それでも僕は、君の隣にいたい。
新学期、席替え。僕と一ノ瀬美空はまた同じクラスで、席は斜め前だった。
「○○、今日髪整ってるじゃん!」
「まあ、外出るしさ。」
「へぇ、じゃあ美空に会うから気合い入れたんだね!」
美空は、わざとらしくにやっと笑う。あざとい。というか、自分が可愛いこと知っててやってるタイプの笑い。
周りのみんなは「あー、まただよ」みたいな目で見てる。美空が僕にベタベタするのはもう日常だった。
「今日もノート貸してよー♡今日の板書写すのめんどくさい〜」
「え、また?笑」
「○○の字、好きなんだもん♡」
言いながら肩にちょん、と頭を乗せてくる。
その距離感は、友達以上恋人未満なんてもんじゃない。普通に、好きって言ってるようなものだった。
ただ、僕は知っている。美空は人から「好き」って言われることに慣れてる。
周りは勝手に美空に惚れて、勝手に勘違いして、勝手に傷ついていく。
だから、僕は踏み込まなかった。美空に惚れたら負け。そう思ってた。
……いや、もう、すでに負けてたんだ。
放課後、教室。いつもより夕日が強くて、窓ガラスがオレンジに染まっていた。
「○○、今日一緒に帰ろ?」
「ごめん!今日補講あるんだ」
「嘘だ〜♡美空、先生いないの知ってるよ?」
わかってるくせに言う。わかってるから、笑ってる。教室には僕たち二人だけ。静かすぎて、心臓の音が聞こえそうだった。
「じゃあさ」
美空が急に真顔になる。
「なんで、好きって言ってくれないの?」
心臓が、音を立てた。でも俺は、また逃げる。
「僕はなんにも言ってないでしょ?」
「そう。だから美空は聞いてるの」
視線がぶつかった。真っ直ぐで、逃げ道がなかった。美空の瞳は強くて、でもどこか寂しそうで。
「美空は、何がほしいの?」
「え、○○。」
即答だった。胸が痛いほど、嬉しかった。
けど僕は、また言ってしまった。
「それはちょっと、わからないなぁ」
美空の笑顔が、一瞬だけ止まった。その一瞬が、僕の心に深く刺さった。
「そっか。じゃあ、美空はずっと待つからね!」
その声は明るいままなのに、背中を向けるときだけ、少しだけ小さかった。夕日の中を歩いていく美空の影が、妙に長く見えた。
次の日からも、美空は変わらなかった。
朝、教室に入ると、すでに美空は席についていた。
「あ、○○!おはよー!」
手を振る仕草が、少し子供っぽくて可愛い。隣の女子が「いいなぁ、美空ちゃんは」って笑ってる。
「今日の体育、一緒のチームになりたいな」
「ソフトボールは下手だけど?」
「いいの!応援するから!」
そう言いながら、美空は僕の机の上にポッキーを置いた。
「はい、朝ごはん食べてない人用ー」
「ありがとう。でも、なんで僕が朝ごはん食べてないって分かったの?」
「だって○○、いつも眠そうだもん」
そう言って笑う美空は、僕のことをよく見ていた。
LINEは毎日。既読スルーすれば「既読なの可愛い」とか意味わからない返しがくる。
```
美空:ねぇねぇ、今日の数学の宿題わかった?
僕:(既読無視)
美空:既読ついてるー!
美空:無視するのかわいい♡
美空:じゃあ明日教えて?
