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ごはんの時間/Novel by 凍護@コメント嬉しい

ごはんの時間

4,674 character(s)9 mins

衛宮さんち時空の槍弓、アーチャーがランサーを好きすぎた話/衛宮さんちのアジご飯が可愛くてつい

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既に人っ子一人いない夜道をゆっくりゆっくり踏みしめて歩く。愛しい者が住むアパートへの道、普段なら勝手に早足になってしまうのが常なのだが今日ばかりは足が重い。
うまい飯とうまい酒で膨れた腹、いじりがいのあるメンバーにいい話し相手を加えて日もとっぷり暮れてしまった事に気づいたのはいつだったか。
昼頃釣り場で顔を合わせた赤い弓兵と交わした言葉がランサーの肩へ重くのしかかる。新鮮なアジを手に入れて、早速マスターへ振舞おうとした去り際。
『ついでに君の夕飯もアジにしよう、夕飯時までには戻ってくるんだな』と言って自前のバケツの水をゴキゲンにチャプチャプ揺らして帰って行ったアーチャーのすぐ後に、当のマスターの少女とその連れ合いがランサーを訪ねに来たのだ。

もちろんアーチャーの事は忘れていなかった、忘れてはいなかったがつい時間を忘れてしまったのだ、衛宮邸へ行ったのもなめろうという初めて聞く料理に興味が湧いてちょっとつまみに行くだけだったのだ、間違ってもそこで夕飯を終えようとは思ってなかった…
言い訳を心の中でぐるぐる回していたランサーは顔を上げ、目的地の部屋の明かりが今もこうこうと点いている窓を見て腹をくくった。
「ただいま」
貰った合鍵でドアを開け、耳をすませる。
家は静まり返っており、ドアの開く音に反応して遅い!とアーチャーがつかつか向かってくるとばかり思っていたランサーは拍子抜けした。
なんとなくドカドカ足音を立てるのもはばかられ、靴を脱ぎそのまま抜き足差足で居間へと向かう。そっと居間を覗いたランサーはソファの上で横になっているアーチャーを見つけた。
待ちくたびれて寝てしまったのか…と思うのもつかの間、あのしっかり者のアーチャーが電気をつけっぱなしにして寝ている違和感がそれを破壊する。
居間続きのキッチンへ目を向けてみればフライパンになみなみと張られた油の池、シンクには小麦粉とパン粉が並んでいるが見えた。
料理に対してこだわりの強いアーチャーはパン粉をパンから自ら引いて作っている。それらが準備されているということは、ランサーが帰ってきたらすぐに料理が完成するようギリギリまで下ごしらえを済ませていたのだろう。
ズキッと痛む罪悪感に胸を抑え、アーチャーが眠るソファに近づいたランサーは爪先にコツリと当たるガラス瓶へ視線を落とす。
持ち上げてみればそれは以前ランサーが持ち込んだ蜂蜜酒、ランサーがアイルランド出身と聞いた酒屋の者から商店街繋がりで貰ったものだ。
なるほど、これで全ての謎が解けた。料理の準備を万端にして待っていたアーチャーは、いくら待てども帰ってこない自分に業を煮やし、苛立ち紛れにこれを飲んでしまったのか。
蜂蜜酒は飲みあたりの軽さに反してアルコール度数が高い。甘さに騙されて1杯、また1杯と進めていくうちに潰れてしまったのだろう。
すぅすぅと寝息を立てる赤らんだ褐色の肌に苦笑したランサーがアーチャーの傍らへ膝をつき、裁かれる罪人のように息を呑むと不貞腐れた背中を揺らした。
「アーチャーさーん…」
瞬間パチリと開く鋼色の瞳、すぐに体を起こしたアーチャーは傍らのランサーへじろりとおぼろげな目を向けて壁にかけられた時計を見上げた。
「…今何時だ?」
「…23時、です」
「君の時間感覚では23時は夕飯時、という扱いになるのだな。なるほど、アイルランドの大英雄様には時差があるのか、それならば仕方の無いことだよな?ランサー」
つらつらと淀みなく流れる皮肉にランサーの肩が二段階下がったところで、酔いが覚めやぬともまだまだ怒りの炎は微塵も沈下していなかったアーチャーにランサーは深々と頭を下げた。
「その節は誠に申し訳ゴザイマセンでした!!坊主の飯食った後すぐに帰ろうとしたんだよ!したんだが、あのタイガの姉ちゃんに捕まっちまってよ!酒を勧められれば断れなくてだな!!…アーチャー?」
恐る恐る顔を上げてみたランサーに向かって、顔はまだむすくれたままのアーチャーが無言で両手を伸ばす。
導き出される要求に乗っていいものなのか、場の空気を読み二の足を踏むランサーへアーチャーが唇を尖らせると催促するように伸ばした両手を揺らす。
「ん…」
「失礼シマス」
驚きながらランサーがアーチャーの脇の下へ慌てて手を入れ、一息で持ち上げた。
どうやらそれは正解だったようで、ぎゅっと首の後ろで力を込められる褐色の腕に脳天気な本能は有頂天となる。だがまだまだアーチャーのご機嫌は斜めのまま、たくましい筋肉に覆われた体も軽々抱き上げたランサーはひとまずソファへ腰掛けた。

