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STARTUP LIVE #8 堀井翔太氏——イベントレポート

5/29に出版された『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』(NewsPicksパブリッシング)の刊行を記念して、本書に登場する起業家の方々をお招きする連続イベント「STARTUP LIVE」が開催された。

第8回目は起業家の堀井翔太氏をゲストにお迎えし、著者堀新一郎氏、琴坂将広氏と対談。その様子を書き起こしにてお届けする。

書籍のご紹介

堀井翔太氏のご紹介

STARTUP LIVEのアーカイブ動画(YouTube)

琴坂将広氏(以下、琴坂):みなさんこんばんは、STARTUP LIVEのお時間です。この番組は2020年5月29日発売の話題作、『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』の出版を記念して、この本に登場する起業家の方々をお呼びし、根掘り葉掘り質問しちゃおうという企画です。 #STARTUP本 でコメントもお待ちしております。プレゼンターは私、慶應義塾大学SFCの琴坂将広とYJキャピタルの堀新一郎でお送りします。

今日のゲストは堀井翔太さんです。こんばんは!

堀新一郎氏(以下、堀):大物が来ましたね。

堀井翔太氏(以下、堀井):いやいや。緊張しますね。

琴坂:いきなり、中川綾太郎さんからのギリギリの質問なんですけど…。

堀井:前回の配信見ていました。

琴坂:ありがとうございます。「堀井さんがなにやら難しいことをやっているので、なぜそんな難しいことをやるのか?」とのことです。

堀:Fablicを創業して、その会社を売却して…「それから何をやっているの?」ということを、これを見ているみなさんは知らないと思うんです。なので、「難しいことにチャレンジしている」という隠語のような言い方になっていて(笑)、その辺のお話を可能な範囲でしていただきたいです。

堀井:いまの会社自体は去年の4月から作っていて、新しい事業にとり組んでいます。綾太郎が言っている「難しい事業」というのは、フィンテックのコンシューマー向けのプロダクトのことだと思います。フィンテックのビジネスということもあって、免許を取ったりする必要があって…。前回フリマアプリで創業したときは、単純にアプリを作ればプロダクトはリリースできて、それでよかったんですけど、今回は免許を取ったりとか、自社以外のステークホルダーをかなり巻き込んだサービスになるので、その辺を考慮して「難しい」と言ってくれたんだと思います。

「なぜ難しいことを選んだか?」と言われると、結構難しいんですけど(笑)、フリマアプリを作ったときも、「あるユーザーがやっている行動を見て、そこにある問題を解決したいな」と思ってつくり始めたんです。今回も独自のインサイトじゃないんですけど、新しい気付きから「この問題を解決したいな」と思ってプロダクトを開発していますね。シンプルに「解決すべきプロダクトを作ろう」と思ったときに、必要なアセットがいくつかあって、そのなかに免許を取らないとできないことが含まれていて…。そういう意味では、自分としては「難しいことをチョイスした」というよりは、「問題解決するべきプロダクトを作ろう」と思ったら、必然的に難しくなったという感じです。

琴坂:なるほど。「気付き」という言葉がすごくいいなと思いまして、具体的にはどういうものですか?

堀井:フリマアプリのときは、女子大生とか読者モデルの人たちがブログやmixiで服を売っているという行動を見て、そこに問題があると気付きました。ユーザーのある事象だったりある行動を観察して、個人的には「非常に不合理なことをしているな」とか、「自分であれば、その問題をもっと上手く解決できるのにな」とか思えるようなことです。あと「もっと良い代替手段を作れるよな」と思ったりするところを「気付き」と呼んでいます。

堀:フリマアプリのときの「不合理なこと」というのは、(ユーザーの)どういう行動を見て思ったんですか?

堀井:もともと自分が創業した前職の子会社で営業をしていたときに、ガラケーのメディアを見る機会が多かったんです。個人間で物を売れるサービスって、ヤフオク!とかモバオクとか、当時からいくつかあったんですけど、それを使わずにブログで服を売っていたり、mixiのコミュニティで売っていたりしていたんですよね。変わった行動をしてるし、そもそも「(ヤフオク!のような)プロダクトがあるのに、なんでそれを使わないのかな?」というのは思っていました。

そこから、その人たちに話しを聞いて、「どういう背景でそのような行動をしているのか」みたいなものを、掘り下げていくところからスタートしました。

琴坂:そのサクセスストーリーの背景には「気付き」があったと思うのですが、それ以外にも何か背景にありましたか?

