『with MUSIC』終了が突きつけること──YouTubeを使わないテレビ局のジレンマ

松谷創一郎
ジャーナリスト
日本てれび『with MUSIC』オフィシャルサイトより。

 日本テレビの音楽番組『with MUSIC』が、この3月で終了する。2024年3月末に特番扱いでスタートしてから、2年であえなく終了となった。

 当初この番組は、数少ないゴールデンタイムの音楽番組として注目を集めた。もともと日テレは夏と冬に『THE MUSIC DAY』や『ベストアーティスト』などの音楽特番を手がけており、レギュラー番組としてさまざまなアーティストが新曲を披露する音楽番組は長らく不在だった。その穴を埋めるべく登場した『with Music』があっけなく終わったのである。

 しかしそれは、単にひとつの音楽番組の幕引きとも言い切れない。日本のテレビ局の音楽番組が抱える限界を改めて浮き彫りにする事象だといえる。

「ジャニーズ忖度」は終わったが

 『with MUSIC』は旧ジャニーズ問題が一段落してからスタートした。旧ジャニーズ所属のタレントの多くが移籍したSTARTO社が始動したのも、番組開始直後の2024年4月からだ。

 それもあって、かつて『ミュージックステーション』が25年以上も続けてきた〝ジャニーズ忖度〟とは無縁だった。2024年3月30日の初回特番では、旧ジャニーズ事務所を退所してデビューしたNumber_iが出演し、一方で旧ジャニーズのSMILE-UP.勢はゼロ(この時期はSTARTO移籍直前だった)。STARTOグループの初出演はレギュラー化2週目のAぇ! groupとWEST.がはじめだ。ただしこのときは、競合グループと言えるINIも出演している。

 このようにSTARTOと競合となる男性グループの出演を排除するような行為はせず、出演者の顔ぶれは比較的フラットだった。その点は、改善された新たな業界秩序を感じさせた。

 しかし番組の中身は旧態依然とした〝テレビ〟だった。当初はアーティストがMCのもとにカーテンのなかから登場するオープニング演出で、ここ最近はMCの有働由美子氏とアーティストのトークに多くの時間が割かれた。

 そこには昭和・平成の音楽番組の亡霊の姿が漂っていた。かつてのTBS『ザ・ベストテン』(や日テレの『ザ・トップテン』)、フジテレビの『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』を彷彿とさせるその様式に、新しさはまったくなかった。忖度という旧弊を脱しながらも、番組フォーマットは古臭いのまま──これが、『with MUSIC』の限界を象徴していた。

YouTubeを使わない日本の音楽番組

 ただしより根深い問題は、インターネット活用がまるでできていなかったことだ。それは『with MUSIC』開始前のある事例を見るとわかる。

 2023年、YOASOBIの「アイドル」が国内外で大ヒットを記録した。だが、この楽曲が初めて披露されたテレビ番組は、日本の『ミュージックステーション』などではなく韓国・Mnetの『Mカウントダウン』だった。

 それはアーティスト側が十分なメリットがあると判断したからだ。国内で一回放送されるだけの日本の音楽番組よりも、YouTubeを通じて全世界に発信できるK-POP番組のチャンネルのほうが魅力的だったのである。番組で放送されたパフォーマンスだけでなく、ステージのikuraとAyaseのふたりを単独で捉える「チッケム」と呼ばれる映像もある。

 

 この事実は、日本の音楽番組の機能不全を示唆する、YOASOBIからのメタメッセージでもあった。

 K-POPがグローバルに浸透した要因のひとつは、テレビ局がオフィシャルに番組動画をYouTubeで公開したことにある。世界中のひとがその動画を視聴し、再生収益はテレビ局にも還元される。つまり、コンテンツの二次利用だ。これによって番組の価値もアーティストの知名度も同時に高まっていった。

