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槍弓で戯言パロ/Novel by 朱星

槍弓で戯言パロ

3,160 character(s)6 mins

匂宮槍×時宮弓で戯言パロ。書いてて楽しかったです。

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 その蹂躙に理由など非ず。

 時宮を見つけたら殺せ、と。匂宮ならば全員が全員、そういう風に教育されている。《猛犬》とて例外ではない。
 あんなもの一目で分かる。
 血と絶望の臭い。その身の内から溢れる腐臭。全身が嫌悪に泣き叫ぶような感覚。だから、今回も。
「ちょこまかとっ!逃げてんじゃねぇぞ時宮ァ!!」
 高層ビル内全土に響き渡るような怒声を上げる。だが一切の気配がない。時宮どころか一般人の気配すら、だ。なるほど、避難させたか。どうやらこの時宮は平和主義らしい。呪い名らしくないやつだ。
 そのくせ濃い血の臭いを纏っている。
 不快である。不快である。一体どんな仕事をしていたらこんな――。
「うるさいぞ匂宮。迷惑だ」
 ひやり。首元に冷たい刃物が当たった。すっと滑らかに刃を引く寸前、しゃがみ込んでそれから逃れる。しかし避けきれなかったらしい。薄皮一枚切れた。鮮血がにじみ出る。
「手慣れてんな」
「意外かね?」
「お得意の想操術はどうしたよ」
「…あぁ、そんなもの、」

 ――君程度に必要ないだろう?

 そうしてようやく男の顔を見た。褐色の肌。老人のような白い髪。小馬鹿にしたような声。肩を竦め、皮肉気に笑うその立ち姿。どれもこれも一級品だ。
 あぁ。
「…癇に障る」
 そのままの体勢から、米神に上段蹴りを叩き込む。不意を突いたその一撃に対応しきれなかったらしい。立ち上がり、壁をぶち抜いてふっ飛んだ時宮の元へ向かった。呼吸音は消えてない。息の根を止めなければ。それは時宮なのだから。
「おい、起きろよ。相手しろよ。煽ってんじゃねぇ。侮ってんじゃねぇ。匂宮雑技団を舐めてんじゃねぇぞ時宮。お前らみてぇな呪い名ごときが、殺し名序列第一位を見下した罪は軽くねぇ」
 空気が揺れた。随分とお粗末な想操術だな、と溜め息を吐く。術者が術の発動を悟られるなど児戯にすら劣る行為だ。頭を掻きながらこれは外れかと、落胆していたその時だ。
「っ!?」
 膝が崩れ落ちた。力が入らない。立ち上がることすら困難な状態に突如陥った。
「奇野の毒はいかがかね」
 がらがらと瓦礫の中から現れた男は、体に着いた砂埃を払いながら近寄ってきた。
「テ、メェ――」
 所属組織は一つしか許されないはずだ。そういうものだ。裏切りなど。背信など。この暴力の世界において、何人たりとも――。
「言っておくが、私は時宮にしか所属していないぞ」
 声が出ない。
「こんなもの、ただの真似事だよ。猛犬殿。知識さえ有れば誰にだって出来る」
 体が動かない。
「闇口のような隠密行為も、奇野のような毒使いも、零崎や石凪のような異常とは程遠い」
 あぁくそ、こいつばかりは出したくなかったが。
「頭を使うべきだったな匂宮。強者の驕りは命取りで、しか、」
 時宮が目を見開き、驚愕の色に染まっていく。
 それもそうだろう。先程までなかった禍々しい尾が、目の下の刺青が、鋭い鉤爪が、クーフーリンに。
「――出ろオルタ。こいつぶっ殺せ」
「――了解」
 凶悪な笑みと共に入れ代わった。

