<未踏の頂へ―’26センバツ北照>支える人/上 12都市で勤務のホテルマン 柳島司さん(57) /北海道
◇「信」こそ力、背中押す 常にポジティブ 選手に声掛け 1月中旬のある日。練習後の北照の選手たちは、小樽市内のホテルにコック帽とエプロン姿で並んでいた。そこに現れたのは、ホテル・グランドパーク小樽総支配人の柳島司さん(57)だ。「おいしい料理とキャッチボールに共通するものは?」「それは真心です」。満面の笑みで選手たちに語りかけた。 【写真特集】センバツ2026出場の32校決定 各校の喜び 柳島さんは地域活動の一環として、同校での講演や料理体験の提供など、さまざまな形で野球部と関わる。同時に毎週のように練習や試合に顔を出し、道外の合宿にも同行する「大ファン」だ。 この日は、ホテルの総料理長が選手らにアスリートに必要なたんぱく質やビタミンBなどの栄養素やそれらが含まれる食物を紹介。「バランス良く食べることで、体を大きくし、パフォーマンスを向上させられる」と説明した。選手たちはハンバーグやパスタなどの調理にも挑戦し、グラウンドとはひと味違った表情を見せていた。 愛知県出身の柳島さんは、甲子園常連校の中京(現・中京大中京)に入学。数多くのプロを輩出し、1学年下には元巨人の後藤孝志さんもいた環境で、厳しい練習に打ち込んだ。一度もベンチ入りできず、同じ境遇の部員の多くがやめていったが、腐らずに最後までやりきった。 ゴミ拾いやトイレ掃除、弁当の発注など「人が嫌がる仕事」も率先し、先輩や後輩と信頼関係を築いた3年間。「やりきったことを自分でも誇りに思う」と振り返る。 高校卒業後は東京のホテルでウエーターなどの仕事に従事。あるとき先輩から「レストランは外国人で満席だろ。英語しゃべれるの?」と問われ、返答に困った。「この世界では英語が必要だ」とオーストラリアに4年間留学。語学を武器に、その後はインドネシア、シンガポール、米国など計12都市のホテルで勤務してきた。 2023年9月にグランドパーク小樽に着任。25年2月の同校での講演を機に、昨春初めて野球部の練習試合に足を運んだ。あいさつや道具の扱いに表れる礼儀正しさや選手の成長スピードに感銘を受け、応援にのめり込んでいった。 グラウンドでは「ナイスキャッチ」「打球いいよね」、三振でも「素晴らしいスイング」などポジティブな言葉を投げかける。スマートフォンのメモには「本塁打を打った後、浮かれることなくダッシュでホームに還ってきた」など、選手ごとの細かな「良かったところ」をびっしり書き込む。 その裏には、約35年間のホテルマン生活で抱いた信条がある。 経験を積んだ外資系のホテルでは、上司たちが従業員一人一人の適性を伸ばそうと、たくさん良いところを見つけ、褒めてくれた。そうした環境で認められ自分を信じられるようになることが共に働く仲間を信じることにつながり、チームワークを引き出すと考える。 「孫を見守るように、『頑張れ』の代わりに信じてあげたい」。優しいまなざしで選手を見つめる柳島さんに、上林弘樹監督(46)は「どんな時もいいところを探してくれる。僕はそれが苦手だが、柳島さんの言葉は選手の原動力になっている」と感謝する。 センバツに挑む選手たちに柳島さんは、「点を取るだけでなく、あいさつやバットの置き方など一瞬一瞬で勝ってきてほしい」と磨いてきた人間性の発揮を望む。「こんなに素晴らしいチームに出会えて本当に幸せ。人生の活力です」。温かいエールでチームの背中を押している。【森原彩子】 ◇ 19日の第98回選抜高校野球大会開幕が迫ってきた。大会での躍進を目指す北照の選手たちを支え、背中を押してきた人たちを紹介する。