狂戦士と赤い弓兵
「Fate/stay night」のFateルートと「Fate/hollow ataraxia」のネタバレ満載です。最初バーサーカー×アーチャーをもくろんだが無理だった。最終的にはほのぼの。なお、ゲーム「Fate/stay night」のFateルート準拠なので、アニメとは違い、アーチャーは固有結界を使わずに剣で白兵戦してるし、バーサーカーの生命は六つ奪っています。
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冬木の郊外の深い深い森の中に、荘厳なつくりのアインツベルン城がそびえ立つ。
先ほどまで、そこは強大な力の荒れ狂う戦場だった。ギリシャの大英雄ヘラクレスの現身たるバーサーカーのサーヴァントと、上下に切り替えのある変わった赤い外套を翻す正体不明の英霊の現身たるアーチャーのサーヴァントにより、嵐のようにすさまじい剣戟が交わされていた。その名残が、ところどころ破壊された城壁や天井や床などに見受けられる。
「ああ。時間を稼ぐのはいいが―――別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
自分のマスターと協力者のセイバーとセイバーのマスター、二人と一騎を逃がすための足止めをマスターから命じられた時に、赤い弓兵は傲岸なまでの台詞を言い放った。
どうみても、ステータス的に、アーチャーがバーサーカーに勝利する要因はない。第五次聖杯戦争で「聖杯の器」たるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが召喚したバーサーカーは、パラメータのほとんどがAという、まさしく最強のサーヴァントだ。一方、遠坂凛が召喚したアーチャーは、この聖杯戦争中、クラス名にある弓を全く使うこともなく、かわりに黒白の双剣を愛用しランサーともそれなりに渡り合うような、近接戦闘にかなり優れた変わったサーヴァントではあるが、パラメータが魔力以外はどれもこれも平凡な数値に過ぎない、特に強いとは思えない存在だ。だから、遠坂凛の自らのサーヴァントに対する命令は、そのまま死刑宣告だった、そのはずだった。しかし。
戦闘が終わったとき、バーサーカーは、アーチャーとの激しい剣戟で六つもの生命を奪われた挙句、まださらに何本もの剣で串刺しにされていた。足元には、ぼろ雑巾のようになったアーチャーが転がっている。バーサーカーを仰ぎ見ながら睨み据えるそのまなざしにはまだ戦意が残っているが、腕も足もちぎれてしまっているし、霊核もすでに大きく傷ついており、もはやこれ以上何もなせずにほどなく消滅することは確定している。しかし、アーチャーはまるっきり能力的にかなうわけのないバーサーカーに対し大いに善戦したのだ。バーサーカーに「十二の試練(ゴッドハンド)」という、Bランクに満たない攻撃を無効化し、十一回までの自動蘇生を行うことができ、さらに一度受けた殺害方法では二度と殺せないため、完全に倒すにはAランク以上かつ十二種の攻撃か、強力な一撃で複数回殺す必要がある、などという反則級の、肉体そのものが常時発動型宝具という能力がなければ、はたしてこの戦いの勝敗はどうなっていただろうか?
(見事だ、アーチャー)
本来、バーサーカークラスのサーヴァントは、思考能力などほとんどなく、本能のみで戦闘するものだ。しかし、ヘラクレスの現身である「彼」は別格だった。バーサーカーとして、大聖杯の起動前に幼子の外見をもつマスターに召喚されたとき、生前、呪いにより狂気にかられたまま手にかけた我が子を思い出したからだろうか? 狂戦士でありながら、「彼」には理性があった。そして「主を命に代えても守り抜く」という気概があった。だからこそ、アーチャーについて気づいたことがある。
(我が主を、イリヤを、一度も狙わなかった)
さほど地力がありそうにないアーチャーが本来バーサーカーに対してとるべき戦法は、「マスター狙い」だ。マスターが死亡すれば、魔力消費量の激しいバーサーカークラスのサーヴァントは現界できなくなって、あっという間に消滅する。バーサーカーなど放っておき、ひたすらイリヤを狙って無数の飛び道具でも使えば、わずかながらでも勝機をつかむ可能性はあったはずだ。それなのに、アーチャーはその方法を自ら封じて、様々な強力な剣を出して何度も直接バーサーカーに斬りこみ、壮絶な白兵戦を演じたのだ。