***

 無理矢理に動かしているせいか、腕を振るい、足を進める度に全身の至る所から血が噴き出る。痛みを伴い、じわじわと限界が近付いてくる。
 だが、それがなんだというのか。
 殺せればいい。目の前の敵を屠れればそれでいい。それで自分が息絶えようと何の後悔もない。
「オルタァ!! お前やりすぎんなよ!? 次の仕事もう入ってんだからな!?」
「あぁ? うるせぇな。黙れよランサー。元はと言えばテメェがしくじったんだろうが」
「生活費!! オレの生活費!! お前が稼げねぇからオレが表になってんだろうが!!」
「知るか、黙れ、引っ込んでろ」
 ぶちりと強制的にリンクを切り、時宮がこちらに叩き付けようとした肌色の塊を殴り飛ばす。じん、と腕に痺れが走り、そのまま感覚がなくなった。今度は何が起きた。
「ブラックジャック相手に! そんなっ、防ぎ方っ、は、初めてっ、だ…!」
 罪口の真似事も出来るとは何とも器用な男である。ぜぇぜぇと息を切らし、全身に切り傷を負いながら――俺の相手をしながら――生きている相手は、初めてではないだろうか。
「くそっ!」
 頭上へ落ちてきた刃物を尾で弾き飛ばし、その内の一つを投げ返す。しかし時宮は持っていたブラックジャック(とういうらしい)を盾にして防いだ。そうして身を隠す。気配がない。
「…だがまぁ、いるんだろう。ここに。」
 ならば、息を。
 吸って。
 吸って。吸って。

「――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 衝撃波と成り果てた空気は確実に当たった。証拠に血の匂いが濃くなっている。足を引きずりながら時宮がいるだろう所に向かう。周辺を見回すと壁に罅が入っていた。破壊しきれなかった辺り、毒の解除は未だ出来ていないのだろう。全く、何のための人格分裂か。
 溜め息を吐きつつ、瓦礫の山の中から褐色の腕を掴んで引きずり出す。先程の攻撃で気絶したらしく、その目は閉じている。
「生きてんのか」
「頑丈なやつだな」
「おい出てくんな」
「少しくらいいいだろ」
「…何を考えてる?」
「いやな? こいつ便利そうだなぁと思ってよ」
 自然と吊り上がった口角を元に戻す。全く、コイツはろくでもない。
「寝る。好きにしろ」
「おっ、いいのか?」
「俺の役目は終いだ」
「よっしゃ、替われ替われ」
 オルタが意識を沈める。すると、みるみるうちに目の下の刺青が消え、続くように尾も鉤爪も消えていく。
そして、「さて」と《猛犬》は柔和に笑った。
「分かると思うが害意はねぇよ。だから――想操術を解いたらどうだ? 色男」
 即座に舌打ちが聞こえ、首にちくりと痛みが走った。
 視界が暗転する。

***

 どさっ、と地面に倒れ伏した《猛犬》を見下ろし、時宮――エミヤはほう、と息を吐く。
 酷い目にあったものだ。
 仕事帰りに匂宮と出くわすなど、二度と経験したくない。
「折角の新鮮な卵が…」
 衝撃波の如き咆哮によって無惨にも割れた卵にがっくりと肩を落とす。主婦の波に揉まれながらやっとの思いでゲットしたものだったのに、コイツのせいで使えなくなってしまった。
「最悪だ…小麦粉も破裂しているじゃないか…粉塗れ…ふざけるな…くそ…」
 勿体ないのでどうにかして使うが。それでも腹の虫は収まらない。次は制圧系の仕事を斡旋してもらおう。ただの八つ当たりに付き合ってもらおう。いいじゃないか。たまにはハメを外したって。ちょっとくらい我が儘を言わせてくれ。
「…これで匂宮でなかったらなぁ」
 整ったな顔。美しい髪。情報通り、《猛犬》――クー・フーリンは美丈夫だ。あの赤い目は今は閉じていて見えないが、とても綺麗だった。
「…帰ろう。皆腹を空かせているだろう…」
 そろそろ先程刺した毒が効く頃だろうか。まもなく死体に変わるだろうクー・フーリンに背を向け、携帯を取り出す。死体処理はここからだとどの業者が一番早いだろうか。夕飯に間に合わなくなってしまうから早く済ませてしまいたい。

 そうやって気を抜いてしまったのが失敗だった。

「いやぁ、惜しかったなァ」
 するり。
 首に回った腕。
 冷え冷えとした殺気。
 馬鹿な。
 有り得ない。どうして。奇野の毒を直接打ち込んだというのに。
「《ランサー》や《オルタ》なら効いてただろうが、生憎、オレだったんでね」
 にこり、と。作られた笑顔。
「残念でした♡」
 鳩尾に重い一撃を入れられ、エミヤはそのまま意識を手放した。

Comments

  • 谷本

    まさかFate×戯言が見られるとは…!!!原作キャラとの絡みも見てみたいです…

    July 10, 2018
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