堀井:気付きは得て、課題を特定できたけど、うまく解決できなかったということはあるかもしれないです。

琴坂:見つけた課題を解決したり事業にするというのは、ハードルが高いということですか?

堀井:そうですね。たとえば、自分の会社が楽天に買収されて、退任することになったときに、みなさんに退職のメールを一斉に送ろうと思ったんです。そのときに、退職の挨拶をしたいような人達のコミュニケーションの主体がFacebookメッセンジャーだったと気づいたんです。ただ、ビジネス上のメールを置き換えられるほど、Facebookメッセンジャーは便利ではないんですよね。フォルダー分けできたりとか、できないので。

なので、ビジネス用のチャットみたいに、「メールに代わるようなものを作れたらいいじゃないか」とは思いました。ただ、Facebookメッセンジャーが、ビジネス用のメッセンジャーとして既に利用されており、問題とかイシューは存在していても、Facebookメッセンジャー以上のアイデアが思いつかなかったんです。

堀:SlackやLinkedInではないサービスということですね。

堀井:そうです。対社外のサービスです。

子会社の代表から一転、起業家へ

琴坂:堀井さんは事業のアイデアがどんどん湧いてくるのか、ひとつの事業に邁進するのか、どちらですか?

堀井:どちらかというと、後者だと思います。いろんなアイデアが散発するというよりは、いくつか自分の中で気付きがあって、それをすごく深く掘っていくことが多いですね。なので、自分が深掘っている領域以外のことを、全然知らないことが多いです。たとえば、ブロックチェーンのこととかも、ほとんどキャッチアップできていないです。そこは、何かを深く掘っているときに他の何かを深くは見れないのと同じなので、トレードオフを許容しながらやっています。

琴坂:堀井さんにとって、「起業」って何ですか?

堀井:家業もずっと商売をしていたので、「どこかで引退しよう」とは思っていなくて、どっちかというと「100歳まで現役でいる」「生涯現役」で通せればすごくいいなと思っています。いいように言うと「人生」ですかね。

あとは特に趣味とかもないので「他に何かできそうなことが無かった」という感じです。

琴坂:いつ頃からそういうふうになりましたか?

堀井:学生起業ではないんですけど、もともと「起業家になりたい」とか「自分で会社を作って、自分で事業をやりたい」というのは昔から思っていました。先ほど話した通り、祖父も父親も会社をやっていたので、サラリーマンで働く家庭をあまり見たことがなかったんです。ただ、最初からいきなり会社を作るような実力はないと思っていたので、修行しようと思ってインターネットの事業会社に入りました。

琴坂:リスナーの方々には「学生起業しよう」という人が、たくさんいると思うんですけど、それを選ばなかった理由をもう少し聞かせてください。

堀井:極論「なぜ起業するか」によるんでしょうけど…僕は学生のときに起業しなかったので、比較してどっちがいいかという判断は難しいですが、実力がないと言うのは自己認識していました。特にインターネットの事業で起業したいと言うのは決めていたのですが、ゼロからの事業の作り方、儲け方を分かっていませんでした。結果、インターネットの事業会社で社会人を4年間やって、子会社の代表をやらせてもらってから起業したので、就職しておいて凄くよかったなと思っています。

堀:どの辺がよかったんですか?

堀井:今の会社もそうですし、前回創業したときも、共同創業者がもともと会社で一緒に働いていたメンバーなんです。「すごくいい共同創業者が見つかった」ということが一番大きいですね。

あとは、インターネットの事業会社で、子会社の代表もやらせていただいたので、PLを見たりとか事業を作っていくところをゼロから経験できたことです。そのリスクを自分で負わずにやれたというのは、かなりいいことでしたね。ただ、これには良し悪しがあると思います。

堀:4年で子会社の代表って、相当優秀だったんですね。

堀井:そんなことはないと思います。運が良かったのもありますし、会社のなかにモバイルの領域に詳しい人間があまりいなくて、たまたま僕が詳しかったから事業を任せてもらえた感じです。

堀:モバイルに詳しいというのは、学生時代からずっとニュースをチェックしたりすることが好きだったんですか?

堀井:それも多少はあるんですけど、どっちかというと、(就職して)最初に任された新規事業がモバイルの事業だったんです。その事業自体、僕が配属された瞬間にすぐ撤退しちゃったんです。ただ、撤退した事業にもユーザーがいたので、最後まで見る必要があって、社内で唯一僕がその事業をずっと見ていたことが理由です。そしたら、たまたまスマホの波が来て(モバイルの事業が)上手くいって、子会社化されたみたいな感じでした。

琴坂:一度就職してから起業するときに、会社を辞めるタイミングを見極めるのはすごく難しいと思うんです。子会社の代表という場所も与えられているなかで、いつ辞めることを決めたのですか?

