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憂鬱で幸福な日常 1/Novel by あじふ来@ついった生息

憂鬱で幸福な日常 1

2,918 character(s)5 mins

槍弓です。UBWのラストからの話。ネタがあれば続く方向で。□評価、ブクマ、タグ、デイリ入り有難うございます!/わっふる&続き→うおお有難うございます!わー予想以上に反応いただけて嬉しいです^///^やる気出てきましたー!!/スクロールバー→スクロールさんはただいまアップ運動をしております!もう少しお待ち頂けたら嬉しいです☆/脱がし上手→いいのかい?そんなホイホイ脱いで…(゜∀゜)有難うございます!ちょっと続き書いてきますー!

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「私ともう一度契約して…っ」

いつも強気な少女が切なげに瞳を揺らしそう告げる。
それに笑みを返し、やんわりと断った。
信じた理想の果てへと辿り着き絶望を抱いた。
世界からの脱却を渇望した。
けれど原初の自分は自分を持ってしても折る事が叶わなかったのだ。
つまり衛宮士郎の抱いた理想は自身を持って間違ってはいなかったのだと証明された。
ならば自分は戦い続けられる。
理想を追い続けられる。

「アーチャー…」

大きな瞳に浮かぶ涙。
気丈な少女が駆け寄ってくる。
せめてそれを拭ってやろうかと指を伸ばした――――瞬間。
すり抜けて懐に入った少女はあろう事か膝蹴りを叩き込んできた。
完全に油断していた所為でよろめくが、サーヴァントにアタックした少女の方がダメージは大きかろう。そう思い見やるがわざわざ魔力で強化していたのか、涼しい顔で着地した。
腕を組み仁王立ちする姿はいつもの遠坂凛である。

「かっこつけたってダメなんだから!大体あんた、慎二の奴に私を売ったわよねぇ」
「う…それは…」
「こちとら死にそうになったんだから、その報いは受けて貰うわよ!」

しっかりと腕を掴んで来る細い指先。
わずか震えるそれに気付き、苦笑する。
苦笑して―――観念した。
そもそもこの少女は在りし日に憧れを抱いた存在であり、多分、初恋だったのだ。
そんな存在に、どうして勝て様か。

「解ったよ、凛。君が死するまで、私は君に仕えよう」
「そう、初めからそう言えば良いのよっ」

満足げに笑う少女は、やはり想い出のままに可憐であった。契約の言葉に従い再びサーヴァントとしてこの時に存在を固定する。
少女の寿命など今までさすらって来た時間に比べれば微々たるものだ。
ならばこの可愛らしい主の我が儘に付き合い寄り道をしたとて、咎められまい。

「よっし、じゃあアーチャー!取り合えず士郎を家に運んでから、あいつを召喚するわよ!」
「あいつ?」
「ランサーよ」
「は?」

予想だにしない言葉に思わず間の抜けた声を出してしまう。
しかし少女はさも当然の様にふんぞり返り告げた。

「私、貸しも借りも嫌いなの。貸したものは返して貰うし、借りたものは返さなきゃ気が済まないのよ。ランサーには助けられちゃったから、それを返さないとね」
「…凛、君は解ってるのか?聖杯の力でも呼び出せるのは七人。それが一介の魔術師に呼び出せる筈も無いし、私とランサー、二人も抱えるには膨大な魔力が必要なのだぞ」「ふん、それぐらい何よ。私は遠坂の跡取りですもの。やってみせるんだから」

強く見上げてくる青。
そんな事は無理だと言いかける言葉が溜め息に変わる。
恐ろしい。
この少女ならばやってしまうのでは無いかと思ってしまった事が恐ろしい。
もうすっかりと毒されている気がする。
ずんずんと迷いなく歩いて行くマスターの背を見やりながら、英霊エミヤはただ苦笑を漏らしたのだった。


―――…


「ほー、そんで、呼び出されちまった訳か」
「そう言う事だ。"あの男の事だからまだ座に戻らずふらふらしてる筈よ"と凛が言っていたが…まさか本当に出てくるとはな」

エミヤは目の前にいるかつて死闘を繰り広げた男―――クー・フーリンをジト目で見やった。凛に喚ばれ現れた男は説明も無いまま迫られた契約を、何とも軽く二つ返事で受けたのである。

「嬢ちゃんの事は中々気に入ってるからよ。まあ消化不良な戦いだったし、もうちょい居るのも悪くねぇかと」
「全く…どいつもこいつも行き当たりばったりだな」
「小難しい事ばっか考えてたら人生つまんねぇぜ?」

もう死んでいるだろうが。
溜め息に混じってはツッコミにもキレが無い。
本当にサーヴァントを二人自らの魔力で維持している少女は、説明も丸投げして衛宮家に出向いている。

「全く…」
「あ、そういや嬢ちゃんに聞いたんだけど、お前あのボウズなんだってな」
「……!」

急な言葉に飲んでいた紅茶を吹きかける。
ガチャンとそれをテーブルに置きクーに視線をやると、存外近くに顔があった。ぎょっと目を見開くが、覗いてくる瞳につい思考を奪われる。
強く何処か神秘的な輝きを持つ赤。
そう言えばクー・フーリンとは、確か半分神なのだったか。
自分の様なただの人間から成り上がった逆しまの英霊とは違う、正真正銘神話時代の魂。
その神核の高さは本来なら気後れする程のものだろう。
故に瞬間、見惚れてしまった。
しかしそれが油断となり、不意の接触を許してしまう。
むに、と確かな肉体の接触。
唇に降ったそれの正体を認めた瞬間、カッと顔が熱くなった。

「な、な、なにすんのさ!」
「お、その口調、ほんとにボウズだな」
「………!」

にやにやと楽しげに笑う男。
慌てて口を押さえるが発してしまった言葉は取り戻す事が出来ない。ならばこの男―――ないしこの男の記憶を無くす他あるまい。
イメージを思い描く。
そう、手にするのは頭を殴れる様な鈍器。
巨大なハンマーなどが望ましい。
眉根を寄せながら目を閉じる。
冷静に考えてみれば、その時点でもうテンパっていたと言える。
無防備になった唇をもう一度奪われ、ショートした思考で現れたのはピコピコハンマーであった。

「ははは、なんだそれ…っ」
「く…っ君が変な事をするからだろうが…っ」

腹を抱えて笑う男の頭を仕方無くそれで叩くも、ピコピコと間抜けな音が鳴るだけだ。
しかし作り直すには動揺が大きすぎる。

「だ、大体あれだけ敵対してた相手にな、何を…っ」
「まあ今は同じ主人になった訳だし、仲良くしようやって感じで」それにお前の反応面白いし。
悪びれも無く言う男に殺意が湧く。
日本人にとってキスは挨拶では無い。
好いた者とするべきだ。
そう考えた自分に、今度は自己嫌悪が湧いて額を押さえた。

一体何処の乙女なんだ、私は。

名も国も居場所も全て棄てて生きてきた筈だったが、根本の性格も思考も結局ついて回る。
結局此処に戻ってきたのもやはり縁なのだろう。

「私は君と仲良くする気は無い。あと相手の承諾も無く口付けるのはセクハラだからな。せいぜい訴えられぬ様に気を付ける事だ」
「へいへい」
「む、ちゃんと聞いているのか君は」
「聞いてる聞いてる。あ、紅茶おかわり」
「はぁ…」

溜め息を吐いて紅茶を注ぐ。
本当に何の為に自分は現界しているのだろうか。これから始まるであろう戦いの無い日々に、日常を忘れていた英霊はただただ頭を痛ませるのだった。



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