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【槍弓】商店街に新しいカフェができたらしい/Novel by 日月

【槍弓】商店街に新しいカフェができたらしい

6,413 character(s)12 mins

なんでも花も配ってるんだとか。
礼装ありがとうございました……。ホロアタ? えみご?でもマスター的にどこだ?って感じの謎時空です。フラワーカフェ時空ということで一つ。割りとデレ度高めな気がします。
ホロアタを進めてるところなんですが、アーチャーやランサーが子ギルをなんて呼んでいるのか分からなかったので間違ってたらすみません……。礼装が嬉し過ぎて書こうと思っていたもの放り出して書いてしまいました。
たくさんのフラワーカフェ話が上がるんだろうなあとかきっとアンソロも出るんだろうなあとか、考えるだけでわくわくします。

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 カフェの経営は料理ができれば始められるというものではない。場所が必要だし国への届け出も資格も必要だ。調理器具も揃える必要があるし業務用厨房機器は高額だ。安定した数を作るために仕入れ先を探さなければならないし調理をしたものをサーブする人員も必要だ。そもそもサーヴァントが店を開く、だと?
 カフェで料理をしてください、と有無を言わさぬ様子で伝えられて一息に問題点を挙げたが、小さい英雄王はにっこりと笑ったままだ。
「ボクが準備をしないまま声をかけると思いますか? 場所は駅から徒歩五分の商店街、届け出についてはうまくやってあります。何かあった時のために食品衛生責任者と防火管理者の資格は取っておいてもらえると助かりますけど。水回りの施工はもう済んでますし、機器は発注済です。設置は使用するアナタの都合の良い場所にしてください。調理器具もご自分で選びたいだろうと思って用意してません。投影してもらっても構いませんが、数十万は使ってもらって大丈夫ですよ。仕入れ先も聞いてからが良いだろうと思ったのでまだですが、どうとでもします。少なくとも良い茶葉はアナタのマスターがご存知では? お屋敷で毎日淹れてるんでしょう?」
 自分が訊ねた以上に返された。
「サーヴァントですが、経営します。人間だって突然いなくなることがあるんですから別に問題ないでしょう」
「何故私に……」
「愚問ですね。やるからには評判の良いカフェにしたいからです」
 自分の意思なのかマスターの命令なのか。悪意は感じないが。
「凛に相談を」
「根回し済です。今特にやることもないのでお屋敷の整備がきちんとされていれば自由にしていいとのことです」
――凛。
 パスを繋ぐ。
――小さい英雄王が。
――ああ、カフェの話? ごめん、言い忘れてたわ。好きにしていいわよ。
 あまりにあっさりと許可が出る。宝石でも積まれたか? 八方塞がりだし、何より厄介なのは興味を惹かれている自分自身だ。
「週に何回かならば」
「ボクは他に料理人を雇うつもりはないのでアナタの出勤日が営業日になりますね。まあでもすぐに毎日でも来たくなりますよ」
 意味深な笑顔に不穏なものを感じる。
「報酬はお金でも良いですが、アナタなら宝物庫の見物とかの方が良いでしょうか」
「よし承ろう」
 うっかり即答でカフェで働くことを承諾した。

 準備はつつがなく進んだ。子供の姿では何かと不便なことも多いだろうに英雄王は手際が良い。店のコンセプトは「癒される非日常」とのことだった。どうやって非日常で癒されるのか、矛盾していないかと聞いたらアナタは日常の方が落ち着くんでしょうけどねと返された。馬鹿にされているような気がしないでもなかったが心地の良い空間を作ってくれれば良いと伝えられてまあイメージはついた。あくまでカフェということでフライヤーなどは入れないし、飲み物も自分で淹れるので器具は必要ない。結局食材を保管するための業務用冷蔵庫と冷凍庫、ケーキやピザを作るためのオーブンと小さめのショーケースで事足りた。調理器具と食器は自分で小売店に足を運んだ。英雄王は端から付き合う気がなく、お任せします、の一言で済ませた。本当に経営者にしかなるつもりがないらしく、店長という立場まで私に押しつけてきたぐらいだ。いくらなんでも、と断ろうとしたらボクが店長として表に出る訳にはいかないでしょう、と言われてしまった。確かに、中身はともかく外見が子供では難しいだろう。店員も選んで良いですよという言葉は固辞したが。誘いたい者はいないでもないが、人事にまで口を出しては私の店のようになってしまう。
考え事をしながら片付けをして後は食材が運ばれるだけ、という所まで整えて息をついて天井を仰ぐ。天井からはチューリップを逆さまにしたような白いシンプルなライトが並び、格子状に組まれた枠からは籠がいくつかぶらさがっていた。開店前日の明日には花が搬入されて飾られると聞いている。テーブルカウンターが設置された頃から毎日花瓶に花が活けられていて、花自体は変えられていなかったがきちんと手入れがされているようだった。数日間とはいえ生花なのかと疑う程生き生きとしていたので花についての知識が確かな者がいるんだろう。感心していたら英雄王に全く、と苦笑されたが。私が花に興味を持つのが意外だったんだろうか。花籠に花が溢れている様子を想像するだけでも美しいと思うんだが。
 花といえば、と連想された花屋のバイトをしていた男に思いを馳せる。何故だか此度の現界でいつの間にか恋人という関係になった男、ランサーにはまだ店のことは話していなかった。完璧な状態になった店に訪れてほしくて。開店予定日には用事があると言っていたので翌日にでも招くつもりだ。