堀井:もともと「3年経ったら辞めようかな」と思っていたんですけど、任される裁量が大きかったので、残って続けようと思いました。ただ、「このまま会社の代表をやり続けるよりも、起業した方が自分の学びが大きいんじゃないか」と思ったのが一番大きな決め手です。あとは、一緒に創業してくれるメンバーがそのタイミングで「やる」と言ってくれたのも大きかったです。

琴坂:「自分でできる」「このタイミングで、自分はこれいけるな」と思える背景には何かあったんですか? 

堀井:順を追って話すと、創業したメンバーとプライベートでプロダクトを作っていたんです。そういった起業する下地があって、たまたま「これを機会に起業しよう」というテーマが見つかって、起業してみたという感じです。なので「テーマが見つかった」というのがひとつですね。

琴坂:いきなりスイッチするのではなくて、会社を作る前に準備期間があったということですね。

堀井:そうです。ただ、単にプロダクトをつくっていたというよりは、「いつかは起業したい、自分の力を試したい」とみんな思っていたかもしれません。

もうひとつは、「事業が失敗したとしても、なんとか食っていけるだろう」と思えたことは大きかったですね。いままでの経験から、受託すれば食べていけるし、(会社で)広告の事業もやっていたので、自分たちで営業して、クライアントを捕まえて広告代理店みたいなことをやるというイメージができていたこともあります。

堀:週末起業みたいな感じでいくつかプロダクト作っていたと思うんですけど、「これだ!」と決めたものと、それまでボツになった企画の、一線を分けたものは何だったんですか?

堀井:週末起業をしていたプロダクトの時は「俺が考えた最強のサービス」を作っていたのですが、そのサービスを使ってくれる人の状況を理解するためにヒアリングを徹底したのが違いかと思います。

もともとCtoCのサービスをやるということを決めて起業したんです。最初のアイデア自体は、インタビューした上で製品をリリースする手前まで行ったんですけど、1回そのアイデアを捨てたんです。

堀:Craigslistみたいなサービスでしたっけ?

堀井:おっしゃる通りです。そのときはそのアイデアでいけると思っていませんでした。その後数ヶ月かけて、女子大生とか読者モデルの方にインタビューを繰り返していたときに、「ブログで服を売るという不合理なことが起こっていて、そこに痛みのポイントがあるんだ」と、わかった瞬間があったんです。それで、「その人たち向けにサービスを作ろう」という意思決定ができたので、それに気づいたことが決め手でした。というのも、少なくともその人たちには確実に使ってもらえると思ったんです。


堀:そのときは、市場規模を意識していましたか?

堀井:市場規模はまったく考えていなかったですね。フリマアプリのフリルを出す前に、いくつか作っていたプロダクトがほとんど使われないという痛い目を見ていたので、使われないサービスを世に出すことほど無駄なことはないと思っていました。フリルはそうならないという確信があったので、そこは大きかったですね。少なくとも使われるもの、人が欲しがるものを作ろうという大前提はありました。

(質問)「フリマアプリの市場規模はどれぐらいあるのか?」という質問をよくされたかと思いますが、堀井さん自身はフリマアプリ市場はどこまで伸びると考えていましたか?

堀井:当時は説明できなかったと思います。初めて資金調達したときの資料が残ってるんですけど、見返すと「市場規模200億円」って書いてあるんですよ(笑)。実際のところ8,000億とか9,000億ぐらいなのに。

琴坂:つっこまれなかったんですか?

堀井:つっこまれなかったです。多分、誰もその市場のことをわかっていなかったんです。というのも、持論ではあるんですけど、C向けのサービスで、市場をゼロから作る場合に「市場規模はいくらですか?」と聞くことがナンセンスだと思います。

STARTUP本のなかで、ラクスルの松本さんが「印刷の市場が1億円ある」と書いているのを見て、B向けであれば、顕在化されている市場を上手く切り取るという発想ができるのかなと思ったんです。だけど、コンシューマー向けのサービスは「不便さを無理やり不合理の方法で解決していた人」が何人いるのか、潜在ユーザーはどれくらいかいるのかを計測する必要があるので、(市場規模を予測するのは)かなり難しいと思います。

琴坂:その場合、どうやって(投資家に)理解してもらうんですか?

