深掘り

異例の審議短縮、高市首相に党内沈黙 政権幹部「恐怖政治のよう」

川嶋かえ

 2026年度当初予算案が13日、衆院を通過した。高市早苗首相の号令のもと、「数の力」で審議の短縮に動いた自民党。「国論を二分する政策」の論争を深めず、沈黙したまま首相の意向に従う巨大与党の今が表面化した。

 「乱暴な国会審議との批判は全く当たらない。限られた日程の中で熟議を尽くすため、最大限の配慮をしてきた」。13日午後、国会内。自民所属の衆院議員が集まった会合で鈴木俊一幹事長がこう訴えると、肩が触れあうほどに混み合った会場は拍手に包まれた。

 党運営を取り仕切る鈴木氏が「熟議」を強調したのは、異例とも言えるほど審議時間を短縮したことに対する批判をかわそうとしたからだ。衆院における本予算の審議は80時間程度が目安とされるが、高市政権は今回、およそ59時間で採決に踏み切った。

 発端は、自民が歴史的大勝を果たした先の衆院選。首相は、投開票翌日の記者会見で「一日でも早く成立させていく」との方針を表明した。本来であれば予算審議は、衆参両院で2カ月程度の時間を要するが、衆院解散で審議日程はきわめて窮屈になった。そのことへの批判を打ち消す狙いとみなされた。

 ただ首相の言葉とは裏腹に、自民内では当初、党幹部さえ「国会審議を軽視してはいけない」と語るなど、慎重論が広がっていた。官邸幹部は「年度内成立はあくまでも『目指す』。実際の成立は4月中旬だろう」と、首相の言葉はあくまで意気込みにとどまると解釈してみせた。

 動きが鈍い自民に業を煮やしたのだろうか。首相は2月13日、国会運営の責任者らを官邸に集め、「年度内成立を諦めていない」と改めて伝達。自民側は、審議時間を圧縮してでも年度内成立を実現させる審議日程の検討を本格化させた。

 なぜ、慎重論が広がっていたはずの自民が唯々諾々と従ったのか。最大の要因は、派閥の裏金問題をきっかけに陥った党勢低迷からの脱却を果たした首相の功績を重くみたからだ。ある閣僚経験者は「自民は、選挙で勝った総裁は何でもできる政党だ」と漏らした。

 また、野党から「強引な国会運営」などと批判を浴びようとも、首相が主導すれば「ぶれない姿勢」と世論に映るとの算段もあった。予算審議の終盤、報道各社による世論調査を見たベテラン議員は「年度内成立への賛否は半々。これなら問題ない」と自信を深めた。

 さらには、人事権の行使をちらつかせる首相の政治手法も党内に沈黙を強いた。衆院選後、国会運営の司令塔となる梶山弘志国会対策委員長の交代論が自民内で急速に広がった。梶山氏は留任したが、議会運営の中心にある衆院議院運営委員長の浜田靖一氏を交代。政権幹部は「恐怖政治のようになってきた」と語った。

 「首相はなぜ、そこまで年度内成立にこだわったのか」(幹事長経験者)、「衆院選で大勝した自信がゆえだとは思うが、無理してまで急ぐ理由がわからない」(党関係者)など、党内には様々な声がある。

 有言実行を果たそうと突き進んだ首相。その代償に、国権の最高機関の国会で重んじられるべき「与野党による合意」はないがしろにされた。「高市1強」のもと、巨大与党となった自民は首相を前に沈黙を守り、ただただ追従する姿勢を変えようとしていない。

予算の次は「国論二分の政策」実現へ動く

 「数の力」を使って強引に新年度予算案を衆院で通過させた首相は、手を緩める気配も見せず、国のインテリジェンス(情報収集・分析)機能強化など、掲げる政策の実現に向けてさらに動きを強める構えだ。

 「重要な法案が目白押しだ。スピード感を持って進めなければ間に合わない」。予算案の衆院通過を目前にした政権幹部はむしろ焦りすらにじませ、年度内成立にこだわる首相も同じ考えだろうと語った。引き続き巨大与党の力を最大限に活用して、政策を推し進める姿勢を示す。

