light
pixiv's Guidelines will be updated on March 18th, 2026.
View details
The Works "幸せな日曜日を過ごそう" includes tags such as "槍弓", "現パロ" and more.
幸せな日曜日を過ごそう/Novel by マコト

幸せな日曜日を過ごそう

8,362 character(s)16 mins

■槍の誕生日を祝いたい弓の話。
■くふりん誕生日祝いに書いたものでした。誕生日なので槍が報われる話にしようと、それだけを目標に書き始めたのですが、こんなことになってしまいました。去年書いたものよりは報われているので許してほしい…。
■去年の誕生日ネタは(novel/12159172)の3ページ目に入れているのでよろしければどうぞ。全く祝えていない誕生日ネタです。

1
white
horizontal

 誕生日プレゼントとして贈るのは何が良いだろう。
 二週間後に迫ったランサーの誕生日を思ってアーチャーはううむと小さく唸ってしまった。
 人と深く付き合うことのほとんどないアーチャーにとって、ランサーは数少ない例外の内の一人である。そんな相手の誕生日なのだからできれば祝いたいと思うのは当然で、そのプレゼントについてアーチャーは悩んでいるところだった。
 必要な物であればランサーは自分で買うだろうし、欲しい物だってきっと自分で買ってしまうだろう。そうなると何を贈ったものか。
 祝いたいという気持ちはあるのに、何を贈れば良いかも浮かばないとは何だか情けなくなってくるな、とアーチャーは思わず溜息を吐いた。
 ショッピングモールにでも行って実際にあれこれ探してみた方が早いのだろうか。
 何を贈るか全く見当も付けないままでは結局迷ってしまうだけかもしれないが、と僅かに不安を抱きつつ力の入ってしまっていた眉間を揉む。
 プレゼントを考えるというのも難しいな、とアーチャーはゆるりと息を吐いた。

 アクセサリーの類は贈り物には向かないだろう。
 思わず手に取った革とシルバーのブレスレットをそっと棚に戻してアーチャーは頭を振った。
 身に着けるものというのは、好みが合わなければただ相手を困らせる贈り物になってしまうものだ。趣味に合わないから身に着ける気にはならないが、貰い物だから処分にも困る。そんなひたすら面倒なものになってしまう可能性があるのが、アクセサリーの類だろう。
 きっと似合うだろうが、ランサーの好みかと言われるとわからないからな。
 つい名残惜しくブレスレットを目線で撫でながら静かに息を吐く。
 黒い革ひもを編み込んだブレスレットにシルバーを絡ませたそれは力強く、けれどどこか優美で、あの美しくも逞しい男に似合いそうだなと思ってしまったのだ。だが、それはあくまでもアーチャーの好みで、ブレスレットを付けた姿を見たいというのは、アーチャーのただの我が儘である。好みに合わないものを贈られたら始末に困ってしまうだろう。
 それに友人に贈るにしては値段が高過ぎるような気もするな、と改めて確認した値札に書かれた金額に目を伏せた。
 アーチャーが探しているのは二週間後に迫った友人の誕生祝いの贈り物だ。友人への誕生祝いに掛ける金額の相場など知らないが、少なくとも幼馴染の少女にこの金額のものを渡したら怒られるだろう。
 きっと、似合うだろうが。
 諦めた方が良いと思いつつ、未練がましくその姿を想像してしまう自分に、アーチャーは呆れてしまった。

 アクセサリーに限らず、形として残るものは贈り物には向かないだろう。
 無意識に手にしてしまっていたガラス皿を見ながらアーチャーは額に手を当てた。
 好みに合わないものは何であろうと扱いに困ってしまうだろうし、使うことのないものだった場合は迷惑にすらなってしまうに違いない。場所だけとって処分に困るもの。祝うための贈り物でそんな負の感情を抱かせたくはない。
 そうは思いつつ、ガラス皿から手を離すことができない自分にアーチャーは溜息を吐いた。
 浅めのガラス皿は縁の方は無色透明で、中心に近付くほどに青が混じっている。光を弾いて煌めく姿が円を描くような爽やかな青と相まってまるで涼やかな水面のようで、中心に近い位置に一筋引かれた赤が凛とした印象を与える美しい一枚だった。
 その青と赤が色鮮やかな男を思い起こさせて、ランサー自身がこの皿で食事をする姿を見たくなってしまって、つい手に取ってしまったのである。
 自炊をあまりしない男だ。ガラス皿など贈られても使い道に困るに違いない。
 そう思うのに、ランサーに良く似た美しいガラス皿をどうしても棚に戻す気になれず、アーチャーはもう一度息を吐いた。
 もう自分用に買ってしまうか。
 自宅の食器棚にこのガラス皿が収まる様を想像すると、何だかとても気恥ずかしいような気がしてくるが、そうすればランサーがこの皿で食事をする姿を見ることはできるだろう。それに何より、ランサーに似たこの美しいガラス皿をいつだって見ることができるようになる。
 自分用だと考えると少しばかり高いが、割らない限りずっと使えるものなのだし、夏場の暑い時期に使えば目にも涼やかでランサーも喜ぶだろうし、と言い訳を重ねてアーチャーはレジに向かうことにした。
 この皿に盛りつける料理は何が良いだろうか。
 知らず弾んだ心にアーチャーはそっと笑ってしまった。

