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The Works "ささやかな願いとその結実について" is tagged "腐向け" and "槍弓".
ささやかな願いとその結実について/Novel by 湊

ささやかな願いとその結実について

6,205 character(s)12 mins

去年の夏頃にエミヤ召喚祈願に書いた短文と、エミヤ召喚御礼に書いた短文が発掘されたので、勿体無い精神でまとめてアップしてみます。
登場人物の発言が色々メタいですが、弊カルデアの話ということでご容赦ください。
明言されていませんが、槍弓+キャス(→影弓)カルデアのつもりで書いてます。

大変お久しぶり、そしてFateジャンルでは初めまして。
FGOからうっかり槍弓にハマり、現在はSNとHAをおおむね履修し終えたばかりの新米です。お手柔らかにお願いします。

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「エミヤが来ない……」
 広い食堂の大きなテーブルに突っ伏し唸る藤丸に、向かいの席でコーヒーを啜っていたキャスターのクー・フーリンが苦笑と共に相槌を打った。
「まぁ、そんだけ喚びかけてるのに召喚に応じねえってのは、たしかにちっと遅ぇよな」
「本当だよ遅いんだよまじでさぁ……うちもう6章だよ……あとちょっとで第一部完走するっての……」
「お前さんはまたそうやって……」
 臆面もなくメタ発言を繰り出す藤丸に、キャスターは更に苦笑を重ねながらマグカップを置く。夕食も終わり人の掃けた食堂に、陶器を置く音は案外響いた。カルデアのロゴマークが入ったそれは、以前何らかの交流会が行われた時に作った粗品の余りだという。人間社会はいつでも細かい根回しが大変だ。尤も、根回す相手も含めて人類みな滅んでいる今になって思えば、それすらも微笑ましい思い出に感じられなくもないが。
 キャスターは目の前の皿に並んだビスケットに手を伸ばした。さくりと香ばしい焼き菓子は、カルデアのキッチンを取り仕切るブーディカが焼いたものだ。
 藤丸がごろりと頭を動かす。橙色がテーブルに広がった。
「ジャガーマンもイシュタルもアサエミも皆揃って待ってるんだけどなぁ、エミヤのこと」
「その面々がちっとばかし物々し過ぎるんじゃねえか」
「やっぱりそれかぁ……」
 依り代にされた者であったり平行世界の者であったり、記憶があるとは限らないが衛宮邸に所縁のあるサーヴァントの名前を挙げた藤丸は、キャスターの言葉に嘆息する。たしかに自分が召喚される前から自分の実家が形成されていたら嫌かもしれない。藤丸だったら嫌だ。
「逆にこれ以上、例えばエミヤオルタとかアルトリアとかが揃う前に、エミヤに来てほしいんだけど……」
「あぁ……それは分かるな」
 キャスターも嘆息する。それはたしかにますます出て来なくなりそうだと、何度も座の記録で見た赤い礼装の姿を思い浮かべる。
「そういえばさぁ」
「うん?」
「キャスニキは、エミヤに会いたくない?」
「……普通そこは『会いたい?』って聞くもんじゃねえのか」
 否定から入る質問に疑問を呈してやれば、藤丸は突っ伏したまま頭だけを動かしてキャスターをまっすぐ見た。
「だってさぁ、キャスニキもクー・フーリンでしょ。槍ニキはなんか特殊台詞で嫌がるって聞いたし」
「お前さんまたそうやってメタ発言を……」
 いつもなら藤丸のメタ発言にツッコミを入れてくれる盾の少女は、もう自室に引っ込んでしまったのかここにはいない。そうなると、この突飛なマスターの突飛な発言にツッコミを入れるのは、キャスターの仕事になる。古参の宿命ということか。
「そうだなぁ……」
 キャスターは腕を組み、天井を見上げる。浮かぶのは赤い礼装の姿ではなく、聖杯の泥に汚染された黒い礼装の姿。燃える冬木の街に倒れ伏した姿。
 いつかここに召喚されるだろうエミヤは、きっとあの時のエミヤとは、違う。
「……会いたくない、ってこたぁねえよ。どっちかといやぁ、会いたい方に入るかな。あいつはオレにとっても腐れ縁だ、味方同士として喚ばれんなら、ゆっくり話してみたくもある。何より、マスターが会いたいと望むんなら、」
 オレも会いたいと望むさ。小さな囁きは、再度口元に運んだマグカップへと落ちた。
「……キャスニキは、何だかんだ私に甘いんだよねぇ。いつも母親のように口うるさいのに」
「誰が母親だ、せめて父親と言え」
「そういう問題なの?」
 昼間、無人島で散々素材集めに興じた後の夜だ、藤丸の声にもキャスターの声にも張りはなく、自然、応酬も緩んだものになる。
 そこに、溌剌とした声が投げかけられた。
「なんだなんだぁ、ダラッとしやがって。シャキッとしな、マスター」
「……槍ニキは元気だねぇ」
 藤丸はテーブルの上で頭だけを動かしてそちらを向き、声の主――ランサーのクー・フーリンを見て嘆息した。ランサーも昼間は無人島を走り回っていたはずなのだが、やたらと元気である。風呂上がりなのか軽装のランサーは、軽い足取りで藤丸たちの方へ寄って来た。
「マスターが元気無さすぎんだよ。お、良いもん食ってんじゃねえか。もらうぜ」
「どーぞどーぞ」
 ビスケットへ伸ばされる手に、キャスターは皿をそっちへ押しやってやる。二、三枚焼き菓子を摘んだ指は、そのまま口元へと運ばれた。
「んで? なーにしょぼくれてんだよ、マスター。ドルイドのオレとお茶会と洒落込むにゃあ、ちっと活気がなさすぎるんじゃねえか?」
「逆に活気溢れるお茶会ってどんなの? ……まぁ別に何があったわけじゃないんだけどさ、エミヤ来ないなぁって話」
「……あぁ、なるほどな、そういうことか」
 ランサーの声は変わらないが、再度ビスケットへ伸びていた手が一瞬だけ止まったのを、キャスターは見ていた。
「まぁ、いずれ来るだろ。そもそもあいつは★4だからな、オレらみてぇにポンポン出るものでもねえ」
「お前までそんなメタ発言をするのか……」
 キャスターが肩を落とす中、藤丸はむくりと体を起こした。
「槍ニキは、エミヤに会いたくない?」
「――――……」
 暫し、さくさく、とビスケットを咀嚼する音が響く。口の中のものを飲み込んで、ランサーは首を傾げた。
「……オレは、どっちでもいい、かな」
 藤丸は目を瞬かせた。
「へぇ、意外。会いたいか、会いたくないか、どっちかハッキリしてるんだと思ってた、槍ニキは」
「マスターが望むんなら喚んだらいいだろ。喚ぼうとして喚べるものじゃねえが」
「問題はそこなんだよね……」
 至極淡々と紡がれるランサーの言葉に、キャスターは微かに眉を顰めた。今や同一ではないが根源を同じくする者として、ランサーの言い方には何か、違和を感じる。
 ランサーがそれを悟られたくないと思っているのも、また、感じた。