堀井:投資家に説明するときは…正直無理やり理由をつけると思います(笑)。

堀:「ヤフオク!がこれだけあるから、行くに決まってるでしょ!」みたいな感じですか?

堀井:そうです(笑)。あと、プロダクトをつくるときにはそんなに細かく定義しないんですけど、「世の中的に見ると、このぐらいこういう人たちがいますよね」というところから計算した数字を出すという感じですね。僕は、市場規模のところはサラっと説明するか…説明しないことの方が多かったりします(笑)。

ユーザーの「痛みの深さ」と「熱量」を理解する

堀:エンジェル投資もされていると思うんですけど、ご自身のプロダクトや経験に関連したものさしでスタートアップを選ばれてるんですか?

堀井:振り返ってみると、自分と同じようなタイプに出資していることが多いです。何かの気付きをもとに、ユーザーのペインを深掘りして、代替のソリューションを考えていたりとか、インサイトにバリバリ精通しているみたいなタイプが好きなので、そういう人に投資しているケースが多いと思います。もしくは、全然違うタイプの起業家ですね。

(質問)フリル意外に事業アイデアはありましたか? また、気づきに対するソリューションのひとつがフリルだったと思うのですが、それ以外のソリューションはありましたか?

堀井:すごく良い質問ですね。答えやすい方から言うと、他のアイデアはありました。当時を思い出すと「NAVERまとめめっちゃ伸びてるよね。俺らも何かに特化したまとめ系のサイトやろうぜ!」みたいに(笑)、伸びている既存の事業の派生案みたいなものはいくつかあったんですけど、それをチョイスしようとは思わなかったですね。当時、「アプリが伸びている」ということはわかっていたので、「アプリ関係の事業をやる」という前提はありました。

「他にソリューションがあったか?」という質問に答えると、プロダクトを作るときに、課題を持っているユーザーをとにかく掘り下げて、その人たちがやっている不合理なことを解明して、それに代わるものを作るという作業をすることが多いんです。なので、気付きが複数あれば他のソリューションもあったと思うんですけど、掘り下げるべきものがそれしかなかったので、他の解はありませんでした。

堀:堀井さんは、ユーザーインサイトを得る力がずば抜けているという印象を個人的に持っているんですけど、ユーザーインタビューをするときに、課題を持っている人を何人くらい見つければプロダクト開発に進みますか? 

堀井:すごく良い質問ですけど、すごく難しいですね。インタビューするときに、僕がいつも理解したいと思っているのは、課題に対する痛みの深さと熱量の大きさです。あともうひとつは、サイズ的な広がりですかね。「何人使ってくれるんだろう?」とか、「どれぐらいまで大きくなってくれるだろうな?」というのも考えるんですけど…痛みの深さと熱量だけしか見ていないことが多いですね。

琴坂:広がりと熱量って相反するところがありますよね? すごい困っている人って広がりがないというか、それが重なる所って難しいと思うんです。

堀井:ニッチでいいと思っています。スタートアップのプロダクトって、数人でもいいから痛みが深い人に使ってもらうことが大事です。あと、よく「無消費」という話をするんですけど、「特別なスキルとか、たくさんのお金を持っていないと解決できなかったような問題が、そのプロダクトが出ることによって誰しもが解決できるようになるという素地」をどれくらいそのプロダクトが持っているか、みたいなものがセットでついていればいいなと思っています。

なので、最初はニッチでもよくて、とにかく痛みが深い問題を見つけることが重要です。フリマアプリのときも、「最悪読モや女子大生だけに使われるプロダクトで終わるかな」と正直思っていました。ただ、それでも「少なくとも数万人はいるだろう」とも思っていました。そう思えたのは大きかったですね。

ゲームのルールをいち早く把握する

琴坂:赤坂優さんから(コメント欄に)「堀井さんは異常なまでにメディアハック(ソーシャルもテレビも)をしていました」というタレコミがあるのですが、これについてお聞きしてよろしいですか?