```
教室でも、休み時間でも、帰り道でも。それはたぶん「お願い、気づいて」って言っているみたいだった。
僕は、それをちゃんと受け止められなかった。理由は簡単だった。ただただ怖かった。美空はいつか、僕の手の届かないところに行く。そんな気がしてたから。
ある日の放課後、図書室で勉強していると、美空がひょっこり現れた。
「あ、いたー!」
「美空、今日は部活は?」
「サボった♡」
堂々と言う。美空は軽音部に所属していたけど、そこまで真面目に行ってるわけではなかった。
「○○の隣、いい?」
「いいよ」
美空は隣に座ると、鞄から参考書を取り出した。でも、ページをめくるわけでもなく、ぼーっと窓の外を見ている。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
そう言って、美空は僕の方を向いた。
「ねぇ、○○って将来何になりたい?」
「急にどうしたの?」
「なんとなく。気になっただけ♡」
「うーん、まだ決めてないかな」
「そっか。美空はね、誰かの隣にいられる人になりたい」
「それって、どういう意味?」
「わかんない。でも、一人じゃ寂しいでしょ?」
美空の言葉は、いつもどこか意味深だった。
夏休み前、美空は突然距離を置いた。LINEは短くなり、席でも視線が合わなくなった。声のトーンも、少しだけ柔らかくなくなった。
朝、教室で会っても「おはよう」だけ。いつもなら「○○、昨日のドラマ見た?」とか話しかけてくるのに。
「○○、最近冷たくない?」
友達に言われた。
違う。僕じゃない。離れたのは、美空の方だ。でも、理由はわかってた。僕が、美空の想いを受け取る勇気を出さなかったからだ。
ある日の昼休み、屋上に行くと、美空が一人でいた。
フェンスにもたれて、空を見上げている。風が髪を揺らして、その姿は少し儚く見えた。
「美空」
呼んでも、振り向かない。
「……なに?」
冷たい声だった。いつもの明るい美空じゃない。
「最近、避けてない?」
「避けてないよ。ただ、疲れちゃっただけ」
「何が?」
「○○が鈍感なこと」
美空は初めて、僕に怒っていた。
「一方的に好きって伝え続けるのって、疲れるんだよ。わかる?」
わかってた。でも、それを認めるのが怖かった。
「ごめん」
「謝られても困る」
美空は立ち上がって、僕の横を通り過ぎようとした。
「ねぇ、美空」
「なに?」
「もう少しだけ、待ってくれない?」
美空は振り返らずに言った。
「もう待ってるよ。ずっと」
その背中が、遠かった。
夕方、校舎裏。美空は一人、ベンチにいた。
「美空。」
呼ぶと、ゆっくりと振り向いた。
「あ、○○……どうしたの?」
「2人で話したい」
「もう……大丈夫だよ」
その言葉が、一番つらかった。
「もう、大丈夫だから。美空、ちゃんと諦めるから」
美空は笑っていた。今まで見てきた、どの笑顔よりも綺麗だった。だから怖かった。
「好きだ」
気づいたら、言葉が出ていた。
「美空が好きだ」
美空の瞳が揺れた。頬がゆっくり赤く染まる。
「○○、遅いよ……」
声は震えていた。
「ずっと、ずっと言ってたのに…」
「本当は最初から分かってた。」
「ならなんで…」
「怖かった。好きになるのがじゃなくて、美空っていう存在を失うのが」
美空は目を閉じて、深く息を吸った。
「もう、失わない?」
「失わない」
「ずっと、隣にいて?」
「もうこれからも、そのつもりだよ」
美空は涙をこぼして、笑った。
「……じゃあ、言って」
「なにを?」
「ちゃんと、聞かせてよ。私、ずっと欲しかったんだから」
俺は迷わず言った。
「美空。僕はあなたの事が大好きです。だから、これからはずっと一緒にいたい」
美空は俺の胸に顔を埋めながら、小さく笑った。
「やっと……やっと落ちてくれたの…」
その声は、少し誇らしげで、ちゃんと、可愛かった。
夕焼けが二人を照らして、影が一つに重なった。
次の日から、美空は露骨だった。
「○○、ここ座って!」
教室で俺の席の横の椅子をトントン叩き、当然のように座る。
「ねぇ今日さ、手繋いで帰る?」
「人多くない?」
