深掘り

第2回突然届く謎のコンテナ ニデックに蔓延した不正「偽りの報告もう嫌」

清井聡

 2010年代後半、アジア地域の拠点にいたニデックの社員(すでに退職)に物流業者から電話がかかってきた。

 「あなた宛ての40フィートコンテナが一つ港に着いてます。輸入通関を切りますか?」

 差出人はニデックの子会社「日本電産サーボ(現ニデックアドバンスドモータ)」の近隣国の拠点。心当たりは全くなかった。

 日本国内にいる同社の海外営業担当に問い合わせると、「ごめん。そのまま元の国に戻すから、何もしないで」と電話を切られた。

 世界的なモーターメーカー「ニデック」で、グループ内に蔓延していた不正会計が明らかになりました。買収巧者として名声も得ていた創業者の永守重信氏。その実像を関係者の証言と第三者委員会の調査報告から探ります。

 ところが、その半年後に2個目のコンテナが届いた。「いい加減にしろ」と怒ると、その担当者が打ち明けた。

 「注文がなくなった部品を輸出して、一時的に売り上げを立てているんだ」

 元社員が朝日新聞の取材に話した。「サーボはムチャクチャやってるなと思いましたよ。でも、そのくらい永守(重信・創業者)さんからの業績プレッシャーは大きかった」

「目標達成のための本社との会議は1日4回」

 サーボは在庫の二重計上など複数の不正に手を染めていた。20年からの社内調査で発覚したが社外には公表されなかった。

 3日に公表されたニデックの第三者委員会による調査報告書には、サーボを巡る記述もある。不正の目的は、業績目標の達成だった。

 サーボ幹部は「目標達成のための本社との会議は、ひどいときは8時、昼、15時、23時と1日4回。みんななえていた」「(本社幹部が)机をバンバンたたいて。このころ10キロ痩せた」と会社のヒアリングに答えていた。

 高い利益の目標を達成しようとすると、会計上は必要でも損失を出すことが許されなくなる。グループ内では、固定資産の減損先送りなどが広がっていった。

Made with Flourish • Create a chart

 損失を先送りすれば、帳簿上の価値に疑念がある「負の遺産」がたまっていく。これを一定規模で処理することをニデック内では「構造改革」と呼んでいた。

 ただし、実行するには「セルフファンディング」と呼ばれる原則があった。当該部門は損失の穴を埋める収益をあげ、あくまで業績目標を達成せよという意味だ。

 24年8月、社長の岸田光哉の指示で車載部門のメキシコ拠点への調査が行われた。支払期限を過ぎても回収できていない「滞留債権」が3210万ドル(約50億円)あり、約半分が不良債権化していた。

「株価を上げることが最優先」

 国際会計基準を踏まえた社内ルール上、1年を超えて滞留している債権は全額の損失処理が必要だった。岸田や周囲の幹部はこの件を含めた「構造改革」の腹を固め、永守に決裁を仰いだ。

 その時、永守はセルフファンディングの原則を主張して否決。こう言ったという。

 「今期(の営業利益)は(目標の)2400億円から1円も割ってはいけない。株価を上げることが最優先である」

 今回、第三者委は主に20年度以降の会計処理を調査した。確認された不正は、いったい何件あったのか。3日の記者会見で質問を受けた第三者委の公認会計士・井上寅喜は、判別が難しいものもあるとしつつ「(ミスも含めれば)まず1千件以上。全事業部、子会社、いたるところで不正が起こっていた」とした。

 不正が苦痛になり、辞めていく人もいた。ある国内グループ会社の幹部は、去り際にこんなメールを残した。

 「偽りの報告をするのももう嫌で、週報も書けません。現状の処理はグレーだと心に言い聞かせてきましたが、本当はブラックで会社を駄目にするものというのが本当の気持ちです。申し訳ございませんが、辞めます。もう会社に行こうとしても心と体が拒否をしてどうにもなりません」

 ニデックには小型モーター、車載向けモーター、機械事業などの事業本部とグループ会社で構成され、全体で350社超、従業員数は10万人を超える。1973年の創業から永守が70件以上にものぼる積極的なM&A(企業合併・買収)で大きくしてきた結果だ。

 買収巧者として名をはせた永守の自慢は「失敗はゼロ」。経営本も多数出版し、M&Aは「買うまでが2割、買ってからが8割」と、PMI(買収後の統合作業)の重要性を強調していた。

 ただ、ニデックによると、2010年頃からのグループ会社は、永守を含む最高幹部が定期訪問で経営理念を語るぐらいで、業績以外の管理を十分にやらなくなっていたという。

 ある海外子会社の元幹部は朝日新聞の取材に語った。「永守さんの話は、頑張れば何とかなるというだけ。こういう風にしたらどうかとか、ここがポイントなんじゃないかという指摘を受けたことは一度も無い」=敬称略

「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは4カ月間月額200円でお試し

この記事を書いた人
清井聡
経済部
専門・関心分野
企業経営、ガバナンス、産業政策

関連トピック・ジャンル

ジャンル