似姿
メイヴちゃんと狂王さまと赤い弓兵。
どう見ても似てると思うんですけど。クーちゃんと、あれとかそれとか。
特にどうこう発展する予定はありませんが、当製造ラインでは槍弓っぽいものを生産することもあるので、それっぽい気配はあるかもしれません。
- 70
- 59
- 3,647
1 ゴジラ
一体どこに所蔵されていたのか。
「クーちゃんみたい」
カルデアの何処かから見つけ出してきたゴジラのぬいぐるみを胸に抱いて、そう女王メイヴはのたまった。
「あー、うん、そうだね」
あ、言っちゃった。
いいのかな? と分かりやすく顔に書いて、マスターが頷いた。
おおむねそれはカルデアに召喚されているサーヴァント達の共通感想であった。
言われた当人は、己が名を呼ばれたことにほんの僅かにだけ視線を向け、一瞬で興味を失ったようだった。
あまり似ていないだろう、とアーチャーは他のサーヴァントとは異なる感想を抱いた。
いつかどこかの時空に生きていた衛宮士郎少年は、特に特撮映画好きというわけではなかったが、昭和の初代ゴジラと平成ゴジラとハリウッドゴジラの違いくらいは、一目瞭然で区別が出来るほどには記憶のよい普通の日本の男子小学生だったので、メイヴの腕の中のふかふかのぬいぐるみを見ても、平成ゴジラだとしか思わなかったし、それがクー・フーリン オルタ、狂王と呼ばれるバーサーカーのクーフーリンとそれほど似ているとは思えなかった。
「聞いてよ、クーちゃん」
今日もメイヴは、胸に抱いたお気に入りのゴジラのぬいぐるみに、嬉々として話しかけている。
一つ隣のテーブルでは、黙々と狂王が砂糖入りコーヒーを啜っている。黒くて苦くて甘くて香ばしい嗜好品を、彼は存外気に入っているらしい。
どうせ本人に話しかけてもろくに返事は返ってこないので、ぬいぐるみに話しかけても大差はない、というのがメイヴの言い分だ。
「私にはあまり似ているようには思えないがね」
メイヴには砂糖たっぷりのミルクティーを淹れてやったついでに、ちらりとぬいぐるみと狂王を見比べて、アーチャーは控えめに異を唱えてみる。
「どうして?」
「まず尻尾の棘のつき方が違う」
そのぬいぐるみのゴジラの棘は上一列に並んでいるが、クーフーリンの棘は上下に二つの一対になっている、とアーチャーは続ける。
あー、これはオタク体質だな、と聖杯の知識によってメイヴは理解する。
面倒くさい。
「じゃあ、もっとクーちゃんに似せて」
はい、とぬいぐるみをアーチャーの腕の中に移動させる。
「出来るでしょ?」
「……まぁ、出来ないことはないが、しかし……」
よろしくね、とゴジラをアーチャーに押し付けて、メイヴはクーフーリンの隣へと移動した。
しばらくはぬいぐるみの代わりに、本物に話しかけることにしたらしい。
本末転倒もいいところだ。
「ふむ」
裁縫は別に得意ではない。
だが、得意ではないことと出来ないことも、等しくはない。
ぬいぐるみの太くて単純な尻尾を、より彼のものに似せて、細く、長く。
増えた縫い目が関節となって、より彼の尻尾に近づいた。
味気ない灰黒色一色だったのに、赤の飾り紐で縫い取りをして彼の模様に似せてはみる。
が。
所詮、ゴジラはゴジラ。
尻尾を似せたところで、上半身は如何ともしがたく。
「……似てなどいないがな」
歪められて、なお。
アーチャーを射抜く、あの赤い神性のまなざしに。
似姿など、不可能だというのに。
「ありがと、アーちゃん」
上機嫌に、メイヴはアーチャーの手からぬいぐるみを受け取る。
「大事にしたまえ」
「はぁい」
カルデアのおかんはこんな時にもおかんで、メイヴもまた幼女のごとく愛らしく頷いて受け取った。
「はい」
「は?」
「……」
ずい、と背中を押された狂王は、僅かに顰め面。
「一緒にお茶をしましょう」
そうメイヴは笑った。