君の騎士になりたくて!   作:邪道キ

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前回から大分悩みました。何度も書き直しましたが、こういう形に落ち着きました。

ここから先、「こんなのシャドウ様じゃない!シド・カゲノーじゃない!」と思われた方は速やかにプラウザバックしてください。

それではシャドウ視点の番外編、どうぞ。












番外編:SIDESTORIES.S-陰の実力者が見る夢

────/-1/────

 

 子供のころから夢見ていた。

 

 きっかけは何だったかはもう思い出せない。多分何かの…アニメかドラマだったか、兎に角子供の時、何気なしに見ていたTV番組が切っ掛けだったと思う。

 

 そこに映っていたのは、正義のヒーローと悪役と、もう一人。

 

 正義の為でも、悪の為でもない。誰にも目的を、胸の内に秘めた真意を悟られること無く、陰から事件に介入して、その圧倒的な力を示す存在。

 

 その姿を一目見た時、僕の心は奪われた。ヒーローも悪役も、側にいた父さんや母さんも、他の一切が一瞬でくすんでしまう程にソレは異彩を放って目を離せなかった。僕も何時かああなりたい、誰にも追いすがることが出来ない力で、ヒーローを助けては去っていく。そんな存在に、影野実は憧れた。

 

 見よう見まねに真似してみた、彼の台詞を諳んじてみせた。児戯ながらもその間だけは、得も知れぬ高揚感と一体感を味わえた。今自分はカッコいいのだ、多福感と全能感に

 

 僕はこんな人になりたい────と。

 

 だけど周りにとっては理解されないものだったらしい。他の子供たちは大抵ヒーローに憧れた。偶に悪役の方がいいという子もいたけど、陰の実力者が好きな子は僕以外いなかった。父さんや母さんも最初は笑って聞いていたけど、段々笑みに苦いものが混じるようになってきた。

 

 ────テレビじゃそうだけど、ここは現実だ。そんなことなんてあるわけないだろう。

 ────それより友達はいないのか?誰とも遊んでないじゃないか?

 ────やっぱり一度先生に相談した方が…

 

 そう言われて、何かが急激に醒めていくように感じた。目の前のもの総て、僕に絶望しか与えないように思えた。

 

 それでも、ソレだけは色あせた世界で変わらない色を放つ。黒の中でも、白の中でも、変わることのない光彩を放ち続ける。

 

 ソレだけは、僕を裏切らない。

 

 ならば()ってやる────

 

────/3.5/────

 

「ねぇシャドウ…ひーろーって何かわかる?」

 

 久しぶりに会いに来たアルファが、不意にそんなことを聞いて来た。

 

「いきなりどうしたの?」

「いえ…この間斃した教団員が言っていたの。“自分はひーろーになりたかった”って」

 

 聞いてみると、なんでも出逢った盗賊(ディアボロス教団員)が死に際にそんなことを口走ったらしい。自分は愛と平和のために戦うヒーローになりたかったのだと。その男はもう死んだらしいが、聞きなれない言葉だから頭に残ったらしい。

 

 ヒーローになりたかった、ねぇ?それがどういう訳だか盗賊に身を墜とすことになるとは、人生何があるか分かったもんじゃない。

 

「ヒーローっていうのは、お伽噺とかに出て来る、世界を救った英雄とかのことだよ」

「英雄オリヴィエのような?」

「うん、そんな感じ」

 

 オリヴィエ…そう言えばこの世界ってそんなお伽噺在ったよな、アルファに聞かせた与多話の元ネタに。お陰でベータ達七陰(ともだち)とも会えたわけだけど、今思えばよく即興で組み立てられたよなあの話。日頃からいつ何時でも陰の実力者ムーブが出来るようシミュレーションしててよかった。

 

 その盗賊もそういうのを信じていた口か?お伽噺に憧れて、それなりに頑張ってみたけど現実を知って挫折したのだろうか?夢破れたとしても他人に害を成してはダメだろう、その名もなき人物は反面教師にすることにしよう。ナムナム。

 

「だとしたら奴の目的は、オリヴィエの代わりを作る事?あの赤い獣の騎士が…まさか、また繰り返す気?」

 

 既にアドリブを考え始めたアルファをそっと置いておいて、僕は枕に顔をうずめる。

 

 世界を牛耳る闇の組織なんて無いのにね。ちょっと調べれば解る事なのに、こうやって長い間付き合ってくれるとは…持つべきものは友人、なのかもしれない。彼にもアルファみたいなノリのいい子とかが近くにいたら迷走の果ての闇堕ちには至らなかったのだろう。そう考えるとアルファ達七陰がいるのは幸運かもしれない。

 

 けれど、たかだか盗賊にこんなこと考えるのは、久しく聞きなれなかった単語を聞いたからかもしれない。

 

