【SS】空白の10年のプロローグ【超かぐや姫!】

  • 1二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 12:42:08

     闇夜の海を泳ぐ輝く魚群、ネオンに照らされた楼閣達。見慣れた私たちのVRワールド、ツクヨミの風景だ。

     二週間前、かぐやちゃんは私たちの前から居なくなった。彩葉を残して。
     一度だけ学校に来たものの、あれ以来彩葉には会えていない。彩葉の住んでいる高層マンションのオートロックはまるで難攻不落の城壁のようで、私と真実を拒絶している。

  • 2二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 12:46:15

    「ねぇ芦花。正直彩葉のあの話、どう思う?」
    「……かぐやちゃんが月から来た宇宙人だってこと?」

     かぐやちゃんと彩葉のヤチヨコラボライブが終わった後彩葉から告げられた告白は、まるで罪の告解のようだった。
     コラボライブの終盤に起こった単なるドッキリ演出か、はたまた誰かのハッキングによる性質の悪い悪戯かと思われた、謎のアバターによるライブステージ襲撃事件。彩葉は「月の使者がかぐやを連れ戻しに来たい」と静かに告げた。

  • 3二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 12:49:34

    「正直、どっちでもいいかな。嘘でも、本当でも」

     彩葉の手が震えているのが分かった。無理もない、かぐやちゃんの正体が月から来たかぐや姫だった、なんてまるで三流SF作家の描いた出鱈目にしか聞こえない。だけど――

    「頼ってくれたんだよ、あの彩葉が」
    「……うん、だね」

  • 4二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 12:51:09

     例え嘘つきだと罵られたとしても、かぐやちゃんを助けたいのだと、今まで全く助けさせてくれなかったあの堅物彩葉の心からのSOSをどうして無視なんてできるだろうか。

    「全く妬けるなぁ……」
    「……? 今なんて言ったの?」
    「なぁーんでもないよ」

     友達だけで集まるいつものプライベートエリア。ソファに座りながらアバターの足で床を蹴る。チャプチャプと効果音を立てて水面に波紋のエフェクトが広がった。

  • 5二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 12:53:45

    「彩葉、大丈夫かな…思い詰めすぎてないと良いけど…」
    「ご飯ちゃんと食べてるかが私は心配だよぉー」

     学校に顔を出した時は、無理をしすぎている様子はなかった――なかったように思う。だけどその後すぐ、また彩葉との連絡は途絶えた。

  • 6二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 12:55:03

    「よし!決めた!明日もう一度彩葉の家に――およ?誰かからメッセージだ」
    「あれ?私のところにも来てる」
    「芦花と私、同時に?」
    「! もしかして彩葉から?」

     PON!と空気を読まない小気味よい音と共にダイレクトメッセージが私たちの前に表示された。巻物状のメッセージウインドウに記されていた名前は。

    「ツクヨミ運営……管理人ヤチヨより?」

  • 7二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 12:57:24

    「来ちゃった……」
    「来ちゃったねぇ……」

     ツクヨミ中心部、摩天楼が立ち並ぶ中でも一等高い天守閣。管理人であるAI、ヤチヨがいる特別なエリアだ。正直今回のように招待でもされなければ内部へアクセスできない、一般ユーザーにとってあまり縁のない場所である。

  • 8二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 12:59:08

    「ヤチヨから私たちに招待って言っても心当たりはさ〜」
    「こないだのかぐやちゃんの為の戦いのこと、だよね多分」

     正直あの戦いで彩葉の助けになれたのか、かぐやちゃんを引き止めることができたのか、自信はなかった。
     月からの来訪者は圧倒的だった。戦闘力がじゃない、有り様がだ。

  • 9二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 13:00:35

     ツクヨミや日本の高度な情報インフラを麻痺させた地球外の電子知的生命体、それがわざわざKASSENというお遊びに自らのレベルを下げて戦ってくれていた。まるで癇癪を起こした子供の我儘に渋々付き合う保護者のように。

    「彩葉や黒鬼のメンバーならともかく、彩葉からの救援で参加した私たちがヤチヨに呼ばれる理由があんまり思い浮かばないんだよね」
    「はっ!じゃあ帝様たちも呼ばれてるのかな〜!」
    「真実はブレないね……」

     思わず吹き出す。難しく考えてる私が馬鹿みたいだ。

  • 10二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 13:03:08

    「とりあえず進もうか、私たちが呼ばれてるってことは彩葉も中にいるかもしれないし」
    「おお!確かに確かに!」

     深呼吸して一歩。天守閣へと続く門へと踏み出すとまるで見ていたかのようにひとりでに門が開いていった。

    「行こっか」
    「そだね」

  • 11二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 13:07:11

    一旦ここで切ります
    終わりまでは書いてあるので夕方あたりにまた投下します

    おらぁ!公式!10年間の設定を隠し持っていることはわかっているんだ!

