私が、各駅停車に乗る理由
人は時々、あえて日陰を選ぶこともある。
例えば、太陽が照りつける真夏。
強い日差しや暑さを避けるために、
逃げるようにして、日陰へと飛び込む。
私も、同じだった。
輝いて見える太陽に憧れて、足を進めた。
だけど、その熱にやられてしまって。
だからこそ、日陰の中にたたずむ、
君に憧れを抱いたのかも。
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大学2年生。
1番遊べる年なのに、大学はイジワルで。
毎日のように、1限が必修の授業。
9時の授業開始に間に合わせなきゃいけないから
当然、朝のラッシュに巻き込まれる。
それなりの都会で育った私だからこそ、
人が混み合う朝の電車は大の苦手。
だから私は、乗り換えアプリに書かれた
「最寄り駅まで17分」よりも
ゆっくり座れる方を選ぶ。
各駅停車だけが出る新宿駅のホーム。
いつもの電車、いつもの入口から乗る。
すると、いつものように現れた。
同じクラスの、彼が。
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大学に限らず、学生ってものはだいたい、
陽キャと陰キャという2つに分類されがちだ。
それで言うなら、僕は圧倒的後者だ。
大学2年生に至るまで
ずっと日陰の世界で暮らしていた僕に、
キラキラした大学の世界は
あまりにも眩しくて。
正直、居づらさしかない。
だから少しでも学内にいる時間を減らしたいので
ギリギリの時間に着きたい。
それでも、混んでる急行電車は嫌だ。
散々考えた挙句の折衷案が、
空いている各駅停車で、大学に行くことだった。
新宿駅の地下。
各駅停車しか止まらない分、電車から出ていく人こそ多けれど
入っていく人はそこまででもない。
そもそも始発駅なんだから、
急行でも多少待てば座れるんじゃ、と言われそうだけど
僕からしてみれば、そんな時間がもったいない。
1限開始10分前に最寄り駅へ着く電車に乗る。
すると、いた。
気になっていた同じクラスの、あの子。
いつも同じ電車にのってきて、
端っこの座席に、ちょこんと座っている。
たしか、桜さんという名前だっただろうか。
まだちゃんと話したことがないから、
それくらいの情報しかない。
何故かというと、僕はいつも
彼女と対角線上の位置に座っているから。
あまり混み合うこともない電車だからこそ
言葉を交わすことは無くとも、
自然とそのシルエットが、視界に入り続ける。
なんとなく、
彼女を長く見つめるのが申し訳なくなる。
彼女と、目が合った気がした。
僕は慌てて、イヤホンの中にある
音楽だけが支配する世界に戻った。
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その日は、車両故障の影響で
電車が遅れていた。
普段乗る電車の1本前がまだ、ホームに止まっている。
それでもまだ座席は空いていそう。
いつものドアから入ると、
お、1つだけ席が空いている。
すかさず、空いたところに腰掛ける。
落ち着いて、深く腰掛けると
僕の左隣から、何となく見慣れた
オーラというかシルエットが。
やっぱり、桜さんだ。
気づかれないように、顔を戻そうとした時
「ねぇ、いつも同じ電車の子だよね?」
桜さんの方から、声をかけてきた。
「同じクラスだったし、ずっと気になってたんだよねー」
「ねぇ、これから隣で一緒に乗らない?」
桜さんは僕の予想通り、明るい陽射しを持った人だった。
電車の中が、いつもより暖かく感じた。
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それから、桜さんとは少しずつ話す時間が増えていった。
クラスメイトからお友達には昇格したかな、と
勝手に思っている自分が滑稽に見える。
僕とは正反対。
やわらかくて、あたたかくて、輝いている桜さんが
こんな僕と話してくれている。
それだけではなく、ここ最近は一緒にお昼も食べるようになった。
サンドイッチを食べる、桜さん。
食べ方からそこはかとなく、お上品な雰囲気を感じる。
いつもより少し、表情が沈んでいるように見えた。
『桜さん』
『もしかして、何か悩んでたりする?』
僕の問いに、首の角度が深くなる桜さん。
『あ、ごめん!』
『話したくないなら話さなくてもいいから…』
「ううん…大丈夫」
桜さんは、ぽつぽつと話し始めた。
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私はずっと、太陽の当たる人生に憧れていた。
自分が日陰の人間だと、わかっていたから。
だから、カーストの上位が集まるというサークルに入って
その中に、一生懸命染まろうとした。
髪も染めたし、他の子に合わせつつ
ほんのちょっとだけ自信のあった部分を強調した
ファッションをしたりもした。
最初は色んな男の子が好意を向けてくれていたけど、
他の女の子にすぐ移っていってしまう。
いわゆる、女の子同士の競争もバチバチで。
私はいつの間にか、人間関係に疲れ始めていた。
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『そっか…大変だったね…』
『うーん…そうだなぁ…』
僕は何かアドバイス出来ないか、しばらく考えていた。
『北風と太陽、ってお話あるじゃん?』
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それと同じで、日向と日陰も似たような関係性だと、僕は思う。
人は時に、日向を欲することがある。
例えば、底冷えの冬晴れを照らす太陽のように。
太陽は体を温めてくれるけど、
熱くなりすぎれば、周りを見失うこともある。
そして日陰は、火照った身体を休めてくれるけど
あまり長くいすぎると、太陽に出られなくなる。
日向が無ければ日陰も生まれない。
日向も日陰もあることで人は生きていけるんだ、と。
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『だから、無理に背伸びしないで』
『自分に合った方法で、進んでいけばいいんじゃないかな』
僕は、桜さんにそう話した。
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今日もまた、彼女と同じ電車に乗る。
でも一つだけ、違うことがある。
クラスメイトでも、友達でもない。
この前、彼女が「私と一緒にいて欲しい」と言ってくれたこと。
そして僕は、『はい』と答えた。
これからは桜の大切な人として。
今日も隣に座り、各駅停車に揺られていく。




コメント
1桜ちゃんのクラスメイトから友達に
昇格して喜ぶなら、今度は恋人を目指さないと