夢の欠片【エミヤ】
──何処かの『エミヤ』と、マスター達の、夢の話。
エミヤしんどい病を患っているエミヤ大好き作者の捏造話ですので、おかしいところもあると思いますが、軽く読んでやってください。
エミヤしんどい。
- 126
- 167
- 5,641
⚠注意
・FGO時空
・捏造100%です。
・部分的に弊カルデア設定ですので、あれ?と思うところは、こういうカルデアなんだなと思って流していただけると幸いです。
・エミヤしんどい病を患っているエミヤ大好き作者の捏造話ですので、おかしいところもあると思いますが、軽く読んでやってください。
・エミヤしんどい。
以上を理解し、楽しんでいただける方は、お付き合いくださいませ。
↓
──────────────────
ふと、目が覚めたような気がした。
重い瞼を持ち上げる。
ぼやけた視界に映ったものは、真っ暗な中にぽつりと浮かんだスクリーンのようなものだった。
周囲を見回す。
自分は映画館の座席に座っているようだった。
そして、自分以外にも、複数人の気配がする。
ぐるりと首を回すと、そこにいたのはよく見知った顔ばかりだった。
自分のカルデアにいる英霊達。
自分の右隣にはマシュがいた。
あれ、でも。
おかしい。
一番見知った顔がここにはいない。
一番初めに自分の呼び声に応えてくれて、誰よりも料理が上手なカルデアのシェフで、誰よりも世話焼きで優しいカルデアのお母さんである彼が、いない。
どうしてだろう。
そんな疑問を覚えていると、後ろに座っていたランサーのクーフーリンに声をかけられた。
「マスター」
「……ランサー?」
「おう」
「これって、いつものアレ?」
「多分な」
『いつものアレ』とは、稀にある、マスターと英霊の夢がリンクしてその英霊の過去やら縁ある出来事やらを見ることのできる何とも不思議な夢旅行のことである。
でも、今までこんなに多くの英霊が登場した夢はなかった。
そして、彼がいない。
──つまり、これは。
「……もしかして」
自分がそう言いかけると、ランサーも同じことを考えていたのだろう。
全て言い終える前にランサーの口から続きが告げられる。
「あぁ、アーチャーの夢だろうな」
やっぱり。
そういえば、一番初めに来てくれたのに、今まで彼の夢とリンクしたことはなかった。
彼は自分のことをあまり語らない。
だから、彼の過去は全然知らない。
彼が言いたくないのならば、それでよかったからだ。
それこそ無理に聞くことでもないし、本人が言いたがらないことをわざわざ追求したところで何になるというのだろう。
そう思って、何も触れなかった。
けれど、今。
思いもよらない形で、彼の過去を知ることになってしまった。
しかも、本人がいないところで。
これは、いいのだろうか?
そう悩んでいると、前方のスクリーンに、映像が流れ始めた。
薄いセピア色のそれは、何故か、走馬灯のように思えた。
一人の青年が、走っている。
髪は、明るい茶髪と白髪が半分ずつ混ざりあっているような、かなり変わった髪色をしていた。
肌も、白い肌に痣のように褐色が滲んでいる部分がある。
頭には布のようなものを巻いている。
砂除けか日除けだろうか。
多分、外国なのだろう。
彼とは違う人種であろう人々がその場にいる大半を占めていた。
戦争中なのだろうか。
飛び交う弾丸と、舞う砂嵐。
飛び散る血飛沫に、響く悲鳴。
誰も彼もが、生きようと必死だった。
走る。走る。
──あ。
思わず、口から声にもならない小さな音が溢れる。
小さな女の子が、転けていた。
親とははぐれてしまったのだろうか。
自分の命で精一杯の周囲の人々は、泣きじゃくる少女に気づかない。
と、そこに先程の青年が弾丸と飛び散る破片を避けながら駆け寄っていく。
青年は少女を抱え、走る。
破片が当たらないように少女の頭を抱え込むようにして、青年はただただ走る。
過去の出来事であるにも関わらず、見ている自分の手に力が入る。
青年は、避難場所のようなところに辿り着く。
そこには、少女の母親もいたらしい。
母親と少女は泣きながら抱き合って、喜びを分かち合う。
そこにはもう、少女を助けた青年はいない。
場面が切り替わる。
青年は、走る。
息を切らして。
前だけを向き。
流れ続ける映像の中で、青年は、一度も自分のために動かなかった。
全て、他人のために動いていた。
それが、自分の全てであるかのように。
ただ、ただ。
場面が切り替わる。
真っ白になった髪に、褐色に塗りつぶされた肌。
彼は、絞首台の前に、立っていた。
息を呑む音が、静寂の中に、響いた。
きっと、自分も、そして他の英霊達も。
握り込んだ掌に爪が食い込んで痛い。
それでも、そんな痛みなんて気にならないほど、映像に釘付けになっていた。
