幼なじみの桜#2【飲み会に行こう】
「どう?可愛く撮れた?」
『ああ、いいと思うぞ』
「可愛く撮れた?」
この聞き方はずるい。
『・・・可愛く撮れたと思うぞ////』
「見せて見せて」
隣にすっと並んできてオレのスマホを覗き込む。
艶のある黒髪が柔らかく揺れて、甘い香りに包まれる。
スマホを持つ右手に、ごく自然に身体の柔らかくて大きい部分を押し当てられる。
「んー、ホントだ。やっぱり〇〇は写真上手だね」
『近い近い;;』
こんな感じで桜の写真を撮るのにも少し慣れてしまった。
SNSにあげる写真を撮ってと言われて始めたんだが、未だにアカウントも作っていないようだ。
オレの撮影スキルの問題だと思って、自分なりに色々研究したりもした。
元々被写体は文句無しだし、我ながら多少上手く撮れるようになったと思っているんだが・・・
なんなら最初からアップする気なんかないんじゃないかとさえ思ってしまう。
気になることはもう一つある。
毎回オレのスマホで撮っていることだ。
桜はカメラの性能がどうこう言うけど、別段大きな差があるわけじゃない。
そんなこんなでオレのスマホが桜の写真でいっぱいになっていく。
これが精神衛生上あまりよくない。
1人部屋にいる時も、気づけば桜のフォルダを開いてしまう自分がいる。
スマホのフォルダと脳のフォルダがリンクしている感覚だ。
『今日もけっこう撮ったけど、桜が気に入ったのあったか?』
「うーん、〇〇はどれが好き?」
『好きっていうか・・・これいいんじゃないか?』
「あー、うん。いいね、よく撮れてる」
・・・・・・
『じゃあ、これ投稿するか?』
「うーん・・・」
・・・・・・
『こっちは?』
「うーん・・・」
どうやら、どれも決め手に欠けるらしい。
『そもそもオレがカメラマンっていうのが違うんじゃないか?』
「違う違う。〇〇は本当に可愛く撮ってくれてるよ。ただ最初の一枚はこだわりたいから」
『何枚かアップしたら、すぐにフォロワーつくと思うけどな』
「え、そうかな?可愛く撮れてるかな?」
『ああ・・・』
「ねえ、ほんとに可愛いって思う?」
『だから思ってるって////』
「どこが?どれくらい?」
身体の一部がまた触れそうなくらいに、身を寄せてそんな事を言ってくる。
ほんとに・・・どういうつもりなんだよ・・・
ーーーーーー
午後の講義を終えたキャンパスで見知った小さい背中を見つける。
桜だ・・・
話している男は・・・確か同じゼミの先輩だったか・・・
別にだからと言ってなんというわけでも無い。
別にいつも一緒に帰ってるわけでもないだろ・・・
そう自分に言い聞かせる。
少し距離をとりつつそのまま通り過ぎようとしたところで、桜の横顔が視界に入ってしまう。
はあ・・・
ほっとけない・・・
話している内容は聞こえないがおおよそ分かる。
十中八九、遊びに行こうとかそういう類のお誘いだろう。
別にオレは口を出せる立場にない事は分かっているが・・・
桜はさっきから断っているようだし、困ってる顔が見えていないんだろうか。
それとも分かっていてお構いなしというわけか・・・
勢いを緩めない相手の男の手が今にも桜の肩に触れそうで、ざらついた感情が沸き立つ。
勝手に向きを変えた両脚がぐんぐんと加速する。
まるで、あの時と一緒だ。
中学時代、初めてさくらが告白されていた場面に居合わせたあの時だ。
ーーーーーー
ーーーーーー
「こ、困ります;;」
「えー、いいじゃん。付き合ってみようよ。お試しでいいからさ」
「ごめんなさい、私は;;」
「桜ちゃん、可愛いなーってずっと思ってたんだよね」
学校からの帰り道、校庭脇の道を歩いているとなにやら聞き覚えのある声が聞こえる。
ふと目をやるとフェンス越しに桜と学校で有名なチャラい先輩。
後ずさる桜をぐいぐいと追い詰めて、小さな肩に手を伸ばす。
事態を飲み込むのにそう時間はかからなかった。
『桜!』
「え、〇〇?」
自分でも驚くほど大きい声が出て、桜も同様に驚く。
『今、行く!』
「え;;;」
「ん?なに、お前?」
訝し気な眼でこちらを覗き込む先輩を牽制するようにカバンだけ先に放り込む。
勢いそのままフェンスによじ登って、校庭に入る。
二人の間に無理矢理カットインして、先輩の視界から桜を隠す。
『嫌がってるんで、やめてもらえますか?』
「なになに?カッコいいじゃん。桜ちゃん彼氏いたの?」
「あ;;えっと」
律儀に答えようとする桜を後ろ手で制して、先輩を真っ直ぐに見据える。
『オレは幼なじみです。桜は断ってましたよね!』
・・・・・・
先輩が無言で近寄ってくる。
面識の無い後輩にこんな事言われて、面白いはずがない。
なんなら殴られるくらいあるだろう。せめて桜だけでも無事に・・・
そんな事を考えていたんだが・・・
「たしかに!」
『は?』
「いや、オレフラれたのか。そうだよな、フラれたよな。いやーショックだわー」
言葉と裏腹になんだか楽しそうだ。
よほどオレが滑稽に見えたんだろうか。
「悪い悪い、お前に言われるまで気付かなかったわ」
パシパシと馴れ馴れしくオレの肩を叩く。
『謝るのはオレにじゃないです!』
先輩のペースに呑まれないように気を張って睨みつける。
