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【黒弓赤弓】他人の顔/Novel by kyrie

【黒弓赤弓】他人の顔

3,376 character(s)6 mins

黒弓さんと赤弓さん。 
CP色は薄いですが、何というか……赤弓さんと関わる事で崩壊一歩手前で踏み止まる黒弓さんってのもいいんじゃないかと。 
とても短い。

黒弓さんと赤弓さんだとタグ何にしたらいいのか分からなかったので、とりあえずそのまま入れてみました。

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「何を見ている」

ちらとも視線を向けることなく言い放つ男には何の感情も浮かんでいない。
いや、口元はうっすらと笑みを湛えているかに見える。

だが、それもまた惰性に近い表情だと、彼と……非常に似ている容姿の男は心の中で溜息を吐く。

「……得物の手入れか」
「見れば分かることをわざわざ訊いてくるなぞ無駄に過ぎる」

そう切り捨てた男は、忌々しいとばかりに舌打ちした。
感情も、記憶も、その存在そのものが摩耗しつつあり、崩れた霊基からは絶えず魔力が零れ落ちている。

再臨を繰り返し、霊基そのものが崩壊一歩手前まで進んでいる男は、ここで過ごした記憶すらも留める事がかなわなくなっているのか、今しがたの己の行動、言葉、感情をすら忘れることが増えた。

それでも、暇さえあれば己の得物を、英霊として彼と共にエーテルで編まれているだけのそれには不要なはずだというのに、分解しては掃除し、また組み上げ直し、己の手に馴染ませるようにその銃口を窓に向けては満足そうに笑みを浮かべる。

その様は、基を同じくする故か、それとも……男が反英霊と成り果てた故か、傍らに立つ男は判断しかねていたが、それでも……堕ちた男が何を追い求め、何のためにそうなったか知っている今となってはどうでもいい話ではあった。
たとえ、その醜悪さに吐き気を覚えたとしても、そこに至った過程を知れば自分と同じなのだと納得せざるを得なかった。

「腐ってないオレは、他の住人と同じように俺も庇護の対象という訳か? ……フッ、下らん」

剣呑な声色は変わらないが、それでも拒絶はない。
腐っていない自分を見るのは好かんと公言して憚らない男であっても、同じ人間を己が主と認めている以上、いきなり銃口を向けるのは止めたらしい。

「何だ、案外憶えているじゃないか」

フン、と鼻を鳴らした男は、明らかに……笑った。
皮肉めいた、見たものに不快を与えかねないそれではあっても、それは確かに笑んでいた。

彼を見下ろしていた男は、その表情に虚を突かれたのか、思わず出そうになった声を慌てて片手で口を覆って押さえ込む。
座り込んだままの男は、その様子に驚くでもなく、無言のまま再び手元の武器を解体し始めた。

普段過ごしている部屋よりも低く保たれた部屋で、低周波の微かな振動音が共鳴するだけの静けさの中、カチャカチャと金属ともセラミクスとも言えない音が響く。
ひやりと冷えた空気は澄んで、その音がやけに美しいものに……聴こえた。

此処はカルデアの奥に設えられたサーバールームの一角。
あの悪夢のような戦いが始まった日、ここを預かる人間と要となる発電システムや管理室さえ破壊できれば後は壊滅するだけと捨て置かれたのか、不思議なほどに無傷だった場所の一つ。
電力供給が断たれても余程負荷のかかる演算を行わなければ数日はもつという、馬鹿馬鹿しいほどに大容量の無停電電源が接続されていたおかげで演算機もまた損傷を免れていた。
おかげで、メインシステムが復旧するまでの間、このサーバールームにある演算機がカルデアを存続させたのであれば、高額の無停電電源に投資した甲斐もあったというものだろう。
それら機器の為に他の部屋と比べれば凍えそうなほどの冷たさを感じる部屋だが、この無機質ながらも部屋の温度を不必要に上げることのないよう入室制限が設けられている場所が一番落ち着くのだと、演算機以外に何もなければ、誰も訪れない場所で黙々と武器の手入れを続ける男は嘯く。

いつかの特異点で露わになった過去。
電子の海を泳ぎ、果てを超えた男は、今や現実の中では息が出来ないのかもしれない。
魔術と技術が融合した演算機が並ぶ部屋。
存在の揺らぎと量子の揺らぎは不思議と同じ波動を描き、漏れ出した電子と魔力が男の壊れかけた霊基を繋いでいる。

