イラン情勢の緊迫化に伴い、国際指標となるブレント原油の先物価格が一時1バレル=115ドルを超えるなど、原油価格が高騰している。この事態を受けて、アジア各国では燃料価格の引き上げが相次いでいる。例えば石油の備蓄量が少ないことで知られるベトナムでは、首都ハノイの給油所に不安を強めた市民が行列を作っているようだ。
アジアの盟主たる中国もまた例外ではない。内閣に相当する国務院傘下の国家発展改革委員会は3月9日、翌日から国内の石油製品価格を引き上げると発表。レギュラーガソリンの場合、全国平均で1リットル当たり0.55元程度の値上げとなり、平均店頭価格は同7.5元前後。仮に50リットル給油すると27元(約630円)近い値上げとなる。
イギリスのロンドンにある国際的な調査機関・エナジーインスティテュート(EI)の推計によると、中国の原油輸入量に占める中東産原油の割合は2024年時点で57%と、中国は中東から多くの原油を輸入している(図表)。ゆえに中国は、イランがホルムズ海峡を封鎖し、湾岸諸国の産油・製油所を破壊した影響を強く受ける。
そして中国は、イランからも多くの原油を輸入していることで知られる。
ロシア産と同様、イラン産原油は主要国による制裁対象であるから、中国は欧米に配慮し、イラン産の原油を輸入していることを表立っては公表していない。しかし中国がイラン産原油を輸入していることは公然の秘密であり、中国もそれを声高に否定することはない。
前出のEIの推計によれば、中国はサウジアラビアとイラク、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェートを除く中東諸国からも、多くの原油を輸入している。この「その他中東」の中に、イランが含まれているようだ。多くの識者が中国が輸入する原油量の10%程度がイラン産だと指摘しているため、イラン産がその他中東の半分程度を占めているようだ。
中国を悩ませる、簡単に進まぬ「ロシア産原油」シフト
イラン産をはじめ、中東産原油が輸入できなくなったなら、代わりに中国はロシア産原油の輸入を増やせばいいと考えるかもしれない。しかし、言うは易く行うは難しで、ロシア産原油の輸入を増やすことはそう簡単ではない。最大の問題は、輸送能力の限界にある。基本的に、ロシアから中国への原油輸出は「ESPOパイプライン」※経由で行われる。
※ESPOパイプライン:ESPOとはEast Siberia-Pacific Oceanの略。東シベリア・太平洋石油パイプラインのこと
ただしESPOパイプラインによる輸送能力には上限があるため、原油不足の急場をしのぐことができない。
では、現実的な手段はというと、「タンカーによる輸入を増やすこと」だ。だが、そもそも、急場しのぎのタンカーを調達できるかという問題に中国は直面する。仮に調達できたとしても、ロシア産原油だけで中東産原油の不足分をカバーするには、なお不十分である。
それにロシア産原油へのシフトを強めれば、価格でロシアに足元を見られる恐れも強まる。これまでロシア産原油のプライスメイカーは、基本的に需要家である中国だった。中国がイラン産原油とロシア産原油を比較して、より安価な原油を輸入できる立場にあったためだ。しかし急場をしのぐなら、中国はプライス「テイカー」となり、ロシア産原油の価格支配力を損なう。
もっとも、ロシアにとって中国との関係は生命線だから、原油価格を極端に引き上げるようなことはしないだろう。一方、ロシアが対中輸出で人民元を稼ぎたいのも事実だ。これまでと同様、中国に有利なようにロシア産原油の価格が決まるとも考えにくい。結果として、ロシアの価格交渉力が高まることを中国は意識せざるを得ない。
つまり経済の観点から整理すると、中国にとっても、イラン情勢の緊迫化に伴う原油価格の上昇は受け入れがたい出来事となる。実際、中国がイランに対してホルムズ海峡を封鎖しないよう要請したとの報道もなされた。
しかしイランは、一番の得意客である中国の要請を無視してホルムズ海峡の封鎖を断行した。中国の面子は丸潰れになった形だ。