何語かはわからないが、処刑人と思わしき男が、高らかに宣言する。
民衆が湧く。
野次馬は、数えきれない。
皆、叫び、嗤い、彼を責め立てる。
彼は、何も言わない。
─それどころか、穏やかな笑みを浮かべていた。
民衆は、その微笑みを見て、その場は一瞬、水を打ったように静まり返った。
それでも、すぐに怒号がその場を包み込む。
それでも、彼は、穏やかに微笑む。
さも、己が死ぬことを己が一番望んでいるかのように。
彼は、ただ、笑う。
何も言わずに。
青年の頭に、布袋が被せられた。
そして、首に、縄が。
─────ガタン、と音が。
映像は暗転した。
僅かに、視界が滲む。
ぐっと、唇を噛み締める。
血が出そうなくらい、噛み締める。
そうでもしないと、耐えられなかったから。
手には、感覚がわからなくなるくらい、力が入っていた。
映像が切り替わる。
何もない荒野に、一人。
紅い、男が。
双剣を持って、立っていた。
顔は見えない。
上げられた白髪に、見える肌は褐色。
今の、見慣れた、彼の姿だった。
彼は、動かない。
周りには、死体。
死体。死体。
血溜まり。
赤。紅。朱。
命ある物は、全て。
そこには、何も、なかった。
なにも。
彼は、動かない。
置き物であるかのように、彼は、微動だにしない。
息をしているのかさえ、わからない。
ただ、血に塗れ、双剣を固く握り締め、命絶えた荒野に、命無き彼が立っていた。
死して尚、命ある者の命を奪わなければならない彼は。
彼は、何を、思うのか。
彼が、動いた。
肩を震わせている。
項垂れた頭に、手を当てる。
小さな、息を吐く音が、聞こえる。
あぁ、笑っている。
わらっている。
彼は、わらっていた。
自分自身を、嗤っていた。
仕草は笑っているのに、自分には、彼が泣いているようにしか、見えなかった。
彼は、また、動きを止めた。
そして、剣を持つ右手に、左手を添えた。
剣は、心臓に向かって、真っ直ぐに。
彼は、わらっていた。
場面が切り替わる。
また、彼は、命絶えた荒野にいた。
彼は、座ったまま、動かない。
項垂れた頭。
髪は、乱れていた。
上がっていた前髪は、下りていた。
顔は見えない。
双剣はなかった。
彼は、また、わらう。
肩を震わせる。
あぁ、哭いている。
彼は、また、動きを止めた。
今度は、銃を投影する。
そして、その、銃を、あたまに。
彼は、わらっていた。
映像はここで、終わった。
痛いほどの、静寂が。
ゆっくりと息を吐く。
身体が強ばっていた。
手は、酷く冷たくなっていた。
唇からは、ほんの少し、鉄の味が。
あぁ、あぁ。
彼は。
「……本当にくだらないな」
前方から、声が聞こえた。
耳慣れた、低い、落ち着いた声。
頭を上げる。
スクリーンの前に、彼は、立っていた。
最前列よりもさらに前。
スクリーンの真ん前に、姿勢良く、立っている。
「やぁ、こんばんは」
にこりと微笑むその男は、下ろされた白髪に褐色の肌。
映像とは違い、肌に沿う黒いインナーを身に纏っている。
先程まで、ずっと見ていた筈なのに。
酷く、懐かしく感じた。
「エミヤ……?」
「あぁ」
久しぶりに出した自分の声は、弱々しく震えていた。
彼は、短くそう答えて、微笑む。
そして、何処から持ってきたのか、椅子に腰掛ける。
「これが正義の味方に憧れ、他人の幸せでしか笑えない男の末路だよ」
彼はそう言って、わらう。
「正義の味方にも何にも成れずに、ただの掃除屋に成り果てた男が私だ」
彼は、言葉を続ける。
ぞわりとするようないい声が、空間に反響する。
彼は、物語でも読むかのように、静かに語る。
「酷くつまらないだろう?」
彼は、わらう。
「……」
何も、言えない。
何故か、なにも言ってはいけないのだと、思った。
彼は、わらう。
「すまないな、こんなことに付き合わせてしまって」
彼はそう言って、眉を下げる。
そして、わらう。
「そして、この馬鹿げた夢は私の死をもって終わるんだ」
頭を、鈍器で殴られたみたいに。
酒を飲んで、酩酊したみたいに。
頭が、痛い。痛い。痛い。
口から溢れたのは、言葉にならない音。
驚きが、声にならずに、空気に溶ける。
彼は、じっと此方を見つめたまま。
鋼色の瞳は、揺らがない。
鋼色が細くなる。
あぁ、彼が目を細めたのか。
冷静な自分と、何も考えられない自分が、ひとつの体に同居している。
心臓が、痛い。
彼は、わらう。
「……大丈夫だよ、藤丸立香。これはただの悪い夢だ」
はじめて、そう、呼ばれた。
はっとして、彼を見詰める。
彼は、わらう。
「私は君達のところの『エミヤ』ではないから、君をマスターと呼ぶことはできない。私は世界の所有物だからね」
彼は、ゆったりと、長く細い脚を組む。
そのあまりにも様になる姿に、まるで、まだ映画を観ているかのような錯覚に陥る。
これは、夢、なのか?
