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The Works "愛を喰らえ" is tagged "黒弓弓" and "黒弓赤弓".
愛を喰らえ/Novel by なかの

愛を喰らえ

4,215 character(s)8 mins

黒弓さんのバレンタインネタバレ。他にも各ネタバレに配慮ナシです。一番下に愚痴があります。

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こちらの話を一同ごく少数コピー誌で出しましたが、
あらためて他の話と共に再録いたしました。

「都合のいい話/愛を喰らえ」
A5 P28 300円 オンデマンド印刷
どうぞよろしくおねがいいたします。

https://leitstern-r.booth.pm/items/1064102

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アアアアアアアァァァァァアアアアアアアおまっ……おまっ……ひど……ひどいよおおおおおおおおこんなのってないよおおおおお馬鹿アアアアアアア設定考えた人の鬼畜うううううううう鬼いいいいいいいアアアアアアアァァァアアアアア根性悪うぅぅぅううううううううああああああああくそがアアアアアアア見とれ転んでもただで起きるかほんとに心底腐りきった奴舐めんなあああああああああゴルアァァァァアアアアうああああああああ!!!
というネタでした。なんかこう……負けるかこんにゃろー!(ちゃぶ台を返す)(といいつつなんかもう負けてもいいような気がしてる こんなんほんと心折れる無理……)

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 愛を喰らえ


 悄然と肩を落としたマスターと回廊で行き会った。己の顔を見つめた瞳が、思わずといったようにうるりと揺れてその表面に涙の膜を張る。たったそれだけで己のオルタと何事かあったと正しく理解して、エミヤはため息をぐっと呑みこんだ。
 表面的にも内面的にも崩れゆくエミヤオルタの有り様は目にした者すら痛めつける。特に契約者として心を配る少年が受ける衝撃は強く、今のようにエミヤオルタのことで傷ついている様をエミヤが目にする事は非常にしばしばある。その度にエミヤはもっと上手く立ち回らんかと自身のオルタに怒鳴りたくなるが、いかんせん壊れかけていて忠告が意識に残ることも疑わしい。
 マスターにも無用に同情するなと言うのはたやすいが、ほんの十数年しか齢を重ねていない柔らかな心にそれもまた無意味かもしれず、更にはこの年若い契約主を出来るだけより良い方へ導いてやりたいという欲がエミヤの思考と判断力をどうにも不調にする。有体にいえばかける言葉に惑ってしまう。
 色違いのなまくらが二つ並んでいても意味はあるまい――
 苦笑と共にエミヤは雑念を振り払った。
「どうかしたかねマスター。もう夜も遅い、睡眠不足は頭を鈍らせるぞ」
 結局そのまま二、三、毒にも薬にもならぬ言葉を交わし、エミヤはひとまずマスターが自室へ向かうのを見送った。聞き出そうと試みはしたものの、実際エミヤオルタと何があったか、マスターの口から語られることはついぞなかった。
 エミヤは眉間のしわを深くする。他ならともかくこと自身のオルタのことなど、どうにも己が舌鋒も切れ味が鈍るようだ。エミヤオルタのことでエミヤは誰かに言い訳も擁護もしたくない。また、出来ない。
 そもそもエミヤはここに来るまで自身のオルタが存在するなど知りもしなかったし、またまみえたことなど当然ない。いい加減自分も世界に奉仕し続け摩耗して、それがあの奇跡のような聖杯戦争の召喚で多少持ち直したかと思えば、いざ出てきたオルタが輪をかけてひどいあの有り様だ。お前が健全でいられる道などどこまで行ってもないのだと、世界から通牒を叩きつけられているも同然だ。
 それでもあの少女に大丈夫だからと告げた以上は、黄昏と軋む歯車の剣の丘で、英霊エミヤは何とかやっていかねばならないのだったが。
 それにエミヤオルタはエミヤと違った戦法を身に着けている。(逆も然りだが)エミヤの足らぬところに手が届く。戦力としては役に立つのだ。痛々しいからといって戦闘から下げはしないマスターは、畢竟エミヤオルタが召喚に応じた意味をよく理解している。
 どうしたものかと首を捻り、結局エミヤは予定通り明日の朝食の下ごしらえに厨房へ向かうことにした。エミヤオルタは逃げも隠れもしないだろう。今夜中であれば記憶が風化してもいまい。どうせ済んでしまったことだ、話なら後で聞けばいい、と。