「んもう!じゃあ校門出てからね!」
言いながら、美空は僕の袖をつまむ。もう離す気ゼロ。
クラスメイトたちが「あー、やっぱりな」みたいな顔で見てる。
「一ノ瀬さん、ついに落としたんだ」
「○○、やるじゃん」
「いやいや…」
照れる僕を見て、美空がニヤニヤしてる。
休み時間になれば、
「ねぇこれ見て、かわいくない?」
美空は自分の横顔を見せつける角度で、スマホを差し出す。ただの自撮りじゃなくて”好きな人に見せる顔”ってやつだった。
「美空が1番かわいいよ」
僕がそう言うと、美空はすぐ顔をそむける。
「…当たり前でしょ//」
照れ隠しの声は小さい。あざといのに、真っ直ぐ。強いのに、すぐ泣きそうになる目。ぜんぶ、わかってる。
放課後。校門を出た瞬間、美空が手を伸ばす。
「もういいでしょ。はい!」
手は小さくて、あったかかった。
「離さないから」
「離さないよ」
本当に、離れないと思った。そのときは。
商店街を歩きながら、美空はずっと僕の手を握っていた。
「ねぇ、アイス食べたい」
「じゃあ買おうか」
コンビニに寄って、美空はチョコミントのアイスを選んだ。
「○○は?」
「バニラでいいよ」
「つまんなーい」
そう言いながらも、美空は嬉しそうだった。
公園のベンチに座って、アイスを食べる。美空は僕の肩にもたれかかってきた。
「ねぇ、幸せ?」
「うん、幸せ」
「美空も」
シンプルな会話だけど、それが心地よかった。
夏休み明け、雰囲気が少し変わった。
「一ノ瀬さん、この問題わかる?」
「美空ちゃん、今日プリ撮りに行こ!」
「美空ちゃん今日も可愛いね!」
美空は周りに人気がある。男子が話しかければ、美空はちゃんと笑って返す。女子が話しかければさらに笑顔で話す。悪いことじゃない。
「えへへ、ありがと!」
美空はそう返す。ただ、僕はふと思ってしまった。
「僕じゃなくてもできるんじゃないか」って。
そして、美空も気づいていた。
放課後、いつものベンチ。
「ねぇ、なんで最近手、繋いでくれないの?」
「そ、それは人が見てたし……」
「前は気にしてなかったじゃん!」
美空の声は強くなくて、淡いけど、逃げ道を塞ぐ。
「○○はさ」
美空は僕を見つめる。
「美空のこと好きなんでしょ?」
「そりゃ、もちろん。好きだよ」
「じゃあ、なんで困った顔するの」
ドキッとした。美空は全部、見ていた。僕が不安になっていることも。
「ねえ、ちゃんと言ってよ……」
「……怖いんだよ」
言った瞬間、美空の目が揺れた。
「美空が、誰かに取られるのが?」
「……そうだよ」
美空はゆっくり息を吐いた。
「早く言ってよ。そういうの」
「男がそういうこと言ったら、ダサいじゃん……」
「ダサくていいじゃん」
「美空は強いから言わなくてもいいかなって……」
「別に美空、強くないよ」
声が震えた。
「美空はね、強いふりしてるだけだよ」
僕は美空の手を握った。前より少し強く。
「じゃあもう離れない?」
「うん、二度と離れないよ」
美空は目を閉じた。涙は落ちなかった。でも、落ちそうだった。それでよかった。
文化祭の準備期間。美空はクラスの中心で、明るく笑って指示していた。
「☆☆くん、そこに運んでいって!」
「はーい」
「△△くん、もう少し残れるかな!」
「一ノ瀬さんのためなら!」
教室の隅で、男子たちが話してるのが聞こえた。
「美空さんってすげぇよな…」
「あれは絶対モテるよな」
「彼氏とかいるんじゃね?笑」
「わんちゃん○○とか?笑」
「いやいや、不釣り合いっしょ!笑」
「いやでも美空さん、最近不安そうな表情多いっぽいよ。」
その言葉を聞いて、心臓がざわついた。僕は気づいた。「不安なのは僕だけじゃない」ってことに。
休憩のとき。美空は疲れたみたいに机に突っ伏していた。
僕は言った。
「美空?」
顔を上げる。少しだけ、弱い目。
「んぅ…あ、○○、どうしたの?」
「好きだよ」
教室中が、静かになった。美空の目がゆっくりと丸くなる。
「え、い、今言うの!?ど、どうしたの?」
「なんか、言いたくなってさ。」
「う、嬉しいけど……///」
美空は、笑った。ずっと、欲しがっていたみたいに。