「でも安心してくれ。ここで私が死んでも、君達にも、君達のところにいる『エミヤ』にも影響はないから」
また、わらう。
「……切り捨てられるべき物が、切り捨てられる。ただそれだけのことさ」
そう言って、にっこりと、お手本のようにわらう。
「だから、そんな顔をしないでくれ」
はじめて、笑みが、
彼は、困ったように、笑った。
「っ……!」
いつの間にか、頬が濡れていた。
マシュがハンカチを差し出してくれた。
「あ、りがと、……」
マシュは小さく首を振って笑った。
「さて、そろそろ時間だな」
彼は、またわらう。
「浦島太郎然り、夢というものはあまり長くいると現実に帰れなくなってしまう。現実との齟齬が発生するからな」
彼は、顎に手を当て、思案する。
「…さて、何で死のうか」
軽い口調で。
何食べる?くらいの、軽いノリで。
彼は、わらう。
「ふむ…剣も銃ももう使ってしまったからな」
「なぁ」
不意に、後ろから、男の声が。
「……おや、クーフーリンか」
「おう。俺の槍はどうだ?」
ランサーは、そう言って、槍を彼に向ける。
「……そうだな」
彼は、頷く。
「では、少し借りてもいいか?」
「あぁ、ちゃんと返せよ」
「……さてね」
「おい」
彼は、わらう。
「さて、長々と付き合わせてしまってすまなかったな」
彼は、立ち上がる。
そして、恭しく、まるで映画俳優のように、礼をする。
「これは、一度限りの、ただの悪い夢だ。もう二度と会うことはないだろうが」
顔を上げた彼は、にっこりと、わらう。
「私は『エミヤ』の中の、摩耗する記憶のひとつでしかない」
ぐっと、堪える。
涙も、声も、未練も。
だって、彼は、それを望んでいない。
何も出来ないのなら、出来ないなりに、彼に敬意を払おう。
自分も立ち上がる。
隣と後ろでも、皆が立ち上がる気配がした。
彼は、わらう。
「だから、君達もすぐに忘れてしまえ」
彼は、紅く長く鋭い槍を、心臓に向けて、真っ直ぐ。
彼は、笑っていた。
──がばりと勢いよく起き上がる。
部屋の眩しさに目を細める。
酷く、汗をかいていた。
手は、爪の跡がつくほど、きつく握り締めていた。
荒い息を整える。
時計を見ると、いつもよりも早い時間だった。
「…………起きよう」
ゆっくりと簡素なベッドから降りる。
ざっと身なりを整え、部屋を出る。
行先は決まっていた。
足は迷いなく進んでいく。
こころなしか、歩くスピードはいつもよりも早い。
少し息を切らしながら、向かう。
「っ……おはよう!」
扉を開けると同時に声に出す。
見ると、そこには、いつもの。
「おや、おはようマスター。今日は随分と早いお目覚めだな」
あぁ、よかった。
彼の姿を見て安心してしまい、思わずその場にしゃがみこんでしまった。
「大丈夫かマスター!?とりあえずこちらに座れるか?」
彼は、駆け寄って来てくれる。
声音から心配してくれているのが、伝わって、もう、だめだった。
止めようにも、どんどん涙が溢れてきて止められない。
「っ……」
「どこか痛いのか?あぁこら、目を擦ってはいけない。温かいおしぼりを持ってくるから、ちょっと待っててくれ」
あぁ、エミヤだ。
誰よりも強くて、
誰よりも世話焼きで、
誰よりも優しくて、
誰よりも、
誰よりも、
───かっこいい正義の味方だ。
「っ、えみや」
「どうした?」
温かいおしぼりと温かいココアを用意してくれて、優しく背中を撫でてくれる、この器用だけど不器用な一人の人間に。
「っ、いつも、ありがとう!!」
そう言って抱きしめると、彼は笑った。
「…それは私の台詞だよマスター。こちらこそ、いつもありがとう」
そう言って笑う彼は、誰よりも、何よりも、素敵だった。
Comments
- キッシュNovember 2, 2020