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ランサーが風邪を引いた話/Novel by れい

ランサーが風邪を引いた話

8,107 character(s)16 mins

タイトルそのまんま。よくある看病ネタっぽいのを、出来上がってる槍弓で。
看病ネタって美味しいですよね。
カルデアでいちゃいちゃしているふたりが書きたかったはずなんだけどなー。
ロビンフッド、ぐだ男、マシュも登場してます。カルデアの面々に生温く見守られている槍弓って何か可愛い。
ちょっとだけエロいシーンがあるので一応R15にしておきます。
続きました→novel/9932236

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ランサーが風邪を引いた話


 ランサーのクー・フーリンが風邪を引いたらしい。

「へぇ。あの殺しても絶対死ななそうな旦那がねぇ。てか、サーヴァントって風邪引くんです?」

 早朝から出掛けていた種火集めのレイシフトから戻り、マスター共々小腹を満たしに食堂に立ち寄ったロビンフッドは、土鍋を前にして病人用の雑炊を拵えていたエミヤにそう聞かされて、開口一番そう言い放った。

「正確には、風邪を引いたような状態だがね」
「それって風邪とどう違うの?」

 エミヤに出して貰ったマドレーヌをモグモグと咀嚼しながら、マスターが小首を傾げる。バターの風味も豊かなマドレーヌは勿論エミヤの手作りだ。

「マスター、風邪というのはウィルス感染が原因となる。ランサーの症状は風邪に酷似しているが、原因はウィルスではなく状態異常だ」
「状態異常」

 おうむ返しに状態異常という言葉を繰り返したマスターの前に、エミヤが新たな皿を差し出した。

「ああ。マスター、よければこちらのフィナンシェもいかがかね。レモンピールを使ったものと紅茶の茶葉を混ぜ込んだものを試作してみたのだが」
「やったー! いいの?」
「勿論」
「頂きます! 美味しそう!」

 今日のエミヤは何だか機嫌が良さそうだとロビンフッドは思った。いつもなら『夕食が入らなくなるだろう。君はまだ成長期なのだから栄養はバランス良く取らねばなるまい』とか何とか言って、夕食前のマスターにはおやつを与え過ぎないようにしている筈なのに。

「……で。なんでそんなことに? あの旦那、仕切り直し持ってるでしょうに」

 美味しいからロビンも食べなよと、マスターがグイグイと勧めてくるエミヤお手製のフィナンシェを丁重にお断りしつつ、ロビンフッドがエミヤに訊ねる。エミヤはといえば、雑炊に最後の仕上げの溶き卵を回し入れ、また土鍋の蓋を閉じるところだった。

「何でも、試作中の概念礼装のテストプレイに付き合ったそうだがね」

 エミヤの説明によれば、ダ・ヴィンチちゃんやキャスター連中が試作中の概念礼装に、攻撃と共に複数の状態異常を敵に与えるという効果を盛り込もうとしたらしいのだが、失敗した。
 
「本来なら敵に付与される筈の状態異常が、装備した本人に振り掛かったという顛末らしい」

 何故か装備した本人に状態異常が振り掛かった上に、その中にはスキル封印効果も盛り込まれていたらしい。その為、仕切り直しもできず、ランサーはぶっ倒れた。
 複数付与された状態異常の幾つかはテストプレイに参加していたキャスタークラスのサーヴァントに解除して貰ったが、副作用のようなものとして、風邪を引いたような状態だけが残ってしまった、というのが事の顛末らしい。

「あー。それはお気の毒に。てか、あの旦那も大概運が悪いねぇ」
「まぁ、兄貴らしいけどね。安定の幸運Eっていうかさ。ねぇ、エミヤ、兄貴の具合はどうなの?」

 フィナンシェを食べ終え、満足そうに膨れた腹をさするマスターがそう訊くと。

「そうだな、もう大分良くなっているようだが、まだ微熱がある。あまり食欲も無いようだ」
「あ、だからエミヤが食事を別に用意してあげてるの?」
「ああ。ランサーが卵雑炊がどうしても食べたいとごねるので、仕方なくだがね」

