イラン情勢だけではない、日本の株式市場にも忍び寄る「もう一つの危機」
世界の株式市場ではいま、イラン情勢によるエネルギー価格の高騰が大きな懸念材料になっている。だが、その陰で静かに広がりつつあるもう一つのリスクがある。それが、急成長してきた「プライベートクレジット」市場の揺らぎだ。 【画像】もう一つの余波 プライベートクレジット市場は約2兆ドル(約300兆円)規模とされ、銀行の代わりに、投資会社が企業に融資する仕組みとして、ここ10年で急拡大した。その象徴的な企業の一つが米国の投資会社ブルーアウルだ。 そしていま、このブルーアウルの資金流出問題が、ウォール街全体、ひいては世界の金融市場に波紋を広げている。
急成長した「銀行の代わり」
プライベートクレジットとは、簡単に言えば「銀行ではなく、投資ファンドが企業に貸し出すお金」のことだ。2008年の金融危機以降、銀行は規制強化によってリスクの高い融資を避けるようになった。そこで空いた市場に入り込んだのが投資会社だった。 たとえばベンチャー企業の買収資金や、新興企業の成長資金など、本来なら銀行が貸し渋るような案件に資金を供給する。投資家から見れば、株よりも安定した高い利回りが期待できる魅力的な商品だった。 この分野で急成長したのが、2021年に誕生したブルーアウルだ。同社の資産規模は約3000億ドル(約45兆円)。富裕層向けの投資商品を積極的に販売し、設立からわずか数年でウォール街の新星として注目を集めた。 実際、同社の資産は設立から5年で6倍以上に膨らんだ。プライベートクレジットブームの最大の受益者の一つだったと言えると英「フィナンシャル・タイムズ」紙は報じた。
富裕層マネーの「出口問題」
だが、その成長モデルにいま疑問符が付いている問題の中心は、個人投資家向けのファンド「OBDC II」だ。 このファンドは2017年に設立され、四半期ごとに投資家が資金を引き出せる仕組みを採用していた。いわば「いつでも換金できる投資商品」のように見える設計だ。 しかし、実際の投資先は非公開企業向けの融資だ。株式のように市場で簡単に売れる資産ではない。 つまり、投資家はすぐにお金を引き出せるが、ファンドの資産はすぐに売れないことを意味する。この構造は、平時には問題にならない。新しい資金が流入すれば、引き出しにも対応できるからだ。 だが2025年後半、状況は変わったとフィナンシャル・タイムズは解説する。投資家の間で、資金の引き出しの動きが急増したのだ。 理由はいくつか考えられる。金利の低下で利回りが下がる懸念や、企業倒産が増加したことによる不安の増大、AIの出現によってソフトウェア企業の収益性への不安が台頭したことなどが挙げられる。 特にAIの影響は深刻だった。プライベートクレジットはIT企業への融資が多く、AI革命によって将来の収益が読みにくくなったからだ。 資金流出に直面したブルーアウルは、ファンドの統合などを検討したが、投資家の反発を受けて撤回。最終的には、ファンドの償還(資金引き出し)を停止し、段階的に清算するという決断を迫られた。
「見えない金融危機」の始まりか
ブルーアウルの問題が注目される理由は、それが単なる一社の問題ではないからだ。同じ構造のファンドはウォール街全体に広がっているとフィナンシャル・タイムズは指摘する。
COURRiER Japon