ランサーさんちの酒のアテ
えみやごはんネタ。
料理知識が皆無なのでレシピはそのままお借りしてます。
カルデア時空の槍弓。
誤字発見したので再投稿します
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「うぃーっす」
「なんだねその挨拶は、きちんとこんばんはしたまえ」
軽いノリで食堂に訪れたクーフーリンにエミヤが小さい子供にするように注意するとお前はオレの母ちゃんか、とツッコミが飛んだ。
カルデア食堂は夕食の時間を過ぎ、キャットとブーディカを先に帰したエミヤは片付けをしつつ明日の朝食の仕込みをしていた。
殆どのサーヴァントは自室に戻り、残っているのはエミヤと極少数、食後のおしゃべりを楽しむものが数人。
それらもおしゃべりに夢中なのかこちらを気にするものは1人もいない。
「はいはいコンバンハ。なあアーチャー、つまみのアテねえかな」
「そんなことだろうと思った、酒も程々にしておけよ」
うるせえオレの勝手だろ、と文句を言いつつもカウンター前を陣取ったクーフーリンは食堂の弓兵が頼まれたら断らないことを知っている。
エミヤの頭の中では既に献立が検索されているが、明日の仕込みもひと段落したので仕方ないから何か用意してやるかと自分に一つ言い訳をして彼に返事をした。
「ふう、全く仕方ない奴だ…手伝えランサー」
「おう。…オレにできること、あんのか?」
頭の上にはてなを浮かべる槍兵はもっぱら肉を狩りに行く、魚を焼く、などの野営向きのサーヴァントだ。
が、お世辞にも細かい仕事は向かないケルトの大英雄にだって出来ることはある。
(確か)
この間日本に素材を集めにレイシフトした際ついでにと調達したものがあったはずだ。
エミヤの得意料理は基本和食であるので日本の食材はとても重宝する。
取り出したるはきゅうりと、はんぺん。
おお、とあまり見たことがないのかはんぺんを物珍しげにつつく槍兵を行儀が悪いと注意したエミヤはクーフーリンにてきぱきと指示を出す。
「このはんぺんを半分に切って、真ん中に切れ込みを入れてくれ。ポケットのような感じで」
おう、と素直に返事をした槍兵は槍ではなくその手に包丁を持ってぎこちなくはんぺんを切り始めた。
やわけえ!と驚く声を横目に、エミヤはきゅうりのヘタを取り、塩を振って板ずりをする。
「これなんか入れんのか?」
「ああ、このベーコンとチーズを中に挟んでくれ」
おっかなびっくりはんぺんを切り終わった彼に適当な大きさに切ったベーコンとスライスチーズを渡し、さっき板ずりしたきゅうりを水で洗い流して水分を拭き取る。
終わったぞ、というクーフーリンにエミヤがビニール袋ときゅうりを渡しはんぺんを受け取った。
「そのきゅうりを袋に入れて軽く叩き割ってくれ、加減はしろよ」
「粉々にすんなってことだな、了解」
ごんごんときゅうりを叩き割る音を聴きながらフライパンを取り出し、はんぺんを焼く準備をしていると軽く叩き割ったきゅうりが横からにゅっと出てくる。
次はなにすればいい?と子供が母親を手伝っているかのようにじっと見つめられて思わず少し笑ってしまう。
「あ?んだよ」
「いや何でも。」
訝しげな顔をしたクーフーリンを躱しつつ彼に袋を戻した。
何で戻すんだ、と言いたげな彼にまたエミヤが指示を出す。
「そうしたら食べやすい大きさにきゅうりをちぎってまた袋に入れてくれ。そこに用意してある調味料を全て入れて、よく揉んだら完成だ」
ほー、と言いながら彼は従順に言われた通りに手順をこなす。
その光景を見たエミヤは思わず微笑みながら、油を軽く敷いてフライパンではんぺんを焼く。
丁寧に弱火で両面を焼き上げ、食べやすい大きさに切って粗挽き胡椒を振れば。
「完成だ」
皿に盛り付け満足げに見つめたエミヤに、ごま油の匂いがほのかに香りこれでいいのか?と彼が袋を差し出してくる。
上出来だ、と褒めてやるとやはり彼は子供のように胸を張って鼻を鳴らした。
今度こそ噴き出してしまいクーフーリンが不満そうな顔をしたが、手早く作業に戻って有耶無耶にする。
きゅうりを皿に移して、先に出来ていたはんぺんと並べれば立派な夜の酒のお供だ。
ケルトの飲み会は人数が多いと見越して出来上がった皿も多い。
私も一緒に行こう、と半分の皿を彼に預けると彼がからりとした笑顔で笑いかけてくる。
「さんきゅーアーチャー!あ、味見していいか?」
「全く君は…一口だけだぞ」
やりぃ、と朗らかに笑った彼がぼこぼこのきゅうりを一口平らげた。
うめえ!と素直な感想を聞くと大した手間ではないが作ったこちらとしても嬉しいものだ。
「………」
「?ランサー?」
つまみを持って行こうと食堂を出ようとした先で突如黙り込んでしまったクーフーリンを見咎めてエミヤが声を掛ける。
神妙な顔つきの彼は頭を捻ってなにやら考え込んでいるようだ。
「なあ、アーチャー」
「?」
ぱっと顔を上げたクーフーリンがエミヤの顔をじっと見つめた。
食堂にいるエミヤはいつもの赤い外套を付けておらず、髪も下りておりどこか幼さが抜けない。
その顔を以前にもどこかで見たような…
「オレさ、これ前にも食ったことあるっけ」
「ーーー、…さてね」
少しの間を開けた後、エミヤは意味深に笑うと答えをはぐらかした。
こういう時こいつは何を聞いてもきっと応えないだろう、今までもそうだった。
早く行くぞ、とつまみを持ったままくるりと向いた後ろ姿を釈然としないまま見つめて、しかし深く考えることを良しとしない彼はまあいいかと早々に追及することをやめた。
エミヤの背中をクーフーリンは足早に追いかける。
彼の背中に一瞬何かが重なって、ちらついた赤橙色の残像の正体を槍兵が知ることになるのは、そう遠くない未来の話。