 仕方なくという割に、エミヤの顔にはどことなくウキウキとした表情が隠し切れずに浮かんでいる。
 これは、珍しく弱っているクー・フーリンの世話をおおっぴらに焼けるというのが嬉しくて仕方ないんだろうなと、ロビンフッドは当たりを付けた。
 ランサーのクー・フーリンとエミヤが、今回の現界では恋人同士として付き合っているというのは、カルデア内では公然の事実だった。
 といっても、これまでのふたりの関係というか因縁というか、そういった諸々が邪魔するのか、いちゃつくよりも喧嘩をしていることの方が多い。
 ベタベタと人目も憚らずスキンシップ(濃いめ)を取りたがるランサーに、照れたエミヤがキレて、限りなく本気に近い殺し合いに発展することもしばしばあった。
 きっと、ランサーは今回の自身の不運をちゃっかり利用して、普段はなかなか甘えさせてくれない恋人に心置きなく甘えるつもりなのだろう。
 あの男は転んでもタダで起きないタイプだとロビンフッドは思っている。そしてエミヤが弱っているランサーを放っておける筈がないのだとも。
 ロビンフッドがそんなことをつらつらと考えていると。

「あ、そうだ、ねぇねぇ、後で俺たち兄貴のお見舞いに行っても良いかな?」
「え!? 俺たちってもしかして俺も含まれちゃったりしてるのか、マスター!?」

 マスターの思い付きに巻き込まれたらしいロビンフッドの問い掛けはサラッとスルーされて。マスターの質問にエミヤが少しだけ考えて答えた。

「そうだな。大分退屈していたようだから、短時間なら大丈夫だろう。だが、あまり騒がしくしないでやってくれるか?」
「は~い、了解! ねぇ、ロビン、一緒にお見舞いの品選んでよ」
「なんで、俺が…」
「えー? いいじゃんいいじゃん。マシュも誘ってさ、オルレアン辺り行ってみない、ロビン」
「げ。わざわざレイシフトまでする気かよ、マスター。なーんか、嫌な予感するんですがねぇ……」
「ね、ロビン、お願い?」

 マスターの青い瞳に上目遣いで顔を見上げられて、ロビンフッドは思わず額を抑えて天を仰ぐ。
 英霊タラシの本領を如何なく発揮して、胸の前で両手を組んで「お願い」のポーズまでするところが、あざとい。多分、無自覚なんだろうけれど。
 大抵の英霊はこれで絆される、マスターガチ勢ならいちころだ。そういう自分も大概、マスターであるこの少年に弱いという自覚はロビンフッドにもある。
 めんどくさいなーとは思いつつ、この程度の我儘とも言えないお願いになら、何だかんだと付き合ってしまうくらいには。

「あー、もう分かりましたって! つきあいますよ、どこまでだって」
「やった! じゃエミヤ、またね!」
「ああ、マスター。また後で」

 やれやれといった調子で肩を竦めてマスターに引っ張られていくロビンフッドと、振り返って手を振るマスターを見送って、エミヤは出来上がった雑炊をトレイに乗せた。

*


「ランサー、私だ。入るぞ。具合はどうだ? 食事を持ってきたのだが」

 クー・フーリンの自室の前で、エミヤは立ち止まって声を掛けた。

「んー…。アーチャー? いいぜ、入れよ」

 エミヤの声掛けに、いつもより、掠れた声でクー・フーリンが答えた。気の所為か、声に張りも無いようだ。

「ああ、邪魔をするぞ」

 片手に土鍋と椀の乗った盆を持ち、エミヤが部屋に入ると、クー・フーリンはむっくりとベッドに起き上がって出迎えた。

「ランサー、熱は下がったか? 食欲はあるかね?」

 手にしたトレイをベッド横の小さなテーブルに置くと、エミヤは甲斐甲斐しくクー・フーリンの世話を焼く。
 寝間着代わりのTシャツ姿のクー・フーリンの肩に上着を掛けてやり、額に手を当て熱の具合を確かめる。

「良かったな。今朝よりは下がっているようだ」
「ああ、ちっと楽になった」
「そうか。君のリクエストに応えて卵雑炊を作ってきたのだが、食べられそうか?」
「……んー。その前に着替えてぇ。汗掻いて気持ち悪ぃ」

 寝起きの所為か、クー・フーリンはやや不機嫌そうだ。だが、そのぶっきらぼうな物言いがやけに幼く聞こえ、何だか子供のようだと思い、エミヤは思わず苦笑を漏らす。

「アーチャー? 何がおかしい?」
「いや、別に。後で体を拭いてやるから、先に食べたまえ。風邪の時は温かいものを食べて、たくさん汗を掻いた方が良い。着替えはそれからだ」
「……風邪じゃねぇんだがな。まぁいい、分かった。……おまえがそう言うなら、そうするわ」