 開店日前日、大量の花と共に現れた者と対面して、
「いや」
「なんで」
 二人で絶句した。考えてみれば分かることだった。サーヴァントである英雄王の知り合いということは人ではなくサーヴァントである可能性が高い訳で、花を扱える者となれば限られている。立ち会っていた英雄王をランサーと同時に見遣ると、楽しそうな顔をしていた。
「では後は若いお二人で、とでも言いたい所ですが、多分方針が決まるでしょうからボクももう少しいますね」
 コンセプトと、軽食とデザートの提供をすること、店内に花を飾ること、営業は不定期になること。開店前日にも関わらず決まっているのは最低限のことのみで、他のことは後々決めましょう、と言われていたが、なるほどランサーがいるのならば多少の無茶は通る。
「店が軌道に乗ったら呼ぼうと思ってたんだがなあ。アーチャーがいるなら、客に花を一輪渡したいんだが」
 切り替えは僅かにランサーの方が早かった。
「何故私がいるならなんだ」
「花って恋人に贈るもんじゃねえの。お前がいない所で差し出すのはちょっとな」
「こっいや、恋人に贈ることもあるだろうが別に親しい人にも渡すし店で配っても問題は! ない!」
「ふうん。じゃあ毎朝お前に渡してから客にも配るわ」
「せっかくの花を店の中のみに留めておくのももったいないし、ランサーが渡せば見栄えもするだろう」
 せめてやり返そうと思って言うと、ランサーはにやにやと笑うだけだった。
「ランサーがいるなら、デザートをオーダーメイドにしてみたいんだが」
 咳払いをして話題を変える。
「オーダーを受けてから作ると時間がかかりませんか?」
「軽食とかドリンクとか提供するうちに簡単なものなら作れんじゃねえ? 事前予約制にしてもいいし」
「容易いことのように言ってくれる」
 自分で言い始めたことではあるが。
「できんだろ?」
「やってみせよう」
 注文を受けてからケーキを焼いたりといったことは時間的に難しいが、予め用意しておいたゼリーの組み合わせを変えたりソースを変えたりといったことならできるだろう、と頭の中で算段をつける。
「よし! 味見ならいつでも付き合うぜ?」
「少しだけなら食わせてやる」
「惚気合いは終わりました?」
「自慢話などしていない」
「最近のコイツオレのこと褒めるのが通常運転なんだわ」
 ランサーは嬉しそうに笑う。
「アナタも大概だと思いますが」
「オレは分かってやってる」
「……準備は進めないのか?」
「おう、やろうぜ」
 トラックからバケツに入った花を持ち込むランサーを手伝う。英雄王はまた終わった頃に来ますと告げて去っていった。
「仕込みとかはいいのか?」
「軽食ばかりだからな。ケーキは明日早めに来て作る」
 ランサーの指示に従って花を設置していく。途中で、今日の花、と一輪の白い椿を渡される。
「開店前だぞ」
「予行演習ってことで。お前がいるって知ってたらバラでも持ってきたのにな。まあ椿も紛れ込んでた一本なんだが」
「バラなら女性にも喜ばれるんじゃないか」
 バラの紅茶に添えて、なんていうのも好まれそうだ。後はランサーに似合いそうな花。菜の花とか明るい花が良いだろう。パスタに入れるのもありか。
「分かりやすい花だけどな。香りが結構キツいだろ。料理と一緒に置くにはどうかと思ってな」
 ランサーの横顔を見つめる。
「何?」
 視線を花籠に向けたまま手を止めずにランサーが問うてくる。
「いや、考えてるんだなと思ってな」
「まあ請け負ったからにはな。作るのがお前なら尚更、料理を引き立ててやるようにしないとなあ」
 置いたばかりのスズランをそっと撫でるように触れる。
「花に劣らぬ料理を作らなければならないな」
「お前の負けず嫌いで張り合ってくる所、好ましいな」
 今度は目を合わせて言ってくる。待て、なんのスイッチが入った。
「今までデートらしいデートもできなかったが、一緒に店にいられるなら」
 距離をつめてきてするりと腰に手を回される。
「くっつき放題だな?」
「っあまりしつこいようならクビにするぞ」
「オレがいないと困る癖に」
「貴様程上手く店を回せるものはいないだろうからな」
 照れ隠しながら本気で褒めているのは伝わったんだろう。ランサーはすりっと一度頭をすり寄せてからさて続きやるかーと伸びをした。
「期待に添えるように頑張りますかねっと」
「せいぜい励め」
 戦闘における肉体的な疲労には慣れているが果たして心臓の方が持ち堪えられるだろうか。