堀井:たとえば、ANGELPORTというサービスもつくっているんですけど、あれもいくつか(メディアハックを)狙っているポイントがあります。(起業家に)インタビューをして、生い立ちから、起業して成功してエンジェル投資家になるまでを掘り下げた、読了20分かかるぐらい記事と、投資家のポートフォリオページが特徴なんですけど、投資家のなかには、その2つをTwitterにピン留めしてくださる方とか、プロフィール欄にリンクを貼ってくださる方がいます。結局、何十社も投資先があると、Twitterのプロフィールに書けなくなってしまうので、投資家の方からしたら、投資先が一覧になっていて「『ここ見とけや。』って言えば、全部説明できるようなページが欲しいはずだな」と思ってつくりました。

あとは、エンジェル投資をやっていると、いろんな人が「投資してください」って言って来るんですけど、(投資家が)投資したくなる人というのは、投資家のことを掘り下げて確認してきている人で、それも、「『このブログ見とけばわかる』みたいな名刺代わりの記事があれば便利だろうな」と思ったんです。起業家が資金調達したりとかサービスをリリースしたときに、TechCrunchにパッと取り上げられるんですけど、それは事業のタイミングを切り取ったインタビュー記事で、ロングインタビューみたいなものではないんです。

琴坂:拡散したくなるように設計されているから、自然に拡散されるというイメージですよね。

堀井:そうです。フリマアプリのときは偶然そうなっていたのですが、今は狙ってできるといいなと思ってつくっています。

(質問)若い起業家へアドバイスとして、大人のシリアルアントレプレナーが自分のマーケットに殴りこんできたときの対処法を3つ下さい。

堀井:僕自身がそういう境遇で、メルカリの山田進太郎さんがシリアルだったんですけど…3つか(笑)。ひとつは、「自分が勝負しているゲームのルールを早く把握すること」が重要だと思います。たとえば、CtoCの場合は規模を追求するゲームがあるので、後発でも規模を大きくする術があれば勝てることもあるんです。なので、自分が勝負しているゲームのルールみたいなものをちゃんと把握することが大事です。

もう2つ挙げるとすれば、何でしょうか…。結局、お金とチームみたいなところになってしまいますね。

琴坂:若い起業家からすれば、(シリアルアントレプレナーという)相手は金銭的にも地位的にも圧倒的に強いですよね。

堀井:過去を振り返って反省すべきポイントがあるとすれば、チームに大人の人をあまり入れなかったことです。資本政策も含めて「自分に足りないパーツをどうやって集めるか」を考えることは重要だと思います。

琴坂:うまくゲームのルールを理解して、大人プレイヤーが来る前に、大人プレイヤーを仲間に引き入れてしまうという感じですね。

(質問)フリルが伸びた理由に「確変が起きたから」と(本に書いて)あったのですが、そのほかにユーザー数が伸びた理由としてどのような要因があると思われていますか?

堀井:これは自分でも想定していないような誤算ではあったんですけど、確変の正体というのは、ブログで服を売っていた読者モデルの方が「これからフリルを使うので、フリルで買ってください」と、勝手に宣伝してくれたことなんです。

琴坂:(コメント欄に)横井孝典さんから「女の子向けのフリマの時代は、サイバーの藤田さんが登録したので即BANした伝説もありましたね」と。

堀井:ありましたね(笑)。今でも思い出すんですけど、当時(フリルを)リリースしたときって個人が物を売れるアプリは珍しくて、界隈の人たちがたくさん登録してくれたんです。でも、そのとき対象にしていた一般女性のユーザーが登録するときに使うメールアドレスって、キャリアのメールアドレスが多かったので、Gmailで登録してくる人がいたら確実に玄人だなと(笑)。

これは失敗でもあるんですけど、女性限定にしていたのは、女性のものを男性が買ったりすると嫌がるユーザーがいて、それはあまりよくない体験なのかなと思っていたんです。だから、ひとりひとりメールアドレスや名前をチェックして、明らかに男性であろう人はBANしていました。そのことを藤田さんがブログに書いてくださっていて、それはかなり励みになりましたね。

琴坂:どんなことを書かれていたんですか?

堀井:手前味噌ですけど、当時はサイバーエージェントもフリマアプリをリリースしており、藤田さんは競合のサービスを観察するために(フリルを)使っていて、ブログに「その人(堀井さん)は僕のユーザー登録のログを見て『こいつ男だ』と思ってBANしてきたんだけど、それぐらい細かくログを見てBANするほどの熱量でサービスに取り組まないと、自分たちのサービスも負けてしまう」と社内向けメッセージみたいな感じで書かれていたんです。

メルカリとの競争を振り返って

(質問)事業を作っている中で、一番悩まれたタイミングはいつ頃でしょうか?