 ヒーロー(・・・・)。陰の実力者の対を成すと言える“光”。もしかしてその盗賊も転生者(どうるい)だったのだろうか?まぁ死んじゃったから確認のしようもないし、どうでもいいか。僕の目指すものは変わらない。

 

 そうだ、僕は陰の実力者になりたくて頑張っている。闇の組織がいなくたって、ヒーローがいなくたって。

 

 

 

 だけど“彼”が現れたんだ。

 

 

 

────/7.5/────

 

 最初は学園をテロリストが襲ったイベントの時。『ヒロイン枠をかばうモブムーブ』を見事成功させ、僕は屋上から陰の実力者が一番映える夜まで時間稼ぎをしようとしていたのだが、一人隙だらけで走る桃色髪のバk…じゃなくてシェリー・バーネットが校内を走っているのに目が留まった。校内に身を潜めているけれど、はっきり言ってバレバレだ。スリッパピタピタ言っているし、今だって僕がスライムの即席ボウガンで鉢合わせかけた奴を撃ち殺さなかったらテロリストの餌食になっていたよ。

 

 しかし彼女の存在が、僕の第六感にシナリオの進行を告げた。ヒロイン候補(魔剣士学園副学長の義理の娘)がこう大々的に動いているということは、今回のイベントは彼女が軸になっていくのだろう。魔力は封じられ、人質は一か所に集められている。警備は全滅し、外の騎士団も魔力が制限されていると知ってか突入を躊躇っている、という「学校にテロリスト襲来(夢にまで見た光景)」の定石を遵守する今回のイベント、上手くいけばシナリオがクライマックスに近づいたところで、颯爽と現れる陰の実力者ムーブが出来る。実に素晴らしい、そう考えて僕が屋上から飛び降りようとした時だった。

 

 誰かがいる。シェリーちゃんのいる階より下。テロリストたちが何やら動き回ったかと思ったら、次々に倒れていく。何だろうと少し屈んでみると、赤茶髪の男子生徒が壁を走っていた。テロリストたちは逃げ出した生徒たちを探していたのか窓をに意識が行っていた。だから赤茶髪の彼に気づかずにいたのだろう、窓辺から引き寄せられ、次々に殴られ、蹴られ、斬り倒されていく。最後の一人を張り倒した彼は犬のように辺りを見渡すと、何かを感じたのか階段を駆け上がって行った。

 

「……やるじゃん」

 

 魔力量が全てとされ、肉体を磨き鍛えることが疎かにされているこの世界の人間にしては結構動けるし、何より速い。体をばねのように使う身のこなし、周囲への気の張り様といい、どことなくデルタっぽいな。直接戦ってみたいけど僕は節操のないバトルジャンキーではないし、やりたいことリストが優先だ。というか逆手持ちか、珍しいな…なんて思っている間に彼はシェリーちゃんの背後から近づくテロリストを斬り伏せて合流したようだ。

 

 成程、今回はあの二人が主役か。さしずめシェリー(主人公)が出会ったゲスト、いやサブキャラ…取り敢えず《レッド》くんでいいか…と一緒に事件解決に奔走する、といった流れか。女主人公なんて珍しくないし、結構穴の多いシナリオだけど一応の体裁は整っている。後はこっちで色々と仕込みをすれば、上手く演出できるはずだ。僕は今度こそ屋上から飛び降りてやりたいことリストを一つ埋めた。

 

 ────だいじょーぶ?シェリー

 ────うん…お義父様は本当の家族のように愛を注いでくれたから…今度は私が

 ────じゃあ絶対に助けよう…絶対!

 

 そして夜中、黒いローブが一・番映える時間、遂に陰の実力者が動く時が来た。

 大体こんな感じの会話をしていたのを盗み聞きながら待っていた甲斐があった。二人は見事アーティファクトの結界を解いて魔力制限を解除した。そこからは委員長を筆頭に人質とテロリストたちと、あと何でかいたシャドウガーデン(エキストラ)の皆も交じっての大乱戦。放火までされてクライマックスには十二分な演出が成される中、僕は一足早く本イベントの敵役、副校長先生の元へ向かった。

 

 今、目の前には体の先から中心へと剣を突き入れられ、心臓をねじ切られた副学長の死体。部屋から去ろうとした時、こちらに近づく二人分の足音。丁度やってきた感じか。うん、君は知らなくていい…結構不快な話だったし。この去り方が彼女にとっても僕にとってもプラスになるはずだ。

 

 けどちょっと邪魔がいるな…そうだ、気分転換にレッド君!シェリーちゃんに代わって怒りの刃を陰の実力者に叩きつけてくれ。そして僕はそれを冷静にあしらい目で一言…

 

 

 

 

 

 …何でいきなりドアに刺した?すご~く自然に刺したけど、それ抜けないよね?結構根元までグッサリいってるよね。え、大丈夫?僕に立ち向かえる?

