幼なじみの桜#5【不機嫌なさくらんぼ】
『おーい、桜。早く学食行くぞー』
意識して出した大きな声に反応した数人の男。
「〇〇っ!」
その中から飛び出して軽く会釈をした後、嬉しそうにこっちへ駆け寄ってくる。
「あっ;;」
てててっと近寄ってきた勢いそのままよろけてオレの胸に飛び込んでくる桜。
ふわっと甘い匂いと洋服越しに伝わる体温。
『おい;;大丈夫か////』
「あ、うん////ごめんね////」
しっかりと体の前面で桜の柔らかくて大きい部分を感じてしまって、色々熱くなる。
午前の講義が終わって、キャンパスの中庭に人が流れ出す時間帯。
見覚えのある小さい背中が数人の男に囲まれていて、声をかけたというわけだ。
ほんとによく絡まれてるな。
桜が悪いわけではないし、ただの幼なじみであるオレがなにか言えた立場ではないんだが。
「ごめんね、また助けてもらっちゃって」
申し訳なさそうに顔を伏せつつ視線だけ上げてくる。
まったく・・・
普段はあざとく攻めてくるくせに、こういうとこは変わらない。
『桜・・・変に遠慮すんなっていつも言ってるよな』
「え?」
『助けるなんて当たり前だろ、幼なじみをなんだと思ってんだよ』
軽く触れるか触れないかくらいのムーブで頭に手をやると、桜の顔がぱっと明るく咲く。
「ふふ、ありがとう////」
安心したように笑ってオレの袖をつまんでくる。
流れ的に振り払うわけにもいかないのでそのまま並んで歩き出す。
いつもより近い距離に戸惑って、思い出したことを口にする。
『そういえばこの前、うるみに会ったぞ』
「えっ、うるみちゃん?」
ぱっと目を丸くして歩幅を弾ませる。
『ああ、相変わらずオレには冷たかったけどな』
「ふふ、なんか想像つく」
『久しぶりに会ったんだけどな、桜はけっこう連絡とってるのか?』
「うん、でも最近全然会えてないな」
『ふーん』
「可愛いし、ほんとに優しいんだよね、うるみちゃんって。・・・あの時も」
何かを思い出したように桜の表情が曇る。
『ん?あの時?』
「あ;;なんでもない、なんでもない;;」
慌てて戻した笑顔の端っこに少しだけ影が残る。
何かあったんだろうか・・・まあ、言いたければ桜から言うだろう。
追及しかけた言葉を飲み込むと、話題を変えるようにオレの顔を覗き込んでくる。
「ねーえ、今日も飲み会行こ?」
『あー、今日はゼミの飲み会があるから』
「え、やだ。ダメ!」
『ダメって何だよ;;』
「女の子いるやつでしょ?」
『まあ、いるけど』
「ねーえ、行かないで。桜と飲も?」
足を止めて、真正面から見上げてくる。
「ね?桜と2人で飲んだ方が楽しいよ?」
身体も顔もぐいぐい近づいてくる。
たぷたぷのやばいやつだ。
『いや、もう行くって言ってるし。だいたい桜には関係ないだろ』
「あるもん。だって幼なじみだよ?」
なんなんだよ、こっちの気も知らないで・・・
「とにかく行かないでほしい」
『そんなこと言われてもな』
数秒だけ見つめ合ってから、桜がふいっと不機嫌そうに頬を膨らませる。
「分かった」
『悪いな、また今度ってことで』
「私も行く!」
『は?』
「ゼミ違うけど、いいよね?お店どこ?」
『いやいや、そういう問題じゃなくてだな;;』
「大丈夫。端っこでおとなしくしてるから」
『おとなしくって;;ゼミのメンツに絶対なんか言われるし、桜だってそういうの得意じゃないだろ』
「大丈夫だよ、私は!」
『いやいや;;;』
ーーーーーー
「ふふふ・・・」
いつもより上機嫌で距離のおかしい桜と駅からの道を並んで歩く。
早めに切り上げた飲み会の帰り道。
足どりはしっかりしているが距離感は測れていないようだ。
オレのゼミの飲み会に突然参加した桜は確かに端っこでおとなしくしていた。
「〇〇は奥ね」と、オレを壁際に座らせて蓋をするように隣にちょこんと座る。
『近いって;;』
「近くないもん!」
『なんだそれ』
最初こそあれやこれや言われたが、皆それなりに空気読みスキルの持ち主だ。
振り返れば結局、桜以外とほとんど話していない。
まあ、明日以降さんざんつつかれるんだろう。
