匂わせ写真
■俳優槍の匂わせ写真を理解したい弓の話。
■今年はサマカジュ以降公式の槍弓匂わせが凄かったですね。大変良い燃料でした。
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匂わせ写真というものがある。明確に示すわけではなく、それとなく仄めかすように撮られた写真のことで、一般的には恋人の存在を仄めかす写真のことを指す、らしい。らしい、という曖昧な表現になってしまうのは、今までその匂わせ写真というものと縁がなかったためだ。
では何故突然そんなものについて想いを馳せることになったかと言うと、ランサーが、クー・フーリンがその匂わせ写真をSNSに投稿しているという話を聞いたからである。
クー・フーリンといえば、実力派で知られる俳優である。美しい容姿と確かな演技力で人々の心を掴み、今最も注目されている俳優の一人と言っても過言ではない有名人だ。
国民的有名人と言っても過言ではないのだが、実のところを言うと、私は俳優クー・フーリンのことをつい先日まで知らなかった。私が知っているのは、私が営むカフェの常連の一人であるランサーという男のことだけだったのである。一年程前からカフェに来てくれるようになり、気付けば友人としても付き合うようになった男のことしか、私は知らなかったのだ。いつも通り朝のニュース番組を見ていたら、突然友人がゲストコメンテーターとして現れた時の私の驚きを、どうかわかっていただきたい。
驚きのあまり、テレビに映っているのは君か、とランサー宛にメッセージを送信してしまったのだが、今思うと僅かばかり恥ずかしい記憶である。
そのクー・フーリンが、時折匂わせ写真を投稿しているのだという。
友人が俳優をしているのだと知ればついその出演作を追いかけてしまうのは当然で、過去の作品を休日を潰して視聴し続けた結果、気が付けば私は俳優クー・フーリンのファンの一人になっていた。ランサーという素の状態とはまた違う俳優としての表情に、その素晴らしい演技力に、圧倒され魅了されてしまったのである。
ファンとなれば色々と情報を集めるようになってしまうのは仕方のないことだろう。今では俳優クー・フーリンを追いかけるためのSNSアカウントを作成し、同好の士と交流するようになってしまっていた。
匂わせ写真はそのSNSの交流の中で知ったことだった。なんでも半年程前から、本人の公式アカウントに時折、匂わせ写真と思われる写真が投稿されるようになったのだそうである。
勿論それが匂わせ写真であると本人が明言したわけではない。そもそも匂わせ写真であることを本人が認めたら、それは匂わせ写真ではなく明確な宣言になってしまうだろう。
だから匂わせ写真だとざわめいているのはファンだけである。けれど十人いれば十人が、これは匂わせ写真だと思う写真を、クー・フーリンは投稿しているのだという。
そしてつい数時間前に投稿された新しい写真もまた、ファンの皆様方に言わせれば匂わせ写真であるらしい。
ここでまた「らしい」などという曖昧な表現になってしまうのは、私にはその匂わせ要素が全くわからないからである。
私とて俳優クー・フーリンのファンの一人であるし、プライベートでは友人として親しく過ごしている男のことであるから、匂わせ写真だというのであればその匂わせ要素をしっかりと味わいたい。味わいたいのだが、皆が散々と騒いでいる今までの匂わせ写真をどれ程じっくりと確認してみても、どこが匂わせ要素になっているのかがわからなかったのである。
今日もまた新しく投稿された「匂わせ写真」であるらしい写真を見て、私はううむと首を捻ってしまった。
写真は先々週ランサーと二人で行った海釣りの時のものである。釣果を顔の横に掲げたクー・フーリンの笑顔が画面いっぱいに映し出されたそれは、ファンとしても、密かにランサーに想いを寄せる男としても大変眼福で、ありがたい写真であった。