 

 ほら抜けないじゃん!何やってるの!?ねぇ、ここは大事な場面でしょ!呆然となるシェリーちゃんの代わりに義憤に駆られたサブキャラが陰の実力者に挑む!そして僕はそれをいとも容易くあしらい、何も語ることなく去っていく場面じゃん!大きなカブごっこしてる場合じゃないよ!

 

 う~ん、肩透かしを食らったような気分だな。こう間延びしちゃったら折角の雰囲気が台無しだ。まぁ正直、ついでに出来たらな位だったしそこまで重要じゃない。やりたいことリストは幾つか埋まったし、欲張り過ぎは元も子もなくすか。

 

「期待外れだな」

 

 やめてよね、思わせぶりな気配出すの。僕は少し息を吐きながらその場を去った。

 

────/14.5/────

 

 とまぁ割と嫌な出会い方した僕と彼だったけど、次に会ったのはブシン祭。地味な青年による『一見雑魚に見えるが実は強者ムーブ』も佳境に入り、腹黒王女のお姉さんを理想的な勝ち方をしたタイミングで、ローズ委員長が見せ場奪いに来たから急遽予定を変更して変装を解いた時だ。

 

 正直言って彼への印象は冷めていた。折角『全ての罪を背負って去る陰の実力者ムーブ』にもう一口味付けを付けようかとも思ったけど、急に大道芸を始めてしまうのだから興ざめも良いところだ。あんなことは二度三度はごめんだ、適当に無視しようかとも思ったけど後ろからいきなり襲ってきた。何だ動けるんじゃん、じゃあ前回のは何だったんだよ!

 

 …っていうか、打ち合ってみると思ったより弱いな。殺気に怯まないのは中々だけど、これならあの日戦っても大したこと出来なかったかな。もっと良さそうな人もいるし、構っていられない。適当にあしらって蹴落としておこう。

 

「その身に刻め、己の無謀を」

 

 突っかかって来たのはそっちだし、自己責任で何とかしてね?

 

 さぁて、その後なんだけど…まぁなんやかんやあって満足。途中で乱入者(アイリス・ミドガル)がいたけど、このベアトリクスさん結構強かった。あの人僕の剣に途中から対応してきたからね。結構歯ごたえのある“陰の実力者”の戦いだったんじゃないかな?やっぱりバールは偉大だね、ポテンシャルがある。

 

 でも残念。陰の実力者は何者にも負けないんだよ?

 

「こんな、好き勝手に…王都中で暴れまわって…ただで済むと思っているのか!」

 

 いかなる力でも打倒できず、総合的な戦闘力はもちろん戦闘技術でも誰にも負けない。その圧倒的な力で事件に介入しては、独特の存在感を残して陰に消える。僕が目指すものとして、今回はまあまあといっていいんじゃないかな?

 

「今頃、王都中の騎士に動員がかかっている…この王都の総てが…ミドガル王国総てがお前の敵だ!もう何処にも、お前に逃げ場はないっ!」

 

 イイねイイねそういうの。去り際の陰の実力者に掛ける言葉としては満点だ。圧倒的力の前に膝を折る表の実力者、力を示した裏の世界の実力者へ言葉をかけ、それに陰の実力者はどう応えるのか────?

 

 うんうん、昂ってきたよ!

 

「逃げる?誰が?どこへ?────何故!」

 

 僕は善意を求めていない。悪意?むしろそっちの方がウェルカムだ。王都中の騎士でも国でも、何でも好きにくればいい。その全てを、真正面から相手してやろう。それが僕の目指すものだ。

 

 逃げ場なんて必要ない、行くべき場所は決まっている。だから僕はそこへ進むだけだ。

 

 だって僕は、陰の実力者に────

 

 

 

 

 

 

「遊びは終わりだ…………っ?ん!?」

 

 …何だよ良いところで!今イイ感じに街を魔力でのみ込んで『最大の一撃を放とうとする最強の陰の実力者ムーブ』してたのに!誰だ引っ付いてきた奴、いやこれ衝突じゃないか?

 

「はな、ちょ…この、は、離れろっ」

 

 背中にしがみ付いた奴の首根っこを掴んで、思い切り投げ落とす。ってまた君かレッド君。もうサブキャラの出る幕じゃないのに、そんなに出番が欲しいの?にしてもタフだな。ゴキブリかよ。二回くらい突き落とした筈なのに「痛い」で済むの?人間やめてるの?

