ヘリウム停止から9日、復旧の見通しは立たない──「数ヶ月」のシナリオが現実味を帯びてきた
カタールのヘリウム施設が止まって9日が経過した。再稼働の目処は、今日も出ていない。
「2週間」という壁が迫っている
3月2日(現地時間)にイランのドローン攻撃を受け、カタールのラス・ラッファン施設が停止してから9日が経過した。Tom's Hardwareが3月12日(日本時間)に報じたところによれば、カタールエナジーは依然として再稼働の見通しを公表していない。
世界のヘリウム供給の30%超が市場から消えた状態が続いている。
ヘリウムコンサルタントのフィル・コーンブルースは「停止が2週間を超えれば、産業ガス供給業者は設備の再配置・サプライヤー契約の再締結を迫られる」と述べている。それ自体が数ヶ月規模の作業になる、とも。
問題は、その「2週間」という期限がすでに眼前まで迫っているという現実だ。
2週間以内に解決すれば市場は回復できる。だが超えた瞬間、サプライチェーン全体の「再配線」が始まる。回復には、その後さらに数ヶ月を要する。
2022年のロシア・ウクライナ侵攻時にも、半導体製造に使われるヘリウムとネオンの供給が逼迫した。あのとき韓国は供給源の多様化を急いだ。同じ教訓を、また繰り返している。
「影響なし」と「数ヶ月の混乱」のあいだ
現時点での反応は、二分されている。
SKハイニックスは供給多様化と在庫確保が完了していると発表し、「ほぼ影響が出る可能性はない」と明言した。TSMCも「現時点では大きな影響は見込まれない」として状況を注視している。
一方でgasworldが伝えるところでは、韓国の半導体各社の在庫は約6ヶ月分と見積もられている。短期間なら耐えられる。だが長期化すれば、それは「猶予」ではなく「タイムリミット」に変わる。
工場の現実と市場の恐怖は一致しない。先週の韓国株市場は、サムスン電子が週間で16.7%安、SKハイニックスが17.6%安という数字を叩き出した。これは前回記事で触れた通りだが、本稿執筆時点(3月12日日本時間)でも回復の兆しは見えていない。
投資家は正直だ。「大丈夫」という声明より、「2週間の壁」の意味を正確に理解している。
韓国政府が動き出した
この状況を受け、韓国の産業通商資源部は、中東への依存度が高い半導体材料・設備14種について供給・需要の実態調査を開始した。
ヘリウムだけではない。回路形成に使われる臭素については、韓国の輸入量の90%がイスラエル産だ。中東紛争は、半導体製造工程の複数の急所を、同時に締め上げている。
台湾は世界のファウンドリ(半導体受託製造)の約7割を担い、先端ロジック半導体に限れば9割超が台湾製だ。一方、韓国はメモリ半導体の世界シェア65%超を握る(TrendForce・ジェトロ、2025年)。その両者が、中東由来の原材料に依存しながら製造を続けているという構造的な現実が、今回の危機で改めて浮き彫りになった。
「多様化を進めてきた」は、決して「問題がない」を意味しない。依存比率を下げた先に、まだ依存がある。
復旧の「前提条件」という難問
カタールエナジーのCEOが語った再稼働の条件は明快だ。「紛争が完全に終結するまで再開できない」。
ヘリウムの問題が、実は紛争の問題と同義語になっている。技術的な修復や在庫の積み増しで対処できる話ではなく、政治と軍事の帰趨が、半導体工場の稼働率を左右するという奇妙な構図だ。
ここから先は
記事が役に立ったと感じていただけたら、チップで応援いただけると嬉しいです。いただいた支援は、より深い調査と分析のための時間に充てさせていただきます。灯台を灯し続けるための燃料になります。


購入者のコメント