今さらりと流してしまったが、正直に胸の内を明かすのであれば、私は友人であり、今や推し俳優であるランサーのことがそういう意味で好きなのである。いつからなのかはわからないし、けして伝えるつもりもないが、ランサーに恋をしているのだ。
だから尚のこと匂わせ写真の内容を知りたいと思っているのだが、その内容がわからないというのが実情であった。
本日の写真も隅から隅まで確認してみているのだが、どこが匂わせ要素になっているのかがどうしてもわからない。画面の大部分をクー・フーリンの眩しい笑顔と釣果である魚が占めているのだ。どこに匂わせといえる要素があるというのか。
何かヒントでもないものかと同好の士の呟きを追いかけてみるものの、『匂わせキタ!』『匂わせの時の笑顔マジ眩しい』『尊い』などという感想ばかりで、明確な答えは誰も呟いてくれていなかった。
そもそもクー・フーリンのファンというのは総じて大層マナーが良いと言えば良いのか、匂わせの内容を具体的に言うことを避けているようなのである。明確に言葉にしてしまえば仄めかしでは済まなくなってしまう。そうなるとクー・フーリンに迷惑を掛けてしまう可能性がある、という考えが浸透しているようなのだ。
同志としては心の底から頷きたい考えではある。クー・フーリンの恋の邪魔をしたいわけでは決してなく、迷惑だってけして掛けたくはない。皆がそう心掛けているというのは本当に素晴らしいことだと思うし、私もそう振る舞いたいと心から思う。けれどそのおかげで、私は未だにどこが匂わせの要素になっているのかがわかっていないのである。
唯一、今回の写真に対してだろう『ジャケット…』『うんあのジャケットそうだよね』などというやり取りを見つけることができたのだが、クー・フーリンのジャケットの何が匂わせになるというのか。ジャケットのブランドのイメージモデルが相手だという意味かと推測してみたいところではあるが、そのブランドにはイメージモデルは一人しかおらず、その一人というのがクー・フーリンなのである。全く本当に匂わせも何もあったものではない。
第一、同好の士である彼ら彼女らは知る由もないことであろうが、あの日ランサーが着ていたジャケットはスポンサーから贈られたものなのだと聞いている。そこに匂わせの要素などある筈がないのだ。
因みにジャケットがスポンサーからのものであるというのは、海釣りに行く前の週にランサーが自分から教えてくれた情報である。勿論そんなことが話の本題だったわけではない。本題は今までランサーが使用していたジャケットを代わりに使ってくれないか、というものであった。
曰く、スポンサーから貰ったものを着ないわけにはいかない。これはこれで着心地も良く大変ありがたい頂き物ではあるのだが、そうなると今まで使っていたジャケットを着ることがなくなってしまう。愛着もあるしまだ新しい部類に入るから捨てるには惜しいが、だからといってこのまま持っていても箪笥の肥やしになるだけで勿体ない。だから代わりに使ってくれないか。
お洒落な人間というのは、その日その日の服装に合わせてジャケットを変えるものではないのか。君もそうすれば良いだろう。
そう返せば、そんな面倒なことする習慣ねぇから、結局クローゼットの中で眠り続けることになっちまうよ、とランサーは肩をすくめた。お前以外に譲る相手は浮かばないから、受け取ってくれないなら諦めて捨てるしかないんだけど、と続けられたものだから、それは確かに勿体ないと私はありがたくそのジャケットを譲り受けた。
勿体ないからという理由で譲られたものであろうと、好きな相手が着ていたものを好きな相手から贈られたのである。私が内心大いに浮かれていたことは言うまでもないことだろう。
