月曜日は燃えるゴミの日である。眠い目を擦りながらゴミを捨てるのが俺の日課だ。
俺は都内の大学に通う大学2回生で、大学から1駅ほど離れた場所にあるアパートに住んでいる。
「おはようございます、先輩。」
「ああ、おはよう。橘さん。」
彼女は同じアパート隣に住んでいるお隣さんだ。名前は橘 未来 同じ学科の1つ下の後輩で、今年の4月に田舎から上京してきて僕の隣の部屋に住んでいる。肩までのサラサラの黒髪が特徴の大人しい性格の女の子だ。
最初は軽く挨拶するだけの関係だったが、同じ学部の先輩後輩ということもあり段々と仲良くなっていった。仲良くなってからは作り過ぎたおかずをお裾分けするなど、絵に描いたようなご近所付き合いをしていた。
月曜はお互い1限から授業があるため大抵一緒に登校している。その際にお隣さんの授業の相談だったり、たわいもない話をしながら登校しているのだ。
「そうだ先輩、先輩どこか美味しいご飯屋さん知りませんか?友達にご飯誘われたんですけど、私まだここら辺のお店知らなくて…」
「美味しいご飯か…一緒に行く友達は男の子?」
「はい、男性なんですけどどうしてですか?」
「いやね、男の人だとガッツリ食べれたりするのがいいのかなって。」
「そういうことですか。大丈夫ですよ軽くお茶するだけです。」
「そうか、なら駅裏のカフェがいいかもね。行ったことある?」
「ないです。教えてください。」
「えっとさここなんだけどさ、ご飯も美味しくて男の人も満足できると思うよ。」
スマホを取り出し場所を教えてあげる。
「ありがとうございます。先輩はなんでも知っていますね。頼り甲斐のあるお兄ちゃんみたいです。」
「お兄ちゃんか、僕の実家の家の妹も橘さんみたいに素直だったらいいのに。」
「先輩妹さんがいらっしゃるんですね。私の妹たちもヤンチャですごく手がかかります。」
「お互い1番上は大変ですな。」
「ふふ、そうですね。」
数日後お隣さんからラインが来た。
「先日先輩から教えていただいた喫茶店の雰囲気も料理もすごく良かったです!ありがとうございました。」
「気に入ってもらえて良かったよ。」
「あと私事なんですが、喫茶店に一緒に行った友達から告白されて付き合うことになりました。」
「そうなんだ。おめでとう!」
別にお隣さんのことを好きだった訳ではないが、彼氏ができた報告を受けて胸が少しチクリと痛んだ。
1ヶ月後
今日から3日間ゼミ合宿が始まる。隣の県にある研修施設のような場所でフィールドワークしながらの行うとのことなので、3日分の着替えやら勉強道具やら色々こさえて家を出るとちょうどお隣さんも家を出るタイミングだったらしく偶然顔を合わせた。だが、いつもと違ったのは玄関から出てきたのはお隣さんだけではなく知らない男も一緒だったのだ。
「おはようございます先輩。これから旅行ですか?」
「おはよう橘さん。今日から3日間ゼミ合宿なんだ。来年橘さんたちもやると思うよ。それで、そちらさんは…?」
「私がお付き合いさせていただいている神田くんです。神田くんは去年美容学校を卒業してウチの大学に入学したので学年は1回生ですが、年齢は先輩と同じ20歳なんですよ。」
「神田くん、こちらは私たちと同じ学科の2回生の石橋先輩です。私がよくお世話になっているお隣さんです。」
「石橋です。よろしく。」
「神田です。未来からよく聞いてます。すごくお隣さんが優しくしてくれる。お兄ちゃんみたいな人だって。」
「ちょっと神田くん!せ、先輩時間大丈夫ですか?早く行かないと間に合わなくなりますよ!」
「おっと、そうだな。それじゃまた。」
「行ってらっしゃい先輩。」
さらに3日後
3泊4日の合宿も終わり家に戻ってきたのはお昼前だった。玄関のポストにはチラシやら色々挟まっている。中には回覧板もあり住人へのアンケートが挟まっていた。
洗濯物を出したり持っていった荷物の片付けがひと段落すると、合宿の疲れからか眠ってしまった。
「……いい?…塗り終わった?」
隣の部屋からの話し声で目が覚めた。気付いた時には暗くなっており、時刻は19時を指している。
そういえば回覧板に住民へのアンケートが挟まっているのを思い出した。ちょうどお隣さんもいるみたいだし渡してしまおう。ついでに合宿先の最寄駅で買ったお菓子のお土産も持っていった。
”ピンポーン”とチャイムを押すと奥から話し声が聞こえてくる。
「あれ、未来誰か来たぞ。出た方がいいんじゃない?」
「え、私今こんな姿ですよ?流石にこの姿じゃ…」
「でも相手は未来に用事があるのに部屋から俺が出てきたら変だろ?早く行っちゃいなよ。」
そんな会話が聞こえてきたので、
「橘さん、俺です、石橋です。回覧板持ってきました。」
そういうとまた奥から
「ほら、先輩が呼んでるぞ。早く行ってこいよ。」
「わかりましたよ…恥ずかしいなぁ。」
恥ずかしい?一体どういうことだろう?