 ずっと残るものではなかったとしても、世話が必要になるものは贈り物には向かないだろう。
 うっかりと手を伸ばしそうになった花束から視線を外してアーチャーは深々と息を吐いた。
 誕生日に花束を贈る。
 定番の贈り物ではある。花屋でのアルバイト経験もある男だから、切り花の世話の仕方だって知っているだろう。だが、花自体が好きなのかどうかはわからなかった。
 花が好きなのであれば喜んでくれるだろうが、そうではなかった場合、一週間ほどは手間がかかることがわかっている花を贈るというのは、どうなのだろう。迷惑になってしまうのではないだろうか。
 青を基調とした花束は優しく、けれどどこか神秘的で、惹き込まれるような美しさを持っていた。その青をランサーに贈りたいと思ってしまったのだが、手間をかけさせるわけにはいかないだろう。
 そういえば花瓶を持っているかどうかもわからないな。
 贈り物に向かない理由をもう一つ追加して項垂れる。
 この花束を持って笑うランサーを見てみたかったな、とふと浮かんだ願いに自嘲しつつ、アーチャーは自分用に青いカーネーションを一輪購入することにした。

 ずっと残るものではなく、手間もかからず、ランサーが喜んでくれるもの。
 散々悩んだ末に辿り着いた贈り物を確認してアーチャーは小さく頷いた。
 重箱一杯に詰め込んだ料理は食べてしまえば跡形もなくなくなるもので、手間もかからない。アーチャーの作る料理をランサーはいつも喜んで食べてくれるから、きっと今回も喜んでくれるに違いない。贈り物にしては特別感が足りないが、そこはいつもより良い食材を使うことで良しとした。
 自信を持って渡せるものが料理しかないとは、何とも芸のないことだ、と少しばかり自嘲してしまうが、それが事実なのだから仕方がないだろう。
 大切なのは、ランサーが確実に喜んでくれることなのだ。
「ランサー、誕生日おめでとう」
 言葉と共に風呂敷に包んだ重箱を机の上に置けば、ランサーはぽかりと間抜けな顔をしてから、へ、と小さく声を漏らした。
「む、何だその間抜け面は。祝われるのは不満かね」
「いや待て待て不満とかんなわけねえだろ!そうじゃなくて、オレの誕生日今日じゃねえぞ!?」
 わたわたと手を振りながら疑問符を浮かべたランサーに、ああそういうことかと得心がいった。
「勿論知っているとも。君の誕生日は明後日の日曜日だろう?」
「んなら何で今日…あ、いや嫌なわけじゃねえぞ!?お前に祝ってもらえるならいつだって嬉しいからな?そこんとこ勘違いするなよ?」
 何やら必死に言い募る姿に首を捻りつつ風呂敷を解く。漆塗りの重箱が日差しを浴びてつやりと輝くのが何だか嬉しくてつい口元が緩んだ。正月やお花見で使っている重箱には楽しい思い出ばかりが詰まっていて、蓋の光沢を見るだけで何となく嬉しくなってしまうのである。
「日曜日だからに決まっているだろう」
 楽しい思い出にもう一つ特別な思い出が増えるな、と今頃気付いたそれに少しばかり浮かれてしまう。今だって大切な重箱だが、きっとこれからはもっと大切なものになるだろう。
「いや何で日曜だからが理由になんだよ」
 未だに理解に及んでいないらしいランサーに、珍しく察しが悪いなとアーチャーも首を傾げてしまった。
 大学のある平日であればまだしも、休日である日曜日が誕生日なのだ。わざわざ会おうとしなければ会うことはない休みの日だ。家だって別に近くはないから偶然会うことだってないだろう。
 だから金曜日である今日、アーチャーはランサーを祝うことにしたのだ。
 勿論日曜日に会おうと約束すれば当日に祝うことはできる。だが誕生日は大切な人と過ごすべきだろうというのがアーチャーの考えである。折角の日曜日なのだ。まる一日大切な人と過ごす予定を立てている可能性だってあるだろう。それを邪魔するつもりはなかった。
 だからこそ、アーチャーは今日祝っているのである。
「日曜日は予定があるんじゃないのか?」