  • 12二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 14:43:50

    とりあえず乙
    楽しみにしてる

  • 13二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 14:57:21

    彩葉曰くの「ハッピーエンドになった」だから
    少なくともかぐやがいないこと以外ではむしろ前向きに進めてたイメージがあったな

  • 14二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 15:21:21

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  • 15二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 17:33:55

     門の中に入ると、少し振動してから上へと昇り始めた、エレベーターだったらしい。てっきり移動用ポータルですぐに上階に昇るものだと思っていたので思わず面食らった。
     チンッ、と音がしてエレベーターの振動が止まった。ツクヨミ運営、管理サーバーの一角。管理人ヤチヨの部屋に私たちはいるのだ。

    「芦花、真実。来てくれたんだ」

  • 16二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 17:44:31

     声が聞こえた。久しぶりに聞くあの子の声はずっと優しげで、悲しくなるほどに穏やかだった。
     彩葉がそこに立っていた。

    「彩葉!」
    「彩葉ぁ!心配したんだよ!」
    「うっ……それに関しては誠に申し訳なく……」

     ものすごくバツの悪そうな表情をする彩葉。心なしかないはずの狐耳までへこたれて見えるように思う。当たり前だ、どれだけ心配したと思っているんだ。絶対に今度一緒にパンケーキを食べに連れていこう。ヤケ食いだ、そうしよう。

  • 17二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 18:09:42

    「あれ? 彩葉アバターが……」
    「どうしたのよ真実、アバターっていつもの彩葉じゃ……!?」

     そうだ、いつもの彩葉だ。いつもすぎる、彩葉だ。

     現実世界の酒寄彩葉がそこにいた。

  • 18二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 18:17:10

    「嘘!? いつものアバターは!?」
    「あはは……これには事情がありまして……」

     目を丸くして彩葉を見つめていると、後ろに静かに立ちすくむ影があることにようやく気付いた。
     まるで龍宮城の乙姫のように複雑に編み込んだ銀髪、ヤチヨだ。物言わず、ただ穏やかに佇んでいた。いつもの快活な態度とは違っていて、少し驚いた。

    「あの……ヤチヨ……どうして私たちを呼んだの?」
    「……」

     沈黙。微笑むでもなく無表情なわけでもない。この表情は、もしかして困惑――いや緊張?

  • 19二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 18:25:16

    「ヤチヨ」
    「っ彩葉……」
    「大丈夫、この二人なら大丈夫」

     彩葉がヤチヨの背を優しく押した。まるで長年の親友の、まるで手のかかる妹の、まるで愛すべき子供のように。
     ヤチヨは不安げに何度も彩葉を振り返り、彩葉はただそれに頷きを返した。

  • 20二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 18:35:40

    子供みたいなヤチヨ可愛い

  • 21二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 18:43:19

    「芦花……真実……」
    「…………」
    「…………」
    「あのね、ヤッチョは……」

     俯いて、上目遣いのその表情に、いつかの記憶が瞬いた。

    「……かぐやちゃん?」
    「……えっ?」
    「えっ……えっ!?」

  • 22二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 19:02:10

     そうだ、かぐやちゃんだ。いつも彩葉におねだりするときの、少し自信のなさげな表情だ。
     ヤチヨの瞳からポロポロと雫が滴り落ちる。やがてその顔がクシャクシャになっていって――

    「芦花ぁ……真実ぃ……」
    「かぐやちゃん……なの?」
    「えっ! かぐや!? ヤチヨが!? どゆこと!?」

     最初は堪えるようなヤチヨの嗚咽は、すぐに大きな泣き声へと変わった。

  • 23二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 19:19:44

    「かぐや……かぐやは……また皆とパンケーキ食べたいよぉ……」
    「かぐやちゃん……」
    「またいっ、一緒に遊園地にも行きたい……海に遊びに行きっ、行ぎだい……」

     ヤチヨは脇目も振らずわんわんと泣き出した。そこにいたのは超然としたAIライバーのヤチヨではなくただの少女――かぐやちゃんで。
     私と真実は泣きじゃくるかぐやちゃんを抱きしめて、ただゆっくりとその背中を擦っていた。

  • 24二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 19:20:35

    このレスは削除されています

  • 25二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 19:27:25

    「かぐや……行こうよ皆で! 全部やろう!」
    「そうだね……真実の言う通り……また皆で遊びに行こう」
     いつの間にか私たちも涙ぐんでいて、この奇跡を噛み締めていた。どうしてヤチヨがかぐやちゃんなのか、月に帰ったはずのかぐやちゃんはいったいどうなったのか。正直何も分からないが今はただこの再会を喜ぼうと思う。

    「全く妬けるなぁ……」
     そうやって心底嬉しそうに笑顔を浮かべる彩葉の顔が私の心に焼き付いた。

  • 26二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 19:33:51

    当SSにお付き合いいただきましてありがとうございました。

    多分本編時空でも同じようなことあったに違いないから!
    彩葉のおかげでかつてのかぐやとして感情を表に出すことができたヤッチョと自分の時よりも泣きじゃくってない?となってる彩葉はいるもん!

  • 27二次元好きの匿名さん26/03/12(木) 19:43:08

    文系→理系の件もあるしヤチヨ真実はまあ身内と共有するか

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