 それから明日の素材集めについて軽く話し合い、キャスターは共同浴場へ、ランサーは部屋へと三々五々散っていく流れとなった。
 藤丸もシャワーを浴びて寝る用意をしようと、自室の静脈認証キーに手をかざしたところで、不意に背後から呼び止められた。
「マスター、ちょっといいか」
「……槍ニキ? 部屋に戻ったんじゃ」
 振り返ればそこに立っていたのは先に食堂を出たはずのランサーで、藤丸は首を傾げた。ランサーは軽く周りを見回し、肩を竦める。
「まぁ、ちっと、お前さんにだけ聞いてほしいことがあってな」
「そうなの? 私の部屋でいい?」
「ああ」
 藤丸は解錠し開いた扉の中にランサーを招き入れた。部屋に一つだけ置いてある椅子を勧め、自身はベッドの上に腰掛ける。
「で、聞いてほしいことって、なぁに?」
「あぁ……ちっと、マスターに頼みてえことがあってよ」
「珍しいね、槍ニキが私に頼みたいことなんて。余程の無理難題でなければ聞くよ」
 楽しそうに笑う藤丸に、ランサーも知らず強張っていた表情を和らげる。
「それはありがてぇ。……あのな、マスター。頼みってのは、アーチャーのことなんだが」
「アーチャー……って、エミヤのこと?」
 食堂での会話を思い出し、未だこのカルデアに現れないサーヴァントの名前を挙げて、藤丸は首を傾げた。ランサーは微かに頷く。
「あぁ。なぁマスター、もしあいつが……アーチャーが、いや、エミヤが召喚された時は、真っ先にオレを呼んでくれないか」
「……槍ニキを?」
 逼迫した雰囲気すら滲ませるランサーの声に、藤丸は目を瞬かせる。どうしたことだろう、先程食堂で、エミヤの話題に至極興味なさげにしてみせたランサーとは、まるで別人のようではないか。
 ランサーは真っ直ぐに藤丸を見つめる。橙色の髪、それより少し明るい瞳。いつか何処かで見た色。
 誰かさんが、捨ててしまった、色。

「そう、オレを。プロトのオレでもドルイドのオレでもなく……この、オレを。あいつが……エミヤが、このカルデアで最初に会うサーヴァントに、してくれ」

「…………」
 もはや必死な表情を隠しもしないランサーの懇願に、藤丸は息を呑む。気づいてしまったからだ、ランサーが、エミヤに抱く感情の名に。
 エミヤの“初めて”を望む、その理由に。
「……分かった。エミヤが召喚されたら、誰を差し置いても真っ先に槍ニキを呼ぶ。約束するよ」
「ありがとう……恩に着るぜ、マスター」
 見るからにホッとした様子のランサーに、藤丸も表情を緩める。
「そんな感謝されるほどのことじゃないよ。どの道、新しいサーヴァントが来れば、元からいる誰かにカルデアの案内をお願いしてるんだし。それは頼めるでしょ?」
「勿論だ。お安い御用だね」
 ニカッと笑い、ランサーは軽快に立ち上がった。一つにまとめた髪を翻し、出口へと向かう。
「話ってのはそんだけだ。悪かったな、時間取らせちまって。そんじゃ、また明日」
「うん、また明日。……ねえ、槍ニキ」
「ん?」
 扉の前で、ランサーが振り返る。藤丸は、明るく笑って声を投げかけた。
「槍ニキは、エミヤに会いたくない?」
「――――……」
 先程と寸分違わず発された言葉に、ランサーは目を丸くして、それから藤丸と同じように笑った。
「なぁに言ってんだマスター、会いたいに決まってんだろ! オレがこの世界で一番、あいつに会いたいと思ってるさ!」

Comments

  • ツキ影
    February 24, 2018
  • ハルタ
    February 23, 2018
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