膝の上に乗った重みのある感触に愛しさが煽られる。
これは許されたのか、欲望に従っていいのか…予測不可能な酔っ払いに翻弄されるランサーはもぞりと腕の中で身じろぐアーチャーに瞳を丸くさせた。
酒気にとろりと酔った銀色の瞳は愛しく、密着してくる体は人肌を超えてより熱を帯びている。
思わず息を呑むほど愛らしい酔ったアーチャーの顔にランサーが虚を突かれていると、おもむろにアーチャーは顔を近づけてくる。
「アーッぐえ!?」
甘えたの満漢全席に攻めあぐねていた迷いは彼方へ吹き飛ぶ、ここまで求められて応えられんのは男じゃねぇ!とばかりにアーチャーの唇へかぶりつこうとした顔は瞬間褐色の手にがしりと掴まれた。
ミシッと骨が軋む音に硬直したランサーの口元へ顔を寄せたアーチャーは、予期していたキスではなく鼻を寄せて口元を嗅ぐ。
すんすんと鼻の音を鳴らしたアーチャーは顔を上げると眉間にシワを寄せ、唸るように顔をしかめた。
「魚、生姜、味噌……なめろうか」
「…正解です」
「ほぅ…衛宮士郎の料理は食えて私のアジフライは食べる価値がないというんだな」
許されるだなんてとんでもない、アーチャーの怒りは絶賛炎上中だ。
冷ややかに細められた瞳で、一瞬に顔の色を失くしたランサーはアーチャーを膝に乗せたまま急いで立ち上がる。
「だぁぁぁ食べます!今すぐ食います!!」
「…別にいいさ。時間も遅い、今食べては胃腸に悪いぞ。何より無理に食べさせては申し訳ないからな」
しかしアーチャーはランサーの肩に頬をつけ、先に怒りの矛を収めようとする。
これならいっそなじられた方がまだマシだ。酔っ払ってもこちらを気遣おうとする意図が見え隠れするお人好しに唇を噛み、ランサーは仕方なく居間から寝室へ向かった。
アーチャーを抱いたまま足で起用に布団を広げ、シーツに腰を下ろす。薄暗い部屋に眠気を呼び起こされたのか、欠伸をくぁっとしたアーチャーはランサーの体から降りようとする。
しかしその前に、突然ランサーの両頬を指で摘むと互いの息が混じり合うほど近くで憎々しげに口を開いた。
「ムカつく」
「…ああ、だよな。本当に悪かったな、アー…」
「おのれ!衛宮士郎め…!!」
「はぁ!?なんでここで坊主が出てくるんだ?」
罪悪感の念で焼かれそうになったランサーは突然変わった怒りの矛先に素っ頓狂な声を上げる。
しかしそこがアーチャーの限界だったようで、体はずるずるとずり落ちて緩慢に布団へくるまってしまった。