「……○○、こっち来て」
俺は自然と近づいた。美空は廊下の隅まで連れていき、小さな声で言った。
「○○が好き。大好き。美空の自慢の人だよ。」
それは、敗北宣言じゃなくて、勝ち取った人が言う言葉だった。周りなんて、どうでもよかった。俺たちは、やっと同じ場所に立っていた。
文化祭当日、クラスは喫茶店をやることになっていた。美空はメイド服を着て、接客をしていた。
「いらっしゃいませー!」
可愛い声で迎える美空に、男子たちが群がる。
「一ノ瀬さん、似合ってる!」
「写真撮ってもいい?」
美空は笑顔で対応しているけど、時々僕の方を見る。その目は「助けて」って言ってるみたいだった。
僕は厨房から出て、美空の隣に立った。
「美空、少し休憩したら?」
「あ、○○。ありがとう」
そう言って、美空は僕の腕を掴んだ。
「みんな、ごめんね。ちょっと休憩するから」
外に出ると、美空は大きく息を吐いた。
「疲れた〜」
「お疲れ様」
「○○がいてくれて助かった」
「いつでも頼って」
美空は嬉しそうに笑った。
夕方、文化祭が終わった後。屋上で二人きりになった。
「今日、楽しかったね」
「うん。でも疲れた」
「お疲れ様。美空、頑張ってたね」
「○○がいたから頑張れたんだよ」
美空は僕の肩にもたれかかってきた。
「ねぇ、このまましばらくいい?」
「いいよ」
夕焼けが空を染めて、二人の影が長く伸びていた。
ある放課後の帰り道。外の雑音の声が強くて、校舎が遠ざかる。美空は僕の手を繋ぎながら、前を見たまま言った。
「ねぇ、美空ってさ、多分軽いって思われてるよね」
急すぎて、少し驚いた。
「なんでそう思うの?」
「みんなに同じように笑ってるから」
「それは美空が優しいからでしょ?」
「ううん。美空はね、優しいんじゃなくて、みんなに嫌われるのが怖いだけなの。」
歩く速度が少しだけゆっくりになった。
「誰かに嫌われると、自分が無価値みたいに感じちゃうの、昔から」
美空は笑顔の人だ。明るくて、前向きで、キラキラしてる。そんな人が、そんな言葉を言うことがあるなんて、気づけなかった。
「僕はどんな美空でも嫌わない」
「ほんと?」
「ほんと」
「ずっと?」
「ずっと」
美空は、僕の袖をぎゅっと握った。
「ねぇ、じゃあ言って?」
「何を?」
「好きって」
俺は少し息を吸った。
「美空、大好きだよ」
美空は目を細めて、夕日の方を見た。
「うん。ちゃんと聞こえた」
週末、図書館で待ち合わせた。
美空は私服で、いつもと雰囲気が違った。白いワンピースで輝いていた。
「○○、お待たせ!」
「ううん、今来たとこ」
図書館の中は静かで、二人で本を探して回った。
「ねぇ、この本読んだことある?」
美空が手に取ったのは、恋愛小説だった。
「ないかな」
「じゃあ一緒に読もう」
ベンチに座って、一冊の本を二人で読んだ。美空の肩が僕の肩に触れて、あったかかった。
「ねぇ、この主人公、○○に似てる」
「どこが?」
「不器用なところ」
「それって褒めてないでしょ」
「褒めてるよ。美空、不器用な人好きだもん」
そう言って、美空は僕の手を握った。
夏祭りの日。クラスのやつらと行く予定だったけど、気づいたら美空と二人で抜け出していた。
人混みから離れた神社の脇道。屋台の光と、花火の音。
浴衣の美空は、いつもより少しだけ大人っぽかった。青い浴衣に白い帯。髪は少し上げて、うなじが見えていた。
「○○、見て」
美空は小さな金魚すくいの袋を揺らした。
「とれたの?」
「お兄さんがくれた」
「それは取れてなくない?笑」
「美空がかわいいから許されるのー!」
胸を張る。本当に自分がかわいいのを理解してるところが、ずるい。
屋台を回りながら、美空はずっと楽しそうだった。
「りんご飴食べたい!」
「じゃあ買おうか」
「○○も食べる?」
「一口もらうよ」
「じゃあ、あーんして?」
「ここで?」
「うん、ここで」
美空は笑いながら、りんご飴を僕の口に近づけた。周りの人が見てるのに、美空は全く気にしてない。
「ほら、あーん」
「…あーん」
甘くて、少し恥ずかしかった。
神社の境内で、花火が上がり始めた。
「ねぇ○○」