「いや、んなもんな…いや、ある。めちゃくちゃ大事な予定がある。あるけどよ、でもなら尚のこと何で今日なんだよ。日曜日で良くねえか?」
「…いや君こそ何を言っているんだ。予定があるからこそ、今日祝うんだろう?」
 どうにも噛み合わない会話にアーチャーは眉を顰めてしまった。
 予定があるだろうと慮ったからこそ今日祝っているというのに、何故予定があるからこそ日曜日で良いだろうなどというおかしなことを言うのか。
 だが理解できていないのはアーチャーだけではないようで、目の前に座るランサーも盛大に顔を顰めていた。何言ってんだテメエ、とその視線が言っていて、それはこちらの台詞だとアーチャーは更に眉根を寄せてしまった。どう考えてもおかしなことを言っているのはランサーの方だろう。
「だってお前、それじゃあ日曜に会った時は祝ってくれねえってことか?」
「…は?」
「いやさっきも言った通りお前が祝ってくれんならいつだって嬉しいけどよ、どうせなら当日に祝ってもらえた方が嬉しいっつうか何つうか…」
 ランサーの言葉に思わず間抜けな声が出た。まるでアーチャーと日曜日に会う約束をしているかのようなそれに一瞬混乱する。
「待て、ランサー」
「何だよ」
「君と日曜日に会う約束などしていただろうか?」
 アーチャーの記憶ではそんな約束をした覚えはなかった。今朝確認したスケジュール帳の日曜日の欄もまっさらな状態だった筈である。
 もしかして以前何かしらの約束をしていてそれを忘れているのだろうか。
 もしそうだとしたら申し訳ないにもほどがあると思いつつ、それはない筈だとアーチャーは内心首を振った。ランサーとの約束はいつだって忘れないようにスケジュール帳に書いているのだ。今回に限って書き忘れているなんてことはないだろう。
「…あ゛?」
 アーチャーの言葉に一瞬目を見開いたかと思えば、地を這うような声がランサーの口から零れ落ちた。先程まで訝し気にしながらもどこか嬉しそうにしていたというのに、急に苛立ちを強めたランサーががたりと立ち上がった。
「ちょっと待てよ。確かにはっきりとは約束してなかったけどよ、まさか会うつもりはなかったとか言うんじゃねえだろうな!?」
「まさかも何も約束していなかったのだから会わないだろう普通。いや勿論いつものように突然君が我が家に訪れる分には歓迎するが、誕生日なのだから大切な人と過ごすべきだろう」
「だからその大切な人がお前だろうがッ!!」
「…は?」
「嘘だろお前何でそうなるんだよ。恋人の誕生日だぞ!?約束なんてわざわざしなくたって会うと思うだろ!?というかお前以外の誰と過ごすんだよ!!」
「…待て、待てランサー」
「何だよ!」
「何だその恋人というのは。もしかして私のことか?」
「はああ!?」
 ランサーの絶叫が大学の学食前に用意されたテラス席に響き渡った。視界の端に何事かとこちらを振り向く人が見えて慌ててしまう。何が何だかわからないが、どう考えても他人に聞かれて良い内容の話ではない。
「ら、ランサー落ち着いてくれ。声が大きい」
「落ち着けるわけないだろ!?え、嘘だろお前それどういうことだよ!」
「いいからとりあえず座ってくれ。まずはそれからだ」
 尚も口を開こうとするランサーを睨むこと数秒。苦虫を噛み潰したような顔をしてからランサーは長い息を吐いた。目を開けたランサーはもういつもの落ち着きを取り戻していて、「悪ぃな、頭に血が上った」と謝罪を口にしながら座り直した。
「色々納得はいかねえが、食い違ってるってことはわかった。認識合わせだ、アーチャー」
 真っ直ぐと射抜いてくる視線に気圧されつつ、アーチャーは、ああ、と頷いた。納得がいっていないのはアーチャーも同じなのだ。
「まず一つ目」
 ぴ、とランサーが人差し指を立てる。
「オレはお前に好きだと伝えた筈だ」
 初手から衝撃的な言葉を投げられて息を呑む。待て、一体いつの話だ。
「三週間前の土曜。海の見える公園で、確かにオレはお前に好きだと伝えた。日本じゃきちんと言葉にしねえとダメだと聞いたからな」