 極力音を立てないようにしてケーキを作っていく。泡立て器を回す音にもオーブンをつける音にも起きなかったランサーは、ケーキの焼き上がった香りには目を覚ました。
「寝てた?!」
「ああ。とても気持ち良さそうに」
 笑いながらランサーの前に皿を置く。ランサーが飛び起きた拍子に活けていた椿が跳ねる。茶葉を蒸らし終わった紅茶もカップに淹れて横に置いた。
「タイミング良く目覚めたな」
「作ってる所も見たかったんだが」
 悔しそうなランサーにまた笑みが零れる。かなり早い時間から準備をするので無理に来なくとも、と言ったのに見に行くと言って店にやってきたのだった。前日準備が夜遅くまであった上に今朝も花の点検をやったりレジの用意をしていたので結局カウンターで突っ伏して寝てしまっていたが。
「レモンタルトと、アールグレイか?」
「正解だ」
 レモンタルトは季節のメニューとして考えたものの一つだ。旬はもうすぐ終わってしまうけど、バリエーションをつけるために作った。甘味の中にほんのりとアクセントになるように苦味を残している。ランサーはレモンタルトではなく横に添えた小さな葉を手に取る。
「シャムロックねえ」
「皿にまで草花を添えるのはやり過ぎだろうか」
 ランサーにもらうばかりなのも、という対抗心から添えたものだが。
「いや、メニューによってはあってもいいんじゃねえ? なんかアイスの上にも乗ってたりするだろ」
 ランサーはご機嫌な様子でレモンタルトにフォークをいれる。
「ミントは香りづけのためだろう」
「見た目のためじゃねえの」
 大口の中にレモンタルトが消えていく。真剣な表情で咀嚼して首を傾げる。
「酸味が強いな?」
 気に入らなかったか。ショーケースに入れようとしていたタルトを下げようとすると、待て待て待て、と制止の声がかかる。
「美味いってのは大前提としてあるから言わなかっただけだ! 早とちりすんな!」
「口に合わなかったかと」
「女ならもっと甘い方が好きなのかなーと思っただけだ。つうかオレの好みでメニューを決めるな」
「君の舌なら確かだろう。客が女性ばかりとも限らないし」
 ランサーは気を落ち着けるようにカップを手に取る。口に含んでなるほど、と呟く。
「アールグレイってベルガモットの香りだっけか。柑橘系同士だと確かにタルトを強めにしないと印象に残らないな?」
「よく覚えられてるじゃないか」
「お前が散々講釈を垂れたからなあ」
 昨日花を準備しながら、店員としてオーダーを取ったりするならば最低限の知識は必要だろう、とメニューだの紅茶の種類についてだのを説明していたのだ。
「レモンティーが存在するぐらいなんだから、他の紅茶とも合うだろう。レモンタルトを注文するなら酸っぱさもある程度期待するだろうと思ってあえて残したんだ」
「飲み物との組み合わせによってだいぶ印象変わりそうだな」
「客の好みもあるだろうから、迷っている客がいたら君が上手くカバーすればいい。得意だろう」
「ハーブティーとの組み合わせを考えると果てしないな。ひとつずつ覚えてくしかねえなあ」
 言葉の端々から一時的なものではなく長い期間をかけて店を切り盛りしていこうというランサーの気持ちを感じる。考えこんで顎に当てていた手を取って、唇にキスを落とす。
「確かにちょっと酸っぱいな」
「おまっお前がくっつくなって言ったのに!」
「ちょっと魔が差した」
 何事もなかったように屈んだことでヨレたコック服を整える。カウンター越しに客にも見えるのだからだらしない格好をする訳にはいかない。
「お前とのキス、果物の味ばっかりだ」
 背を向けて準備の続きをしようとするのに声をかけられる。ぴく、と反応しそうになる身体を抑えこんだ。
「初めての時はイチゴの味だったし」
「直前に食べていたんだから当然だろう」
 イチゴを口に含む姿に我慢できなかった、というよく分からない言い訳は本人から聞いたことがある。まあ食べる姿に愛しくなる気持ちは分からないでもないが。不意打ち過ぎてしばらく呆ける羽目になった。
「仲が良いのを喜ぶお客さんもいると思いますけど、程々にしてくださいね」
 ランサーと二人で肩を跳ねさせる。いつの間にか小さな英雄王が店内にいた。気配遮断スキルは持ってないはずだが!
「むしろ、恋が叶う店とか銘打ちます?」
「勘弁してくれ」
「どうにかしてほしいのはボクの方です」
 肩を竦めて手を鳴らす。
「さあ、開店の時間になりますよ? すでに扉の向こうにお客さん来てますから。準備はいいですか?」
「当然」
「問題ない」
 英雄王が従業員用の扉の奥へと消えていくのを見送ってから、ランサーは私の顔を見る。頷く私を見て、店の扉を開ける。後ろ姿しか見えなくてもランサーの表情は想像がつく。
「いらっしゃいませ、お嬢さん。ゆっくりしていってくれや」
 きっと満面の笑みを浮かべながら、客を迎え入れるのだ。

Comments

  • くらはの
    March 10, 2021
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