 どうやらクー・フーリンはまだ眠いらしい。受け答えがやけに素直だ。いつもこのくらい素直で聞き分けが良かったら可愛いのに、と、エミヤは思う。後が恐ろしいので、口には出さなかったが。
 ただ、たまにはこんな風に、クー・フーリンの世話をしてやるのも悪くは無い。普段は、自分勝手にエミヤを振り回し、翻弄してばかりのクー・フーリンだが、こんな風にエミヤの手を必要とすることもあって。それが、何となく、嬉しいような気がした。
 エミヤが椀に取り分けてやった卵雑炊とレンゲを渡すと、クー・フーリンは黙ってモソモソと食べ始めた。

「……うめぇ」
「そうか、口に合ったようで何よりだ」
「おう。……てか、おまえの作ったもんで俺の口に合わない食い物なんてねぇよ」
「そ、そうか」
「おかわり」

 クー・フーリンが空の椀をエミヤに差し出す。空になった椀を受け取り、エミヤが残りの雑炊をよそってやると、クー・フーリンはそれもペロリと平らげた。

「ごちそうさん。美味かったぜ」
「それだけ食欲があれば、明日には全快出来そうだな」
「んー、そうだな。なぁ、アーチャー」
「ん? どうかしたか?」

 チョイチョイと手招きされ、エミヤがクー・フーリンに近寄ると。

「ぅわッ!?」

 いきなり腕を掴まれ、力任せに引き摺り倒された。クー・フーリンがエミヤの腕と腰を掴んだまま、身体を後ろに倒したので、エミヤがクー・フーリンに覆い被さる恰好となる。

「ら、ランサー!? 何を…ッ」
「……食後のデザート、喰いてぇなぁ」
「はぁッ!?」
「美味い飯の後は、やっぱ美味いデザートだよなぁ? そう思わねぇか、あーちゃぁ?」

 普段より幾分掠れた声で、クー・フーリンが甘ったるくそう囁いて。微熱で潤んだ瞳に見つめられて、その手のことに鈍いエミヤも、クー・フーリンの言う食後のデザートがどうやら自分のことを指しているらしいと気付き、見る見るうちに真っ赤になる。

「た、たわけ! 君は病人なんだぞ…ッ!」
「だってよー、しばらくお預けだったじゃねぇか」

 唇を尖らせて少しばかり拗ねたようなニュアンスの篭った台詞と共に、感じ易い腰の辺りをソロリと撫でられて、エミヤがビクリと身体を震わせる。
 確かに、お互いのレイシフトの都合などで、ここ10日あまりランサーとのセックスはお預け状態ではあった。
 本来なら、互いに明日が非番の日に当たっている今夜あたり、どちらが言い出すでもなく、そういうことになりそうな気はしていたのだが。
 如何せん、ランサーの身に突然降りかかった状態異常。その所為で、ウキウキと甲斐甲斐しく、滅多にできないランサーの看病にあたっていたエミヤの頭の中からはそういうピンクな予感など、すっかり消え去っていたのだ。今の今まで。

「…ン…ッ、あ、甘いものなら、さっき焼いたマドレーヌとフィナンシェを……、やめ……ッ」
「やめて欲しいのか? ……嘘吐くんじゃねぇぞ、アーチャー」

 腰を抱き寄せて、わざと耳元に吐息を吹き込むようにして囁くと、クー・フーリンのTシャツの胸元を掴むエミヤの指に力が入る。

「う…嘘じゃな……ッ! そ、そうだッ、き、着替えは…ッ!」
「一汗掻いたら、する。…なぁ、あーちゃぁ? ……抱きてぇ」

 サワサワと、エミヤの細く引き締まった腰の辺りから小ぶりな尻にまで掌を這わせながら、クー・フーリンは微熱の所為で勝手に潤む瞳でエミヤを見つめる。
 「……ダメか?」と、心細げに囁けば、これまた状態異常の影響で掠れた声が功を奏したのか、エミヤも強くは拒めないようで、口の中でモゴモゴとあーだの、うーだの呟いてはいるが、クー・フーリンの腕の中で大人しくなった。
 コレならどうやらいけそうだなどと、クー・フーリンは心の中でほくそえむ。
 エミヤの甲斐甲斐しい看護のお陰もあって、大分体調も回復してきたことだし、そうなるとクー・フーリン自身も、如何せん欲求不満気味になってきている。ソッチの熱もそろそろ何とかしておきたいと言うのが実情。

