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流れ者の傭兵槍×闘技場の戦闘奴隷弓/Novel by 朱星

流れ者の傭兵槍×闘技場の戦闘奴隷弓

4,995 character(s)9 mins

傭兵にした理由は貴族のイメージがあんまりなかったのと王族にしたら破天荒すぎて国やべぇだろうなっていうのと騎士っていうほど堅くないよねっていう消去法から。アーチャーはこう、甘いところあるから捕まって売られそうだよねっていう理由から(ひどい)えへへー自由のないアーチャーって可愛いですよねー

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 じゃらじゃらと金貨の入った麻袋を鳴らし、空色の髪を風に靡かせながら男――ランサーは機嫌良さそうに街に立ち寄った。久々に気持ちの良い依頼主と難易度の高い城攻めだった。壁が高ければ高い程燃える質ではあるが、ここまで充実感のある仕事にはなかなか出会えない。鼻歌を歌いながら道の両脇に並ぶ露店を見て回る。


「お、鮮やかだな」
「採れたてですよ。いかがですか?」
「んじゃ、一つくれ」


 瑞々しい果実がとても目を引き、思わず買ってしまった。すぐさまそれに噛り付くと口内に優しい甘みが広がる。これはいい。この主人はいい仕事をする。麻袋に手を入れ、提示されていた倍の金額を渡した。遠慮しいなのか、余分を返そうとしてきたのだが「正当な金額だろ?」と笑顔で制す。それに聞きたいこともあったのだ。


「なぁ、この張り紙に書いてあんのって闘技場? 飛び入りとかやってる?」
「は、はい、飛び入りも大歓迎ですが…」


 言い淀む主人の様子に首を傾げ、言葉の続きを待つ。すると、そっと目を伏せ、はくはくと口を動かした。その様子に、いい、と肩を叩く。闘技場などどこも似たり寄ったりだろうに。


「オレぁ、闘いを楽しみてぇだけだ。そこにリスクがあんのは当然だろ? アンタが気にすることじゃねぇよ」


 にかっと笑うランサーに、主人はふ、と口許を緩めて、ありがとうございます、と柔和に笑う。その後、場所を聞いてその場から立ち去った。
 まだ着いてもいないというのに城攻めの余韻が抜けきっていないのか、体が疼く。それを抑えながら歩いていると歓声が聞こえてきた。なにやら盛り上がっているようだった。
 これは期待してもいいのだろうか。強いやつがいるといい。己を満足させる、などという贅沢は言わないが、楽しめる相手がいるといい。《噂の男》がいれば、それは幸運というもの。そう思いながら闘技場に足を踏み入れた。

 ***

 客席からつまらなそうにステージ上の様子を眺める。どうやらここに己を満足させてくれる存在はいなそうだ。いくつかの試合を見てはいるが、どいつもこいつもその程度か、という感想しか出てこない。

 特に、あの褐色の男。

 双剣で相手の攻撃を受け流し、持久戦で体力を削り、最後に矢で相手の眉間を打ち抜く。武器の投影回数はたった二回。確実で賢い戦術だろう。巧い魅せ方をしていたために客も歓声を上げている。だがしかし、ランサーはその試合を見て盛大に舌打ちした。

 違う。アレはあの男の望むやり方ではない。アレはもっと白兵戦に特化した戦い方を知っている。


「なぁ、オレの相手もしてくれよ」


 気付いたらステージに飛び降りてそんなことを言ってしまった。男の返答を待つ間に己の魔槍を顕現し、肩に担ぐ。一瞬、男の顔が悲愴に歪み、けれどすぐさま真顔に戻った。そして一言。低く、乾いた声で、冷徹に答える。


「誰であろうと受け入れよう。…私に拒否権などない」


 その他人事のような言い草が無性に腹立たしかった。諦観と絶望に満ちた瞳が心底気に食わなかった。
 だから、言ってやった。


「――この戦い。オレが勝ったらお前を貰い受ける」


 魔槍の穂先を男に向け、宣言する。ざわついた闘技場内のことなど一切気にならない。誰とも知らない者の怒声も罵声もどうでもいい。ただただ、目の前の男を叩き潰すことしか頭にない。
 魔槍を構え、間合いを測る。男は諦めたように溜め息を吐くと双剣を投影し、鼻で笑った。