 

「下がれ…分かっているはずだ」

「…覚えてたんだな、俺の事。弱いから忘れてると思った」

 

 イヤわりと印象残ってるよ、悪い意味で。

 

「お前では勝てない…あの日、一合を躱さずに敗北した、臆病者には」

「解ってるよ…聖域のししょーでも多分こんなことはできないと思うし…あ、でもあっちは縮めてこっちは広げてるから…うん?ま、どっちでもいいや」

 

 聖域の師匠?誰だその人…あ、あの禿げた人君の師匠だったの?あれが師匠だったらロクなこと教わってないのか、だとしたらちょっと同情するかも。

 

「でも…今じゃなきゃ、今お前と闘わなきゃダメなんだ」

 

 僕は今帰りたいの。武神のエルフさんと狂犬王女(姉)でもう十二分に陰の実力者ムーブは出来たし…もう帰りたいんだよな、見栄の為に張り巡らせた魔力保つの結構きついし。

 

 だから君の機会は…いつかね!ちょっとハイになってるから首落とすかもしれないけど、その時はゴメン!

 

 …ってあれ?なんか出て来た。ナニコレ?

 

甲冑(バックプレート)?」

 

 甲冑?またアーティファクト?

 出てきた甲冑とレッド君が、紅い魔力で繋がっている。体の中心の辺りの魔力の渦から、ウミガメが卵を落とすように鎧が出て来る。炎のように揺ら揺らする魔力にあおられて、胸元がちらりと見えた。

 

「……INFERNO(インフェルノ)?」

 

 え、何そのスタイリッシュ文字。カッコい…いやダサくない?刺青?自分で掘ったのかな?出番欲しさにやり過ぎだよ、キャラが渋滞してるよ。

 フォントと文字で円を描いているデザインは良いけど、ちゃんとしたキャラが確立してないと台無しだよ。先ずキャラはちゃんと組み立てること!シャドウ然りジミナ然り、前もってやりたいことを決める。そうしたら自然とどんなキャラにしたらいいか固まっていくから。

 

「────“赫醒”!」

 

 あやべ、何か言ってたわ。聞き逃した。

 

 魔力の渦を振り払われると現れたのは、紅い騎士。モチーフは悪魔…いや頭のあれ、ティラノサウルスか?炎を嚙み締めるティラノサウルスで、牙の辺りがバイザーになっているのか。何か朝方にやってるヒーローものみたいな感じだな。

 う~ん、デザイン良し。魔力を炎に見立てて切り裂く演出良し。師匠の仇討って背景も良し。でもレッド君…

 

「大言壮語…主従揃って、借り物の道具頼りか…」

『借りたんじゃない…受け継いだんだ!』

 

 強いアーティファクト(そのネタ)はもうやったんだよなぁ後ろの人が。そこで全部台無し感がある。

 その鎧、体の中から出て来たみたいだけどそれがあるからってどうにかなる訳じゃない。今だって踏み込み甘いし、直ぐ押し返せる。蹴った感じかなり頑丈そうだけど、それだけっぽいな。

 

 やっぱりキャラ造詣と研究はしっかりとやるべきだと思い知らされるね。動きが初々しいというか、鎧に慣れてないせいで剣が大雑把になっている。ほら、『指揮者っぽい剣』で簡単に流せる。

 

「読める…読めるぞッ!」

 

 僕は道具を使うことは悪いとは言わない。それ頼りの強さが良くないんだ。だって実力者が武器無くした途端袋叩きに合ったらダサいでしょ?「最後に頼れるのは自分だけ」って言うように、素の力があってこそ道具も生きて来るんだ。

 

「何もかもが雑だ…あの金メッキの方がまだいい」

 

 それに鎧だって完璧じゃない。肘や膝関節とか狙えば簡単に動きなんて止められる。鎧の良さは着て戦う時より、脱ぐ・脱げる瞬間にこそある。今まで謎のベールに包まれた正体が明かされるドキドキや明かされた後のビフォーアフターを楽しむため。むしろ邪魔だね、良くてセーブ用の重り替わりだ。

 

 その分スライムは着心地いいし、動きやすいし、嵩張らない。魔力を通し続けなきゃいけないけど、その分自由度は高いし魔力の訓練にもなる。バール並みのポテンシャルだ。

 

 さて…起きたかな?レクチャーついでに結構な高さまで蹴ってから落としたけど…まぁいいか。それじゃ改めて…

 

「力とは!己が手で鍛えぬいてこそ、初めて力として意味を成す!」

 

 はい、力の在り様を示す実力者~♪拙い力を振るう未熟な相手に、厳しくも手ほどきする実力者の図!示される実力の中で彼は知る、安易な力や道具に頼ることがどれほど愚かしいのか、自己の研鑽がどれほど大切か────

 

「受け継ぐなど弱者の妄言…所詮借り物の力など、最強の前には無りょk───」

 

 

 

 

 

 …え?