 珍しく高野豆腐が手に入ったため含め煮と焼き魚で和食でもと考えていたが、あまりに一部の者にしかなじみがないものかと思われたため、他にもあれも作ろうこれも足そうと結局品数が増え、下ごしらえにも手間取った。だがこれで明日は多少調理するだけで、各々が好みで和洋の小鉢を選り取る形のデリカフェ風メニューを提供できる。
 己の仕事に満足してエミヤは自室へ戻った。都合上他者に与えられたものより広めなそこに足を踏み入れた瞬間、それなりに胸中を満たしていた快さは霧散した。
「とうとう自分のベッドの位置さえ記憶から失せたか、このたわけ」
 エミヤの寝台に、黒くてでかい塊が怠惰に手足を広げ落ちていた。
 大股に歩み寄りながらエミヤは素早くあたりに視線を走らせる。サイドテーブルの上にも床の上にもあのアンプルの殻は落ちていないからドーピングはしていない。代わりにベッドの上のエミヤオルタの腹の上には、伏せられたノートが乗っている。右手の近くには芯が出たままのボールペンが横たわり、シーツに小さな黒点を作っている。これはもう落ちないだろう。
 更に腹の立つことによりにもよって枕の位置に土足のままの足がある。せめてなぜ正しく上下を位置取らないのだろう。
「寝るなら自分のベッドへ行け、いや待てその前に、貴様今日マスターに何をした」
 叩き起こそうとエミヤオルタに手を伸ばしかけ、ふとエミヤはもう一つ、エミヤオルタの傍らに落ちているものがあるのに気づく。見覚えあるラッピングのそれは、奇しくも今日エミヤがマスターから貰ったものと色違いで揃いだ。
「………………」
 乱暴にエミヤオルタを掴み上げようとした手をエミヤは無意識にぎゅっと握る。そうか、と思う。それを見ただけで、何やらおおよそのことが伝わってしまった気がした。
 ラッピングには開けられた形跡がある。無味で無意味なその塊を、つまみあげた指とその意思。
 それはエミヤにはわからない。けれどおそらくまた、この世でエミヤにしかわからないことでもあっただろう。
「……厄介なことだ」
 そして面倒なことだ。ろくでもないことだ。
 閉ざされた瞼からはひたすら真っ白な睫毛が見える。エミヤの眼下のエミヤオルタは眠っているというより落ちているように思える。どんな他者よりエミヤには一番よくわかる、この霊基は本当に不安定だ。
 そもそもこのオルタは、此度の召喚を終えれば完全に消滅するのだろうか、それとも何がしか一部だけでも自身と共にあの丘に還るのか。それともエミヤとはまた別の戻るべき場所を持つのか。そんなことすら今のエミヤにはわからない。
 わからないからといって、試しに今このひび割れた霊基を破壊してみることだけは出来かねたが。
 エミヤは総じてオルタと呼ばれる他の英霊の別側面のサーヴァントたちを思い浮かべる。誰もかれもが癖があるが、誰もかれもがやはり強く頼もしい。翻ってこの壊れかけだけが己のオルタというのは、なるほどいかにも似合いに思われた。
 気を取り直してエミヤはまず、エミヤオルタの腹の上のノートに(芯を引っ込めた)ボールペンを挟んで閉じてからサイドテーブルの上に置く。さらにその上にマスターがオルタに贈った菓子の包みをそっと重しのように乗せた。それからさあこれを蹴り落とそうか掴み上げようか、と思案の腕組みをして、ふとゆるりと開いた目蓋の隙間から溶けた鋼の色が差すのに気付いた。
「……さっさと自分のベッドへ行って寝てしまえ。全く」
 五万と言いたかった苦情が思わず迷子になってしまい、エミヤは目を逸らす。エミヤオルタは音も立てず半身を起こし、まだ少し蕩けた視線で背けられたエミヤの片頬を撫で、そしてエミヤがつい先刻机上に置いた己が持ち物を見た。