「なぁ。10日くらいシてなかったろ? おまえ、コッチの方はどうしてたんだ? 自分でシてたのか?」
「たわけ…ッ、そんな…こと…、するわけ、無かろう……ッ」
「本当かぁ?」
「あ、当たり前だ…ッ! 大体、貴様が…ッ」

 自分でシたら、お仕置き。

 カルデアに共に召喚されて、この関係を始めた当初に、クー・フーリンは真に自分勝手極まりない、一方的な決まり事をエミヤに押し付けていて。
 律儀なエミヤは、その理不尽な決まり事を真面目に遵守している訳で。
 というより、クー・フーリンの容赦の無いお仕置きで泣かされるくらいなら、自慰など幾らでも我慢のしようがある。
 元々、性的に淡白な方だったし、大体、そんな暇も無い程、欲しがるのはクー・フーリンなのだ。
 つまりは、今回初めてこの決まり事が適用されたことになるのだった。

「へぇ…? 俺との約束をちゃんと守ってんのか。はは、可愛いなぁ、アーチャー。だったらたっぷりとご褒美やんねぇとなぁ」
「い…、要らな…、要らんと言うに……ッ! 馬鹿ッ、いい加減に…し…ッ、ン……、ぁ…ッ」

 クー・フーリンは、器用な指先で、エミヤの赤い上着の飾り釦を外し、早くも半分以上脱がせ掛けている。
 それでも躊躇うエミヤがその手をギュッと掴むと、今度はもう片方の手でベルトを抜き取り、腰布を取っ払った。
 そうして、エミヤを第二再臨の状態まで剥くと、クー・フーリンは、エミヤのズボンを押し上げ始めているモノのカタチを、布越しに意地悪く辿った。

「意地張んなよ、アーチャー。ほら、もうこんなだぜ?」
「そ、ソコを、触るな…ッ! ぁ…ッ」

 エミヤの身体のラインにぴったりと沿ったノースリーブのインナーをたくし上げ、綺麗に割れた腹筋の筋を確かめるように手のひらを這わせ。ギリギリ露出していない乳首を、黒い布地の上から舌で突く。
 滴る蜜のようにいきなり甘く濃厚になった空気に、それでもエミヤはランサーの顔の脇に両手を付いて突っ張って、抵抗を試みるが。

「なぁ、……俺におまえを抱かせてくれねぇの、エミヤ?」
「う……ッ」

 微熱に潤んだその赤い瞳でジッと見つめられて。普段より低く掠れて、なのに艶を増したかのようなその声で、甘えるように乞われて。
 クー・フーリンの手管に、エミヤがうっかり押し流されそうになった瞬間。

*

「ランサーの兄貴ー! お邪魔しまーす! お見舞いに来たよー! ドクターからシュークリーム貰ったんだ!」
「はいはい、お邪魔しますよっと」
「こんばんは、ランサーのクー・フーリンさん、エミヤ先輩。差し入れをお持ちしましたので、良かったら召し上がって……、って、え、え、え?」

 声掛けもそこそこに、ドアを開けて入ってきたのは、マスターとロビンフッドとマシュだった。
 そして、ほぼ半裸に近い状態でクー・フーリンに圧し掛かっている(ように見える)エミヤを見て、当然のことながら、三人揃って固まった。
 突然の事態に、振り返ったエミヤもクー・フーリンの上で硬直。マスターが見舞いに来ると言っていたことが、すっかりエミヤの頭からは抜け落ちていた。
 おおよその状況はドアの開く音と聞こえてきた声で把握出来てはいたが、ベッドに横たわるクー・フーリンからは、入口のところで固まっている3人は見えない。
 いつまで経っても立ち去る気配の無い3人に焦れて、これでは埒が飽かないとばかりに、エミヤの身体の陰から顔だけ覗かせたクー・フーリンが、冷静に告げる。