自分ではあまり選ばない緩いデザインの赤いジャケットは、実際に着てみればなかなかに着心地も良く、そういう意味でも大層気に入りの一着となっている。
そういえば海釣りの時にもそれを着て行ったのであった、ともう一度写真を確認して思い出した。
クー・フーリンと魚の間から見える赤いジャケットを着た腕と褐色の手。それはランサーの横で海に糸を垂らしていた私の腕である。ランサーから貰ったジャケットは腕の部分に少々変わった意匠が施されているため、この腕の主が着ているジャケットは、元はクー・フーリンのものだと気付いた人もいることだろう。
なんとなくこそばゆい気持ちになりつつ、それにしてもまた写り込んでいるとは、と小さく息を吐いた。
実は匂わせ写真と言われている写真のほぼ全てに、私の腕なり足なりが写り込んでいるのである。影だけが写り込んでいるものも含めれば、その割合は体感として九割を優に超えるだろう。
そろそろ見切れ芸人とでも名乗り始めた方が良いのかもしれない。
そんな馬鹿げたことを思いながら過去の匂わせ写真を改めて見返せば、私が一切写っていないものは一番最初に匂わせだと騒がれたという写真しかないことに気付いた。何ということだろう。ほぼ十割何かしら写り込んでしまっている。
一番最初の写真というのは、クー・フーリンが自室で両手にマグカップを持って笑っているというものである。
世の同志諸君が知らない裏話を明かすと、片方はランサーが私のために用意してくれたマグカップであった。白地に繊細な模様が描かれた揃いのマグカップなのだが、縁が青いのがランサーのもので、赤いのが私のものなのである。その二つを持って笑っている写真が、最初の匂わせ写真なのだ。ついでに言うと、ランサーに頼まれてそれを撮影したのは私であるので、匂わせ写真に対する私の関与率はなんと驚きの百パーセントであった。
何ということだろう。匂わせ写真の皆勤賞を取ってしまった。
不意に気付いたそれに思わず愕然とする。
そしてついでとばかりに唐突に気付いてしまったのだが、この私の存在が、匂わせだと言われる由縁なのではないだろうか。
「何ということだ…」
そんな馬鹿なことがあるものか、と指摘を入れる思考の傍ら、私とランサーの実情を、ただの友人同士だという事実を知らないままに写真を見れば、確かに匂わせ写真のように見えるかもしれない、とどこか冷静な考えが浮かぶ。
一人暮らしである筈の家で、二つの揃いのマグカップを持って笑う写真。それはもう一つのマグカップを使う相手がいるということで、しかもタイマーでも使わなければ自分一人では撮れない写真で。その場にいるのが私であるという事実を知らなければ、確かにこれは匂わせ写真と受け取られても仕方のないものであるに違いなかった。
そしてその写真以降、頻繁に写り込む同一人物と思しき存在。その存在はクー・フーリンと共に食事をし、共に出掛けるばかりか、クー・フーリンの自室にまで招かれている様子が見えるのである。
これは、確かに、怪しい、気がする。
何故今まで気付かなかったのかと焦りつつ過去の写真を再び辿れば、ランサーのブレスレットを付けた己の腕が見切れている写真を見つけて頭を抱えてしまった。
弁解という名の事実を言えば、そのブレスレットはランサーの気紛れにより身に付けることになったものであって、今回のジャケットのように譲り受けたものではない。遊ぶ約束をして部屋まで迎えに行ったところ、七分袖を着ている癖に腕に何もアクセサリーを付けないのは寂しいんじゃねえか、と半強制的に付けさせられたものなのである。
けれど事実を知らないものからすれば、揃いのブレスレットをクー・フーリンから贈られたのだと受け取られてしまうに違いない写真であった。
「何ということだ…!」
私はただ俳優クー・フーリンのファンとして、ランサーという男の友人として、彼の匂わせている内容を知りたかっただけなのである。それがまさか自分がうっかり写り込んでしまっていることが原因だったなんて、何て酷い結末だろうか。
