幼なじみの桜#6【現実のうるみちゃん】
「ねえ、起きてよ。・・・〇〇」
耳元で、聞き慣れた声がする。
頬をツンツンと突かれて、意識が徐々に水面に浮かび上がっていく。
『ん・・・桜?』
「はずれ。私は桜ちゃんじゃありません」
はっきりした否定の声に、ゆっくりと目を開ける。
ぼんやりした視界の中で、猫目がじーっと覗き込んでいた。
「おはよ、〇〇」
ジャージ姿のうるみが、オレのベッドの横に腕を組んで座っている。
『え、うるみ?なんで;;;』
「なんでって、これ夢だからね」
即答されて脱力する。
夢か・・・
あっさり認めるパターンもあるのか・・・
『うるみが朝から起こしにくるわけないもんな』
「あはは、ないない。夢じゃなきゃありえないよね」
肩をすくめながら、楽しそうに同意する。
うるみのこんな顔を見るのはいつぶりだろうか。
『夢として会話できるんだな』
「そうね。もう何度目の夢ネタか分かんないから、バリエーションつけてかないと」
『なんの話だ;;』
「しょうがないのよ、作者が定期的に夢ネタとメタ台詞を書きたくなる病気なんだから」
『おい;;』
「ちなみに私は“夢の中のうるみちゃん”だから。現実のうるみちゃんとは、ちょっと別人格ってことで」
『便利な設定だな;;』
「ほんとに夢って便利なのよ、どこでも差し込めるし起こされるシーンとか書けるしね」
『その辺にしとけ;;』
「はい、じゃ、冗談はこのくらいにして話進めるよ。こっちだって理由もなく〇〇の部屋を侵略しに来たわけじゃないんだから」
『急に進行すんな』
一呼吸おいてから、少しだけ真面目な顔になる。
(付き合う気もないのに・・・桜ちゃんがかわいそう)
昨日の晩、言われた台詞を思い出す。
「で、桜ちゃんのこと、どうするの?」
胸の前で腕を組み直して、じっとこっちを見る。
さっきまでの軽口より、ほんの少しだけ視線の温度が低い。
オレが桜にフラれてることは、こっちのうるみも知らないんだろう。
『オレにも色々事情があるんだよ』
「ふーん事情ね・・・便利な言葉だね」
不機嫌そうに切り捨てる。
『うるみには関係ないだろ・・・』
「〇〇にも事情があるんだろうけど、こっちにはこっちの事情があるんだよ」
『こっち?』
「現実のうるみちゃんの話だよ」
『現実のって・・・』
「それに、こっちから見るとね。事情っていうより、言い訳じゃん?」
猫目がわずかに細くなる。
『・・・言い訳・・・そうかもな』
自分の声が、思ったより重く響く。
「別に責めたいわけじゃないけどね」
うるみは少し視線を外して、机の方をちらっと見る。
少し沈黙が落ちる。
「ねえ、〇〇」
カーテンの隙間から入る光が、妙にゆっくり揺れている。
そろそろ夢の終わりだろうか。
名前を呼ばれて、なんとなく目をそらせなくなる。
「このまま幼なじみのポジションをキープして、誰が一番傷つくと思う?」
『・・・桜だな』
「そう。で、その次が、現実のうるみちゃん」
『は?うるみ?』
「分かってないよね、ほんとに。こんなののどこがいいんだろ」
呆れ笑いのような表情が白い光に飲み込まれていく。
「じゃあ、そろそろ行くね。夢のシーン、あんまり長いと怒られるから」
『誰にだよ;;』
・・・・・・
うるみの上がった口角が、薄い白一色に染まっていく。
「ちゃんと自分で考えてね。どうするのが一番いいのか、〇〇がどうしたいのか」
頬をツンツンと突かれて視界が切り替わる。
見慣れた天井に向かって、小さく息を吐く。
布団の中でちぐはぐになっている両の手足。
ごちゃ混ぜになった頭の中。
いくら考えても答えなんて出せそうもない。
なにかきっかけでもあれば・・・
そういう思考に至った瞬間に、うるみの言葉を思い出す。
・・・言い訳だな
ーーーーー
「うーん、頭痛い・・・」
大学に向かう電車の中。
座った瞬間からオレの右肩に頭を乗せている桜。
『大丈夫か?』
「うーん、飲みすぎたかも」
『もうやめとけって何度も言ったろ』
「言ったっけ?」
『覚えてないのか?』
「え;;覚えてる覚えてる」
『怪しいな』
「昨日もおぶってくれたよね。背中あったかかったよ////」
たぷたぷの眼で、至近距離から器用にオレを見上げてくる。
こんなの勘違いするなってのが無理だろ。
「ねーえ」
僅かな隙間を埋めるように、ぴったり体重を預けてくる。
『ん?』
「ねえ、桜なにかした?」
『は?』
「だって今日全然、目見てくれないんだもん」
たぷたぷの眼がうるうると潤む。
鬼のような可愛い攻撃に自我が崩壊しかけるが、辛うじて自責の念が勝つ。