 

 

 止められた?

 

 え、動かない。何だコレ…こんな力、何で?じゃあ最初から…

 

『オオオオオォォォォォ────────────!!!!!!』

 

 肌がビリビリする。兜に造形された恐竜の口が開き、中から覗く目がこっちを見ている。っていうかうるさい、ちょっと黙って!

 

 ズルッ。

 

 嘘手が滑っ、じゃない。スーツが崩れた。掌がずる剥けたように見えているけど、どうってことは無い。ローブあたりから補填すればいい、何なら今握りつぶされた剣もすぐ治せるから実質ノーダメージだ。けれどこの現象、前にも見たことがある。

 

 まさか…魔力ごっそり持っていかれた?あの剣、強欲のナントカと同じ効果があるのか。それとも盗難防止にデバフ効果を与えるセキュリティか。凝った造りだな。まぁ何にせよ、持たなきゃいいだけの話だ。そら、また脇が空いているぞ、剣先がスッと入る…と思ったら防がれた。

 

「…これは」

 

 動きが変わった?さっきまで全身重りでも付けたように鈍臭かったのに、反応が早くなっている。打ち合うごとに技のキレが増して、数合もしたら剣の上で逆立ちして回避までしてみせた。

 

 なるほど、尻上がりに調子を上げていくスロースターターか。スポーツ選手でも良くいるよね、最初は「調子悪いのかな?」って思っても段々力を見せて「アイツスゲー!」になる奴…これさっき僕がやってたヤツ(『一見雑魚に見えるが実は強者ムーブ』)じゃね?ネタ被りとは宜しくないな!

 

 良いだろう、胸の奥がムズムズしてきた。こうなったらどっちがよりそれらしい動きが出来るか、勝負だレッド君。

 

 まずは僕から。スーツの魔力の通し方を変えて翼を生やす。ホントはこんなことしなくても飛べるけど、今は闇夜(やみよ)ならぬ紫夜(しよ)だ、こういう物々しい雰囲気には尋常じゃない姿が結構映えるんだ。例えば吸血鬼みたいにね。

 レッド君の首を掴んで十分な高さまで引き上げたら、次は武器だ。このままスライムソードだけでもいいけど、折角の空中なんだ、広く使おう。曇天の空に飛翔する陰の実力者、その翼に沿うように魔力をかき集め、十数本の剣へと練り上げる。魔力を広げておいてよかったな、簡単に崩れない。

 

 一度はやってみたいオールレンジ攻撃、君で試運転と行こう。翼から離れた魔力の剣が四方八方から迫る光景、レッド君が手足で払いのけていくけど、次第に対応できなくなっていく。終わりかな?と思った時、紅い姿が闇に消えた。

 

 成程マントか。蝙蝠みたいなマントを硬化させて直撃を逸らしたのか。しかも素材はスライム製だ、分かっているじゃないか。

 

 空中で剣を交わす…でも浅いな。流石に空中じゃ姿勢が安定しにくい。今度は防がれた、あっちは体勢を崩したけど直ぐに元通りに地面すれすれを飛んでいく。僕はその背中を追跡した。

 

 あのマント、(飛行する)というよりハンググライダー(滑空する)か。さっきから上昇した方がいいのにしないこと、さっき腰からワイヤーを出してたから多分そうなんだろう。そうなるとそんなに待たなくても追い越せるかな…目算を立てていたら高めの魔力の気配を感じた。

 

 急上昇した僕の足元で、魔力が通り過ぎて街灯が倒れる。また乱入者か?滞空して目を凝らすと…。

 

「さっきからドンパチやりまくって…街をぶっ壊してんじゃないわよ化物!」

「…………姉さん?」

 

 何やってるの!?試合出るとか言ってなかった?見に来いってベットで首を絞めに来てたのに、なぜこんな街中にいるのかが分からない。まさか戦闘に釣られて戦いに来たのだろうか?実家で盗賊の住処から一人で帰還したレベルだ、ありえない話ではない。

 

 でも今はクレア・カゲノー(姉さん)の時間ではないし、そこらの兵士(モブ)の時間でもない。だから邪魔をしないでほしい。

 

 魔力剣を振り下ろす。道に沿って射出した剣が姉さんや兵士たちに刺し迫る。その時レッド君が全員を一か所に集めると、マントを翻して剣を弾いた。

 

 狙いが反れた剣が建物に刺さり、姉さんたちの周りで爆発する。レッド君は剣を弾き終えると姉さんに蹴られた勢いで跳躍しこっちに迫って来た。

 

「殊勝な男だな。自分に剣を向けた相手をわざわざ守るとは」

『別に、イイだろ!?』

 

 一応、ウチの身内がごめんなさい。だから今度こそ、二人きりだ。君と僕の戦い(語り合い)を続けよう。

 

 もう一度魔力剣を取り囲むように作るけど、斬られるわ蹴られるわ、踏まれるわでもう通用しない。対応力高いな、さっきの武神さんに負けていない。ならちょっと手を替えよう、今度は剣より直線的じゃなくて柔軟、それでいて攻撃的なモノ…フリスビーなんてどうだ?