堀井:フリマアプリの例を出すと、リリースした後、トラクションも順調に積み上がっていきましたし、競合はいくつも出てきたんですけど、それよりも高い成長率を誇っていたので、そんなに心配していなかったんです。ただ、メルカリさんが出てきてからバチバチになってきたときはすごく困りました。

困ったというのも、模倣化されたプロダクトを出されて、相手が自分たちよりもデカい資本で倍プッシュしてくるし、手数料を無料にしたりと、経済的合理性も追求されていました。細かい思い出を話すと、広告をむやみに流すと質の悪いユーザーが入ってくるんですよね。僕が覚えているかぎり、当時のメルカリさんのレビュー欄はすごく荒れていました。ブーストのメディアとかでランキングを上げて、そういうところで質の悪いユーザーを取っても、プロダクトとしていいことはないと思って、同じような真似はしなかったんです。ただ、ユーザー数自体は結構背中が迫ってきていて、(メルカリが)手数料無料で毎月3,000万広告費にかけているみたいなシーンでは、どうしようか悩ましかったのを覚えています。

堀:それはめちゃくちゃ難しいですよね。当時の経営会議とか取締役会に参加していたとしたら、いままで信じてきたポリシーを曲げてまでメルカリに対抗していく戦略をとれるかというと、株主としてもなかなか意思決定しにくいですね。

堀井:そうですね。メルカリさんはそう思わないかもしれないですけど、(メルカリは)後発だったので、そういうことをせざるを得なかったのかなと思います。

CtoCは売り手と買い手の数で勝負が決まるので、お金と経済合理性でバリバリ戦うところで、僕らに勝ち筋はなかったのかなと思います。今振り返ると、そうやられたときに自分達もカウンターで返すしかないですよね。今となってはわかるんですけど、堀さんがおっしゃるとおり、当時は「そうしろ」と言ってくれる人がいたわけでもなく、ただユーザーに向き合って、良いプロダクトを作ろう思ってやっていました。

琴坂:いま振り返ってみて、フリルの世界観が出来上がっていて、ロイヤルユーザーもいて、トラクションもある状況で、それらを捨てるような方向転換をできたと思いますか?

堀井:できなかったと思います。今は(自分たちが戦っている)ゲームのルールも理解できるし、枠を広げるという意味でも、女性専用ではない方がいいことも理解できるんですけど、当時はそこまでわからなかったと思います。

堀:どこかのタイミングで、若干質が下がったとしてもマスを取りに行かなきゃいけないということだと思うのですが、BtoCに関して言うと、何を考慮してマスを取る方にシフトするんですか?

堀井:僕はその当時、現場でめちゃくちゃ手を動かしていたんです。その点で、一段上がったレイヤーで「どうプロダクトの市場を広げていくか」みたいな発想ができなかったのが致命的だったと思います。

Facebookもハーバードから始まって各大学に広がり、最後は一般に解放して…みたいな感じだと思うんですけど、そのときに、マーク・ザッカーバーグが現場でコードを書いていたかというと、そんなことはないですよね。僕らはバリバリ現場でコードを書いていたので、組織としての判断ができる余裕がなかったんです。

当時は女性だけでもグッと成長していたので、そこ以外を攻めようという発想になりませんでした。本来は、一段上がった目線で、LTVがついていて利益も出ている状況を確認できたら、誰かに現場の権限を委譲して、自分は「このプロダクトをどのように市場に広げていけるか」を考えるべきだったと思いますね。

琴坂:CEOとして前線から一歩離れることが重要だ、というところが堀井さんのご見解ということでしょうか?

堀井:そうですね。権限移譲とか採用みたいなところで、メルカリには負けていたと思います。

琴坂:体制を変える以外に、CEOとしてそのタイミングを見極めるためにできることって他にないですかね?

堀井:最初から「どういう広がり方をしていくか」を見越した上で、プロダクトを作れていればよかったのなとは思います。当時は、N1という目線しかなかったんです。たとえば、今フリマアプリを使われている方の幅は多岐に渡っています。農家の人が野菜を売るために使ってくれたりとか、クリエイターの人が自分の作品を売ったりするのに使ったりとか。単に「いらないものを売る」というよりは、商売として使っていますよね。だけど、大きな機能とかUIって最初の頃から変わってないんです。メルカリもラクマもほとんど変わっていないと思うんですけど、サービスを始める際に、最初はペインが深い人にしか刺さらないけど、プロダクトの信頼性ができて、認知度が広がってきたタイミングで「こういうセカンドターゲットに広がるだろう」というのも加味してプロダクト設計したりとか、組織の準備ができると結果が変わってくると思います。

ただ、最初の時点でそこまで解像度高くプロダクトを仕込むのは難しい気がするので、とにかく、プロダクトが無消費に広がるのかどうか、というところさえ意識できればいいのかなと思います。

琴坂:「無消費に広がる」というのは何でしょうか?