美空が手を出す。
「手、出して」
言われるままに手を出すと、美空はそこに指を重ねた。
「美空ね〜、花火の音でさ、声聞こえなくても伝わる関係になりたいんだよね」
俺はすぐ答えられなかった。言葉じゃなくて、ちゃんと見なきゃいけない気がした。
「もうなってるよ」
美空は一瞬だけ、泣きそうな顔をした。すぐに笑って誤魔化したけど、俺は全部見えた。
花火が空に広がって、美空の横顔を照らした。その瞬間が、永遠に続けばいいのにと思った。
「きれいだね」
「うん、きれい」
「美空の方がきれいだよ」
「もう、そういうこと言わないでよ」
照れながら、美空は僕の腕を掴んだ。
花火が終わって、帰り道。
「今日、楽しかった」
「僕も」
「また来年も来ようね」
「うん、来年も」
美空は嬉しそうに笑った。
夏が終わって、秋が来た。少し肌寒い風が教室を通り抜ける。
体育祭の日、美空は応援団に入っていた。
「○○、見ててね!」
「頑張って」
美空は黒いTシャツに赤いハチマキ。いつもより活発な雰囲気だった。
応援合戦が始まると、美空は大きな声で叫んでいた。
「がんばれー!」
その姿は、いつもの可愛い美空とは違って、かっこよかった。
競技が終わって、美空が走ってきた。
「○○、見てた?」
「見てたよ。かっこよかった」
「えへへ、ありがと」
汗をかいた美空は、少し子供っぽく見えた。
「水、飲む?」
「ありがとう」
僕が渡したペットボトルを、美空は一気に飲み干した。
「ふぅ、生き返った〜」
「お疲れ様」
「○○も、リレー頑張ってね!」
「自信はないけど、頑張るよ」
「うん!○○なら大丈夫だよ!」
美空は笑顔で送り出してくれた。
リレーが始まる前。
召集場所に集まったとき
「お前、一ノ瀬ちゃんと付き合ってるんだってな」
名前の知らない他クラスのやつが話しかけてきた
「そうだけど、何か?」
僕がそう言うと
「...ふんっ、お前なんかじゃ不釣りあいだからな」
「これで勝ったら俺が一ノ瀬ちゃん貰うからな」
「...勝てるとでも」
「お前みたいなヒョロそうなやつがアンカーなんて終わってるもんな笑」
「好きなだけいえば良いさ。」
そして始まるリレーのとき。
アンカー以外の7人は半周、アンカーは一周半する特別な形式。
みんなが繋いでくれるこのバトン。
あいつのクラスとは接戦。正直並びたくはない。
「ふんっ、これはうちのクラス勝ったな。笑」
「...集中しとけよ」
「最後まで生意気だな、一ノ瀬ちゃんに嫌われるぞ?笑」
「......」
僕は無視をした。鬱陶しいとかじゃなくて、美空の声が聞こえたから。
「○○ー!!頑張ってねー!」
「うん、頑張るよ!」
「こんなところでもイチャつきやがって...」
そして回ってきたバトン。完璧で、練習通り。
が、しかしあいつもなかなかに早い。
抜かしたいが常に横並びについてくる。
すると
ドンッ
あろうことかあいつは僕にぶつかってきた。
僕はふらついた。
それでも僕は全力で走った。美空の声援が聞こえて、それが力になった。
「○○、頑張れー!」
僕たちは1着でゴールした。
ゴールした後、美空が駆け寄ってきた。
「すごかった!○○かっこよかった!」
「美空、ありがとう」
「ねぇ、ご褒美に何か買ってあげる」
「いいよ、そんなの」
「いいの!美空が買いたいんだから!」
そう言って、美空は僕の手を引いた。
あいつはもういなくなっていた。
「ねぇ○○」
「なに?」
「好き」
「ありがとう。笑」
「じゃあ言って?」
「美空、大好き」
「…えへへ」
美空は小さく笑った。その笑顔はあの頃より柔らかい。強がりじゃなくて、ちゃんと僕に預けてくれている笑顔だった。
テスト期間、放課後の図書室。
「○○、数学教えて」
「どこがわからないの?」
「ここ全部」
美空が指差したのは、ページ全体だった。
「全部って…」
「だって難しいんだもんー」
美空は拗ねたような顔をする。でも、その表情も可愛い。
「じゃあ、一問ずつやろう」
「うん」
隣に座って、一緒に問題を解いていく。美空の鉛筆を持つ手が小さくて、時々僕の手に触れる。
「あ、わかった!」
「すごいじゃん」