そんなことを思っていると”ガチャ”と扉が開き「こんばんは、先輩…」と言いながらお隣さんが出てきた。
「これ回覧板」と言おうと思ったが出てきたお隣さんの見た目が気になり何もいえなかった。
服はいつも着ているようなおとなしめの服装なのだが首元に黒いタオルを入れている。だが、一番目を引くのはお隣さんの髪だ。
烏の濡れた羽根のような黒髪はたっぷりのヌルッとした青白い薬剤に覆われてしまっており、オールバック状に後ろに流している。前髪もオールバックにしているためおでこが露出しており、眉毛にも髪と同じ薬剤が塗られている。
薬剤に覆われた髪は色が金髪に変わってしまっている。
「どうしたんですか先輩?」
「え、ああごめん。これ回覧板。中に住民へのアンケートが挟まってたから早く渡したほうがいいと思って。あとこれ少しだけどお土産、神田くんと食べて」
「ありがとうございます。また何かお返ししますね。」
「いいよ、気にしないで。それより…すごい格好だね。」
自分の姿を指摘された橘さんは途端に顔を赤くしていった。
「大丈夫か橘さん。急に顔がゆでダコみたいになっているぞ。」
「だって先輩が私の姿見ても何もないように振る舞うから…」
「髪染める時って髪にも眉毛にもべっとり塗られてすごい格好だね。」
「あまり見ないでくださいよ…すごく恥ずかしいんですから」
震えながら話す橘さんの耳は真っ赤になっている。このままだとまるで羞恥心で死んでしまいそうだったので「ごめん、ごめん」と謝り話を切り上げて部屋に戻った。
それからも定期的に隣の部屋から話し声が聞こえてきた。お隣さんは角部屋だし、俺もそんなうるさい方ではないので壁が薄いのを知らないのかもしれない。
「神田くんな、なんか、あ、頭がヒリヒリしてきました」
「時間がまだだからあと10分待って。」
「そんな、あと10分も…頭燃えちゃいそうですよ」
「だってそうしないと綺麗な金髪にはならないぞ?」
「私金髪になんて…神田くんがどうしてもっていうから」
「大丈夫だって!未来に似合う髪色にするから!ほら、あと10分頑張って!」
「えぇ…10分も…。わかったよ。。。」
「いった〜い!頭が染みます!神田君私もう、、、頭皮限界です。」
「時間もそろそろだし一回流すか」
”シャー”と水の音が流れる。髪に塗られた薬剤を流しているのだろう。
「どう?1回目はこんな感じなんだけど?」
「こんな感じになるんですね…」
「まだ1回目だからね。あと2回はブリーチしないと」
「あと2回もやるんですね…」
ここで俺の記憶は途切れている。やはり合宿の疲れから再び眠てしまったらしい。
時計を見るといつも起きているくらいの時間帯だったので、習慣化と人間の体の記憶力はすごいな、などとくだらないことを考えながら月曜日の日課をこなしにゴミ捨て場に向かった。
ゴミを捨てゴミ捨て場の施錠を済ませ帰ろうとすると後ろから、「おはようございます、先輩。」いつものようにお隣さんに挨拶された。振り返りいつも通り挨拶しようとしたが、昨日の回覧板を届けた時並みに驚いてしまった。
昨日のブリーチ中の髪よりかなり明るい金髪になっている。しっかりと綺麗に脱色されており、魅力的に感じてしまう。眉毛も髪色に合わせて脱色されており、金髪に近い色になっている。だが、変わったのは髪色だけではなかった。肩ぐらいまでの長さの髪はバッサリと切られ、正面から見るとセンターパートに分けられサイドと後ろは刈り上げまでされている。
「どうですか?似合ってますかね…?」
「あ、うん、似合ってるよ。けどびっくりしちゃったな、全然別人みたいじゃないか。」
「ははは、ですよね…私も自分じゃないみたいでちょっと慣れないです。後ろとサイドなんて刈り上げられてこんな短くなっちゃってるし。」
「本当だ、すごく短くなってるね。男の人くらい短いじゃん。」
”男の人くらい短い”そう言われてお隣さんが黙ってしまった。
「あ、あの、昨日お土産ありがとうございました。神田君もお礼言っていました。」
「いやいや全然気にするな。俺も急に訪ねてしまって申し訳なかった。まさかてるてる坊主状態だと思ってもいなくて。」
昨日の自分の姿をいじられて反論するお隣さん。
「ちょ、てるてる坊主って!そんなこと思っていたんですか!」
ブリーチ中の自分をてるてる坊主といじられたお隣さんは昨日と同じように真っ赤になっていた。
「でも、確かに人様に見せられるような姿ではなかったかもしれませんね。匂いとか大丈夫でした?私臭くありませんでしたか?」
「まあなんかツーンとする変な匂いは頭からしてたかな。」
「すみません…ですよね臭かったですよね…」
「悪い、冗談だよ。大丈夫、てるてる坊主みたいで可愛かったぞ。」
「またてるてる坊主って言いましたね!ヒドい!」
「ごめん、ごめん。ほら!早くしないと1限遅れるぞ!」
「もう…わかりましたよ。それじゃ先輩失礼します。」
「ああまたな。」
ゴミ捨て場に向かうお隣さんは自分の刈り上げを部分をなぞっている。”ジョリ”っと聞こえてきそうな刈り上げ、そして朝日に照らされている金髪は惚れ惚れするほど美しくできるなら長い間見つめていたい。そんな気持ちが出てくるほどだった。
一気にイメチェンされられててすごくよかったです 主人公は起きてればよかったと少し後悔してそうですね…