堀井:繰り返しになるのですが、特別なスキルを持っているか、すごくたくさんお金を持っていないと解決できなかった課題を、あるプロダクトができたことで解決できる人がグッと増えるということです。

(課題に対する)熱量とか痛みの深さに関わるんですけど、痛みが深い人は「このサービスを待ってました!」という感じで手に取るんですけど、農家で野菜を売っている人とか、自分の作品を売っている人は、そこまで痛みが深くないんですよね。「そのプロダクトがないと生活できない」ということはないので。ただ、痛みが深くない人に向けても「プロダクトの認知度ができて、信頼性が担保されて、他の機能が含まれればこの人までカバーできるな」みたいなものをインタビューから少しずつ感じ取って、(プロダクトを)作ったりは出来るようになりました。

琴坂:今すぐじゃなくても、将来お客さんになりそうな人を意識してインタビューするんですね。

「観察・傾聴」をひたすら繰り返す

(質問)SNSやインタビューでユーザーの課題を抽出してサービス化する能力はどうやって身につければ良いんでしょうか?

堀井:難しいですね…。結局、いかに気付きを得られるかが重要だと思います。自分がどこまで意識的にできているかはわからないんですけど、気付き自体は訓練しないと身につかないものですよね。

琴坂:どんな訓練をすればいいですかね?

堀井:インタビューして観察、傾聴することをひたすら繰り返すしかない気がします。自分はそれ以外に特別なことをやっていないと思いますね…。

他人の行動を深掘りしたりとか、「どういう状況のときにそれが発生するのか」みたいなことを改まって考えることってないと思うので、何かの気付きを得たときにそれを実践して、その上で「それを自分だったらどう解決できるか」と考えることを繰り返すしかないと思います。あとは誰かがやっている不合理なことを自分でも体験してみることも、一次情報になりますね。

(質問)インサイトにバリバリ精通するリサーチにはどれぐらいの時間をかけますか?

堀井:痛みが深い人のイメージができて、それをテキストに落とし込んで、言語化してシェアできるまでですね。

堀:今チャレンジしている事業のユーザー分析、ユーザー観察みたいなものを見せてもらったんですけど、すごい量でした。「ここまで見てるんだ。マメだなぁ。」と思って本当にびっくりしましたね。

堀井:繰り返していると、痛みのグラデーションみたいなものが見えたりするときがあるので、それを言語化でき始めたらいいんじゃないかなという気がします。

琴坂:起業家の方には、そこまで丹念にやらずに、インスピレーションのようなもので「これだ!」と決めるスタイルの方もいらっしゃるんですけど、そういう側面もあるんですか?

堀井:インスピレーションで決めるのは、起業する前にプロダクトを作っていたときにやっていた手法で、結構失敗したので、あんまりうまくいかないと思ってます。

堀:Craigslistのようなサービスは「アメリカでこれ流行ってるから日本でもいけるのでは?」みたいなノリでやっていたという感じですか?

堀井:そうですね。インスピレーションで決めたりとか、海外輸入してくるのも、タイミングの問題が大きかったりしますよね。ただ、「誰の何の問題を解決するのかはっきりしていないもの」を作ったときに、誰にも使われないみたいなことが起きる気がします。
先ほどの「俺が考えた最強のサービス」の状態ですね。

あと、エビデンスとかデータをもとに進めるというのも、フェーズによって変わってくると思うんです。データをもとに改善できるフェーズと、データもまともに取れない初期のフェーズがあります。初期は、データを取れたとしても1日数人とか数百人ほどで、判断材料として十分ではない場合が多いですよね。その場合は、インタビューしたなかで、自分なりに痛みの重い順に並び替えて、重いものから解決するという感じになると思います。

堀:痛みの深さは、インタビューとか観察の数に応じて自分の中で相対的に「これは確かに深いな」みたいに感じるものなんですか?

堀井:インタビューをしていて一番テンションが上がるのは、「ユーザーがとっている不合理な行動を観察して見つけたとき」ですね。フリマの例で言うと、ブログで服を売ってるという行為を見つけたときですね。「こんな(不合理な)ことして解決してるの?」みたいなのが見つかったらすごい嬉しいです。

(質問)サラリーマン時代に得たもののなかで、今に生きていることはありますか?