 

 持て余した剣を集めて試しに三つ作ってみる。剣の形を崩しながら引き寄せて、一繋がりにつなぎ合わせて、高速回転させる。見栄えが良くなるように綺麗な丸に注視して投げつけた。うん、これ丸鋸というより円輪だね。

 

 投げたチャクラムがレッド君のマントを切り裂いた。墜落する彼を追撃しているが、気合でいともあっさり壊された。けれどまだだ、円は解けば糸になる。残ったチャクラムを壊される寸前で解いて剣に繋げると、彼の背中でのたうち回らせた。即席のスライム蛇腹剣だ、直撃をもろに喰らったレッド君が落ちていく。

 

 そういえば、さっきから彼は魔力を使ってないな。鎧に魔力は通っているし、胸の奥から小さいけど魔力が巡っているのも見える。けど僕みたいな使い方をしていない。さっきの人もそうだけど、勿体ないな本当に。

 

 魔力の可能性は無限大だ。身体強化だけじゃなく、肉体改造にも、欠損の再生も寿命の延長もできる。アンカーワイヤー無しでも空を飛べるし、魔力で何でも作れる。きっと、いつか核だって…。

 

 急に体が引き寄せられた。蛇腹剣を掴まれ、彼の胴に飛び込むようにぶつかると、腰のワイヤーでくくり付けられて一緒に落ちていく。激突する寸前、上半身の関節を外して拘束から抜け出し蹴り飛ばしたけど、会場の反対側へ僕も落ちる。お陰で外した関節を戻す手間が省けた。落ちた衝撃で外した関節をすべて繋ぎ直し、立ち込める粉塵からゆったりと姿を現したのは、あっちも丁度立ち上がったところだった。

 

「窮鼠猫を噛む、か…」

『そうだな…でも』

「?」

『ここなら誰も関係ないから、好きなだけ魔力も剣も使えるだろ』

 

 そう言われてみれば、いつの間にかブシン祭会場に戻って来ていた。周りにもう人気は無いし、会場自体結構広い方だ。好きなだけ魔力も剣も使えると言っても、正直本気を出せばこの会場じゃ収まらない。それくらい分からないわけじゃないと思うけど…まさか姉さんに言われたこと気にしているのか?わざわざあんなことを?

 

 戦いは対話だ。剣先のブレ、視線の動き、足の運び、息遣い…総てに相手の意思がある。それを読み切り、互いによりよい解答を重ねあう。そこに第三者の意思は介在しない。してはならない筈だ。

 

 何だろう、さっきかららしくない(・・・・・)気がする。驚いたことに今の僕は快調だ。ちょっと辛かった街の魔力だって、今じゃ何ともなく制御できる位には自分の実力を引き出せている。けどムズムズが収まらない。どんどん強くなって胸を掻きむしってくる。これムズムズ違うな…

 

 

 …………何か、イライラしてきた。

 

 

「良いだろう…お前の全てを曝け出せ!」

 

 走り出す。握った拳に自然と魔力が宿る。流れる力の奔流に身を任せ、躱すことなく拳を打ち込んだ。相変わらず硬い、だが戦う手は幾らでもある。気づけば変わっていたバールで紅い襟元をひっかけて、顔、胸、腹。膝を打ってノックバックしたところをバールの曲がった部分を振り下ろす。それは爪で弾かれたけど、動きが散漫だ。

 

 気づいたかな、繰り出しているのはただの打撃じゃない。衝突の運動量と魔力の放出をほぼ同時に放つ、発勁の応用だ。攻撃に付随する運動量に高濃度に圧縮された魔力が鎧の防御を貫通して内臓を傷つけ行動不能に陥らせる。固いなら中身を壊せばいい。

 今君は骨と中身がシェイクされて内臓が機能不全になっている。ロクに動くこともままならない、鎧を着たことが仇になった、慢心が君を殺すことになる、筈だ。

 

 なのに、何で、技のキレが増している?こっちの関節技を決められないように体を常に動かし続け、魔力発勁を打ち込んでも構うことなく拳を打ち込んでくるのをいなし続ける。攻め手に欠かないのに決め手もない、本当に…

 

「貴様を倒すことに意義はない…我らは我らの敵を屠るのみ。真の敵を見誤るな…さもなくばお前に待つのは────」

 

 本当に何をやっているんだ?こんなスタイリッシュさの欠片もない、陰の実力者らしくない喧嘩みたいな戦い方は。陰の実力者はもう勝っているはずだ、こんな奴的じゃない筈だ。なのに何でこう上手くいかない?

