第30話 モブ貴族の俺、義父から謝罪を受ける
衛生騎士団長はモブ……まぁ名前のないNPCである。衛生騎士とは基本的に後方支援なので権力がなく立場も弱い。
俺たちの衛生騎士団に対する印象としては、成績の悪い騎士志望がいくハズレの部隊。失礼な話だが。
「ねぇ、ケイン本当に大丈夫? こっちは引越しで忙しくてよ?」
「あんたの父上は馬鹿じゃないからな」
「え?」
「あの人は、権力を1番に考えているだろう?」
「そうねぇ。娘の幸せよりも権力って感じだわね」
うんざりと言った様子でベロニカ上はため息をついた。
「だからだよ」
「え?」
「俺とアンタがペアになって父上の中では肉体関係もあったことになってる」
「そ、そうね。キスもしたし」
「だから、父上は俺を必死で上げようとするはずだ。そうすれば、王族にはなれなくてもかなり地位の高い男と娘が結婚することになるからな」
「なるほど……? 確かにケインが名声を積み重ねていくたびワタクシの評判もよくなる。彼もそれで得をするってことね」
「だろ。だから、このクエストは受けておくべきだ。だろう?」
「ま、いいわ。あなたがそんなにやりたいのなら、してもよくてよ。でも面白いわね、聖女様でも勇者様でもなくワタクシたちに頼むなんて」
彼女はさそかし気分がいいようで鼻歌を歌いながら足をすすめる。そう、俺たちはすでに「勇者カップル」よりも信頼と実績があるのだ。主に俺のおかげで。
***
衛生騎士団長室。
長の部屋とは思えないほど狭いその部屋は薬草やらポーションやらの香りが漂っていて、棚がぎゅうぎゅうに並んでおり倉庫みたいだ。
ステゴが案内のあとに部屋を出ると、衛生騎士団長が挨拶をしてくれた。
「すまないね。学生にこんな……あぁ、僕は衛生騎士団長のオラクだ。一応、爵位はあって……まぁいい。えっと、君たちに頼みたいことがあってね」
オラクさんは、オドオドした様子の優しそうな紳士。彼は困ったような笑顔を浮かべた。
机には山のように書類が積み重なり、床には体力回復のポーションの空き瓶が転がっている。徹夜明けなのかちょっと髪がべた付いている。
「手短に、よろしいですか? ワタクシたちは学生ですのよ。オラク様」
「そ、そうだね。ベロニカ嬢。すまないね。二人はスマットランド山脈は知ってるね?」
——スマットランド山脈
ゲーム内では勇者が中盤に訪れるエリアだ。
小さな集落があり、メインは山の麓にある洞窟でプレイヤーがつまづくエリアの一つでもある。ここは中盤にもかかわらず即死魔法を使ってくる厄介な魔物が出てくるので一気に「死にゲー」と化すのだ。
「そこに我が軍の駐屯地があってね。山頂に、ポーションの作成に必要な薬草花が生えているのだが……知っての通りスマットランド山脈には強力な魔物がたくさんいて……今年はとても薬草花の採取ができる状況じゃないんだ。でもその薬草花がないとポーションが生成できない」
「ちょっと待ってください。じゃあ、道具屋や学校内でも売ってるポーションって?」
「毎年、薬草花を採取しているんだ。その回復魔力を使って国内の研究所がポーションを大量生成する。その魔力が持って大体1年。だから、山脈に駐屯地を作って毎年採取をしてるんだよ」
そんな話、ゲームのシナリオブックや設定集にはなかった。でも、よく考えてみると道具屋や武器屋で買う諸々は無限に湧いて出るわけじゃあない。ゲームとは違ってちゃんと物理法則はあるのだ。なので、ポーションを999個持って歩くとかはできないんだろうな。
「そちらの騎士たちの実力不足かしら? ワタクシたちは学生よ。それに、魔王を倒すべく修行中の2人がいるのにどうしてワタクシたちに? まさか、勇者様たちは危険にさらせないからワタクシたちを?」
「ベロニカ嬢、その辺にしておけよ。オラクさんだって別に頼みたくて頼んでるわけじゃないだろ」
「あら? そうかしら?」
「そうだ。オラクさん、受けるので報酬の話をお願いします」
オラクさんは、ほっとした様子で目を閉じゆっくりと言った。
「勲章を授与する。それから……もういいだろう。出てこいよ、ニック」
ニック……と呼ばれた男はもちろん俺とベロニカ嬢がよく知る人物だった。
「お父様?!」
ニクドロス騎士団長は、資料棚が立ち並んでいる部屋の奥から姿を表すと少しやつれた様子でオラクさんの横に立った。
「ケイン君。それから……ベロニカ。本当にすまなかった」
彼から出てきた言葉は俺の予想とは反していた。彼は両膝をつき深々と俺たちに頭を下げ、言葉を続ける。
——気まずい……
よく考えてみれば、俺は「格上貴族の一人娘に許可なく手を出し、さらにはお義父さんをぶん殴った」のである。決してヤッてないが、孕ませるために避妊の魔法を取ったって彼を怒らせるように煽ったのは俺だし。色々正論を並べてみたものの……我ながらとんでもない。
「俺が、間違っていた。騎士の身分を持ちながら学生の命を危険に晒したこと。それから……自分の昇進のために娘を……駒のように扱ったこと。誠心誠意、謝罪をさせくれ」
父の姿に驚くベロニカ嬢、の横でちょっと気まずい俺。俺の様子に気がついたのか、ベロニカ嬢がふっと笑った。
「別に、もう怒ってないですわ。ワタクシ、ケインと一緒に過ごせるならそれでいいのですわ。お父様、どうして私たちを推薦したのですか?」
「オラクさんは俺の一つ上の先輩でね。彼は俺の命の恩人で……いや、今はいい。あれから考えたんだ。ケイン君がどうして『ベロニカと婚約させろ』と言わなかったか」
確かに、俺はベロニカ嬢に「婚約の自由と拒否権」を与えるように迫った。ベロニカ嬢をよこせとは言わなかった。それは意図的ではなく俺の中では当然のことだったのだけれど、彼にとっては衝撃だったらしい。
「それで気がついたんだ。ケイン君は娘を『モノ』扱いするんじゃなくて『人』として接しているんだと。俺はそうじゃなかったんだと。上に立つ人間としても父親としても俺はすべて間違っていた。死んだ妻にそう言われた気がしたよ」
「お父様、答えになっておりませんわ。どうしてワタクシたちを?」
「父親としてベロニカに最大限の支援をしたいと思った。君たちペアに支援をしたい。それで、オラク先輩が人を探していると聞いて推薦したんだ、君たちがすごく強いのを俺は知っているから。君たちはふさわしいペアだからだ。このクエストは国を救う大きな案件だ。勇者様ではなく君たちに手柄をとってほしい」
俺が思った以上にニクドロスは反省しているようだった。
もっと権力に塗れた男かと思っていたが、心の奥底には「父親」としての彼がまだ残っていたのかもしれない。
「お父様。ワタクシ、まだ許しておりませんの。そうね、ワタクシたちにピッカピカのド派手な勲章を用意してくださいな。そうしたら、少しくらいは……そうね。ケインの命を危険に晒したことくらいはお母様に免じて許して差し上げるわ。さ、ケインいきましょ。ナントカカントカ山に」
ツカツカと歩いて行ってしまったベロニカ嬢、俺はニクドロスとオラクさんに頭を下げて彼女を追った。
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