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虚偽報告を理由する懲戒解雇の有効性(令和元年12月25日広島地裁)

概要

市立大学の准教授であった原告が、大学の学外長期研修制度により英国ケンブリッジ大学で研修する計画であったにもかかわらず、実際には一度も英国へ渡航せず、主として韓国に滞在していた。原告は、大学から研修状況の確認を受けた際、英国に滞在していたと虚偽報告を続け、偽造したパスポート写し、出入国記録証明書、研究者書簡、搭乗券半券などを提出し、さらに英国往復旅費約34万円を不正受給していました。大学はこれらを理由に懲戒解雇としましたが、原告は、制度をサバティカルと誤解していたこと、日本語理解が不十分だったこと、所長の了承があったと認識していたことなどを主張して、解雇無効と未払賃金等を請求しました。

結論

棄却

要旨

裁判所は、大学が行った懲戒解雇を有効と判断し、原告の地位確認請求および賃金請求をいずれも棄却しました。原告の行為が就業規則上の懲戒事由に明確に該当し、その内容・態様からみて懲戒解雇という最も重い処分を選択したことにも合理性があるか、すなわち労働契約法15条のいう懲戒権濫用に当たるかどうかという点にありました。

裁判所は、原告が学外長期研修制度に基づき、英国ケンブリッジ大学を研修拠点として届け出ていたにもかかわらず、実際には一度も英国へ渡航せず、長期間にわたり韓国に滞在していた事実を重く見ました。この制度は、単なる自由な研究休暇ではなく、あらかじめ承認された研修計画に従い、定められた研修拠点で研究に専念することを前提とする制度であり、計画変更には事前の届出が必要でした。裁判所は、原告が制度をサバティカル(使途を特定しない長期休暇)のようなものと誤解していた、日本語能力が十分でなく規程を理解できなかった、という弁解を退けています。理由として、原告は募集メールを受け取った後に日本語で質問をし、不足書類の送付を求め、自ら日本語で申請書を作成し、職員の指摘を受けて修正までしていたのであって、制度内容や変更手続を理解し得たと認定しました。したがって、英国以外で研究するには変更申請が必要であることを知らなかったとはいえないと判断しています。

裁判所が特に重大視したのは、その後の虚偽報告と隠蔽行為です。原告は大学から所在確認や旅程の報告を求められた際、英国に滞在していた旨の説明を続け、旅程表の内容もその趣旨に沿うよう提出していました。そのうえ、調査段階では、英国の出入国スタンプがあるように見せかけたパスポートの写し、韓国の出入国記録証明書、ケンブリッジ大学教授名義の書簡、旅費精算のための搭乗券半券の写しなどを偽造して提出しており、単なる申請ミスや説明不足の域を大きく超えると見ています。裁判所は、原告が「大学の調査が不公平だった」「所長を守るためだった」などと主張しても、それによって公文書等の偽造や継続的な虚偽報告が正当化されることはないと明確に述べました。むしろ、英国に渡航していなかった事実を隠し、処分を免れ又は軽くしようとして意図的に偽造・虚偽説明に及んだとみるのが自然であると評価しています。

旅費約34万円の不正受給についても、原告は金員を得る目的ではなかった、振込自体を認識していなかったなどと主張しましたが、裁判所はこれを採用しませんでした。虚偽の書類に基づいて旅費を申請すれば、大学から旅費が支払われることは当然認識可能であり、不正受給の事実は明白であると判断しました。結果として、原告の一連の行為は、大学の就業規則上の誠実義務、職務専念義務、上司命令遵守義務、信用失墜行為禁止等に違反し、法人に損害を与え、信用を著しく傷つけたものとして、懲戒事由に該当するとされました。

裁判所は、原告に一定の研究成果があったことや、過去に懲戒歴がなかったことも一応は考慮しています。しかし、それでもなお、研修制度の根幹を逸脱して無断で別国に滞在したことに加え、大学の調査に対して長期間にわたり虚偽報告を重ね、複数の文書を偽造し、旅費まで不正に受給したという一連の経過は極めて悪質であるとみました。比較対象として示された他の不正受給事案よりも、本件は調査の進行中になお隠蔽と偽装を継続した点で悪質性が高いとも判断しています。さらに、刑事告訴にまで発展し、不起訴で終わったとしても大学の信用低下は大きかったことも重視しました。

そのため裁判所は、本件懲戒解雇には客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当性を欠くとはいえず、懲戒権の濫用には当たらないと結論づけました。したがって、原告は労働契約上の地位を失い、解雇後の給与や期末手当の請求も前提を欠くとして、請求はすべて退けられました。総じて本判決は、研究者として一定の成果があったとしても、大学の承認制度を逸脱し、発覚後に継続的な虚偽説明・文書偽造・不正受給に及んだ場合には、大学組織に対する信頼侵害は重大であり、懲戒解雇もやむを得ないとしたものといえます。

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