 その言葉を聞いてそういえば、と思い当たる。しかし、あれは。
「二つ目。お前はそれに対して私もだ、と答えた」
「待て!それは友人としてという意味だと思ったからであって」
「三つ目」
 思わず声を上げたアーチャーを遮ってランサーが三本目の指を立てた。声は静かなのに視線はどこまでも強くて、アーチャーは一瞬息を止めてしまった。
「オレが好きだっつって、お前も頷いたから、オレはお前と恋人になったんだと思ってる」
 どこまでも真っ直ぐに見つめてくる視線に、その声に込められた静かな熱に、何も言葉が浮かばなくなる。
 三週間前に好きだと言われた時には、友人としての好意だと思ったのだ。確かに今思えばどことなく緊張していたような気がするし、こちらも好きだと返した時の喜びようは、考えてみれば少しばかり、いやかなり大袈裟な気もしたが、それでも、友人として好きだと言われたとアーチャーは思っていたのである。
 大袈裟な、とは思いつつ、アーチャーも好きだと言われたのが酷く嬉しかったから、きっとランサーも同じような気持なのだろうと思っていたのだ。だからこそ、尚のことランサーの喜ぶプレゼントを贈りたくて、あれやこれやとアーチャーは悩んでいたのである。
 そうだというのに、あれは友人としての好きではなかったのだという。
 ぐわりと顔が熱くなってくる。今まさに口説かれているようだった。
「そんで最後」
 ぐいと身を乗り出したランサーに思わずびくりと身体が揺れた。
「恋人なんだから誕生日は一緒に過ごすんだと、勝手に期待して、めちゃくちゃ楽しみにしてた」
「わ、私は、」
 アーチャーを見つめる赤い瞳が炎のように燃えていて、言葉がつかえた。頬が熱い。
「おう、次はお前の番だ。何となく予想は付いてるけどよ、アーチャー、お前の認識を教えろ」
「…君が好きだと言ったのは、友人としてだと、思っていた。私にとって君は、その、大切な友人だから、私も好きだと」
「ああ」
 ランサーが相槌を打ちつつ静かに先を促してくる。そのおかげで僅かに落ち着きを取り戻しながらアーチャーは小さく息を吸った。
「ランサー、君のことは大事な友人だと思っている。そして日曜日は会えないだろうから、今日君の誕生日を祝おうと決めていた」
 そう言い切った後アーチャーは口を噤んだ。
 お互い無言のまま見つめ合うこと数秒。
 はああと大きな息を吐いてランサーが机に突っ伏した。あまりの勢いに慌てて机に乗せたままだった重箱を手前に寄せる。重箱を広げる前で良かったなと、そんなことがちらりと脳裏を過ぎった。
「嘘だろお前。オレ、本気で浮かれてたんだぞ…」
「ええと、その、すまない…?」
 弱々しい声に思わず謝れば、謝んなよ、とゆるりと起き上がったランサーが首を振った。
「オレも悪かったわ。好き、だけじゃあ鈍感なお前が気付くわけないもんな。それを忘れてたオレの落ち度だ」
 鈍感とは何だ、と反論しそうになりアーチャーは口を引き結んだ。
 友人に突然好きだと言われて、気付けという方が難しいのではないか。そう言ってやりたい気もするが、重い溜息を吐いたランサーが随分と遠い目をしていて、何となく言葉にしてはいけないような気がしてしまった。
 はあ、ともう一度息を吐いたランサーが顔を上げた。赤い瞳の中で火の粉がちらりと舞うのが見えた気がして、ぎくりと身体が強張った。
「アーチャー、仕切り直そうぜ」
「仕切り直す?」
「おう」
 ランサーは再び人差し指を立て、確認させてくれ、とほんの少し眉を下げた。
「オレがお前のことをそういう意味で好きだって聞いて、どう思った?」
「どう…」
「ああ。嫌だと思ったか?もうオレと関わりたくないと思ったか?」
「!?まさか!」
 ランサーの言葉をアーチャーは慌てて否定した。驚いたし、未だにランサーの言葉を呑み込み切れていない気がするが、それでも嫌だとかそういう負の感情はなかったのだ。
