(フォーラム)女性トイレの行列を考える:1 現状は
女性トイレの前の長い行列――。観光地などでよく見られる光景です。今年、公共空間の男女の便器数とトイレの行列について報じたところ、多くの反響をいただきました。トイレの行列は仕方がないことなのでしょうか? みなさんの声から考えます。
■水分控え、かき氷我慢「思い切り楽しめない」 便器数の調査「男性用>女性用」9割
花見シーズン最後の土曜となった4月12日、東京都渋谷区にある都立代々木公園を記者が訪ねた。女性トイレには、どこもかしこも行列ができていた。長いところでは30人近い女性が10メートル以上並んでいる。多くがスマホを片手に、時おり体を傾けて前をうかがいながら列が進むのを待っていた。
大学教員の女性(48)は、学生時代の友人家族と来た。この日の都心の最高気温は20.5度。かき氷を食べようと思ったがやめたという。「行列を見てげんなりした。トイレのことを考えると思い切り楽しめません」
公園にはトイレが10カ所あり、花見シーズン中は仮設トイレを男性用22基、女性用29基の計51基設けた。都の担当者は「女性用を多くしているが、シーズン中はすごい人出になる。来年に向けて検討したい」と話した。
女性トイレに並ぶ行列は、よく目にする光景だ。
年初、「高崎だるま市」に向かう客らでにぎわう元日のJR高崎駅(群馬県)では、改札外のトイレで女性が列をなしていた。先に済ませた男性が、列後方の女性に「本屋で待っているよ」と声をかける。少し離れた場所にはスマホを片手に待つ男性たち。
大型連休中の5月4日、「浜松まつり」が開かれた浜松市中心部の商業施設のトイレでも、見物客や法被姿の女性で長蛇の列ができていた。途中で列を離れる人も2人いた。一方、男性側は外から見える範囲で列はできていなかった。
記者がトイレの行列に問題意識を強めたのは昨年11月。東京都在住の行政書士、百瀬まなみさん(60)を取材したのがきっかけだった。百瀬さんは2022年7月から公共空間のトイレで案内板にある男女別便器数を数え始めた。2年半で706カ所を調べたところ、9割以上で男性用(小便器を含む)の方が多く、平均で女性用の1.7倍を超すことがわかったという。
記者も立ち寄り先で数え始めた。半年で撮りためたトイレ案内図は78カ所。果たして100カ所までに女性用便器の方が多いトイレに出合えるのか。諦めかけていた矢先の5月30日、出張先の大阪市北区の商業施設で、ついに出合えた。
女性向けファッションフロアのトイレは、男性用5に対して女性用が11と、2.2倍だった。女性向けフロアとはいえ、2倍を超える数字に驚いた。運営会社によると、客の8割が女性だという。担当者は「快適さを重視し、客層の男女比率に合わせトイレの個数を最適化した」と話す。
金曜夜で、並ぶことを覚悟していたが、すんなり利用できた。女性トイレだけでなく、男性トイレにも列はできていなかった。
■学校でも男女格差、疑問は声にして社会問題へ 公共空間の便器数を調べる百瀬まなみさん
公共空間のトイレの男女別便器数を調べている百瀬まなみさんは今回のアンケートの回答に目を通し、「同じ問題意識を持っている人たちの声に励まされた」と語りました。トイレから何が見えるのか、改めて話を聞きました。
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調査したトイレは6月1日で868カ所に増えました。女性の方が便器数が多いトイレは41カ所とやはりレアで、通算の男性便器数は女性の1.73倍に上っています。
回答を読み、改めて多くの女性たちが行列に我慢をしていたのだと実感しました。怒りや疑問の届け先を探していたのではないのでしょうか。
半面、個室が少ないと訴える男性からの声にも考えさせられました。思えば、小便器は健康な男性の便器です。泌尿器系のがん治療を受けた人やお年寄りらは日常的に尿漏れパッドを使うこともあり、個室を必要としています。自宅では座って小便をする男性も増えているとも聞きます。今後、より多くの個室が求められていくのではないのでしょうか。
この社会は、誰が作っているのか。便器数の男女差が如実に示していると思います。福岡県の70代男性のこんな回答がありました。「かつて公共施設を計画・設計していた技術者ですが、役所側担当者の女性利用者に対する意識の低さのため、女性の便器数を男性の便器数以上提案して一笑に付されたことがある」
朝日新聞の記事が出てから、テレビ局などの取材を数多く受けました。印象的だったのは、ある番組で女性が「行列でトイレ利用を諦めることがある」との趣旨の発言をして、男性司会者が驚いたシーン。女性と男性とでは生活経験や見ている社会の風景が違うのだと痛感しました。
いま気になっているのが、学校トイレの便器数の男女比です。アンケートでも問題点を指摘する回答がありましたし、4月24日の声欄にも、元小学校教員の「『トイレの男女格差』学校にも」という投書がありました。
