流れ者の傭兵槍×闘技場の戦闘奴隷弓8
上手く切れなかったので一個にまとめてぽいします。これで終わり! 後日談的なもの付けたら蛇足になっちゃうかなぁとちょっと悩んでます…どうしようかなぁ…
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一番近い持ち家にアーチャーを運び込んでから二十日が過ぎた。あの日から瞳に光が宿ることはなく、日に日に反応が薄くなっていく。凛は自我が溶け落ちていると言った。ならば、と保護のルーンをかけ続けているものの、事態は好転することなく悪化していくだけ。
ベッドで静かな寝息を立てるアーチャーの傍から、ランサーは片時も傍を離れない。握った手の甲に額を当て、まるで懺悔するかのように、許しを乞うかのように。ただの一言も口を開かない、その光景を目にした凛はぐっと唇を噛み、八つ当たりしてしまいそうになるのを耐えて立ち去った。
悔しいことに、今のアーチャーを治す魔術を己は知らない。分野が違う。専門が違う。だから、呼んではいるのだ。領分の違う魔術を使える、アーチャーを治せる者を。ただ、どれだけかかることか。あの銀の少女は供を連れて己と同じように世界中を駆け回っている。使い魔が少女の速度に追いつくことは難しい。既に二十日も経っているのがいい証拠だ。これでもありったけの魔力を込めて飛ばしたのだけれど、性能が違うとはこういうことか。
「早く――イリヤ」
手遅れになる前に。
願いが届いたのか、翌日の早朝に少女は現れた。いや、襲撃してきた、というべきか。供の者を引き連れて破砕音と共に扉を壁ごとふっ飛ばし、嵐、いや、竜巻の如く突撃した挙句。
「私の弟に何してくれてるのよこの駄犬ーーーー!!!!!」
「あ゛? 何も知らなかった嬢ちゃんに言われたかねぇよ」
「守れなかったくせに!! バーサーカー!!」
売り言葉に買い言葉。乱闘どころか死闘が始まり、凛が怒鳴り込みに来るまでそう時間はかからなかった。
閑話休題。
強化魔術をかけた渾身の拳骨を食らい、床に正座させられているランサーとバーサーカーを放置して銀の少女――イリヤは体を起こしたアーチャーの正面に座る。そうして状態を見た。肌に、髪に触れ、瞳を覗き込み、額を合わせては顔を歪ませた。
「■■■じゃないから繋がらない…可能性があるのは…」
ちらりと忌々しげにランサーを見る。己の知る■■■はもういない。家族である大切な弟――■■■は消えてアーチャーになった。アーチャーを知っているのはランサーだけ。この中でアーチャーを見つけられるのは、この男だけ。
ランサーはイリヤの視線を真っ向から受け止めると何を察したのか彼女の傍に近付き、「何をすればいい」と問いかけた。その迷いのなさに、怯えも何もない目をしていたことに、イリヤは素直に驚いた。
「…この子の精神は今、迷子になっているわ。どこに帰ればいいのか分からずに、消えかけている。けれど存在している。消えていないのよ。だから連れてきて。そうしたら私が戻すから」
「分かった」
迷わないのね、と問いかけた。
与えると決めたからな、と返ってきた。
「欠け落ちたものを満たして貰っていくと決めた。そのためなら金も時間も《オレ》も、惜しまない。そっちの嬢ちゃんにも約束したしな」
そう言って部屋の扉に寄りかかったまま黙っていた凛に向き直り、頭を下げる。
「悪かった。取り返してくる」
再び緩みそうになる涙腺を拳を握って耐え、助けて、と叫びたくなる口を閉じ、凛はただ頷いた。そのやりとりを見ていたイリヤが急かすようにランサーの手を引っ張り、アーチャーの手に重ねる。
「目を閉じて。呼吸を重ねて。思い描いて」
言われた通りに目を閉じ、呼吸を重ね、思い描く。
アーチャー。過去を奪われ、生に足掻き、罪を背負い、それでも折れることを許さなかった男。己が欲した男。
「――飛び込んで。」
即座に応えた。
***
前も後ろも、右も左も、持っていたものも与えられたものも、大切にしたかったものも苦手なものも、何もない、どこまでも真っ白な場所に《おれ》はいる。
ここはどこだ。分からない。
なぜ何もない。分からない。
どうしてここにいる。分からない。
何も――分から、ない。
けれどなぜだろう。罪悪感が消えない。謝りたくて仕方がない。誰かに××されたいと願っている。
ごぷり、と。口からどろりとした黒い泥が漏れた。汚い。気持ち悪い。しかしまだ腹の中に残っている気がする。全部吐き出してしまおう。水場はないものかと歩き続けた。その間も泥は溢れ続け、足元にぽつりと垂れてしまった。どうしよう。こんなにも綺麗な場所を汚してしまった。
溢れそうになる度にぐっと飲み干し、前を見据える。すると不思議なことに目の前に水溜まりが出来ていた。とても澄んだ青色だった。徐々に広がるそれが足下を濡らす。なんだかとても心地よかった。思い出せない誰かが恋しかった。そうしてまた罪悪感を抱く。
どうしてそう思うのだろうか。
どうして泣きたくなるのだろうか。
どうして許されないと思ってしまうのだろうか。
膝を折っては水溜まりに寝転がり、そのまま目を閉じた。
なんだかもう、疲れた。
休んでも許されるだろうか、と考えて涙が出た。
完結(?)おめでとうございます! 毎度楽しみにしてました! 是非とも後日談を希望したいですが、 こういう終わり方も素敵ですね! お疲れ様でした!