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信頼の采配者・栗山英樹――「史上最強」侍ジャパンの金字塔

野球評論家/著作家

今年開催されているWBCも大きな盛り上がりを見せている。監督である井端弘和が率いる日本代表「侍ジャパン」は、一次ラウンドを首位通過で準々決勝進出を決めた。短期決戦の国際大会では、わずかな判断や采配が試合の流れを大きく左右する。その意味で、監督という存在がチームの運命を左右することを改めて感じさせる大会となっている。

プロ野球の世界を振り返ってみても、チームの強さは監督のマネジメントと深く結びついてきた。2009年WBCで指揮を執った原辰徳をはじめ、落合博満、岡田彰布、伊東勤、栗山英樹、緒方孝市、工藤公康、辻発彦、中嶋聡、高津臣吾、新庄剛志、小久保裕紀、阿部慎之助……。

彼らは「頑固と柔軟」「安定と挑戦」「温情と冷徹」といった一見相反する問いに、どのように向き合ってきたのか。マネジメントのスタイルは、時代の変化とともにどのように進化してきたのか。そして、強いチームをつくる“普遍的な原理”は存在するのか。

こうした問いに向き合い、分析を試みたのが、新刊『マネジメント術で読むプロ野球監督論』(光文社新書)だ。本記事では、反響を受けて発売前重版が決まった本書の一部を抜粋・再構成し、采配や言葉を読み解きながら、勝てるチームはどのようにプランニングされているのか、短期決戦と長期戦で求められるマネジメントの違いを提示する。

前回大会は世界一になった日本だが、そのチームの監督は栗山英樹だった。日本代表は21年に東京五輪で金メダルを獲得したが、稲葉篤紀が任期満了で退任。後任を栗山が担った。代表でも日本ハム時代の白井や吉井が参謀役として選ばれ、マネジメントは栗山、戦略は白井、投手運用は吉井と役割を明確にした。

 23年のWBC日本代表は、大会前から投打にわたって歴代最強のメンバーといわれ、注目度は非常に高く、チケットは即完売。これまで以上に優勝が期待される大会となった。

 栗山は限られた準備期間でチームビルディングとモチベーション向上に努め、大会直前キャンプではメジャー組の参加が遅れる中でも共通の目標に向けた一体感を醸成した。メジャー経験を持つラーズ・ヌートバーについても事前に能力だけでなく人柄やチーム適応力を調査し、ムードメーカーとなることを見越して選出。チーム最年長のダルビッシュがキャンプ初日から合流し、自ら積極的に若手や中堅選手に助言やコミュニケーションを取るなど、精神的支柱となる。栗山はあえて前面に出すぎず、ダルビッシュや大谷といった主力選手がチーム内でリーダーシップを発揮した。

 戦術面に目を向けると、スモールベースボールからの脱却が顕著だった。日本代表は伝統的にバントや機動力を重視する傾向にあったが、今大会では強打による得点力重視のオフェンスを展開した。事実、歴代大会で日本代表が試みた犠打の数は9回、7回、6回、9回と推移していたが、23年大会ではわずか3回。その中でも、終盤の勝負どころで実行された犠打は準決勝・メキシコ戦8回の源田壮亮によるものだけで、あとの2回はリードした状況だった。

 当初は1番ヌートバー、2番大谷、3番鈴木、4番村上宗隆という強力打線を描いていたが、鈴木の離脱によりプランを修正。大谷を3番に回し、2番には選球眼とコンタクト力があり出塁が見込める近藤健介を起用した。栗山は近藤を鍵になる選手と評価していたが、実際に近藤は全試合で高出塁率を記録し、ヌートバーとのコンビでチャンスを量産した。

 基本方針は強打だったが、状況次第では小技も辞さず、臨機応変に勝利への執念を見せた。準々決勝のイタリア戦では0対0の均衡を破るため、大谷が極端なシフトを逆手にとったセーフティバントを敢行し、先制点の足がかりをつくった。また準決勝のメキシコ戦の終盤には、無死一、二塁の好機で源田に執拗にバントを命じ、ファウル2本失敗後の3球目で成功する。走者を二、三塁に送ってから代打山川穂高の犠牲フライで重要な追撃点を挙げた。

 一方、この大会を象徴するシーンが同じメキシコ戦の9回裏、スランプの村上に託した決断だろう。過去の日本代表監督ならこのタイミングでバントを指示することも考えられたが、栗山は「ムネ(村上)、お前に任せた」と送り出し、村上は期待に応えてサヨナラ打を放った。栗山自身「歴代の監督なら代打やバントを考えたかもしれないが、自分は違う選択をした」と語っている。その背景には「最後はお前(村上)のバットで勝つんだ」と大会期間中ずっと村上に声をかけ続けた信頼がある。栗山は「彼を信じる気持ちは揺るぎない。ずっと『最後はお前で勝つ』と言ってきた」と語っており、選手の潜在能力を信じて辛抱強く起用し続けるマネジメントが結実したのである。

 一方、「史上最強」と謳われた豪華投手陣をいかに運用するかも栗山や吉井の腕の見せどころとなった。一次ラウンドでは全投手を積極的に起用し、それぞれの調子や適性を見極めた。「投手は3~4回で限界が来る。次の投手を準備させる必要がある」と大会後に語ったように、調子や球数制限を踏まえ、中継ぎを投入するタイミングを計っていた。負ければ終わりのトーナメントに入ってからは攻めの姿勢を強め、実績のある投手と若手をうまく織り交ぜ、相手打線に的を絞らせない継投を見せた。

 特筆すべきは決勝のアメリカ戦だ。準決勝までにエース格の大谷・佐々木朗希・山本由伸を投入しており、中1~2日で迎えた決勝は事実上のブルペンデーとして全員野球で挑む。この大会では中継ぎだった今永昇太を先発起用し、戸郷、髙橋宏斗、伊藤、大勢、ダルビッシュと1~2イニング刻みの継投で次々と投手を投入。9回は満を持して大谷をクローザー起用し、マイク・トラウトとの頂上対決を三振で締めて優勝した。この継投策は、日本ハム時代の2016年のポストシーズンを想起させる。次々と投手をつぎ込んで相手強力打線に付け入る隙を与えない、見事な用兵だった。

 WBCの優勝は、大谷という稀代のスターの存在もさることながら、栗山の卓越したマネジメントと采配なくしては成し得なかったといえる。

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野球評論家/著作家

野球評論家・著作家。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『戦略で読む高校野球』(集英社新書)などがある。連載実績として「ゴジキの巨人軍解体新書」「データで読む高校野球2022」「ゴジキの新・野球論」などを担当し、現在はサイゾーオンラインにて「ゴジキの野球戦術ちゃんねる」を連載中。週刊プレイボーイ、スポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、集英社オンライン、現代ビジネスなど各種メディアでの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュースの公式オーサーにも選出されている。『データで読む甲子園の怪物たち』(集英社新書)や最新刊の『マネジメント術で読むプロ野球監督論 』(光文社新書)は発売前重版を記録。

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