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刑務所で違法な医療行為がおこなわれていると内部通報したところ、その報復で不当な人事異動を命じられ、退職に追い込まれたとして、大阪刑務所で矯正医官として勤務していた男性が3月10日、国に約9258万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。

刑事施設の医療をめぐっては、昨年も金沢刑務所や東京拘置所で勤務していた医師らが、不適切な医療行為があったにもかかわらず幹部職員らが放置したなどとして、法務省に調査を求める動きがあった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●原告「被収容者の意思に反する注射があった」

訴状によると、原告の男性は2021年11月から大阪刑務所で矯正医官として勤務していた。

2024年8月16日、原告が主治医をつとめていた被収容者Aさんに対し、同僚の医師が本人の意思に反して筋肉注射をしたという。

同年9月19日、医務部長は原告に対し、大阪刑務所長の指示として、Aさんの主治医を同僚医師に交代するよう伝えた。

その理由として、刑務所が対応の仕方に困っていたAさんについて、本人の意思に反する注射をしない原告よりも、注射をする同僚医師のほうが主治医として望ましいためと説明されたという。

同僚医師は同年9月24日にも、Aさんに筋肉注射を打った。

●原告は「内部通報」した

原告は、これらの筋肉注射は「その者の生命に危険が及び、又は他人にその疾病を感染させるおそれがない」状況でおこなわれたもので、刑事収容施設法62条1項ただし書に反するものだったと主張している。

その後、原告は2024年10月2日、刑務所長や医務部長らとの面談の際、Aさんの主治医交代の指示を受けた経緯を診療録に記載したところ、「このようなことは診療録に書くな」と繰り返し命じられたという。

原告は面談などで、Aさんの意思に反する注射の“違法性”を指摘したが改善されなかったため、2025年1月13日、大阪刑務所を管轄する大阪矯正管区(2025年4月に「近畿矯正管区」に名称変更)の第一部次長に、この問題を内部通報する文書を提出した。

●通報直後に片道4時間の北九州へ異動打診

ところが、通報から2日後の2025年1月15日、原告は大阪刑務所長から、北九州医療刑務所(福岡県北九州市)への人事異動の意向打診を受けた。

原告は同日、異動を承諾できない旨の文書を大阪矯正管区長に提出したが受け入れられず、同年2月28日、北九州医療刑務所・医療第二課長への異動内示が伝えられたという。

訴状によると、2025年7月時点で近畿矯正管区内では医師2人を募集している一方、北九州医療刑務所は精神科医を募集しておらず、採用情報ページにも「現在充足中」と記載されていたという。

原告側は「近畿矯正管区内においてさえ精神科医が不足しているのに、人手が充足している北九州医療刑務所にあえて原告を転勤させる業務上の必要性はない」と主張している。

●原告「あり得ない人事異動、報復目的と推認される」

原告の男性は、親の介護と子育てのため、引っ越しを伴う転勤ができないことを2025年1月15日に伝えていた。

北九州への通勤は電車移動だけでも片道約4時間かかり、通勤手当を利用しても高額な交通費の自己負担が生じるほか、兼業先の医療機関での仕事との調整も現実的ではなかったとしている。

こうした事情を踏まえ、原告は訴状で次のように主張している。

「通常ではおよそありえない人事異動がなされたこと、しかもその内容が原告に対する配慮に欠けるものであることからすれば、本件内示は大阪刑務所内でおこなわれていた医療上の違法行為等を指摘する原告に対する報復目的であったと推認される」

●代理人「医師が退職に追い込まれるなら改善は期待できない」

原告代理人の川村遼平弁護士は提訴にあたり、Aさんの意思に反した抗精神病薬の注射がおこなわれていることを原告がカルテに記載していたにもかかわらず、大阪刑務所側から記載を残さないよう求められたことなどを指摘し、次のようにコメントした。

「この裁判の背景には、被収容者の権利に関する重大な問題があります。原告のような医師が退職を余儀なくされてしまうのであれば、被収容者の権利や処遇が改善することは期待できません。人事異動の不当性もさることながら、こうした背景にも広く関心を持っていただければと思います」

●大阪刑務所「訴状が届いておらずコメント差し控え」

大阪刑務所の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「訴状が届いていないので、コメントは差し控えさせてください」と回答した。