「……それ」
「何だ」
 ぽつりと落ちた低い呟きに、エミヤも視線を軽くオルタに戻す。
「……お前が貰ったのと、同じか」
「………………」
 無性に腹が立って、エミヤは少々乱暴にエミヤオルタがマスターから貰ったバレンタインのチョコレートの包みを手にする。開く、立ち昇る芳香。
「違うな」
 嗅ぐだけでわかる、あの人気者で引く手あまたでお人よしのマスターは、多忙だろうにわざわざ、エミヤとエミヤオルタ、表裏の関係の同じ名がつくサーヴァントにさえ、別々のものを用意したらしい。
 エミヤオルタは身を捻り、脚だけを床に下ろす。そしてベッドに腰掛けた体勢のまま、片手で額を抑えた。頭痛がする、とでもいったポーズだ。
 どうせおよそ察していたんだろう、という言葉をエミヤは呑み込む。苛々する。わかっていたはずだ、きっとあのマスターならそうだと。
 けれどどうせエミヤオルタは忘れるのだ。あの気遣いも、そしてこの苛立ちも。そうしてエミヤだけが覚えているのだ。健全である限り、消え失せるまで。義務も義理もないと切って捨ててしまえない、二人分の記憶を。
 必ずエミヤオルタの方が先に消えるだろうという確信があった。ここまで損耗しているのだ、到底もたないだろう。その時に、仕方がないことだ、任務を果たしたあいつも満足だっただろうと、マスターの肩を叩くのがおそらくエミヤの仕事だとも。
 腹が立った。かつて未熟な自分と対峙した時とは到底違う苛立ちだった。
 衝動のままに、開けたままだったエミヤオルタのチョコレートの包みに手を突っ込み、その指の熱で容易く溶けるほろ苦く甘い塊を取り出し、目を瞠るオルタの目の前で自分の口に放り込んだ。
「な……」
 瞬く、おそらくエミヤと同じ容貌の、けれど別の顔。覆いかぶさり、間抜けに半開きの唇の隙間から、舌でそれを押し込んでやる。
 びくりとエミヤオルタの身が震え、眼が一層見開かれるのがわかり、可笑しくてエミヤは合わせたままの唇で笑った。そのまま引こうとした後頭部を、恐ろしいスピード、恐ろしい力で押え付けられる。
「…………甘い」
 口内のチョコレートがすっかり溶けても尚深く、エミヤの喉の近くまで蹂躙したエミヤオルタの舌がようやく離される。互いに上がる息の隙間、掠れたエミヤオルタの囁き。
 エミヤと舌と舌、唾液が絡んでいる間だけ、エミヤオルタは失われた味を感じることが出来る。魔力が相通ずる、基を同じとする存在だからこその芸当だろうが、エミヤはこれを誰にも、当のエミヤオルタにもそしてマスターにもダヴィンチ女史にも告げていない。
 気づいたのは偶然だった。けれどエミヤオルタは忘れるから、いつだってこうして初めてのように驚いてみせる。
「よかったじゃないか、マスターの手作りの味が知れて。……ただ、日記には残すな」
 こんなろくでもないことを。どうせすぐに忘れて意味不明になることを。
 鼻で笑ったエミヤの鈍色の眼を、エミヤオルタは琥珀と似て非なる瞳でまじまじと見つめた。
 いつの間にかベッドに組み伏せられていたエミヤの顔のすぐ横に、エミヤオルタがシーツに落としたペンがつけた、小さな黒い染みがある。
 エミヤの苛立ちでもエミヤオルタの諦念でもなく、ただあの若者の真っ直ぐな想いが、幾度も漂白され続ける記憶のどこかに、いつしかこうやって小さく小さく凝って残るといい。
 願うことなんてもうとうにないけれど。それだけは、ほんのわずか。
 己と似て非なる体温が重なって落ちてくる。エミヤはただ黙って目を閉じた。



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