幼なじみの桜#7【銀幕のうるみちゃん】
「巨乳ってなに?どこ行くの?」
たぷたぷのうるうるが、涙を浮かべてこっちを睨んでいた。
キャンパスの通路を抜ける風が、桜の髪を揺らす。
『どこって・・・どこでもいいだろ』
「誰と話してたの?」
『先輩と飲みに行くだけだから・・・』
「女の子来るやつ?合コンみたいなやつじゃないよね?」
逃げ道のない質問を、真正面からねじ込んでくる。
『まあ・・・来るかな』
「やだ」
即答だった。
「やだよ」
・・・・・・
「ねーえ、行かないで。桜と2人で飲も?お願い」
細い指先で袖をきゅっとつままれる。
最初は冷たかった声が、今はちゃんと震えている。
『いや、もう行くって言ってるし。桜には関係ないだろ』
目を合わせると、飲み込まれてしまうのが分かる。
意識して視線を外しても、離れてくれない桜。
「ねえ、やだよ。関係あるもん。幼なじみだよ」
『関係?・・・・・・ないだろ、ただの幼なじみなんだから』
「え?」
オレの言葉がちゃんと桜を傷つけたのが分かる。
地面に落とした視線の先、小さく内向きになった桜のスニーカーが映る。
『講義行くから。桜もあるだろ』
「・・・うん」
か細く返事をしてから、すっと顔を上げる。
「待ってる」
『は?』
「待ってるからね」
『行かないって言ってるだろ』
「待ってるよ」
うるうると涙を溜めた強い視線から逃げるように、早足にその場を離れる。
無防備になった背中に突き刺さる痛みは、ずっと消えなかった。
ーーーーーー
駅を出て、家とは反対方向に足を向ける。
講義が長引いたおかげで帰りは桜に会わなかった。
「・・・待ってるから」
別れ際の悲しそうな桜の表情がずっと頭から離れない。
さすがに待ってることはないだろう。
行かないって言ってるし。
これ以上幼なじみという立場を利用して隣をキープしても、きっと余計に傷つけるだけだ。
スマホが震えて自分の足が止まってる事に気づく。
「〇〇ー、遅いぞー、まだかー」
既にアルコールを摂取している先輩からの催促だった。
『すいません、講義長引いて』
「早く来いよー、オレつぶれちゃうぞー」
『はいはい、もう駅ついてるんで、すぐ行きますから』
通話しながら歩みを進める。
「〇〇!待って!」
名前を呼ばれて振り返ると、制服姿のうるみが駅の方から走ってくる。
『……うるみ?』
「はあ、よかった。会えて。あっちに来ると思ってたから」
『え、ああ』
「どっか行くの?」
『ああ、ちょっと』
「そーなんだ。桜ちゃんにもさっき会ったんだよ、元気なかったけど」
『そーか。えっと、うるみはどうしたんだ?』
「うん。待ってたの」
『待ってた?オレ?』
「うん、昨日はごめんなさい」
腰からきっちり深々と頭を下げられる。
うるみのポニーテールが背中から垂れる。
『ど、どうしたんだよ急に;;』
(付き合う気も無いのに・・・桜ちゃんがかわいそう!)