「おう。悪いな、マスター。見ての通り取り込み中だ。欲求不満のアーチャーに襲われてるまっ最中でよ」
「なッ!?」

 何を言い出すんだ、この馬鹿者がッ! 襲われてるのは私の方だッ! …とは、流石に言えず、エミヤが真っ赤になって絶句していると。

「わ、わわ、わッ! み、見ちゃダメだ、マシュ! マシュにはまだ早い!」
「え、わ、せ、先輩!?」
「おっと、マスター、アンタもなっと!」

 目にした状況の情報処理が漸く脳に届いたらしいマスターが、テンパりながらも持っていた箱を投げ出し、びっくりして手にしていた籠を落としたマシュの両目を塞ぐ。
 それを見たロビンフッドが慌ててマスターの両目を塞いだ。

「……いや、今更だろ、それ。ここはさっさと見ないふりして出ていくトコじゃねーのか?」
「「「あ」」」

 クー・フーリンの呆れたような声に、3人がそれもそうかと気付いたところで。
 ゆらりと幽鬼のように身体を起したエミヤが。

「……I am the bone of my sword.」
「げぇ!? 逃げるぞ、マスター!」
「な、ちょ、待て待て待て! やめろ、アーチャー! 俺が悪かった!!」

 宝具解放の詠唱を始めたエミヤを見て、我に返ったロビンフッドがマスターを肩に担ぎ、マシュの手を引いて全速力で走り出していった。
 部屋の中からクー・フーリンの悲鳴じみた声が聞こえたが、知ったこっちゃない。あれは絶対青い槍兵の自業自得だ。

「エミヤー! 令呪をもって命ずー! カルデア内で宝具解放は禁止だからねー!」
「ランサーのクー・フーリンさん! エミヤ先輩! お見舞い食べて仲直りして下さいねー!」
「アンタら暢気だな!?」

 遠ざかる足音と、3人の声を聞きながら。マスターの置き土産の令呪で宝具解放を禁じられたエミヤは、地獄の底から響くかのような低い声で、クー・フーリンに言い放った。

「……地獄に落ちろ、ランサー」

*


「……あー。で、おまえは俺に、コレをどうしろって?」

 デンッと、クー・フーリンの前に差し出され箱の中には、見るも無残なグシャグシャになったシュークリーム。
 生クリームとカスタードクリームがたっぷりと詰まったそれは柔らかく、しかもテンパったマスターが思いっ切り投げ出した所為で。見るも無残にひしゃげて、潰れていた。
 べっとりはみ出したクリームを見て、クー・フーリンがげんなりした表情を浮かべる。
 部屋の中はバニラの甘ったるい匂いに満たされていたが、ふたりの間に漂う雰囲気には、甘さなどこれっぽっちも漂ってはいない。エミヤが、静かに怒っているのだ。

「……ランサー。貴様が欲しがっていた食後のデザートだぞ。良かったな」
「お、おう。……あー。グチャグチャだな」
「マスターからの見舞いの品だ、私たちは良いマスターを持ったな」
「……イイところで邪魔してくれなきゃ、もっと良いマスターだと思うがな」

 あんな場面を見られたと言うのに、この男はまるで反省する気配も無い。

「……ランサー」
「ん? どうした、アーチャー? 仕切り直して続きするか?」

 差し出されたクー・フーリンの手をバシッと払い落とすと、キレたエミヤが、おもむろに箱の中のシュー・クリームを鷲掴みにしてクー・フーリンの口元に押し付けた。

「するわけ無かろうッ! 四の五の言わずに食えッ! 食ってさっさと治せッ!」
「んむッ!? な、何、すんだよ…ッ!? ちょ、ちょっと待てよ、アーチャー! 落ちつけ! 俺は病人だぞ!? 病人相手にこの仕打ち! ちょっと愛が足んなくねぇか!?」
「うるさいうるさいうるさいッ!! 貴様のどこが病人だ!? 病人があんな真似するかッ!! いいから早く食え!! 食ってさっさと寝てしまえーーーッ!!」

*

 ――クー・フーリンが怒り狂う恋人を宥めるのに、果たしてどれだけ時間が掛かるのか?
 ふたりの痴話喧嘩に巻き込まれかけたマスターが、食堂でお茶を飲みながらそんなことを言い出したお陰で。
 面白がったサーヴァントたちに、ロビンフッドが賭け事の胴元にされてしまったのはまた別の話。


<了>

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