 ところが日本では、『CDTVライブ!ライブ!』も『ミュージックステーション』も、そして『with MUSIC』も、これが実践できていない。

芸能界がテレビを迂回し始めた

 なぜテレビ局はYouTubeを使わないのか。

 筆者がさまざまな関係者に取材した限りでは、芸能プロダクションやレコード会社がそれを拒んでいる事実は確認できない。複数の芸能界の要人はともに「われわれの問題ではない」と口を揃える。

 それを裏付ける事実もある。昨年から音楽業界5団体が連帯して立ち上げたCEIPAが始めたイベント「MUSIC AWARDS JAPAN」は、YouTube配信を積極的に行っている。この動画のIPもCEIPAが保有する。

 

 このCEIPAには、日本の主要芸能プロダクションの事業者団体である音事協や音制連も名を連ねている。テレビ局がやらないなら自分でやる──これはテレビ局への静かな反乱とも受け止められる。同時に長年にわたってともに日本のポピュラー音楽を盛り上げてきた両者の蜜月が、静かに解体されつつあることも示唆している。

 

 では、なぜテレビ局はYouTubeを使わないのか? 考えられる理由はおもにふたつある。

 ひとつは放送収入(広告収入)が減ることへの懸念だ。YouTubeで配信すれば視聴率が下がり、CM価値が下がるという営業的な懸念を持っている可能性がある。

 もうひとつは権利処理スキームの未整備だ。出演アーティストのパフォーマンスを個別に切り出して配信するための法的・契約的枠組みが整っていない可能性だ。あるいは、そのスキーム処理をするマンパワー不足だ。

 なんにせよ、そこから読み取れるのは典型的な「イノベーションのジレンマ」だ。従来のビジネスモデルを守るために新たなモデルを確立できず、従来モデルそのものが徐々に衰弱していく悪循環──日本の音楽番組はその泥沼に完全に陥っている。

 昨年12月、テレビ朝日『ミュージックステーション』のゼネラルプロデューサー・藤城剛氏へのインタビュー記事が朝日新聞に掲載された(朝日新聞2025年12月26日)。タイトルは「Mステはなぜ生き残れたのか」だったが、その内容は同番組が瀕死の状態にあることを意味するものだった。

 藤城氏の「スタイルを守り続ける」「代々携わってきたスタッフのこだわり」といった発言は、実質的に思考停止の告白に等しかった。生き残りの秘訣を問われても前例踏襲しか語れない──これは『Mステ』だけの話ではなく、緩慢な衰退の責任をだれも問おうとしない現在の日本のテレビ界全体に漂う空気だ。

その船は確実に沈む

 放送で創ったIP(知的財産)を有したまま、二次利用することなく死蔵する。全世界のプラットフォームになったYouTubeは眼前に広がっているにもかかわらず。それは、ドラマや映画がむかしからビデオや再放送で二次利用されてきた歴史を踏まえても、テレビ局の判断として理解に苦しむ。

 今回のWBCをめぐる放映権でも露わになったように、テレビ局は守勢に回り続けることで新たなチャンスをみすみす失い続けている。

 日本テレビは、2022年から2024年まで中期経営計画のスローガンとして「テレビを超えろ、ボーダーを超えろ。」を掲げ、そして2025年から2027年までは「日テレ、開国!/日本発グローバルコンテンツメーカーへ」を掲げている。『with MUSIC』は、そのスローガンの両方をともに裏切る内容だった。

 放送収入が減る懸念があるなら、YouTubeで得られる新たな収益モデルを構築するしかない。ハードルが高いから、面倒だからという理由で消極策を取り続ける限り、テレビ局の未来はないだろう。韓国はインターネットを通じて海外市場を開拓することに成功した。同じチャンスはコンテンツ大国である日本にも開かれているはずだ。

 しかし放送利権にしがみついたまま沖に出ることを拒む船は、確実に沈むだろう──。

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Matsutani Soichiro/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。現在、朝日新聞論壇委員、NHKラジオ『Nらじ』にレギュラー出演中。著書に『ギャルと不思議ちゃん論』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』、『文化社会学の視座』、『どこか〈問題化〉される若者たち』など。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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