紙一重の執着
書き手はUBWとFGOの知識しかありません。
ぬるい腐向け表現があります。
設定は捏造だらけです。真名バレがあります。
それでも大丈夫だとおっしゃる方のみお願いいたします。
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何がどうしてこうなった。
もう何度目になるかわからない問いを、アーチャーは自分自身に投げかける。
空は蒼穹。抜ける様な青さだ。地面には若葉色の柔らかな草が、爽やかな風に揺れている。まるで絵に描いたかのような、長閑な風景。このまま昼寝でも決め込みたくなるが、そうともいかない事情があった。
問題は、アーチャーの腰に巻き付いている腕。そして、その腕が外れないことだ。
青い武装に包まれたそれは、絶対に離さないとでも言わんばかりにガッチリと腰に回されている。寝ているくせに、少しでも動くと拘束がキツくなる為、迂闊に身動きも取れない。
何がどうして、こうなった?
始まりは些細なことだった。早い話が、レイシフトを失敗したのだ。マスターや他のサーヴァントが無事だったのはいいが、まさか自分を嫌っているランサーと2人で草原に放り出されるとは思ってもみなかった。アーチャーは項垂れる。
しかもその相手が、何故か昼寝しながら腰に手を巻きつけてくるなんて。夢を疑って何度も頰を抓った。手加減無しでやったので、とても痛い。
ーーー夢じゃない。怖ろしい。
いっそのこと、自分も寝てしまおうか。現実逃避しているのは、アーチャーだってわかっている。でも、それくらい現状が苦痛なのを察してほしい。
生前から憧れていた大英雄に、自業自得とはいえ嫌われてしまった冬木の聖杯戦争時のアーチャー。その後何度も顔を合わせても、その度に嫌悪を示してきた彼は、今回の召喚でもやはり同じだった。
仕方がない。分霊の時の記憶は、本体に戻ると記録になって蓄積されるのだから。嫌いな記録もたくさん蓄積されているのだろう。それを恨む気持ちは、アーチャーにはカケラもない。
そもそも近付いてほしくなくて、わざと嫌われるように仕向けてもいたから、本当に自業自得なのだ。
だって、頼り甲斐のある大英雄が側にいたら、頼りたくなる。そうなったらもう、自分が自分でなくなってしまう。弱い守護者など、アラヤはお呼びでない。
守護者として、たくさんの人を守る為に、自分は強くないといけない。それが少数を切り捨て、大多数を助けるやり方だとしても、護れる命が、ある、なら…。
アーチャーが守護者になってからの記憶が、頭を支配する。この手で奪った命のひとつひとつが、鮮明に蘇った。
小を切って大を取る。本当に、その手段しかなかったのだろうか。もっと他に方法があったのではないだろうか。
ぐるぐると回る思考を中断させたのは、小さなくしゃみだった。
見ればランサーが寒そうに身体を縮め、腰に齧りつくように身を寄せている。
「仕方がないな」
暖かい毛布を投影させ、ランサーの身体を覆うように掛けてやる。大判の毛布にしたのは、隙間が開かないように詰めてやる為だ。
寒さから開放されたランサーは、心なしか笑っているように見える。顔の造りが整っていると、寝顔さえも綺麗なのか。
せっかくの機会だからと、アーチャーがじっくり観察していた時、近くで足音が聞こえた。
何の為の鷹の目か。こんなに接近されるまで、気がつかなかったなんて。
気配を殺し、相手の動きを探る。
どうやら1人。足音の軽さから、女性か子供。こちらを警戒している気配はない。…危険度は低そうだ。
ランサーも目を覚まさなかったくらいだ。敵ではないはず。
「あれ?お前誰だ?ここはオレのお気に入りの場所だぞ」
背後の木の陰から顔を出したのは、可愛らしい子供だった。白い肌に青い髪のその子供の容貌は、昼寝中のランサーに酷似している。
まさか、な。
「お前、言葉がわからないのか?そこはオレのお気に入りの場所だから、早くどけよ」
なかなかに横暴なその子供は、顎を動かし、こちらに指示を与える。
顔は可愛いのに、態度は可愛くない。外見にそぐわない言動さえも、眠るランサーとよく似ている。思わず、アーチャーの頬が緩んだ。
「何だ、お前。…もういい。今日はそこ、譲ってやるよ」
そう言うと、子供は少し離れた所に寝転がり、目を閉じた。どうやら昼寝を決め込むらしい。
身体を丸めているのさえもランサーに似ていて、余計なお世話と自覚しつつも、毛布を投影した。
「君、寒くはないかね?」
サーヴァントであるアーチャーには感じない寒さも、少年には堪えるだろうと、声をかけてみた。