はあ・・・次からはどうしたもんか。
「ねえ、楽しかったね」
それでも上機嫌な幼なじみを見ると、まあいいかと思ってしまう。
「あれ?あー!」
急にとことこ駆け出した桜の先には制服姿のうるみがいた。
「あっ、桜ちゃん」
桜を見つけて嬉しそうに笑った後、オレを見つけて睨みつけてくる。
「〇〇もいるじゃん・・・」
『よっ』
片手をあげて挨拶すると、鬱陶しそうにオレから視線を外す。
「桜ちゃん、大丈夫?変なことされてない?」
『ひどいいいようだな・・・』
「〇〇はそんな事しないよねー」
いちいち腕に絡みついてくる桜。
目を丸くした後に睨みを強めるうるみ。
『なんだよ』
「別に・・・」
『酔ってるんだよ、桜』
「えっ、桜ちゃん酔っ払ってるの?」
「ふふ、ちょっとだよちょっと」
「うっ、可愛い、うぉぅ」
桜の可愛さにあてられて、変な音でえづくうるみ。
分かる分かるぞ、その気持ち。
「あ、ねえねえ。うるみちゃんも一緒に二次会行かない?」
『うるみは未成年だし、急に言われても困るだろ』
「ねーえ、うるみちゃんいこーよ」
「え;;可愛い。行く。可愛い、行く行く;;」
様子のおかしい返事をするうるみ。
うるみは桜の事好きすぎるんだよな。昔から。
いや、うるみはというか、うるみもか・・・
ーーーーーー
まあここだよな・・・
案の定、二次会の会場は前回と同じ近所のファミレスだ。
「ここWi-Fiやめちゃったんだって。うるみちゃん知ってた?」
「うん、私たまにここで友達とテスト勉強してるから」
『へー、そういえば前にここでうるみに勉強教えたことあったよな』
「はぁ!?そんなの覚えてないし!別に感謝もしてないし!」
『分かった分かった』
相変わらずオレにだけ冷たい態度だ。
桜に腕を引っ張られてこの前と同じ窓際のテーブルに連れていかれる。
「〇〇は奥ね」
既視感のあるセリフ。当然この後は・・・
分かっているが抗う気力はない。
オレが座ると予想通り隣にぽふっと座って、たぷたぷと主張してくる。
この前と一緒だ。いや違うか。
正面からの殺意のこもったうるうるの可愛い眼光。
なかなか器用なやつだ。
横から、「んー」とタブレットに両手を伸ばす桜。
テーブルの上に桜の胸がしっかりのってムニっと形を変える。
すごい迫力だ。
どうしたって視線も意識もそっちに行ってしまう。
カシャ
目の前で鳴った音に顔を向けるとスマホを構えたうるみ。
『何してんだよ』
「証拠残しておこうと思って」
『証拠ってなんだよ;;』
「言っていいの?何をジーっと見てたか。桜ちゃんの前で」
『いや、なんでもない。やめとこ、うるみ;;』
「ほんと最低なんだけど・・・」
「うるみちゃん、ちゃんと2人で撮って」
「え、桜ちゃん今のはそーいうんじゃなくって;;」
「はい、〇〇一緒にピースして」
ただでさえ近い身体をもう一段階くっつけてくる。
右半身で感じる甘くて柔らかい感触と
正面で顔を引きつらせてスマホを構えるうるみ。
ここは天国か?それとも・・・
「〇〇と桜です!」
ボトルの名前を店員さんに元気に伝えると、程なくしてネコ型ロボットが到着する。
「ほら、うるみちゃん。見て見て、これキープしてるんだよ」
二人の名前が書かれたラベル付きのボトルを自慢げに見せる。
「え、あ、うん」
「〇〇のも桜がやるからね。何で割る?炭酸?しゅわしゅわ?」
前回同様よく分からないワードとともに小首をかしげる。
はい、可愛い・・・
そして正面からオレに突き刺さる視線。
隣の桜は上機嫌。
正面のうるみは不機嫌だ。
ーーーーーー
「うーん、〇〇ー、むにゃむにゃ」
『おい、むにゃむにゃって口に出してるぞ;;』
予想通りの展開だ。
眠くなってしっかりオレにもたれかかる桜。
「スケベ・・・」
正面でコーラを飲みながらじとーっと睨みつけてくるカワウソ顔。
『いやいや;;オレは別に;;』
「そんなデレデレ顔で言っても説得力ないから」
不機嫌なカワウソの視線をやり過ごすために、目の前のグラスをくいっと空ける。
なんでこんな状況になったのか、今となってはよくわからないが早いとこ桜を起こして帰るのが吉だろう。
ん?