オレの気持ちが整理できないせいで、桜にこんな顔をさせているのか。
「ねえ、何かしちゃったなら謝るから。許してほしい」
・・・・・・
「ねえ・・・・」
『いやなんにもないぞ。オレもちょっと二日酔いなだけだから』
「ほんと?ほんとに怒ってない?」
『ああ・・・』
「よかったー。なんかあったらちゃんと言ってね。嫌われちゃうのはやだよ」
『分かったって・・・』
心底安心したような表情に申し訳ない気持ちが飽和する。
よく分からない幼なじみの関係。
このままでいい気はしない。
ーーーーーー
「おぉー、〇〇!」
午後の講義の合間に電話を折り返すと、スマホからの大音量に右耳をやられる。
『声でかいです・・・なんかあったんですか?』
「おい、まずは電話出れなくてすいませんだろ?」
『切りますね・・・』
「冗談だよ、冗談!怒んな、怒んな!」
はあ・・・まったくこの人は・・・
『とにかく講義中に鬼電しないでください先輩・・・迷惑です』
「あー、すまんすまん。ってことで飲み行くぞ」
『またフラれたんですか?』
「当たりっ!慰めてくれ!」
『どうせまた先輩が浮気したんですよね』
「いや浮気なんてしたことないぞ、全部本気だからこっちは!」
『それを世の中的には浮気っていうんですよ』
「とりあえず慰めてくれよー。〇〇ー」
中学時代からの付き合いになるチャラい先輩。
桜に告白してしつこく迫っているところにオレが助けに入るという最悪のファーストコンタクト。
それなのになぜかオレだけ気に入られて、大学生になった今でも付き合いが続いている。
なんだかんだ憎めないというか自分に正直な人だ。
そういうところがオレとは真逆で、気になっているということなのかもしれない。
「じゃあ、いつもの店で待ってるぞ、飲んで待ってるからな」
『分かりましたよ・・・まだ講義残ってるんで終わってからですよ』
「早く来ないとオレつぶれちゃうからな!」
『はいはい・・・じゃあ切りますよ』
「あ、〇〇!桜ちゃんとは最近どうなんだ?」
『桜?どうもこうもないですよ。何回聞くんですか、それ』
「ちゃんとくっついたらもう聞かないぞ」
『だから3年前にオレもフラれてるんですって』
「わかってないな、告白ってのはフラれてからが本番なんだぞ!3度目の正直っていうだろ!」
『それは先輩だけですよ、もうオレ桜のことなんとも思ってないんで・・・』
ズキン・・・
自分の口から出た言葉に胸倉を掴まれているようだ。
「ふーん・・・」
『なんですか?』
「お前、それ本気なのか?」
電話の向こうの声色が、珍しく不機嫌そうだ。
本気かって・・・
・・・・・・
「〇〇が決めたんなら応援はするけど・・・諦めとかじゃなくてちゃんと向き合った結果なんだろうな」
『ほっといてくださいよ・・・』
「よし、とりあえず来い!そんでオレが納得したらすぐ女の子呼んで合コンするぞ!」
『は?』
「どうせ、なんかきっかけでもないと動けないんだろ?」
・・・・・・
「めんどくさいやつだよな・・・まあオレはそこが気に入ってんだけど」
・・・・・・
「ちゃんと巨乳の子呼ぶから、まかしとけ!」
『巨乳って;;何言ってんすか;;;』
「いいから来いよー」
『行きますよ・・・』
まったく・・・
電話を切って盛大なため息をつく。
相変わらずむちゃくちゃな人だ。
先輩なりに心配してくれてるのも分かるんだけど・・・
「ねえ・・・」
聞きなれた声の聞きなれない冷たいトーンに振り返る。
「巨乳ってなに?どこ行くの?」
たぷたぷのうるうるが、こちらを睨んでいた。
【続きます・・・】
読んでいただいてありがとうございます。
うるみちゃんを書くのが楽しくて終わりませんでした。
いつもの終わる終わる詐欺です、ごめんなさい。
次でちゃんと終わります、たぶん。
そしてチャラい先輩にまた登場してもらいました。
「え、誰?いたっけそんなの」っていう方は
幼なじみの桜#2【飲み会に行こう】を読んでください!
そして感想をください!最終話もお付き合いください!
ありがとうございましたー!
先輩登場回 (回想でさくたんに迫るチャラい先輩です)





待ってました!先輩の登場(笑)⇒うるみんじゃなくてそっちかよ(笑) 先輩でもスピンオフいけそうですもんね。 やはり、うるみんたまんないですねぇ。さくたんとうるみんって〇〇のモテ具合…
ありがとうございます! コメント嬉しかったので先輩出してみました。 意外と重要な役割になってますね。 夢もメタも我慢できずに書いちゃいました。楽しんでいただけたら幸いです。 終…