ランサー自身は恐らく匂わせているつもりなんてなかったに違いない。何せ彼からすれば、いや私からしてもそうなのだが、偶々友人の身体の一部が写ってしまっているだけなのだから。
ピロリ、とスマートフォンがメッセージを受信する。今まさに思い浮かべていた相手からのメッセージに、思わず端末を落としそうになった。
【来週のカフェの定休日って空いてるか?】
恐らくは遊びの誘いであるそれに、私は迷わず、それよりも、とメッセージを打ち込んだ。
【君、クー・フーリンの公式アカウントに上げている写真が、何と言われているか知っているか】
彼がプライベートの写真を上げることは構わない。大変ありがたいファンサービスであるし、今後も是非続けてほしい。けれど、それが彼の知らないところで匂わせだのなんだのと言われているということを、彼は知るべきだ。そうして、今後は勘違いさせかねない写真は避けるよう意識すべきなのである。
そうしなければ、彼はとんでもない誤解を受け続けることになってしまうのだから。
【何だ突然。写真っつうと、さっき載せた海釣りのやつか?】
【それもだが、今まで上げていたいくつかのプライベート写真について聞いているんだ】
やはりランサーは匂わせ写真と言われる写真を載せていることに気付いていないのだろう。随分と呑気な返事に歯噛みする。
君の知らないところでファンの皆は大いに勘違いしているし、それどころか君の恋がこのまま上手くいくようにと温かく見守っているのだぞ。
返信の代わりに掛かって来た電話を取りつつ、そっと息を吐いた。
『電話した方が早そうだから電話したけどよ、オレの写真がどうしたって?』
「いやなに、先程偶然知ったんだがな、君、私と遊びに行った時の写真をいくつか上げているだろう。それがとんでもない誤解を生んでいるみたいなんだが、君はきちんと気付いているのかと不安になってな」
『誤解?』
「そうだ。その調子だとやはり気付いていないな?俳優なんてものはイメージも大切な仕事だろう。自分の行動が人に与える影響をきちんと把握しておくべきではないのか?」
『あー待て待て、いったん落ち着け』
友人との写真が匂わせだと誤解されるなど、想像しようがないとは思う。思うが、不注意が過ぎるのではないかと、ここ数日振り回された八つ当たりも兼ねて訥々と続けようとしたところでランサーに止められた。
思わず、む、と口を歪めそうになり慌てて首を振る。私がランサーにすべきなのは、ファンの皆が勘違いしているという情報連携と、それを踏まえて対策をすべきだという注意喚起なのである。自分勝手な八つ当たりをしても仕方がない。
そう思ったところで、続いたランサーの言葉に思わず私は目を見開いてしまった。
『誤解っつうと、匂わせ写真だのなんだのと言われてるってやつで合ってるか?』
「ッ!?君ちゃんと気付いていたのか!」
何ということだろう。ランサーは匂わせ写真だと言われていることに気付いていたというのである。
「君それならなんで誤解を解こうとしていないんだ!」
至極当然の疑問を投げかければ、電話の向こうでふ、と笑う気配がした。
『元から匂わせ写真のつもりで撮ってるんだよ、つったらどうする?』
「は?」
『だから、誤解じゃなくて、匂わせ写真のつもりなんだよ』
いやあまさかお前が気付くとは思わなかったぜ、と楽しそうに笑う声に唖然とする。匂わせ写真だと思われているということを知っていたばかりか、むしろそれを狙っていたとは一体どういうことだ。
「待て君何を言っているんだ。というか何をしているんだ一体」
『偶然知った、てことは、ファンの子達が騒いでるのを見たのか?』
「あ、ああ、そうだが…」
『なら皆の反応も見たよな?』
反対している子も、マイナスのイメージを持っている子もいなかったと思うんだけど、どうよ?