堀井:インターンを含めて、社会人をやってよかったなと思うことは、営業職が長く、クライアントの話を聞く機会が多かったので、「傾聴する姿勢」みたいなものは後々役に立ったと思います。人に話を聞きにいったり深掘ったりするのが苦ではなかったですし、お客さんからお金をもらったりするときには、本質的な課題をちゃんと特定したうえで提案しないと刺さらなかったりするんで、そういう経験ができたことは大きかったです。

琴坂:営業経験が生きてきたというのは、いま営業やられている方への福音というか、救いの言葉に聞こえます(笑)。

堀井:(事業を立ち上げ後に)初めて立ち上げたサービスが、いきなりポシャったんです。ピボットを余儀なくされたときは、かなり焦って…。当時を思い起こせば、クライアントになってくれそうなところに「今どんな問題で困ってるのか」ということをひたすら聞いていって、そのソリューションを、つたないながらも作っていたら売れたということがあって、その経験も大きかったかもしれないです。

琴坂:ある種の原体験かもしれないですね。

「一緒に成長できる人」を仲間にする

(質問)仲間はどうやって口説いたんですか?

堀井:僕は一卵性の双子でもう1人同じ人間がいるので、(仲間の)ひとりは兄弟ですね。あとは、基本的に新卒の同期が集まった会社で、具体的に説得した記憶がないんですけど…。みんなmixiを使っていたインターネット世代みたいな感じで「ユーザーに使われるプロダクト、たくさんの人に使われるプロダクトを作りたい」という気持ちはありました。

共同創業者に兄とデザイナーのtakejuneという者がいるんですけど、新卒の研修したときに「将来どうなりたいか」みたいな話をする機会があったんです。そのときにtakejuneは「何万人とか何百万人が必要とするサービスを作り出したい」と言っていて、会社をやるにしても、「一緒にやっていけそう、一緒の目標を持ってやれそう」という印象はあったと思います。

琴坂:なんて運命的な新卒研修なんでしょう(笑)。そのときの出会いが、この挑戦につながっていくというのはドラマチックな気がします。

堀井:「お金儲けしたい」と思っているような目線がズレた人と一緒に起業してもうまくいかないと思っていたので、「同じ方向を目指しているかどうか」という基準が仲間を決める際にはあったと思います。

(質問)新しい挑戦をしている最中かと思いますが、共同創業者が仲違いせず、また一緒に新しい会社を始めるという結束力がすごいなと思います。秘訣はなんでしょうか?

堀井:重複しちゃうんですけど、「いいプロダクトを作って、すごいたくさんの人に使われるようなものにしたい」という共通の思いがあるかどうかと、共同創業者とか会社の代表って、ステージごとに成長を余儀なくされると思うんです。最初はデザイナーならデザイナーだし、僕だったらインタビューしたりビズデブしたり…と、手を動かす1人として始まると思うんですけど、会社のフェーズが上がると、マネジメントしたりとか、株主のこととか社員のこととか…いろんなことを考えなきゃいけなくなります。そういう点で「会社を作るという視座があり、成長確度の高いメンバーかどうか」というのも重要かなと思っています。

堀:2回目の起業のなかで、組織開発について意識していることはありますか?

堀井:組織開発は反省ばっかりなんですけど、(1回目の起業のときは)自分たちが最後まで現場で手を動かしていたり、権限をすぐには移譲できませんでした。採用力の問題もあったと思うんですけど、いい人が採用できなくても権限委譲して、目線を上げるようなことを意識しようと思います。

堀:ありがとうございます。

琴坂:そろそろ番組を締める必要があるのですが、次回のゲストがBASEの鶴岡さんです。鶴岡さんにお聞きしたいことはありますか?

堀井:うちはメルカリさんと競わせていただいた背景があるんですけど、BASEの場合はSTORESさんとバチバチだったんじゃないかなと思っています。両方のサービスを使ったわけではないんですが、大きな機能差があるわけでもない気がするので、「コモディティ化した市場で競合が現れたときに何を意識して、どう勝とうと思ったのか」みたいな話を聞きたいです。

琴坂:いいですね。ありがとうございます。この番組は『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』の出版を記念して、堀井さんをゲストにお迎えしてお送りしました。今日も貴重なお話しありがとうございました。この本ついに増刷がかかりました。是非皆さん読んで頂ければと思います。よろしくお願いいたします。ありがとうございました!

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