バーサーカーは、すでに身体の端から消滅しかけているアーチャーのもとにそっとかがみこんだ。大きな手で、そっとアーチャーの頭を、幼子をあやすように撫でる。ふと、いままでバーサーカーを睨み据えていたアーチャーの視線が和らぎ、唇を声を出さずに小さく動かした。聖杯によって与えられた知識により、バーサーカーにはアーチャーの発した言葉がわかった。
い り や を た の む
次の瞬間、赤い弓兵は完全にこの世界から消滅した。
アーチャーによって与えられたダメージを回復しきらぬままに再びセイバーたちと対峙し、その結果、バーサーカーは、アーチャーのマスターには強力な宝石魔術の攻撃で生命を一つ奪われ、さらにセイバーのマスターであり主の兄にして弟である少年によって投影魔術で作られた、美しい黄金の剣で、セイバー主従両者に斬りつけられ、七つの生命をその一撃で奪われて斃されることになる。
消滅の直前のみ、バーサーカーは狂化から完全に解き放たれる。セイバーたちに、最後の言葉を贈りながら、感じたことがある。
(この者たちも、主を殺そうとしなかった)
共闘するくらいだから、セイバー主従もアーチャー主従も、どこか考え方に似通ったところがあるのだろう。最後まで主を守れなかったが、きっとイリヤは大丈夫だろう。バーサーカーは、主の無事を願いながら、消滅した。ここで、「彼」の聖杯戦争は終わった。
終わったはずなのに、なんでさ。
セイバーのマスターの赤毛の少年なら、きっとこう言うだろう。バーサーカーは、なぜか再び始まってしまったらしい聖杯戦争の間中、アインツベルン城のある広大な森の番人をして過ごすことになった。やはり理性が相変わらずあるので、ぼんやりと思う。
(本当に聖杯戦争なのだろうか?)
何しろ、日中は完全に平和が約束されている。主のイリヤは、一応夜間には、ここに帰ってくることがほとんどだが、何とセイバーのマスターの自宅にして主の父親が晩年暮らしていた屋敷でもあった衛宮邸で過ごすこともある。かつての聖杯戦争中では、こんなこと、ありえなかった。のんびりしすぎである。
がさがさ。
陽が少し傾きかけたころ、ふいに、森の外から、草を踏む人らしきものの足音が聞こえた。
(いや、ヒトではない。私と同じ、サーヴァントの気配だ)
やがて現れたのは、シンプルな黒い長袖のシャツと黒いスラックスを身に纏った、白髪で褐色の肌、筋肉質の偉丈夫だった。かつて自分を単独で六回殺したアーチャーのサーヴァント。弱いが「強い」サーヴァント。なぜか霊体でなく、実体化して歩いてきた。
(ここを通してはならない。ならないはずなのだが……)
バーサーカーは、目の前の赤い(今は黒い?)弓兵をじっと見つめる。弓兵も、そのありようのごとき鋼の瞳で、穏やかに見つめ返してきた。
「バーサーカー。君と戦うつもりはない。君の主に少々用があるのだ、通してもらえないだろうか」
(そうか。私に警戒させないために、武装もせずに、実体化してきたのか)
しかも、バーサーカーの背後、城に続く森には主によって結界が張られているから、どちらにせよ、霊体化する意味もない。
バーサーカーは、城にいる主にラインを通じて伺いをたてる。主の念話が、鈴の音のように頭の中に響き渡る。
―――バーサーカー、今日は「四日目」。それに彼もまた「シロウ」よ。通しなさい―――
そうだった。かつてはわからなかったが、アーチャーは主の兄弟である赤毛の少年が「至った」存在だった。バーサーカーは、少しかがみこんで、大きな手をそっと目の前のアーチャーの頭の上に置き、そっと撫でる。アーチャーは軽く目を見開き、バーサーカーをふり仰ぐ。
「バーサーカー?」
言葉を使うことのできないバーサーカーは、一通り唸ると、体を横にずらし、アーチャーのために道を開けた。
「……ありがとう、バーサーカー」
アーチャーは、目を細めてきれいな笑顔をバーサーカーに向け、軽く頭を下げて礼を言いながら城に向かっていった。
(きっと、アーチャーは主に思い切り甘えられ、なおかついじりまわされるだろう)
もうじき、日が暮れる。たぶん、アーチャーは主に足止めされて、城に泊まり、イリヤと穏やかな一晩を過ごすだろう。そして、また次の「一日目」がめぐってくる。
バーサーカーは、箱庭が終わる「その時」がやってくるまで、ひたすらまじめに、森の番人を続けた。
(おしまい)