 予算の後には、首相が実現をめざす「国論を二分する政策」の一つ、インテリジェンス機能の強化につながる「国家情報局」などを設置する法案の審議が控える。以前から首相が必要性を訴えてきた「スパイ防止関連法制」の策定や、諜報(ちょうほう)活動のための「対外情報庁」の創設も、政権は早期の実現をめざす。

 第2次内閣発足時の2月の会見では、首相は皇室典範や憲法の改正にも意欲を示した。

 安定的な皇位継承に向けた議論は、「立法府の総意」のとりまとめをめざして与野党が続けてきたが、首相は「先送りできない課題だ」と議論の進展への期待を表明。今国会の衆院予算委員会では、「皇統に属する男系男子に限る」ことが適切だと主張した。

 憲法改正に関しても、会見で「少しでも早く改正案を発議し、国民投票につながる環境をつくれるよう、自民党として粘り強く取り組んでいきたい」と急ぐ考えを示した。

 一つ一つが、幅広い議論と国民の理解が欠かせない重大な政治テーマで、政権内にも強引な国会運営や拙速な進め方ではかえって実現が遠のくと懸念する声はある。だが、首相が方針を変えるような兆しは見られない。ある自民党関係者は語った。「首相も人の意見をあまり聞くようなタイプではないし、『時間をかけた方がいい』なんて誰も言わないだろう」

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    木下ちがや
    (政治社会学者)
    2026年3月13日20時9分 投稿
    【視点】

    「恐怖政治のよう」という見出しをみて、トランプ大統領のことかと一瞬思ってしまったが、それはさておき高市総理の強権ぶりである。  記事にもあるように、思うままに議会を動かし、思うままに側近を切り捨てているようだ。それでも高市総理には「私には高い国民の支持がある」と思い込んでいるのだろう。  だが、世論は急激に変化しつつある。一か月前の自民圧勝はもちろん高市総理の高支持率によりもたらされた。初の女性総理であることへの好感と、政治の刷新を有権者の多くは総理に望んだのだろう。だが、戦時下にある現在において世論が求めているのは国論をまとめあげるリーダーである。先行きがみえない最中において指針を示し、国民を説得できる指導者である。高市総理はこの世論の変化に気づいておらず、ただ全能感に酔いしれているようにしか見えない。 こうした過信はいずれ大きな反動にもたらすことになるだろうが、繰り返すがいまは戦時下であり、反動による政治の混乱と政治不信の蔓延はわが国の大きな危機に直結する。予想される危機になすすべもない状況に気が重くなるばかりである。

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    佐藤優
    (作家・元外務省主任分析官)
    2026年3月14日7時25分 投稿
    【視点】

     行政権が著しく優位にある状況で、国会審議の時間が短くなるのは、不思議な現象ではないと思います。 <2026年度当初予算案が13日、衆院を通過した。高市早苗首相の号令のもと、「数の力」で審議の短縮に動いた自民党。「国論を二分する政策」の論争を深めず、沈黙したまま首相の意向に従う巨大与党の今が表面化した。  (中略)衆院における本予算の審議は80時間程度が目安とされるが、高市政権は今回、およそ59時間で採決に踏み切った。  発端は、自民が歴史的大勝を果たした先の衆院選。首相は、投開票翌日の記者会見で「一日でも早く成立させていく」との方針を表明した。本来であれば予算審議は、衆参両院で2カ月程度の時間を要するが、衆院解散で審議日程はきわめて窮屈になった。そのことへの批判を打ち消す狙いとみなされた。>(3月13日「朝日新聞」デジタル版)  興味深いのは、新聞と一部の評論家を除いて、予算審議時間の短縮に対する批判がほとんど起きていないことです。熟慮よりもタイパ、コスパの方が重要だという意識が国民に浸透しているのかも知れません。日本の民主主義に関して、草の根の状況が変化しているのだと思います。

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