「○○が教えるの上手だから」
そう言って、美空は嬉しそうに笑った。
勉強が終わって、図書室を出る。
「ねぇ、お腹空いた」
「じゃあコンビニ寄ろうか」
「やったー!」
美空は僕の腕を掴んで、歩き出した。
コンビニで、美空は肉まんを買った。
「○○も食べる?」
「一口もらうよ」
「はい、あーん」
「…ここで?」
「うん」
美空は笑いながら、肉まんを僕の口に近づけた。恥ずかしいけど、美空が楽しそうだから、いいかと思った。
10月31日、ハロウィン。
美空はクラスの女子と仮装をしていた。魔女の格好で、黒い帽子を被っている。
「○○、どう?似合う?」
「似合ってるよ」
「えへへ、ありがと」
放課後、街を歩いていると、子供たちが仮装して歩いていた。
「あ、かわいい」
美空は子供たちを見て、笑顔になった。
「美空、子供好きなの?」
「うん、好きだよ。将来、子供欲しいな」
その言葉に、少しドキッとした。
「何人くらい?」
「んー、二人くらいかな」
「そっか」
「○○は?」
「僕も、二人くらいかな」
美空は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、一緒だね」
その言葉が、未来を想像させた。
冬が近づいたころ、空気が澄んで街が白く光っていた。
テスト前、教室はいつもより静かだった。参考書を広げながら、俺と美空は隣同士で座っていた。
「ねぇ○○」
「ん、どうしたの?」
「眠い〜」
美空は俺の肩に頭を預ける。それは前と同じ仕草なのに、意味がまるで違う。
「少し寝る?全然良いよ。」
「時間経ったら起こして〜」
「分かった。おやすみ。」
目を閉じる前、美空は小さく言った。
「安心するんだよね〜。○○の隣だと」
それは、たぶん僕しか知らない声だった。
冬休み前の帰り道。クリスマスのイルミネーションが通学路を照らしていた。
「ねぇ、街キラキラしてる」
「もう冬だもんね。」
「手、寒いなぁ〜?」
言われなくても、俺は美空の手を取った。あの日と同じ、小さくてあったかい手。
美空は少し笑って、俺の手を握り返した。
「ありがとうって、ちゃんと言ってないね」
「何を?」
「好きでいてくれて」
不意打ちだった。
「僕は、美空に好きになってもらったんだよ」
「そうかな」
「そうだよ笑」
美空は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、これからはもっと言う」
「好き」って。
クリスマスが近づいて、美空は浮かれていた。
「○○、クリスマスどうする?」
「どうするって?」
「デートするでしょ?」
「そうだね」
「じゃあ、プレゼント何がいい?」
「美空といられるだけでいいよ」
「もう、真面目に答えてよ」
「じゃあ、手袋とか?」
「手袋?」
「うん。美空と手繋ぐ時に使いたい」
美空は顔を赤くした。
「…わかった。用意する」
そう言って、美空は照れ隠しに僕の腕を叩いた。
クリスマス当日。僕たちは約束は確定してなかったのに、結局会うことになった。
「デートっぽいことしたい」
美空が言った。
駅前のツリーの下、人が多かったけど、美空は気にしない。
「写真撮ろ!」
「美空の自撮りじゃなくて?」
「今日は一緒のがいい」
スマホを向けられて、頬が触れるくらい近い距離で写真を撮った。
カメラの画面に並んだ僕と美空は、前よりずっと自然に隣に立っていた。
「ねぇ、保存フォルダに『○○』って名前で保存するね」
「ダサいでしょ笑」
「いいのー!美空のだから!」
その言葉に、心臓が少し跳ねた。
レストランで食事をして、プレゼント交換をした。
「はい、これ」
美空が渡してくれたのは、黒い手袋だった。
「ありがとう」
「似合うかな?」
「すごく似合うよ」
僕も美空にプレゼントを渡した。小さな箱に入ったネックレス。
「開けてみて」
美空が箱を開けると、シンプルな銀のネックレスが入っていた。
「わぁ…きれい」
「つけてみて」
美空は髪を上げて、僕がネックレスをつけてあげた。
「どう?」
「すごく似合ってる」
美空は鏡を見て、嬉しそうに笑った。