「これくらいの寒さ、どうってことない。でもお前のそれ、どこから出した?」
子供らしい好奇心から、少年が近付いてくる。
「あぁ、こうやって、な」
投影した毛布を消して、また現すと、少年の目が輝いた。
「すごいな、どうやったんだ?」
キラキラ輝く顔の少年の背後に、何故だかはち切れんばかりに振れている尻尾が見える気がした。アーチャーは自覚なく笑顔を浮かべていた。
「これは投影魔術といって、物体を分析して投影する魔術だ」
「へぇ。見たことない魔術だ。お前、遠くから来たのか?」
「そうだな。とても遠くから来たんだ」
「だから見たことない髪と肌の色なんだな。白髪だから、最初年寄りかと思った」
悪かったなと笑う顔は、正しくランサーのそれで。アーチャーに向けられたことはなくとも、見かけることのあったそれが、まさか自分に向けられるなんて。
「オレの名前はセタンタだ。お前の名前は?」
「アーチャ…いやエミヤだ。よろしく、セタンタ」
「よろしく、エミヤ!んで、そっちのヤツは?」
「彼はランサーだ。今は疲れて眠っている」
「ふーん。そいつは、エミヤのコレか?」
下世話な顔をして、親指を立てる美少年を、アーチャーは見たくなかった。よくランサーがそんな話をしているのは知っていたが、年端もいかないセタンタがするとダメージが大きい。
「そんなワケあるか。そうだな、同僚といったところだ」
「ただの同僚を、腰に抱きつかせてるのか?奇特な趣味だな」
「好きでしているように見えるかね」
「見える。さっきから世話焼いてるし。大体、嫌ならサッサと突き放すだろ?」
「それはそうだが、恥ずかしながら外れないんだ。彼の方が力が強くてね」
ガッチリ回された腕に、セタンタが真面目に言う。
「やっぱり、こいつエミヤのコレだろ?」
突き出された親指に、アーチャーは脱力する。
「なんでさ…」
「自分のって思ってないなら、こんなにガッチリいかないぞ?もうちょっと遠慮がちになるもんだ」
何故に年端もいかない少年から、そんな言葉が出てくるのか。いや、深くは聞かない方が良いだろう。これ以上のダメージは避けたい。
「良かったな、エミヤ。こいつはお前を誰にも渡したくないんだとさ」
「それはない。彼からは相当に嫌われていてね」
「嫌いなら突き放すって言ったろ。こいつはエミヤが好きなんだよ。誰にも渡したくないくらいにな」
「君は事情を知らないから、そう言うんだろう。彼からは、いつも好戦的な態度しかとられた事がない。よっぽど、目障りなのだろう」
自嘲気味に笑えば、セタンタはふむと考え込んだ。
「お前、人の好意に疎いだろ。優しくするだけが、好意を示す方法じゃないんだぞ?」
「その外見で老成した様な事を言われると、頭が混乱してくるよ」
「茶化すな。その点では、オレの方が経験豊富なんじゃないか?お前の鈍さには驚き通り越したわ」
「何が言いたいのかね」
凡庸は生前から自覚してはいるが、こうも馬鹿にされる程ではないはずだ。アーチャーは少しムッとした。
「いいか、よく聞け。そして肝に銘じろ。お前は自分で思っている以上に、人から好かれてるし、大事に思われてる。お前の名前には、そういった人達の感謝と願いが籠もってる。聞いた瞬間にわかるようなそれを、なんでお前は軽く扱うんだ」
「何を、言っている…」
「お前、英霊だろ。それくらいはわかる。エミヤ、英霊は人の想いで創られるんだ。たくさんの人に愛されて、信仰されて、大事に思われて、英霊は生まれるんだぞ。お前も英霊なら、愛して、大事に思ったたくさんの人達がいたから、生まれたんだろう。自分を卑下する事は、その人達の想いも否定する事になるんだ。そんな権利は、お前に無いんだぞ」
いつの間にか、セタンタの手はアーチャーの頰に添えられていた。目の前には、真剣に輝く赤い瞳がある。
「だから、自分を責めるな。お前のする事は、間違っていない。自分を認めてやれ。英霊エミヤ」
アーチャーの鋼色の瞳から、透明な雫が落ちた。ずいぶんと昔、まだ守られていた時以来流していなかった涙が、頰を伝う。
止めようにも止まらないそれは、なんの感情が籠もっているのか。流し続けるアーチャーにも、わからなかった。
「すぐにとは言わない。ただ、自分を認めてやる努力はしろよ、エミヤ」
笑いを含んだその声は、どこかランサーを思わせた。聖杯戦争の時の彼は、戦闘時以外ではよく笑いながら話していた。
小さな手で、濡れた瞼を閉じられる。
「頭が混乱してるだろ?リセットする為にも、一回寝ろ。今度は自分で考えるんだぞ。そしてオレが言ったこと、絶対に忘れるなよ」
胸が詰まって声が出ないアーチャーは、セタンタの言葉に頷くだけだった。