うるみに言われた台詞は、ずっと心に引っかかっている。
「思ってたこと自体は本当なんだけど」
顔を上げたうるみが、少しだけ視線をさまよわせる。
「〇〇の事情も気持ちも聞かないで、一方的に言いたいこと言っちゃったから」
「ねえ、〇〇は桜ちゃんのこと・・・」
『別に、気にすることないぞ。ほんとのことだし・・・』
「え?」
『実際、うるみの言ってることが正しいよ。ちゃんと考えるきっかけもらえて感謝してる』
ズキン
自分の言葉が、胸に鈍く刺さる。
それでもこれはオレの痛みだ。
『オレもいいかげん、桜とは距離をとるからさ』
・・・・・・
『これから合コンだし、彼女作ってくるわ。だから安心して』
「ふざけないでっ!」
不意に胸ぐらを掴まれる。
細い両腕に身合わない強さで引き寄せられて、うるみの顔が迫る。
『な、なんだよ;;』
「ふざけないでよ!」
ぐっと顔を近づけてオレを精一杯威嚇する。
するどい猫目が、怒りで潤んでいる。
周りの景色がふっとぼやけて、うるみだけがフレームを埋める。
「私がどういう気持ちで、あんなこと言ったと思ってるの!」
『どういうって・・・』
迫真に迫ったうるみの台詞に、こっちの言葉が詰まる。
「それでいいの?いいわけないでしょ!」
・・・・・・
うるみの頬に雫が落ちる。
『うるみ・・・』
「とにかく、ちゃんと桜ちゃんと話して!」
『・・・話せって言われても』
「いいからっ!ちゃんと話して!」
胸ぐらをつかむ指先に、さらに力がこもる。
「お願い・・・お願いだから・・・ちゃんとしてよ・・・」
ポロポロと零れる雫を拭いもしないで続ける。
「そうじゃないとほんとに・・・」
「ほんとに〇〇のこと嫌いになっちゃうからっ!」
声の最後が掠れて少しだけ裏返る。
うるみの本気が伝わってきて、ハッとさせられる。
桜と話す。
ただそれだけのことができていなかった。
ずっと隣にいたのに・・・
居心地の良さに甘えて、向き合おうとしてこなかった。
桜にも・・・自分の気持ちにも・・・
そんなオレの心中に気づいたように口角を上げて・・・
鼻をスンと鳴らしてようやく両手で目を押さえる。
カットがかかった後の女優みたいに、柔らかい日常の顔に戻る。
「あー、またやっちゃった。謝りに来たのに。でも〇〇も悪いんだからね」
さっきまで本気で胸ぐら掴んでたとは思えない、素の表情でオレを優しく睨む。
『うるみ・・・』
名前を呼ぶのが精いっぱいで言葉が続かない。
そんなオレを見て、潤んだ猫目がまた笑う。
「じゃあね、またね」
ふっとうるみの顔がズームアップして、ツンツンと頬を指で突かれる。
ん?
これは・・・夢・・・じゃないよな・・・
一瞬の思考の間にさくらんぼのキーホルダーが遠ざかって、駅前の喧騒に紛れていく。
エンドロールを見届けるような気持ちで小さい背中を目で追った。
うるみがなんでここまで桜とオレを気にかけてくれるのかはよくわからない。
それでも今しなきゃいけないことは分かる。
さくらんぼが完全に見えなくなったところで、スマホを握っていたことを思い出す。
『あ、先輩すいません;;いま知り合いに会って』
「おう、聞こえてたぞー」
『えっと、とりあえずすぐに行きますんで』
「バカか?お前」
『え;;』
「オレのとこなんて来てる場合かよ、桜ちゃんのとこ行って来い」
『先輩・・・』
「じゃあ切るぞー、また今度付き合えよー」
『・・・はい、すいません』
スマホを持ったまま、店の方向にきっちりと頭を下げる。
なんだかんだカッコいいんだよな、この人は。
こういうとこがずるいとこだ。
「あー、あと一個だけいいか?」
『はい』
「うるみちゃん?紹介してくれ」
『・・・切りますね』
前言撤回。
自分に正直すぎて困った先輩だ。
【続きます・・・】
読んでいただいてありがとうございます。
また終わりませんでしたー!ごめんなさいー!
うるみちゃんのせいですー、嘘です。ごめんなさいー!
さすがに次で終わると思います。
でももう自分でも分かりません。
それでもよかったらお付き合いくださいー!
そして感想をください!最終話もお付き合いください!
ありがとうございましたー!





うるみんも辛いよね、〇〇も好きだしさくたんも好きだから。 先輩は陽キャで良き理解者だから良い人に巡り会ったね。 うるみんが登場してくれて完結を間逃れたので良きです(笑) 次回作も…
感想ありがとうございますー😭 うるみん登場正解でしたね、おかげで長くなりました。 次はほんとに終わります! 読んでもらえたら嬉しいですー!
「うるみちゃん?紹介してくれ」 この一言が表す先輩の人柄(笑) めっちゃ好きなキャラだなぁ。 うるみん、、辛いよねぇ。 でも二人のために頑張ってくれてるから〇〇も現実逃避から戻…
先輩キャラいい感じになってたら嬉しいです、再登場してもらった甲斐がありました。 自分でもクライマックスなのかよく分からなくなってきましたが、最後までお付き合いください。 うるみ…
うるみんと先輩が良い感じで〇〇とさくたんの拗らせを解いていく感が読んでいて心地よいです。 終わる終わる詐欺、上等じゃないですか!笑 無理やり着地させるんじゃなく、じっくりゆっく…
めっちゃ嬉しい感想ありがとうございます😭 うるみんも先輩も出してよかったですー。次で終わるか終わらないか分かりませんが、お付き合いいただけるように頑張りますー!