「大切にするね」
「うん」
帰り道、美空は僕の腕に抱きついてきた。
「今日、すごく楽しかった」
「僕も」
「来年も一緒に過ごそうね」
「もちろん」
美空は幸せそうに笑った。
大晦日、美空から電話がかかってきた。
「○○、今何してる?」
「テレビ見てるよ」
「暇?」
「まあ、暇かな」
「じゃあ、初詣一緒に行かない?」
「いいよ」
「やったー!じゃあ11時に駅前ね!」
「わかった」
電話を切って、準備をした。外は寒くて、息が白くなる。
駅前で待っていると、美空が走ってきた。
「お待たせ!」
「寒くない?」
「大丈夫!○○がいるから」
そう言って、美空は僕の腕を掴んだ。
神社に向かう道は、人でいっぱいだった。
「すごい人だね」
「うん。でも楽しいよ」
美空は嬉しそうに笑った。
神社に着いて、お参りをした。
「何お願いしたの?」
「秘密」
「えー、教えてよ」
「言ったら叶わないでしょ」
「そっか。じゃあ、美空も秘密」
二人で笑いながら、帰り道を歩いた。
「ねぇ、来年もよろしくね」
「こちらこそ」
美空は僕の手を握った。
「ずっと一緒にいようね」
「うん、ずっと」
年が明けて、寒さが増したころ。
雪の日の放課後、校庭は真っ白だった。
「○○」
「ん?どうしたの」
「雪、好き?」
「僕は普通かなぁ」
「美空は好きだよ〜。静かで、世界がやさしくなる感じ」
美空は空を見ながら言った。
「ねぇ、○○」
ここで美空が話すときは、いつも少し怖い話だ。
「美空さ、いつか○○に、嫌われるのかなって思うときある」
胸が痛くなった。
「僕は嫌わないよ。」
「でもさ、美空ってさ、強いように見えて、めんどくさいくらい弱いよ?」
「知ってるよ」
「知ってるんだ」
「もう美空の事は全部知ってる」
美空はうつむいたまま、小さな声で言う。
「じゃあ、手繋いで」
雪の中、俺は美空の手を取った。冷たいのに、ちゃんと繋いだ瞬間だけ、あったかかった。
「離れないよ」
「……うん、もちろん。」
美空は小さく笑った。
「ねぇ、雪だるま作ろう」
「いいよ」
二人で雪を集めて、小さな雪だるまを作った。
「目はこれ」
美空が小石を拾ってきた。
「鼻は?」
「えー、ニンジンないよ」
「じゃあこれで」
僕が枝を拾ってきた。
完成した雪だるまは、少しいびつだったけど、可愛かった。
「写真撮ろう」
美空がスマホを取り出して、雪だるまと一緒に写真を撮った。
「○○も入って」
「いいよ」
二人で雪だるまを囲んで、写真を撮った。
「いい写真だね」
「うん。大切にする」
美空は嬉しそうに笑った。
2月に入って、教室はバレンタインの話題で持ちきりだった。
「○○、バレンタイン楽しみ?」
友達に聞かれた。
「まあ、楽しみかな」
「一ノ瀬さんからもらえるんでしょ?」
「どうかな」
「絶対もらえるって」
そんな会話をしていると、美空が近づいてきた。
「○○、何話してるの?」
「いや、なんでもない」
「怪しいー」
美空は疑わしそうに僕を見た。
バレンタインの日。美空は放課後、俺を呼び止めた。
「○○、ちょっといい?」
屋上で、風が冷たかった。美空は袋を差し出す。
「はい、チョコ!」
「ありがとう!」
「美空の手作りだよ?」
「え、ほんとに?」
「文句ある?」
「ないよ笑」
美空は少し照れながら、横を向く。
「……あのね」
風で髪が揺れる。目は、真剣だった。
「好きってさ、慣れちゃうと軽くなるじゃん?」
「まあ、世間一般には?」
「でも美空のはね、慣れても軽くならないよ」
その言葉は、まっすぐ心に刺さった。
「僕もだよ」
美空は目を丸くしたあと、いつものあざとい笑いじゃなくて、本当に嬉しそうに笑った。
「ねぇ、○○」
「これからも、ちゃんと好きでいてくれる?」
「僕は、ずっと好きだよ」
「一生?」
「一生」
美空は泣きそうになりながら笑った。
「だったら、美空も」
「一生、好きでいるからね!」
家に帰って、美空のチョコを食べた。少し甘すぎるけど、美空らしい味だった。
美空からLINEが来た。
```
美空:チョコ、どうだった?
僕:すごく美味しかった
美空:ほんと?
僕:本当。ありがとう!
