな声で赤い目がこちらを射る。
「ふふ、わかってるよ」
最後にありがとう、と気持ちを込めてしっかり唇にもキスを落としたところ後頭部に回ったクーフーリンの手に固定されてそのままエミヤは噛み付くように再度唇を奪われた。
「っん!、っぅ…っン」
腰を引き寄せる腕が強くてエミヤの膝が少し曲がり、クーフーリンの顔が少し上になる。
そのまま油断していた歯列を分けて舌が入ってくると上からたっぷりと唾液を流し込まれて彼の腕を思わず掴んだ。
神代に満ちた光の御子の魔力に瞬間くらっとしたがんく、と喉奥を鳴らして素直に飲み込む。
クーフーリンの舌はエミヤの舌をすり、と撫でてそれほど長居はせずにでも名残惜しげに出て行った。
「ふ、っは…ぁ」
「ん、これで補填しとけ」
先程の戦いで消耗した魔力が少しだけ嵩増しされている。
ちゅむ、ともう一度軽く口付けて口端を舐めたクーフーリンは離れ際に抱いていた腰をちゃっかり撫でてからエミヤを離した。
エミヤはびくりと微弱に反応してしまった己を恥じて咳払いをするとマスターの元へ向かうクーフーリンの背中をゆっくりと追った。
マスターの元へ辿り着いた際に己に流れるクーフーリンの魔力を賢王に指摘されて、マスターとマンドリカルドからはにこにことした目を、賢王からは生暖かい目を向けられたエミヤがクーフーリンをどついて居心地悪くクエストに向かったのはまた別の話。