 

 陰の実力者が、気圧されている────?

 

 有り得ない…手足を砕く、あらん限りの力で。首を絞める、気力を奪い去るために。完全にコイツを、息の根を止めるために、魔力を高速で圧縮、拳から打ち出すように────。

 

「────滅びのみだ!」

 

 正拳突きが胸に刺さり、延長線上の建物が消える。レッド君は糸が切れた人形のように膝を折り、腕をぶら下げて前へつんのめる。本当にしぶと過ぎた、でもゴキブリ並みのしつこさもこれで終わる。今回はどうもケチが付いた結果になったな、陰の実力者としては赤点といっていい。攻め手去り際位はらしく行こう、そう思ってローブを翻した、その手を掴まれた。

 

 ────嘘でしょ?

 

『解っ、てる…お前らは、正しいことを…しているんだよな?』

 

 何で喋れんの?何で腕の力が抜けない、何で…眼の光が消えないんだ。

 

 アルファ達悪魔付きでもないのに…ルスラン・バーネット(あの男)みたいな道具便りの癖に…たかだかサブキャラの癖に!

 

 何でそんな眩しく輝いているんだ…!?

 

『それで悪い奴がいなくなるなら、それは…いいことだっ。でも、お前らの、正しさで…泣く人がいる…苦しむ人がいる』

「それが世の理だ。この世は弱肉強食。陰に潜み、陰を狩らねば、陰に喰われるのみ」

『お前らが死ねって言うなら云万回でも死んでやる…俺は悪い奴らしいからな…それでも!』

 

 もう君は負けたんだ、負けた奴は地にへばって陰の実力者を見上げていればいいんだ。陰の実力者のこれからを暗示する言葉を投げれば満点位、狂犬王女が示したろ、様式美極まれりだというのに。

 

 型にすらならないパンチを出すな。膝を断たせて力を入れるな。やめろ、立とうとするな。もう一度、いや何度も拳を振るい続ける。振るうたびに拳状の穴が空き、外周が消えていくけど構わない。お前のせいで街が崩れていくぞ、早くもう一度地面に倒れて自身の弱さを悟るんだ。

 

 なのに、何で倒れない…此れだけされても何で諦めない、一体何なんだ。こんなのまるで…

 

 攻撃がすり抜ける。彼の姿が視界から消える。咄嗟に視線を下に向けると、レッド君の拳に魔力が走った。体から嗅多、肘、腕と駆け巡り、拳に達する。それは僕にフックパンチが当たるのと同時で────

 

 コレ、僕と同じはっけ……

 

『遊びで…人の心を弄ぶなァ!』

 

 

 

 は?

 

 

 遊びだと?

 

 違う…たかが遊びなんかじゃない。僕は遊びだろうが真剣にやっているんだ、言うなればガチ勢だ、陰の実力者ごっこガチ勢。結局遊びというかもしれないが、遊びもガチれば本物と変わらない。とことんリアリティを突き詰めれば即ち陰の実力者ということだ。

 それを遊びと嘲る気か?魔力もろくに扱えないような子供が?ぼろ雑巾同然の癖に根性だけは一端のコスプレが?

 

 陰の実力者(僕の夢)の何を知って否定しているんだ?

 

「いいだろう…遊びは終わりだ!」

 

 本気の陰の実力者を見せてやる…前世から追いかけ続けた夢、その成果を。

 

 夢を叶えるために出来ることはやった。空手や柔術を動画や書物で学んだ。古今東西総ての陰の実力者を読み込んで研究を重ねた。学び、実践し、そして再び学ぶ。そこらの暴漢をのしていく中で、真似以上に自分の夢に近づいていることを確かに実感した。

 

 けどどうしても越えられない壁があった。どんなに体を鍛えたって、どれほど知識を付けたって、だからこそどうしてもそれに勝つビジョンが見えなかった。撃たれればそれで終わり、一瞬で地を砕いて天を穿つ。無慈悲にして最強の人類の英知の結晶。

 

 だから欲した。権力などという外付けの曖昧な物じゃない、核に勝つための超常(魔力)を。それを手に入れられるなら今生きてる世界だって捨てても構わない。それが無い世界に執着なんて無い。

 

 そして手に入れた。一度死を経験し、生まれ直したこの世界で見つけた。これさえあれば、僕は核を超えられる。歯ごたえの無い練習を幾度も重ねて、悪魔憑きの治療を経て、形にしていく。僕の前に立ちふさがった、モノクロの悪夢を打ち砕く、陰の実力者の迎撃技。

 