「たしかに!桜ちゃんごめんねー。怖い幼なじみが来たから帰るわー」
楽しい見世物でも見て満足したような顔で去って行った。
なんだったんだ・・・
この先輩には後に、なぜかオレが気に入られてしまうんだが、それはまた別の話だ・・・
「〇〇・・・」
背後から震える声で名前を呼ばれて、ずっと学生服の後ろをぎゅっと握られていた事に気づく。
「ごめんね、巻き込んじゃって」
「なんか話があるって呼び出されて付き合おうって・・・ごめんなさいしたんだけど・・・」
たぷたぷに潤んだ瞳で、申し訳なさそうにオレを見る。
小さな肩と声を震わせて、本当に怯えていたのが分かる。
『桜が謝る事じゃないだろ』
「でも・・・」
『今後好きじゃないやつに呼びだされたら言ってくれ』
「え?」
『今日みたいな事があったら危ないだろ、オレも付き合うから』
「〇〇・・・」
まさかその後、何度も付き合う事になるとは思っていなかったわけだが・・・
ーーーーーー
ーーーーーー
大学のキャンパスで言い寄られる桜に近づいていく。
『桜!』
「あ、〇〇!先輩ごめんなさい。今日は〇〇と約束があるので」
先輩から逃げるように駆け寄ってくる桜をすっと背中に隠す。
心の無い形だけの会釈を先輩に放ってその場を離れた。
『大丈夫だったか?』
「うん、また助けてもらっちゃった、ごめんね」
小さな両肩と声を震わせながら、オレを安心させるように微笑む。
なんでそんな顔するんだよ・・・
桜の無理に作った笑顔がオレには痛い。
知り合いとはいえ、やはり怖かったんだろう。
こういう時に全部包み込む事できればいいのに・・・
桜の不安も、震える両肩も全部・・・
そう考えずにはいられない。
そんな資格、幼なじみのオレに無いのは分かっているのに・・・
『なんだったんだ?』
「二人でご飯行こうって誘われて、ご飯っていうかお酒飲みに行こうみたいな」
『やっぱり・・・そういう感じだったか』
「うん・・・ごめん」
『ごめんじゃないだろ』
「え;」
『桜が困ってたら助けるに決まってんだろ。幼なじみなんだから』
「・・・〇〇は優しいね」
『別に・・・』
「でも、心配してくれたんでしょ?桜のこと」
『心配っていうか・・・桜は酒飲めないだろ。初めてでシャンパン飲んで以来飲んでないって言ってたもんな』
「うん、でも〇〇だって飲めないでしょ」
『オレは普通に飲み会とかでは飲むけど』
「え、そうなの?飲み会って誰と?私と飲んだことないじゃん!」
『まあ、そうだけど』
「それって女の子もいるやつ?合コンみたいなやつ?」
『普通にゼミの飲み会とかだって;;』
「むうー、絶対女の子いるじゃん」
『なんだよ;;いるけど普通だろ;;』
ずいぶんと掘り下げてくるな。
別にオレが誰と酒飲もうが関係ない気がするんだが。
「今日飲みに行こ」
『は?』
「だから桜と一緒にお酒飲むの!」
『だから、桜は飲まないだろ;;』
「今日は飲みたい気分なの!」
『やめとけって;;』
「行くの!」
たぷたぷに潤んだ瞳でオレを睨む。
なんだよそれ;;
可愛すぎて全然怖くない。
桜の心中を察する事はできないが、これはオレが折れるしかない事は分かる。
人の気もしらないで・・・
『はあぁぁ・・・』
隠しようもない溜め息は、桜の甘えスイッチを入れてしまう。
「ダメなの?桜とも一緒にお酒飲んでよ・・・」
たぷたぷに潤んだ瞳・・・
おやすみ前のビデオ通話仕様の甘い囁き声・・・
これ、断れるやついる?
『ほんとにここがいいのか?』
「うん!ここにしよ!飲み会!」
飲み会って二人じゃねえか;;;
謎にテンションが上がっている桜が、オレの腕を小脇に抱えるように引っ張る。
身体の柔らかくて大きい部分がしっかりあたってよろしくない。
オシャレなバーを想像していたわけでは無いが、
まさかまたここに桜と一緒にくるとは思わなかった。
お互いの家から一番近いファミレス。
3年前、オレが桜にフラれた店だ。
【続くはず・・・】
読んでいただいてありがとうございます。
さくたんの続きです!
いつものことですが、書いてると好き度が上がってきます。
皆様の感想が生きがいです!お願いです!
ありがとうございましたー!





今後、ある意味カギを握る、回想シーンで登場した先輩、、チャラさの中に人を見抜く能力に長けてるんだろうな。当人たちも気づいてないであろう二人の関係の本質をあの短時間の間に感じ取っ…
感想めっちゃ嬉しいです。 先輩のキャラ悪くなりすぎないように意識したので気に入っていただけてよかったです。 最後まで頑張ります。お付き合いよろしくお願いします🙇
故意なのか天然なのか分からないさくたんの甘え上手、良いですね😊 今後の展開も楽しみです。
感想嬉しいです🥹 おかげさまでさくたんも楽しく書けています。 今後の展開は相変わらず迷ってますが、お付き合いいただけたら嬉しいです! ありがとうございましたー。
ナチュラルあざとい全開で距離を詰めてくる小悪魔さくたん、良いですね笑 ファミレスの飲み会で更なる展開が楽しみです。 今回も楽しく読ませていただきました。
いつも感想嬉しいですー。 おかげさまで楽しく続けられています。 さくたんの小悪魔感気に入ってもらえてよかったー。 読んでいただいてありがとうございます!