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気流の通り抜ける場所

例えば、晴れた土曜の午後。娘たちは退屈を持て余し、家の中で気怠そうに寝転がっている。あり余る子どもたちのエネルギーは、部屋の湿度を上げ、空気を重たくさせる。そんな時、僕は彼女たちに厚着をさせ、ぶらりと「みよたの広場」へと向かう。

特に目的があるわけではない。誰かと待ち合わせをしているわけでもなければ、遊具やイベントがあるわけでもない。ただ、広場へ足を運べば、なにかが始まる予感がある。

すでに何組かの親子がいた。子どもたちは思い思いの遊びに夢中になっている。ただ広場を全力で駆け回る子。頬を上気させながら、焚き火のそばで暖を取る子。小さな手で斧を握りしめ、薪割りに挑戦する子。そんな騒がしい外の様子とは無関係に、小屋の片隅で静かに本の世界に没頭する子。

大人たちは、そんな子どもたちを見守りながら、コーヒーを片手に穏やかな時間を過ごしている。遠くから聞こえる笑い声、鼻をかすめる焚き火の香り、高らかに鳴り響く薪を割る音。冬の冷たい空気の中にふっと溶け込んでいくような、心地よい静けさ。

この広場では、何かをしなくてもいい。ただそこにいるだけでいい。子どもたちは安心し、自由に遊ぶ。大人たちは肩の力を抜き、ただ語り合う。

みよたの広場とは、そういう場所なのだ。


「広場」を意味する英単語はいくつもある。Park、Plaza、Playground。どれも広場や公園を指す言葉だが、「みよたの広場」に最もふさわしいのは、きっとCommonsだろう。

ここは、公共スペースではない。誰かが一方的に与えた場所ではなく、地域のみんなが自らの手で耕し、作り上げ、育ててきた場所だ。行政ではなく、民間の手によって整備され、誰もが自由に使える広く開かれた空間。それは、まさに「コミュニティの共有財産」と呼ぶにふさわしい。

この場所が生まれる前、ここには町役場があった。その跡地に残されたのは、草木も生えない荒れた大地。しかし、立ち上げメンバーはそこに可能性を見出した。民間で公共的な場所を作るのに、役場跡地というのも面白い。土を耕し、草木を植え、水の循環システムを作る。冬の厳しい寒さをしのぐために、ロケットストーブや小屋も手作りした。

やがて、週末のマルシェなどで少しずつ認知を広げ、人が集まり始める。最初はぽつぽつと集まる程度だった人々が、気づけば自然とここに足を運ぶようになっていた。そして、ある時ふと気づくのだ。

ここはもう、誰かの「所有物」ではなく、みんなの「居場所」になっているのだと。


ここは、子供にとっては親や先生以外の大人と自然に触れ合える、稀有な場所でもある。広場に集う大人たちは、子どもたちに何かを教えようとはしない。ただ、そこにいて、黙々と手を動かし、焚き火を組み、薪を割る。その背中が、言葉以上に多くのことを語る。

子どもたちは、そんな大人たちの姿を横目に見ながら、やがて気づく。道具の扱い方を学ぶのも、火の付け方や危険を知るのも、決して教えられたわけではない。ただ、見て、感じて、試しながら身につけていく。そして、それ以上に大切なことを知る。

人と人が交わす、穏やかなまなざしの力を。

ただ、それは監視や誰かを勝手に測るまなざしではない。ただ見守り、そっと寄り添うまなざしだけがある。子どもたちは、見つめられることを意識することなく、ただ自分の体の動きに集中し、遊びに没頭することができる。大人たちは誰かに「親」としての役割を強いられることもなく、ただそこにいるだけでいい。

そんな時間の中で、ふと気がつく。常に何者かであることを求められる世の中で人が自由でいられるのは、何者でもなくいられる場所だけなのだと。


広場には、ただ集まり、ただ過ごす自由がある。目的を持たずともいい。誰かに名を尋ねられることもなく、特定の役割を背負う必要もない。ただ、ここにいる。それだけで許される場所。

学校にいれば生徒や保護者、先生。家庭ではお母さんやお父さん。仕事でも肩書きや職種が付きまとう。この世の中は、何者でもない人間になるのは難しい。

余白のような空間、あわいの時間。何かをしなければならないわけでもなく、何者かでなければならないわけでもない。ただそこにいるだけでいい。そんな場所があるからこそ、人は肩の力を抜き、自分自身と向き合うことができるのではないだろうか。

世の中には、こうした余白の場が必要だ。学校でもなく、職場でもなく、生産性や成果を求められる場所でもない。ただ、存在することが許される空間。みよたの広場は、まさにそういう場所なのだ。


焚き火のそばで、子どもが薪をくべる。パチパチとはぜる火の音に耳を澄ませながら、そっと斧を手に取る。周りの大人たちは何も言わない。ただ、彼の動きを静かに見守っている。

やがて、空気を裂くように薪が割れる音が響く。その瞬間、子どもは自分の力を知る。誰かに教わったわけではない。ただ、見て、感じて、試しながら学んだ。

ひゅうひゅうと気流の鳴る音がする。

誰のものでもなく、どこかへ向かうわけでもなく、ただ、この広場を吹き抜けていく風。その瞬間、ここにいる誰もが、自分自身をふっと解き放たれるような感覚を覚える。

それは、まるで世界が少しだけ開かれた合図のようだった。


しかし、この大切な居場所が今、存続の危機に瀕している。

これまでの助成金が終了し、自主運営への移行を求められている。維持管理には資金が必要であり、運営を続けるための人手も足りない。

もしこの広場を維持できなければ、ただの空間を失うだけではない。ここで生まれたつながりや、営まれてきた時間そのものが消えてしまうことを意味する。

この場所を未来へと繋げるために、僕たちはクラウドファンディングを実施することに決めた。これは、ただの資金調達ではない。みよたの広場が本当に「みんなの居場所」であるために、地域の人々と共に未来を創るための挑戦でもある。

立ち上げメンバーの内沼さんは、この広場のことを「共助の練習場」だと言った。人口減少が進むこの日本では、自治体や行政に頼る公助とも違う、みんなで支え合いながら地域を持続させていくための「共助」の場に慣れていく必要がある。

そう言った意味では、このみよたの広場はこれからの時代を見据えた、地域における社会実験でもある。これは日本中どの地域でも必要とされるであろう共助の居場所だが、それが資金不足で終わるとするならば、それはそこまでだと言うことだろう。

だが、それで良いのか。

この問題は、日本中のどの地域に住む人たちも無関係ではいられない。僕たちの子供や、子供の子供たちが、「この地域で生まれ育って良かった」と思える社会をつくるためのこの取り組みに、興味がある方はぜひ参加して欲しいと心から願っている。

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