 お前にコレが出来るか?人類最強の兵器を超えるために編み出した、僕の研鑽の成果。出来はしまい、魔力を鎧に頼るお前なんかには。故に…

 

 

I am a drop of ATOMIC.(逝ね。)

 

 

 瞬間、ブシン祭会場が沈む。推定メガトン級の破壊のエネルギーがただ一直線に降り注いていく。魔力の輝きが収まった時には、会場にぽっかり穴が空いていた。

 

 魔力の圧縮による時限式、初めてけど上手くいった。

 

 ガラッ。ぶつかる音を拾った。

 

 ……………………うそでしょ。

 

「まだ…動くのか?」

 

 穴に中で動く人影。全身は黒焦げ、動くたびに血がブシャブシャ噴き出すし、剣や爪は折れたままなのに。砕け散った鎧から覗く赤い顔に浮かぶ眼光は、一切翳っていない。

 

 嗚呼…

 

 心底不愉快だ…っ

 

「いいだろう…!」

 

 街中の魔力を集める。ここで怯んじゃ、ここで引き下がっちゃ、(現実)に勝てやしない。(陰の実力者)を掴む事なんて出来はしないんだ。だから…

 

「仰ぎ見よ!知るがいい…地を砕き、天を穿つ、我が至高にして究極たる、最強無比の一撃を!」

 

 全力で迎え撃つ。君はここで倒す。喜べよ、陰の実力者の本気を、君は引き出そうとしているぞ。

 

 レッド君が仲間から剣を受け取ろうとする。させるか、君のお陰で魔力の並列制御は上手くなった。収束させる魔力とは別に魔力剣を生み出し、一斉に振り下ろした。数は少ない、だから確実にあの剣を壊す。魔力剣がレッド君に刺さる、直前で剣を旋回させたシールドに防がれた。しかも魔力の通り方がおかしい、まるで鎧が剣を取り込もうとしているように回路が走り、剣を全く違う形へ作り替えた。

 

 ギリギリ射程圏外だったせいで魔力が崩れたんだ。レッド君が仲間たちに打ち上げられこっちへ跳んで来る。だがこっちも準備万端だ。魔力の圧縮と加工、鉄球位まで押し込んだ魔力は10秒と持たずに崩れて弾けるだろう。だがそれだけあれば十分だ。

 

 5秒、下から突き上げて来る彼の攻撃を表面で逸らせて打ち上げる。

 4秒、マントを開いて上昇を止めた赤い影が落ちて来る。

 

 3秒、切り上げるように魔力球を解き放つ。

 

 2秒、魔力球とレッド君のバカでかい剣がぶつかる。

 

 1秒、

 

 

I  a m  A T O M I C !

 

 

 世界が、光に包まれる。青空さえ焼く極光、文明を薙ぎ倒す衝撃、生き物を蒸発させる熱気、それをすぐ近くで感じ取りながら、僕は息を吐いた。

 

 どうだ、これが陰の実力者だ。我がままに我が道を行く、邪魔建てする者は善も悪も叩き潰す。誰も彼には追い付けない、誰も彼に追いすがれない。例え悪役でも、例えヒーローでも!

 

 そしてそれを現実に変えたい、陰の実力者になりたくて磨いた一撃。盤上を支配し、全てのモノの視線を掻っ攫う。たかがに詰め切ってない設定モリモリの空想では現実には太刀打ちできない。だから僕は────

 

『おおおおおぁぁぁぁぁ────!!!」

 

 声と共に、太陽に浮かぶ黒点が、大きくなっていく。小さな点が歪んで形を崩し、その姿を照らし出す。

 

 鎧が粉みじんに砕け、溶けて空に消えていく。大剣は崩れ溶け落ちて、もう半ばすら残っていない。体も魔力の炎に焼かれて、骨すら見えている。だがそれでも、真っ直ぐとこちらだけを見据えて、振りかぶった切っ先を僕の胸に叩きつけた。

 

 体を貫かれる感覚、それに反応したスライムが彼のいたるところを刺し貫く。鼻が振れそうな距離で見えた顔、血と火傷で崩れた顔面だが爛々と輝く目が水晶のようで。そこに映る自分が、どう見えたか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何なんだよ、カッコいいじゃないか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────/0/────

 

「そう言えば…名前なんて言うんだっけ?」

「シャドウ!」

「あ、アルファ?どうしたの」

「貴方が…刺されたと聞いて」

「…あ~見てたの?別に大した傷じゃないし」

「けれど…」

「ホント大したことなかったよね…やっぱ道具便りは当てにならないというか、日頃からの鍛錬が────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うれしそうね」

「…………え?」

 

 

「────笑ってるわよ、気づいてない?」

 

 ………………………………………そっか。

 




※アンケートを設置してます。締め切りは2024年5月31日まで!ご応募お待ちしています!


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