翌日、アーチャーの隣でそのまま眠りに落ちたランサーは隣の動く気配に目を開けた。
するとそこには神妙な顔で正座したアーチャーが俯いており、言わずとも昨夜の酔っ払った自分への反省が伺えた。
「昨夜は君に迷惑をかけてしまったようだ…」
「ちなみに記憶はあるのか?」
「…ほとんど無い」
「なるほどな」
すりっと自身の顎をさすったランサーはガバッと体を起こすと、いまだ正座を崩さないアーチャーを見つめる。
ここまで縮こまることはなかろうに、昨夜は約束を破った自分がほぼ100%悪い。真面目な奴め…と小さく呟いたランサーはあぐらの上に肘をついた。
「君の物にまで手を出してしまった挙句、絡み酒とは…呆れて物も言えん」
「気にするな、あれも酒屋のおっちゃんに貰ったものだからよ!それに俺としちゃお前の本音が聞けて嬉しかったぜ」
「本音…?」
きょとんと首を傾げるクリアな瞳に口角を上げ、ランサーはじりっとアーチャーへにじり寄った。
普段から抑えすぎの気がある弓兵のことだ、もっともっと子供のように感情をあらわにして怒り喚けばいい。その点昨夜の事はランサーの気に障るどころか、むしろ物足りなかったくらいである。
それと同時にランサーの頭を占めるのは突然士郎に怒りを向けたアーチャーのこと、あの口ぶりからアーチャーが怒ってる理由は決して帰りが遅かった事だけではないと推測していた。
「なぁアーチャー、どうして俺が他所で飯食うのが嫌なんだ?」
「そんなことは無い。昨日は君が約束を破ったから少々頭にきただけで…」
「『ムカつく』ってその事か?」
「ぐ…っ!」
素知らぬ顔でとぼけようとしたアーチャーは真っ直ぐに本丸を突かれ、声をつまらせる。
顔を上気させてぶるぶると震えるアーチャーの肩をしっかりとつかみ、赤い瞳で逃さんというランサーはわざとらしく微笑むと首を傾げた。
「坊主に向かって『おのれ…!』とかなんとか言ってたぜ。もう観念して吐いちまえよ」
ランサーの言ったことが決定打となり、アーチャーの用意しようとした言い逃れは全て崩れ去ってしまったようだ。
ぱくぱくと口を開閉させたが、退路を立たれてもなお追い詰めようとする猟犬に諦めたアーチャーは、膝の上でキツく拳を握りしめて深く息を吐き出した。
「…っ、食事とは体を作る元だろう。たとえサーヴァントといえど、食事をするならこのような錯覚を感じてしまってだな」
「ああ。それで?」
言葉尻を濁したアーチャーは続きを催促するランサーにぐっと一瞬詰まると、とうとう観念して口を開いた。
「…くっ、一度しか言わんぞ!君の食事を毎食作っていた事で君の体へ独占欲のようなものを勝手に感じて、呆れたことに衛宮士郎へ嫉妬した愚か者なんだよ!私は!」
自身でも恥じて絶対に言うまいと決めていたことを、追い詰められた末にアーチャーは逆ギレするように吐き出した。
驚きに丸くなるランサーの瞳に顔をさらに赤くさせ、握った拳へ視線を落としたアーチャーはなんと子供じみた考えを持っていたのだろうと自身を嗤う。
「…存分に笑え。人間相手でも馬鹿げた発想だというのにそれをサーヴァント相手にするとは、愚かさもここに極まれりという所だ」
「…いや、どこが愚かなんだ?俺は嬉しいぜ」
しかしそっと顔を上げさせた手つきはどこまでも優しく、そしてアーチャーの瞳には視界いっぱいに嬉しそうなでれっと緩んだランサーの顔が広がっていた。
「お前が嫉妬してくれてたとはな。ったくかわいい奴め!」
「…うるさい。満足したら離れろ、たわけ。朝食にするぞ」
「おう!」
ぐりぐりと撫でる時も顔の締まりは戻らず、今にも意志を持ってぶんぶん振られそうな青髪を握って制したアーチャーは今日の朝食を作るため腰を上げた。


おまけ、空っぽの蜂蜜酒
「お前酒弱いのによくこれ全部飲んだよな」
「意外と美味しくてな。あと君が飲んでいたものだと思うとついつい止まらなくて…」
「お前いい加減にしろよ!俺を殺す気か!!」

Comments

  • そー
    October 1, 2017
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