 それに何より、ランサーの想いを聞いた今だってアーチャーにとってランサーは大事な友人で、関わりたくないなどとそんなこと欠片も浮かばなかったのである。
 なら、と一拍置いてからランサーはにかりと笑った。
「日曜日にオレとデートしようぜ、アーチャー」
「は?」
 想定外の言葉に間抜けな声が漏れる。
「いや、君と出掛けるのは良いが、デートという言葉は恋人に対して使うものであって、私と君は恋人ではないと」
「オレ、お前と恋人になれたんだと思ってむっちゃくちゃ浮かれてたし、明後日の誕生日だってきっと祝ってくれるだろうと本気で楽しみにしてたんだ」
 だから、デートしてくれよ、アーチャー。
 笑みを消したランサーが真っ直ぐと射抜いてくるのに、アーチャーは言葉をなくしてしまった。
 その瞳がどこまでも真剣で、相変わらず赤い炎が燃えているようで、何を言えば良いのかも、そもそも何を言いたいのかもわからなくなってしまったのである。
「そんで、嫌じゃなかったんならもう一回告白させてくれ」
「告白、されたところで」
「ああ、きっとお前にとってオレはただの友人で、そういう意味で好きなわけじゃないんだろ」
 ぐ、と息が詰まる。間違ってはいないが、何故だか少しばかり胸が痛かった。
 ランサーが一瞬寂しそうに見えたからかもしれない。
 そう思いながらアーチャーは小さく頷いた。アーチャーにとってランサーは大切な友人であって、恋慕の相手ではないのだ。
「…ああ」
「今はオレのことただの友人にしか思えないってんならそれでもいい。だけど、好きだと言われて嫌だと思わなかったのなら、俺と恋人になってくれよ、アーチャー」
「……は?」
「仕切り直しだ、アーチャー。お前は今まで通りオレのこと友達だって思ってくれてていい。でもオレはお前を恋人だって思いたい。だから恋人になってくれ」
 ランサーの言葉にアーチャーは唖然としてしまった。何を言っているんだ。そんな言葉さえ口から出てこない。
「気持ちが伴ってないのに恋人になんてなれない、とかそういうことは考えなくていいぜ?これからそういう意味で惚れさせてみせるからよ」
「…大した自信だな」
「だってお前、オレがお前に惚れてるってわかっても嫌だとは思わなかったんだろ?なら少しは脈があるってことさね」
 だからいいだろう?と自信満々に、けれどどこか不安そうに笑うランサーに、アーチャーは今度こそ何も言えなくなってしまった。
 好き合ってもいないのに恋人だなんておかしいだろう、だとか、脈があるとは何だ、だとか、色々と浮かんでくるのにどれも言葉になる前に霧散していく。だって確かに嫌ではなかったのだ。
 そういえば、とふと思う。
 誰かにプレゼントを贈ろうという時に、それを付けている様を見たいから、だなんてそんな自分の我が儘を浮かべたことがあっただろうか。相手に似ているから、なんて理由で自分用に物を買ってしまうことなどあっただろうか。青い花が欲しくなってしまったのは、何故だろうか。
「な、恋人になってくれよ、アーチャー」
 何かが思考にかすりそうになったところで、ランサーがもう一度強請ってきた。
 その視線が焦げてしまいそうに熱くて、白磁の顔がほんのりと赤くなっていることにも気付いてしまって、アーチャーはこくりと唾を飲み込んだ。
「…君が、それで良いのなら」
 ようやく絞り出した声は自分でも呆れる程に掠れていて、アーチャーは思わず手で口を覆った。何だかとても、もの凄く、恥ずかしい。
 けれどそれを聞いたランサーが本当に嬉しそうに笑ったものだから、アーチャーも釣られて笑ってしまった。

Comments

  • わんわんお
    January 28, 2025
  • July 25, 2022
  • ねいねい
    January 17, 2021
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
© pixiv
Popular illust tags
Popular novel tags