早速、都内のある区の教育委員会に電話をしました。区立小中学校全体で、男子用便器数は小学校が女子用の1.39倍、中学校が1.42倍でした。女子中学生は、月経もある分、時間もかかるのになぜでしょうか。
「便器数、数えましたよ」「案内板の写真を送りましょうか」と連絡してくれる人が増えました。ありがたく思いながら、「ぜひ、ご自身で発信して」と伝えています。様々な発信が増えれば、社会問題になると考えるからです。
文句は聞こえるように言え! そう思って生きてきました。一人ひとりの声を可能な限り大きく、束にして、社会を少しでも良い方向にしていけたらと思うのです。
■頻尿心配で出かけられず/海外では合理的な数値基準も
アンケートには1705件もの回答が寄せられ、その9割近くが女性からでした。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/222/で読むことができます。
●血の気が引く トイレに行く時にはもうすでに尿意切迫していることが多いので、行列が出来ていると血の気が引きます。男性トイレは、いつもうらやましく思います。(神奈川、女性、20代)
●男性用はスイスイ 駅のトイレでは女性用の前にだけいつも行列です。並んでいる間に男性用はスイスイ入ってスイスイ出て行っています。この差はなんなのでしょうか。いつも悲しくなります。(広島、女性、50代)
●男女差に考え及ばず 自身の母、妻の経験として女性用トイレはいつも混んでいる印象はあったが、男女の便器数に差があるなど考えが及ばなかった。(兵庫、男性、40代)
●「大変だ」で済ませず サッカー場へ行くといつも女性用トイレにばかり行列ができている。来場者の男女比では明らかに男性の方が多いのに。「女性は大変だ」で済ませてはいけない問題だと思うようになった。(京都、男性、40代)
●持病あり心配 持病の関係でトイレが近いため出かける度に「トイレは空いてるかな」と心配したり、場所によっては行くことを諦めたりすることがあって何度も悔しい思いをした。(千葉、女性、30代)
●女性への偏見も 男性が多い業界では、いまだに男性トイレしかない場所も多いようで、経済格差にもつながっている根深い問題です。「女性は化粧やスマホのせいでトイレが長引く」といううわさが真実のように語られ、偏見を感じます。(大阪、30代)
●日本は後進国か 海外旅行をしたときに、トイレ行列の男女差がないことに気付きました。さらに、諸外国では建築設計で女性用を男性用より多くする合理的な数値基準があることを知りました。日本は後進国なのかと悲しくなりました。(東京、女性、30代)
●女性に優しい施設に 時間のかかる女性の便器数を多く設定するのが合理的だと考えます。今までなぜ男性便器の数が多かったのか、不思議でなりません。多くの施設で再度検討して、リニューアルの際は女性に優しい対応をして頂けることを期待しています。(東京、男性、50代)
■《取材後記》「当たり前」と流さずに
女性トイレに並ぶことは幼い頃から「当たり前」で、「そうしたもの」だった。並ぶことなく利用できたらラッキー、と立ち止まって思考したことはなかった。「なぜ?」と思い、便器数を調べ始めた百瀬さんの気づきと行動力には脱帽するほかない。
本人が選べない属性に起因した不利益や我慢は、是正されるべきものだ。女性の方が利用に時間がかかるのになぜ便器数が少ないのか。多くの人が長年不便を感じながらなぜ解決されないのか。日常の中でさらりと流れていく課題にこそ、社会の本質的な姿がある。
衆院法務委員会で5月30日に法案審議が始まった選択的夫婦別姓をめぐる議論も、その類いだと感じる。家制度は1947年の民法改正でなくなり、結婚にあたっては新しい戸籍を作ることになった。なのに今も「入籍」と表現されることがあり、圧倒的に多くの場合、女性の側が姓を変えている。これもトイレと同様、「そうしたものだ」とされてきた。そして、その下で痛みや傷つきを感じてきた人がいる。
疑問や怒りを感じたら、突き詰めて考え、可能な限り声にする。「そう考える私はおかしいの?」と思ってしまうようなことでも、口に出してみると賛同者がいるものだ。それが次の時代をアップデートし、心地よく生きられる社会にする、地道だけれども確実な方法なのだと思う。(編集委員・山下知子)
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やました・ともこ 2003年入社。学校のトイレについて何度か取材したことがあるが、便器数には思い至らなかった。アンケート回答を読み、大学入試会場の高校でトイレの行列にやきもきした記憶がよみがえった。
◇編集委員・山下知子が担当しました。
◇アンケート「ペットと災害」「運動会を考える」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施しています。
◇次回6月15日は「女性トイレの行列を考える:2」を掲載します。