良しと頭を撫でられて、背後の木にもたれかかる。そのまま、ストンと眠りに落ちた。
簡単には起きない深い眠りを確認すると、セタンタは立ち上がり、大きく伸びをした。
「やれやれ。こいつの頑固さには、本当手を焼くぜ」
みるみる身体は大きくなり、顔の精悍さも増す。青い武装を纏ったその姿は、ランサー・クー・フーリンのものだ。
アーチャーの腰に巻き付いていたランサーは、いつの間にか姿を消していた。残っているのは、ルーン文字が刻まれた小さな石だけだ。
それを回収して、アーチャーの隣に腰を下ろす。
「こいつが対魔力低くて助かったな。幻視がここまで効くなんて、誰が思うよ」
ルーン文字が刻まれた石の効果は幻視。ランサーの姿を幼く見せて、警戒心を解く為に使ったものの、ここまで効果があるとは。
先程まで、アーチャーの腰に巻き付いていた幻のランサーの姿を思い出し、クー・フーリンは苦笑した。
近くにいるだけで良かったのに、まさか抱きつきにいくなんて。なんて素直な自分の分身だろう。
幻視の術の礎と、ランサーが居なくなったら不審なのもあって、ランサー自身の姿を幻影化したのだ。
まさかそれが、目の前であんな事をしでかすなんて思ってもなかった。しかも世話を焼かれて、気にかけてもらってるなんて、羨まし過ぎる。
自分もしたいとアーチャーの腰に手を伸ばしたが、待てよと思い直す。こっちの方が、楽しそうだ。
ニヤリと笑うと、アーチャーの肩を抱き寄せ、自分の膝を枕に横にならせる。いわゆる、膝枕というヤツだ。
ついでに残っていた毛布をかけてやると、アーチャーは安心したように薄く笑った。
「可愛い顔、できるじゃねぇか。いつもそうしてりゃあいいんだよ」
いつも皮肉気に笑い、人を小馬鹿にした態度をとるアーチャーに、ランサーは憤りを感じていた。人から好かれないようにと頑張っているのに、困っている誰かの手助けをせずにはいられないその不器用さが、ランサーにはもどかしかった。もっと、自分を大事にして欲しいと思っていた。
それが嫌悪感と取られていたのは、仕方がないことかもしれないが、なんというか、うん、…ムナシイ。
気をとりなおして膝の上の白い髪を梳いてやると、ますますランサーにすり寄ってきた。まるで猫のようだ。
少しパサついた髪をゆっくりと梳いていると、
『槍ニキ!やっと見つけた〜‼︎無事⁈アーチャーは?アーチャーが応えてくれないんだけど、アーチャーは無事なの⁈』
マスターからの念話が入った。しまった。張っていた結界を、うっかり解いていたらしい。
「しくじったな。もう少し、こうしていたかったんだが」
膝枕で眠るアーチャーを見下ろして、残念そうに呟いた。
『槍ニキ!ねぇ!アーチャーはどうなってるの⁈もうすぐそっちに着くから、お願いだから答えて!』
「連絡が遅れてすまん、マスター。俺もアーチャーも無事だ。2人とも疲れて寝ていたんだ」
『そうなの?良かったぁ。ダヴィンチちゃんが捜索を何かに妨害されてるなんて言ってたから、本気で心配してたんだよ〜』
「そうかい。心配させて悪かったなぁ」
『いいよ。アーチャーは、まだ寝てるの?反応が無いんだけど』
「寝てるな。悪いがマスター、来るときは静かに来てくれ。起こすのは可哀想だからな」
『わかった。じゃ、また後でね』
マスターとの念話が切れると、ランサーはまたアーチャーの髪をゆっくり梳き始めた。
「マスターが今の状態を見たら、なんて言うかな」
ランサーの膝枕で熟睡しているアーチャーのことを、マスターなら喜んでカルデア中に触れ回ってくれるだろう。そうなったら、密かにアーチャーを狙っている輩を牽制できる。
「そうなったら、お前はどんな顔をするかねぇ。楽しみだな、アーチャー」
スヤスヤと眠っているその頰を優しく撫でると、寝顔がフニャリと蕩けた。
ザワリと野性の獣が目を覚ます。ランサーは慌ててそれを抑えた。今はその時じゃない。
マスターが来ないならば、どうなっていたことやら。まさかマスターに、そんな場面を見せるワケにはいかない。ランサーは自分の自制心を褒めてやった。
「今度はセタンタじゃなく、俺に真名を教えろよ?そしたら、寝台の中で呼んでやるからよ」
今すぐにでも喰らいつきたいのをぐっと堪え、ランサーは自身の内なる獣を宥める。
もうすぐ、手に入る。だから待てと。ずっと求めていたそれは、今度こそ手に入るからと。
荒れ狂う衝動に苦笑しながらも、ランサーの心は軽い。
ーーーあぁ、もうすぐ。もうすぐだ。
安らかに眠るアーチャーを眺めながら、ランサーは獰猛に笑うのだった。
〜END〜
Comments
- 悠香December 10, 2016