「好きにしろ」


 …そうか。こうまで言ってもお前はお前のことをどうでもいいと考えているんだな。

 一瞬で頭に血が上った。
 地を抉るように蹴り、瞬きする間もなく男の眼前に移動する。その光の如き速度に男は瞳を見開き、しかし繰り出される刺突を双剣で防いだ。たった一撃で双剣に罅が入る。それを見て男は双剣を投げ捨て、再び投影した。ランサーは突き出した腕を戻すことなく、そのまま横薙ぎに払う。男はそれを右手の白刃で受け止め、衝撃を流すように左に跳躍してはステップを踏んで体勢を戻しつつ、左手の黒刃をランサーの頭に振り下ろす。
 しかしそれは彼の魔槍によって阻まれ、弾かれる。二度目の刺突が心臓めがけて繰り出され、男は双剣を交差させて再び防ぐ。両者数メートルの距離を取った。

 静まり返った客席で、誰かがごくりと息を呑んだ。


「私を貰い受けるのではなかったのか?」
「あ? この程度問題ねぇだろ?」


 にぃっと犬歯を剥き出しにしてランサーが笑った。


「つかよぉ、あんまナメてんじゃねぇぞ」


 しかしその笑みはすぐに消え、苛立ちが露わになる。
 本気でやりあってないことなど数度刃を交えればすぐに分かる。手の内を見せない理由はなんだ。何が不服なんだ。どうしたらお前は“本音”を語ってくれる。自身ですらまとめ切れない思考がぐるぐると渦巻き、いっそこれを全てぶちまけてしまえばしっくりくるのだろうか、と考えていたその時だ。


「  I am the bone of my sword.
 ―――――― 体は剣で出来ている。」


 男の口から詠唱が紡がれる。


「Steel is my body, and fire is my blood.
 血潮は鉄で 心は硝子。」


 世界が塗り潰されていく。
 闘技場は荒野に。空は赤銅色に。雲は錆びた歯車に。


「 I have created over a thousand blades.
 幾たびの戦場を越えて不敗。

      Unknown to Death.
 ただの一度も敗走はなく、

      Nor known to Life.
 ただの一度も理解されない。」


 初めて披露する訳ではないのだろう。客席がなくなり、地べたに座るはめになった観客から喜びの声が聞こえる。それが心底気に食わない。こんなモノを喜ぶ周囲の人間も、それを良しと許容しているこの男も。


「   Have withstood pain to create many weapons.
 彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。」


これは、この男は。


「Yet, those hands will never hold anything.
 故に、生涯に意味はなく。」


ここで。こんな場所で。


「    So as I pray, unlimited blade works.
 その体は、きっと剣で出来ていた。」


朽ちていいものでは――ない。





「…これが本当の《武器》か」


 瞬きを一度。

 地の果てまで続く荒野と、一面に突き刺さっている無数の剣。小耳には挟んでいたが、固有結界(というらしい。詳しくは知らないが)を使えると《噂の男》とは目の前のコイツだったようだ。
 ランサーの呟くような問いかけに対し、男は肩を竦めて嗤った。


「君が不満だというのでね。出来れば使いたくなかったが、仕方あるまい」


 すっと男が腕を上げた際に現れ、振り下ろすと同時に飛来する剣を己の魔槍で叩き落とす。一振り二振りどころではない。それは剣の雨と形容するに相応しい投擲であった。しかしランサーはそれらを防ぐ素振りを一切見せず、それどころか駆け抜けた。
 男もそれは予想していたらしい。右手に持った白刃で魔槍による刺突を、滑るように受け流し、更には加速して首を切り落としに振り抜く。ランサーはそれを上体を反らして躱し、勢いをつけると魔槍を地に突き立て、それを軸に宙で体を捻り、こめかみに蹴りを入れる――が、敢え無く左手の黒刃で防がれた。しかし衝撃を逃がすことはできなかったらしい。ぐらついた瞬間をランサーは逃さない。


