横断歩道で命を落とした3歳の娘 母の後悔、消えない「もしも」

亡くなった原田恵理香ちゃんの写真を見つめる母親=水戸市で2026年1月15日午後3時2分、井手一樹撮影 拡大
亡くなった原田恵理香ちゃんの写真を見つめる母親=水戸市で2026年1月15日午後3時2分、井手一樹撮影

 愛娘の人生は、たった3年で絶たれた。安全なはずの横断歩道で、小さな体が車にひかれた。

 母親は、強い後悔にさいなまれている。もしも、家族が手をつないで渡っていたら……。もしも、子ども用のハーネスを着けていたら……。たくさんの「もしも」が、ずっと頭から離れない。

幼稚園に入ったばかりの事故

 事故は2025年11月18日午後、水戸市大工町にある交通量の多い国道交差点で起きた。

 10月に幼稚園に入ったばかりだった、原田恵理香ちゃん(当時3歳)。園からの帰り道、祖母(71)と一緒に現場近くのバス停で降り、自宅に向かって歩いていた。

 祖母は横断歩道を先に渡って待っていた。恵理香ちゃんが後に続いていたが、左折してきたスポーツタイプ多目的車(SUV)にはねられた。

 車の左前輪が体に乗り上げ、心肺停止の状態で病院に運ばれた。

水戸市大工町の国道交差点。左側の横断歩道で死亡事故が起きた=水戸市で2026年1月14日午後4時43分、井手一樹撮影 拡大
水戸市大工町の国道交差点。左側の横断歩道で死亡事故が起きた=水戸市で2026年1月14日午後4時43分、井手一樹撮影

 直後に職場で電話を受けた母親(43)は、娘が事故に遭ったと伝えられても信じられなかった。

 電話口の病院関係者に容体を繰り返し尋ねた。「どうなるかは分かりません」と言われ、体から力が抜けた。

「余命は1、2時間」

 「今朝までずっと元気だったのに」。病院に向かうタクシーの中でも不安が募るばかりだった。病院の手術室に着くと、担当医から告げられた。

 「余命はあと1、2時間です」。その場で泣き崩れた。

 後から、小学1年の長男(7)も病院に連れられてきた。いつも仲が良かった兄妹。長男は病室に横たわった恵理香ちゃんのそばを離れなかった。

 一時は蘇生したものの、事故から約4時間後、静かに息を引き取った。亡きがらが自宅に戻っても、長男は妹の隣で横になった。

 幼稚園の制服を着せて火葬したが、骨つぼは今も家に置いたままだ。

 「にいに」と呼ぶお兄ちゃんのことが大好きだった恵理香ちゃん。兄をまねては、自分のことを「ぼく」と言っていた。

歩車分離式信号、広まらず

 車を運転していたのは、自動車教習所を運営する会社の社長を務めていた男性(57)だった。

 現行犯逮捕され、自動車運転処罰法違反(過失致死)で在宅起訴された。事故直後、男性から謝罪の申し出があったが、母親は受け入れられなかった。

 年が明けてから男性の妻と会って謝罪を受けたものの、本人からは手紙を受け取るだけにとどまっている。

 安全に道路を渡れるはずの横断歩道で、恵理香ちゃんは命を落とした。

 信号は、車側も歩行者側も青だった。「人と車が交錯しない歩車分離式信号なら、事故は起きなかった」。母親はそう強く感じている。

子ども用ハーネスを着用して歩く長男(左)と母親=家族提供 拡大
子ども用ハーネスを着用して歩く長男(左)と母親=家族提供

 ただ、歩車分離式信号は十分に広がっていない。警察庁によると、25年3月末時点で全国の信号機約21万基のうち、導入されているのは5%ほど。渋滞が起きやすくなる点などが課題になっている。

普及願う、子ども用ハーネス

 どうすれば事故を防げたのか。母親が必要性を強く感じているのは、子どもに装着して親がひもを持つハーネス(迷子ひも)だ。

 祖母が幼稚園の送り迎えをしていたが、当時は手をつないでいなかった。ただ、遊びたい盛りの元気な子どもが、いつも静かに手をつないで歩いてくれるとは限らない。

 長男が恵理香ちゃんと同じ年ごろには、母親はハーネスを着けていた。「安全でいいね」と言われたこともあったが、多くの目は冷ややかだった。

 すれ違った人に「外してあげなよ、犬じゃないんだから」と心ない言葉をかけられたことも。恵理香ちゃんにもいったん着けたが、嫌がったため、あきらめていた。

 警察庁によると、20~24年に歩行中の幼児や児童が死傷した交通事故では、子どもの「飛び出し」が約3割を占めた。

 恵理香ちゃんは横断歩道を渡っている際にはねられたが、ハーネスがあれば、子どもの飛び出しによる事故も防げると母親は考えている。

以前に使用していた4種類の子ども用ハーネス=母親提供 拡大
以前に使用していた4種類の子ども用ハーネス=母親提供

 母親は「感情だけで『子どもがかわいそう』と言うのではなく、もっと現実的なところに目を向けてほしい。事故に遭うことの方がかわいそうなのだから」と着用への理解が広がることを願う。

 交通事故は突然、誰の身にも降りかかるのだと痛感した。事故後、「横断中」と書かれた黄色い旗を持って登校する地域の小学生たちを見守る活動に取り組むようになった。

 大切な人を失って悲しむ人が増えてほしくないと、今後は事故の体験を共有したいとも考えている。

 「事故に遭ってからでは遅い。同じことが繰り返されないよう、体験談を聞いて意識を変えてほしい」

 そうした取り組みを続ければ、悲惨な事故が少しでも減ると信じている。【井手一樹】

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