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吉田恵梨香さん(写真左)と佐野広美さん(同右) 撮影/森清
吉田恵梨香さん(写真左)と佐野広美さん(同右) 撮影/森清

戦争の足音が近づく今

――映画『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』をご覧になったあと、吉田さんはこのようにコメントされていました。「今起こっている恐ろしい出来事を私達は『遠い国のことだから』とか『わたしたちには関係ない』とかつい言い訳をして目を逸らしてしまう。だが目を逸らすという行為は、誰かから責められない程度にじんわりと戦争と虐殺を肯定していくことではないのか?

また、佐野さんは『氾濫の家』の中でヘイトの五段階を次のように紹介しています。「いちばん下が人に対して偏見を持っていても、思っているだけ。つぎが、その偏見が態度に出てしまうレベル。真ん中が偏見を口にしてしまうレベル。そして、偏見の相手を暴力で叩こうとするのが、上から二番目。で、最後は虐殺」    
お二人の戦争に対する今の思いをお聞かせ下さい。

『氾濫の家』では基地建設をめぐりヘイト問題が描かれる

吉田:少なくとも戦争が何十年も起こっていない日本に住んでいる私達だからこそつたえられることがあると思っていて、そういう意味で私達は自分にできることを果たせていない気がするんです。「戦争ダメじゃん」「虐殺ダメじゃん」という綺麗ごとは、どんな理由があっても普遍的な総意であっておかしくないはず。それなのに「でも、自分の国が侵略されたら戦うしかない」と、歴史的背景や構造をすっ飛ばして話しだす相手とは会話が難しい。せめて共通認識で「戦争は断固反対」になっていないとおかしくないか? と。戦争の足音が近づいているのは本当に怖いと思います。数十年後、今を振り返った時、歴史の教科書の上では私達は既に第三次世界大戦の中にいるのかもしれない。だからこそ、今何をするべきか、何を踏みとどまるべきかはずっと考えていきたいです。

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佐野:10年前に平和安全法制(憲法第9条の下では違憲とされてきた集団的自衛権の行使を可能にし、米軍などが起こした戦争に自衛隊が地理的限定なく参加する)を通しているでしょう。当時、これを通してしまったら戦争になると指摘した人もいるけど、そうじゃないということで通ってしまった。でも、一つの法律が木の幹だとしたら、それを運用するために枝となる法律をどんどん作っていくものなんですね。それが言論規制などにもつながっていく。1つ決まったら、関連でいろんなことが出てくるというパターンを頭に入れておいて、その影響で起こりうることを予見して物事を考えていかないと駄目なんだと思います

社会問題を描く「切符」をもらって

――お二人の作品には、今起こっている、あるいはこれから起こりうる問題がたくさん描かれていますが、最終的には救いや希望が描かれていますよね。そこにはどんな思いがあるのでしょうか。

佐野:個人的にはドツボにはまった方が良いんじゃないかと思うこともあるんですよ。でも、そこは物語の要請です(笑)。

吉田:私自身は優しい世界も本来は好きで、これまでも書いてきたんですけど、そこだけという作品に今はあまり魅力を感じていない。でもせめて最後には希望を描きたいという思いがあるんです。ノンフィクションと違うのはそこかな、と。実際、人って変わらないし、変われないことが多いけど。私はここ数年、“「エンターテインメントにしつつ、作品の中で社会問題を描いて良い人」切符”をもらっているという思いがあって、だったらやり尽くしたいなと思っていて。その切符をもらいたくてずっとこの仕事をやってきたんです。でも、いざもらってみると、「トラつば」が100の味付けだとすると、作品によって50の味付けを求められるときも20のときもあったり、本当は0を求められていたのに、10を100ととらえる人がいたり。切符の使い方の難しさを感じているところですが。

『虎に翼』スピンオフ『山田轟法律事務所』より
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佐野:そういう意味では私も5年くらい前に(2020年に、軽度認知障害と闘いながら謎に立ち向かう元刑事を描いた『わたしが消える』で第66回江戸川乱歩賞を受賞し)切符をもらったんですが、もう疲れちゃった(苦笑)。嫌な奴を書くのって疲れるんです。

吉田:小説家は全部を一人で背負うので疲れるのはわかります。私の場合、良くも悪くも分業が中心なので。それに、「これ(差別の話や社会問題)、どうして必要なの? この作品とあまり関係ないよね」と、私はずっと言われてきたから。ただ、『虎に翼』では、スタッフ全員が同じ方向を向けていた贅沢な時間を過ごしてしまっただけに、今後の他の作品では手探りでドキドキですが、いろんな人と一緒にやりたいし、いろんな作品を作りたいので、ようやくもらえた切符を頑張って最大限に使っていきたいと思います。

虎に翼スピンオフ「山田轟法律事務所」   
3月20日(金・祝)NHK総合 夜9:30~10:42   
※NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信予定

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