空になったグラスに焼酎がトクトクと注がれる。
「これくらい?」
『え?』
目の前のカワウソの予想外すぎるムーブに反応が遅れる。
「何で割るの?炭酸?しゅ、しゅわしゅわ////」
『え、ああ;;;』
オレのグラスを持ってドリンクバーにちょこちょこ歩いていって、ちょこちょこ戻ってくる。
「は、はい////」
『ああ・・・』
・・・・・・
・・・・・・
理解が追い付かず、じいっとうるみを見るとみるみる顔を赤くする。
「べ、別に。桜ちゃんみたいにやりたかったわけじゃないんだからね////」
『分かった分かった』
ーーーーーー
「うーん、あったかい。〇〇の背中」
『分かったから、ちゃんとつかまってろって////」
背中に柔らかい感触をたっぷり感じながら、家路につく。
「桜ちゃんに変なことしないでよ」
『するか!;;』
「どーだか・・・」
『桜、家ついたぞ。水いっぱい飲んどけよ』
「はーい。うるみちゃんまた一緒に行こうねー」
「うん・・・」
「うるみちゃんのことちゃんと送ってってあげてね、〇〇」
『はいはい。じゃあな』
反転しようとすると、右肘が捕獲される。
とろんとしたたぷたぷの目でオレの反応を待つ。
さすがに何を待たれているか察しはつく。
『・・・おやすみ、桜』
「ふふ・・・また明日ね」
家に入っていく桜を見届けて振り返ると、すでに歩き出しているうるみ。
『ちょ、待て待て』
「べつに、一人で帰れるから」
『まあ、そういうなって。送ってくから』
「・・・桜ちゃんから言われたからでしょ」
『ん?』
「なんでもない・・・」
・・・・・・
・・・・・・
『今日はつきあわせて悪かったな』
「別に・・・〇〇の為じゃないし」
『そうだったな・・・』
・・・・・・
・・・・・・
『桜のやつ、酔っ払うとあんな感じなんだよなー』
「・・・嬉しいくせに」
『いや、嬉しいっていうか』
「桜ちゃんの胸ばっか見てたじゃん」
『いやいや;;;』
「見てたよね、証拠あるけど」
こっちを見ないままスマホをちらつかせる。
言い訳は通用しなそうだ。
『まあ、あれは不可抗力というかなんというか・・・』
「別にどうでもいいんだけど、桜ちゃんに変なことしたら許さないから!」
『何もしないって;;;』
「何もしないんだ・・・じゃあどういうつもりなの?」
『ん?』
「だからなんで桜ちゃんといつも一緒にいるの?」
『なんでって、幼なじみだし・・』
「そうじゃなくて!」
立ち止まってさっきからずっと合ってなかった視線を合わせてくる。
「付き合う気もないのにキープみたいなことしないで!桜ちゃんがかわいそう!」
叫びにも似た声と、うるうると潤んだ真剣で悲痛な猫目。
そうか・・・
うるみにはそういう風に見えていたのか・・・
今までのオレに対する態度について、なんとなく腹落ちする。
付き合う気がないというか、オレは3年前にしっかりフラれているんだが。
それをうるみに伝えたところで、いまだに桜の隣をキープしてることには違いない。
オレは桜と一緒にいていいんだろうか。
・・・・・・
「違うって言わないんだ」
言葉を返さないオレを寂しそうに見つめるうるみ。
言葉が出てこない。
両足がアスファルトに張り付いて動かない。
「もういい。・・・おやすみ、〇〇」
遠ざかっていく鞄についたさくらんぼが不機嫌に揺れた。
【続け・・・】
読んでいただいてありがとうございます。
さくたんと呑みたい!うるみんに睨まれたい!
感想がほしい!よろしくお願いします!
最後までがんばります。
ありがとうございましたー!






カワウソで笑った! カワウソに似てるよねうるみん(笑) 次回作も楽しみにしています。
カワウソ顔可愛いですよねー。 読んでいただいてありがとうございます! うるみん出してよかったですー。 最後までがんばりますっ!
上機嫌なさくたんと、不機嫌なうるみんのターンが絶妙で、読みながらニヤニヤしてしまいました! ぬめたけさんも描いてて絶対楽しいんだろうな〜って勝手に思ってます笑 次作も楽しみにし…
気に入っていただけて嬉しいですー。 ありがとうございます😊 不機嫌うるみんいいですよね。 おかげさまで楽しく続けてます。 最後までお付き合いいただけるように頑張りますー!
やばいなぁ、うるみんのツンデレが刺さってしまった(笑) さくたんだけでもいっぱいいっぱいなのに、、どーしてくれようかぬめたけさん(笑) 〇〇は天然というか、たらしだなぁ。 うるみち…
感想嬉しいです🥹 ありがとうございます! ツンデレうるみん刺さってよかったですー。 うるみん視点回もありですね。 最後までがんばりますー!