嬉しそうに続けるランサーに言葉を失ってしまった。確かに皆好意的に受け止めているが、そういう問題ではない。何故匂わせ写真なんてものを撮っているんだ。
「いや確かにマイナスの感情は見かけなかったが、何故そんなものを撮って上げているんだ」
『んー?まあ何ていうか、今後の布石、てやつかね』
「布石?」
おう、布石だ。
相変わらず嬉しそうな声で続けるランサーに、その言葉に、はたりと目を瞬かせる。匂わせ写真の一体何が布石になるというのか。
『例えばの話だけどよ、オレが一般人に告白したとする。きっとそいつは色々理由を付けて断るだろう』
「君の告白を?そんな人はいないと思うのだが」
『いや、断るね』
ランサーに、クー・フーリンに愛を告げられて誰が断ると言うのか。そう思って言葉を遮れば、間髪入れずにランサーに否定された。
『まず間違いなくファンが悲しむと言うだろうし、俳優クー・フーリンのイメージが悪くなるとも言うと思うんだよな』
続けられた言葉に息を呑む。確かに、そういうこともあるかもしれない。何せクー・フーリンと言えば国民的人気を誇る俳優なのである。自分など釣り合わない、と身を引こうとする女性もいるだろう。
有名であるからこその懸念に目から鱗が落ちる心地がした。
『他にも色々断る理由は言うだろうが、少なくともその二つは、匂わせ写真とそれに対するファンの反応を見せれば言えなくなるだろ?』
だからまあ、撮って上げてみたんだが、うまくいってるようで何よりってやつだわな。
からりと笑う気配に呆然とする。布石を打つというより、逃げ道を潰そうとしているかのようだ。
「…君、ちょっと怖いぞ」
『そんだけ本気だってことだよ。因みにちゃんと師匠、事務所の社長には許可貰ってるからな』
「な、社長公認なのか!?」
『おうよ。オレのファンの子達なら大丈夫だ、て自信もあったしな。きちんと宣言したら、獲物を定めたなら必ず仕留めてみせろ、と背中を叩かれたぜ』
何ということだろう。
今日何度も胸を過ぎった言葉が再び湧き上がる。匂わせ写真は本当に匂わせ写真で、しかもそれはランサーの恋を叶えるための布石だというのである。本当に、何ということだろうか。私はただ、推し俳優の、好きな相手の匂わせ写真の、その匂わせ要素が知りたくて唸っていただけなのだ。そこからまさかこんな話が出て来るとは、誰が予想できただろう。
というか、である。
「ランサー、そんな相手がいるのなら、私ではなくその相手と写真を撮るべきではないのか」
『ん?ああ、お前ならそう受け取るわな。気にすんな。これはお前とじゃなきゃ困るんだわ』
「何だそれは」
思わず顔を顰めてからふと気付く。ランサーの様子を考える限り、きっと他にも色々と布石を打っているのだろう。その全てを打ってから相手を口説き始めるつもりなのだとしたら、もしかしたら今はまだ一緒に出掛けられるような関係ではないのかもしれない。
なるほど、と小さく頷く。つまり私は布石を打ち終えるまでの身代わりなのだろう。私以外の友人に頼めないのは、他の友人は有名人であるからに違いない。もし特定されたら迷惑が掛かってしまう可能性が高いのだから、ただの布石のために頼むことなんてできないだろう。
『アーチャー、お前とじゃないと困るって意味、わかってるか?』
「何となくはな。他に頼めるような相手がいないんだろう?」
『んー、まあ、今はそういうことでいいさね』
「何だ煮え切らない返事だな」
『気にすんなよ。あ、お前と一緒にいるのは匂わせ写真のためじゃねえからな?写真はついでで、あくまでもお前と一緒に過ごしたいから誘ってんだからな?勘違いすんなよ?』
「ふ、さすがにそこまでは疑わないさ」
ならいいんだけどよ、とぼやいたランサーに苦笑する。ランサーと私は友人なのだ。その友情まで疑うつもりはない。
それにしても、まさか私がランサーの恋の手伝いをしていたとはな、とゆるりと息を吐いた。
勝手に匂わせ写真に利用されていたと考えると少しばかり呆れてしまうが、何となく誇らしい気もする。何せ好きな相手の恋に役立っているのだ。ランサーが幸せになる一端を担えるというのであれば、嬉しい限りである。
「まあ、勝手に匂わせ写真を撮っていたというのは驚いたが、君の恋のためだというなら構わないさ。微力ながら私も応援しようじゃないか」
そう告げた途端、そうか!と随分と弾んだ声が返ってきた。
『そうかそうか!ならアーチャー、逃げ道全部無くなったら、覚悟しとけよ?』
その言葉を最後にぷつりと通話が切れた。言い逃げるように告げられた言葉にはたりと目を瞬かせる。
何故、私が覚悟をする必要があるんだ。
問いかけようにも既に通話は切れていて、私は思わず首を傾げてしまった。