量子演算機のゆらぎこそが、男にとっては心地よく、崩壊を押し留めるものであると本能で悟っているのだろう。

「……何か用か」

ふと、今気付いたかのように顔を上げた男が己を見下ろしている男を見上げ、問いかけた。
問いを受けた男は、今まで会話をしていた事には触れず、手にしていた包みを軽く掲げて見せた。

……本来の用件を漸く相手に提示できた事に心の中で溜息を吐き、顎をくい、と動かして隣接した管理室へ出るよう促せば、組み上げ直した得物を魔力に返した男は不承不承と言った体で立ち上がった。

「毎度毎度、貴様自らわざわざこんな場所に足を運ばずともいいだろうに」
「貴様が毎度向こうに顔を出せば済むことだろうよ」
「腐っていないオレは腐った自分を見るのも嫌だと思っていたが、存外物好きと見える」
「マスターが貴様が消えるのを許すというのなら放っておくがそうもいくまい」
「……雇い主の差し金か」
「そう言う事だ。大人しく食事を取れ。オルタ」

互いに挑むような視線をぶつけ合い、二人は管理室へと移動する。
腐っていない、と呼ばれた男は中央に置かれた机の上で包みを広げると、中から出てきた重箱の蓋を開け、備え付けの電気ポットへと向かう。

二つの湯呑に湯を注ぎ入れてから茶葉の入った急須へとそれらから湯を注ぎ入れる。
ちらりと視線を向ければ、オルタは用意していた皿に重箱の中身を取り分けている。

亀裂の入った指先からじわりと漏れる魔力。
歪み、壊れかけた霊基はひびの入ったグラスを同じだ。
いくら水を注ごうとも、それを留めておくのは難しい。
流れ出るままに零れていくそれが尽きれば、グラスそのものが失われる。

「ジャンクフードの方が、馴染むか」
「何を言っている。あれはまぁ、早く腹を満たせる、というだけのシロモノだ。馴染む馴染まないという意味では……そうだな、こちらの方が好ましい」
「ならばいい」

黙々と食事を続けるオルタの前に湯呑を置けば、丁度良い加減の茶を遠慮なく啜る。
男が向かいに座るのにちらと視線を向けたがそれだけで、文句を言うでもなく食事を続ける。
その姿は別にそれを嫌がっているという訳ではなく、必要なものだと理解しているそれで、食事をしている様子を黙って見つめていた男は安堵の息を吐いた。

「……食事を終えたらオレの部屋でも、貴様の部屋でもどちらでもいいが」
「どういう風の吹き回しだ? というか、憶えている、のか」

心底驚いている、そんな男の表情に、オルタはしてやったりとでも言いたげな笑みを浮かべて箸を置いた。

食事と体液の交換がセットになっているというのはあまりにも即物的過ぎる組み合わせではあるが、それでも零れ落ちていく魔力を少しでも補給する必要があるオルタにとっては例え反転していても元を同じくする男の魔力は馴染みも良く効率的だ。
主との契約が続いている間は、勝手に消えるわけにいかないとなれば少しでも効率の良い方法を取るのが上策。

「……憶えているもなにも、必要だとこれを始めたのは貴様だろう」
「そう、だが」

褐色の肌では非常に分かりづらいが、目元を微かに朱に染めた男は無防備で、基を同じくしていると知っていても心配になる。
……誰かの心配などする自分ではなかったはずなのに、などと思いながらオルタはこの部屋に設えられた流しに立った。

「オルタ?」
「重箱などすぐに返却せずとも構わんのだろう」

洗い終えたらそのままどちらかの部屋へ行くのだと宣言する言葉を向ければ、男は少しだけ咀嚼するのに時間がかかっていたようだが、それでも意図は十分に理解したのか苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。
それがなぜかおかしくて、それでいて……酷く懐かしいような、そんな気がして。

オルタはくつりと喉を鳴らして笑った。

ああ、いい気分だ。
こんなにいい気分なのはいつぶりだろう。

どこか楽し気な表情を浮かべるオルタを見た男が、驚愕に目を見開いて、すぐに今にも泣きだしそうに顔を歪めた事に、オルタが気付くことはなかった。


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