美空:えへへ、よかった
美空:また来年も作るね
僕:楽しみにしてる
美空:○○、好き
僕:僕も大好きだよ
```
シンプルなやり取りだけど、心があたたかくなった。
ホワイトデーが近づいて、僕は何を返そうか悩んでいた。
「○○、最近何考えてるの?」
「いや、別に」
「嘘。絶対何か考えてる」
美空は鋭い。
「ホワイトデー、何がいい?」
「えー、自分で考えてよ」
「ヒントくらいくれてもいいじゃん」
「んー、○○が選んだものなら何でも嬉しいよ」
それは答えになってない。
結局、僕は指輪を買うことにした。ペアリングじゃなくて、美空だけのもの。
3月14日、放課後。
「美空、ちょっといい?」
「どうしたの?」
「これ」
小さな箱を渡した。
「何?」
「開けてみて」
美空が箱を開けると、シンプルな銀の指輪が入っていた。
「わぁ…」
美空は声を失った。
「つけてみて」
美空は震える手で、指輪を右手の薬指にはめた。
「どう?」
「すごく…嬉しい」
美空の目から涙がこぼれた。
「泣かないでよ」
「だって…嬉しすぎて」
僕は美空を抱きしめた。
「今は...学生だからこんな形でしか言えないけど、必ずいつか。迎えに行くから。」
「美空、大好きだよ。」
「ずっと一緒にいようね」
「うん…ずっと」
3月が終わりに近づいて、卒業式の準備が始まった。僕たちはまだ卒業じゃないけど、先輩たちを送り出す準備を手伝った。
「○○、これ運んで」
「重くない?」
「大丈夫」
美空は強がるけど、明らかに重そうだった。
「貸して」
「ありがとう」
美空は笑顔で礼を言った。
準備が終わって、二人で校庭を歩いた。
「来年は、私たちの番だね」
「そうだね」
「なんか寂しいな」
「まだ一年あるよ」
「でも、あっという間に過ぎちゃうんだろうな」
美空は少し寂しそうだった。
「大丈夫。卒業しても、ずっと一緒だから」
「本当?」
「本当」
美空は安心したように笑った。
春休みに入って、桜が咲き始めた。
「○○、お花見行こう」
「いいよ」
公園で、桜の木の下にシートを敷いた。
「きれいだね」
「うん」
美空は桜を見上げて、笑顔になった。
「ねぇ、来年もここに来ようね」
「うん、来よう」
「その次の年も」
「もちろん」
「ずっと?」
「ずっと」
美空は嬉しそうに笑った。
風が吹いて、桜の花びらが舞った。
「わぁ、きれい」
美空は手を伸ばして、花びらを掴もうとした。
「○○も手伸ばしてみて」
「こう?」
二人で手を伸ばして、花びらを追いかけた。
子供みたいだけど、楽しかった。
「お腹空いたね」
「じゃあお弁当食べよう」
美空が作ってきたお弁当を開けた。
「すごい、美味しそう」
「頑張って作ったんだよ」
「ありがとう」
二人で食べるお弁当は、いつもより美味しかった。
「○○、あーんして」
「え、ここで?」
「うん」
美空は卵焼きを僕の口に運んだ。
「美味しい」
「よかった」
美空は嬉しそうに笑った。
食べ終わって、少し横になった。
「ねぇ、○○」
「ん?」
「幸せ?」
「すごく幸せだよ」
「美空も」
美空は僕の肩にもたれかかってきた。
「このまま時間が止まればいいのに」
「僕もそう思う」
でも、時間は流れ続ける。それでもいい。美空と一緒なら。
その後も、別に特別な奇跡があるわけじゃない。
教室で笑って、休み時間に他愛ない話して、たまに喧嘩もして、夜に意味のないLINEで笑って、帰り道に手を繋ぐ。
その全部が、ちゃんと恋だった。
あざとくて、泣き虫で、怖がりで、それでも誰よりまっすぐで。その全部を、僕は好きになっている。
「ねぇ○○」
「どうしたの?」
「明日も手、繋いで?」
「毎日繋ぐよ」
「一生?」
「うん。一生」
美空は笑う。あの日より少し大人になった笑顔で。
そして僕は、何度でも言う。
「好きだよ」
僕たちに、終わりなんて来ないと思う。
じゃなくて、「終わらせないって、ちゃんと決めた」そういう関係。
冬に伸びる2人の影は美しい空の水平線の向こうまで伸びていた。
そして春が来て、また新しい季節が始まる。
僕と美空の物語は、これからも続いていく。
一ノ瀬美空という人は、きっとこれからも僕を振り回すだろう。あざとく笑って、時々泣いて、すぐ不安になって。
でも、それが美空だ。
その全部を受け止めて、僕も美空に受け止めてもらって。
そうやって、二人で歩いていく。
手を繋いで、たまに喧嘩して、でもすぐ仲直りして。
そんな毎日が、僕たちの日常で。
それが、僕たちの恋だ。
美空、これからもよろしくね。
ずっと、一緒にいよう。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
本日のヒロインはみーきゅんです!
長い作品はやはり時間がかかってしまいますね、、、でも書いてて楽しいです!
次はどのメンバーにしようか悩んでます!
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