「っらあ!!」
「ぐっ…!」


 着地と同時に魔槍を引き抜くと横薙ぎに叩き付ける。見事にそれは脇腹に入った。男の顔が苦悶に歪み、地を滑るように飛んでいく。だが男はその最中に弓を投影し、ランサーの眉間、喉仏、心臓へ寸分違わず矢を放った。神業めいたその腕前と攻撃を食らいながらも反撃を狙うその対応力。
 久し振りだ。ここまでの技量を持つ者に出会うのは、本当に久し振りだ。


 だから、敬意を表そう。


突き穿つゲイ――」


 矢を躱しながら跳躍し、魔力を込め、腕を引き絞って――放つ。


「――死翔の槍ボルク!!」


 空を抉り進み、地を吹き飛ばしながらこちらへ襲い来るそれに男は真正面から迎え撃つ。左手を突き出し、深く、息を吸うと。


“熾天覆う七つの円環”ロー・アイアス――――!」


 七つの花弁が展開し、突き穿つ死翔の槍の勢いを殺す。だが、それは一瞬のこと。一枚目が砕け散る。二枚目、三枚目と次々に破壊され、男は強く、歯噛みした。更に魔力を込める。


 耐える。

   砕ける。

 耐える。

   砕ける。

 耐え――――。



 全てを呑み込む衝撃波が、周囲を襲った。



 ランサーが瞬きを一度した際、世界は元に戻っていた。いや、何もかも元通り、という訳ではない。闘技場は瓦礫の山と化し、砂埃が舞っている。己の元へ戻る魔槍を掴み、膝をついて荒い息を吐く男の傍に近寄る。ズタズタになった左腕を押さえ、こちらを見据える彼から目を逸らさず、今更な質問を投げかける。


「なぁ、お前の名は?」
「…アーチャー」


 アーチャー、と確認するようにランサーが呟く。弓兵、というには剣も盾も使いこなす奇妙な男だと思いつつ、手を差し出した。


「こいよ、アーチャー」


 その言葉に、瞳に映る諦観と絶望の色が一層深くなった。

 なぜ、と視線だけで問いかけると、アーチャーはゆるゆると首を左右に振り、己のうなじを指差す。覗き込んだそこには刻印があった。全身の毛が逆立つような、血が沸騰していくかのような、そんな感覚に支配されていく。


「そういうことだ。私を貰い受けるなどふざけたことを言っていたが不可のっ!?」


 有無を言わさずアーチャーを肩に担ぐと、ランサーは半壊どころか倒壊寸前の闘技場をぐるりと見回し、彼のの刻印と繋がる魔力を探す。離せやら、下ろせやら、騒いでいることについては無視した。

 どこだ。コイツに枷を嵌めた愚か者はどこにいる。コイツに与えるべきものはこんな忌まわしい物ではなく、もっと、もっと相応しいものがあるだろう。


「お、いた」


 闘技場からこっそりと逃げ出そうとしている富裕層らしき二人組から刻印と同じ魔力を感じ取り、ランサーはその場から跳躍すると行く手を塞ぐように二人組の目の前に着地し、金貨の入った麻袋を投げ付け、そして。


「持っていくぞ。」


 返答は聞かずにさっさと立ち去った。こんなモノ、相手にするだけ無駄だということは経験からして分かり切っている。今、己が意識を向けるべき相手は、この肩に担いだままの抵抗をしなくなった馬鹿だけだ。


「…君も、望むのか」


 何を、とは聞かない。この男にまともな言葉を投げても曲解してしまいそうな気がしたからだ。そんな予想を踏まえ、ランサーは言う。


「まだ分かんねぇよ。だから、一緒に行くぞ」


 馬鹿な男だ、と絞り出すように呟いたアーチャーに対し、うるせぇよ、とランサーは快活に笑う。



さあ、この馬鹿に何から与えてやろうか。

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